第二章02 退学
不滅士育成機関では、全校集会というものは飴度行われない。
理由は簡単で余り一箇所に多くの不滅士を集めるのは危険視されているためだ。
不滅士も万人に受け入れてもらえているとは言い難い。
とはいえ、それは極一部の者になる。
しかし、前回集会を妨害されたことから極力行わないようにしているのだ。
そのため、全校集会は始業式と終業式の二回だけに留めている。
六月も過ぎて、更にジリジリと身を焦がすような暑さになりつつある7月の中旬にアリス達は今学期二回目となる全校集会に来ていた。
終業式は時期的には、まだもう少し先だ。
今回、行われた全校集会は緊急のものになる。
アリス達がその知らせを知ったのは今朝(とは言っても昼だが)にクロードから連絡があったからだ。
「うわぁ~、何時見てもすごいね。私達の校舎とは全然違うよ」
「……あまりはしゃぎ過ぎるなよ」
「わかってるわかってる」
木造建築の十二校舎とは違い十校舎より数字が低い校舎は全てコンクリートによるものだ。
それに、幾つにも及ぶ最先端機器が備えつけられている。
集会会場の一校舎玄関口まで来たアリス達は身分認証システムを搭載したPOSにユニットを翳す。
ピピッと機械的な音を鳴らすと入り口の強化ガラスの自動ドアが開く。
そのまま中に入り歩いているとミレイが口を開いた。
「そういえば、カレンちゃんとアリちーは、元々上位校舎だったよね」
「……そうだな。私は三校舎でアリスは一校舎だったか」
「懐かしいね」
「戻りたいとか思うの?」
「ううん、教官の指示に背いてのものだしね。あのまま居ても私は息苦しいままだったと思うの。それに、今は楽しいし」
「……それは同感だ。私も命令違反だからな。後悔はしていない。自分の意思を通したまでだ」
「よかったーよ。私は十一校舎からの移転だしさぁ~。二人に元の校舎に戻りたいて言われたら泣いちゃうよ」
「言わないよ、そんなこと」
「……そうだな」
そんな会話をしていると会場に着く。既に幾つかの席が埋まっている。
アリス達が会場入りすると目線が集まった。
その目はゴミを見るような視線。あまりにも侮蔑な視線に身体が身じろぐのが三人とも感じられた。
エンド組は毎年こんな感じだ。
アリス達も、少し前までは執拗な嫌がらせを受けている。
今も、絡んでくる輩はいるがそれほど気にしてはいない。
どうせ何も変わらないのだから……それに自分たちがエンド組であるの事は真実であるのだ。
「わりわり、遅れたわ」
そんな中後ろから少し押されて振り返るとクロードが入って来た。
「何してるんだ。こんなところで立ってると足が疲れるだろ」
「は、はい」
クロードが気を使っているのだろう態度に安堵する三人。
「何処に座るかな」
席は自由席になってはいるがだいたい下位校舎が後ろ中位校舎が真ん中、上位校舎が前になっている。
そんな中クロードが選んだ席は……。
「おっ、彼処にしよう」
クロードが歩いて行くのでアリス達は着いていく。
その歩は中々止まらない。
真ん中を超えた辺りで歩みを停めないクロードに何を考えてるんだと思わずにいられないアリス達。
そのまま、一番前の席に座るクロード。
「よっと、? どうしたんだ、そんな浮かない顔して?」
青い顔をしてるアリス達三人を見るクロード。
「……クロ教官ここはまずいのでは?」
「はぁ? 何でだよ。あぁ、あの不文律みたいな奴か。んなもん気にするな。なぁ、デューイ」
カレンの席を変えた方がいいのではという意味の言葉をクロードは飄々として返す。そして、後ろを見ずに背後から来る人に質問する。
クロードに質問されたデューイは笑って答えてから隣の椅子に腰かけた。
「はは、本当に変わりませんね先輩は」
「どういう意味だよ」
「悪い意味じゃないですよ。昔も今も僕の憧れですから」
「ふぅん」
「おはようございます、クロード教官」
「おはようございます」
「おはようございます」
クロードとデューイの会話が終わったのを見計らってウィルソン達が挨拶する。
「あぁ、おはよ。あぁ、こいつらは俺の生徒だ」
ウィルソン達の挨拶を返すとクロードはアリス達を紹介する。
「おはよう~、私はミレイ・カーディナルだよ」
「こ、こらミレイちゃん。すいません。私はアリス・ブリューナーです」
「……おはようございます。私はカレン・ゴルーディーです、前生徒会役員方」
「おはよ、僕はデューイって言うんだ。このウィルソン班の教官をしていてクロ先輩とは同じ班で活動したこともあるんだよ」
「おはよう、僕たちのことは知っているみたいだね。前生徒会長のウィルソンです」
「ケイリ―よ」
「マックスだ」
少し緊張した面持ちの二人といつも道理のミレイ以外は簡素な紹介だった。
それはアリス達がすでにウィルソン達のことを知っているためである。
元生徒会役員であるウィルソン達三人を知らないものこの訓練生の中にはいない。
基本的に、生徒会は班員全員で行うもので、三年生と二年生の合わせて二班でしている。
ウィルソン達は任期を終えているため、もう生徒会役員ではない。
その後も少し談笑をしていたが、アリス達は心の底から楽しめる会話ではなかった。
小声だが周りから聞こえる非難の声に耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだった。
「静粛に」
マイクから司会の声が響き渡る。
「これより、臨時集会を始めます。全員起立、礼、着席」
洗練された動きで会場の全員が指示にしたがう。
「理事長のお言葉です」
司会がマイクを渡し理事長のグラハル・バルドが壇上に立つ。
「急で申し訳ない、しかしこれは決定事項だということをふまえて聞いてほしい」
グラハルは一度全体を見渡す。
「不滅士委員会は資源的問題や、土地、地位などで不滅士育成機関の在り方について吟味した結果以下の通りにすることに決定した。一、十二校舎から八校舎までを市民の住居とするために明け渡すこと。二つ、卒業、進級資格のランクを上げること。三つ、進級できないものは除霊士に転職するか、退学すること以上である」
辺りはシーンと静まりかえる。皆、グラハルが言った言葉を理解することに時間を要した。
いち早く立ち直ったミレイは大声で叫んだ。
「このままじゃ、退学じゃんかぁぁあぁぁあぁーー」
ミレイの叫びが会場を包む。
その叫びは池に石を投げ入れたかのごとく周りに不安を広げる。
「こ、コラ、ミレイちゃん、叫んじゃだめだよ」
「だ、だって退学だよ、そんなの嫌だよ、いや」
「そんなの私だっていやだよ」
「……急すぎる何か処置があるかもしれない」
自分も不安なのに、目に涙を浮かべるアリスとミレイを落ち着かせるカレン。
「静粛に」
グラハルの声に皆が口を紡ぐ。
「急すぎるため今年の卒業者はDランクでも可。進級に関しては始業式に新規定ランクを満たしていたらいい。校舎移動は始業式の日までに追って連絡する、以上解散」
グラハルはこれ以上話すことはないと早々に連絡事項を言うとさっさと壇上を後にした。