序章03 出会い
眠らない王国エルステイン。
ゴーストが出現するようになってから人類の生活は昼夜が逆転したと言えよう。
不滅士のCランク団員以下は義務が存在する。その義務は、防衛戦の参加だ。
防衛戦、人類とゴーストの終わることのない陣取り合戦である。
人類が250年前に守れた土地は全大陸の8パーセントと呼ばれていた。毎年土地を奪い返せてはいるがそれは余りにも小さく、現人類の土地は20パーセントと言われている。
現在時刻は17時半だ。
陽はもう半分ほど沈んでいる。夕陽に彩られた森林地帯は景色としては何時迄も見ていて綺麗に思える程だ。
けれど、この時間ともなれば森林地帯は不気味な静けさが広がっている。
クロードはそんな綺麗な森林地帯を眺めながら煙草で一息をついていた。
「お、お待たせしました」
アリスは走って来たのか少し息を切らしていた。遅ればせながら、ミレイとカレンも到着する。
三人はそれぞれ、防衛戦専用の服装に着替えている。
体の凹凸を綺麗に露わにする黒一色のスーツを着てその上から羽織る白と赤色を基調としたジャケットとスカート、そしてそれぞれ己の武器を携帯しているのが目に入った。
アリスは自身の長い髪を縛り現在はポニーテールにしている。腰に下げる女性用の小ぶりの銃剣は白銀色に輝き手入れが行き届いているのが分かった。
ミレイはダブルブレイドと言ってたいたわりに腰に四本のこれまた女性用の刀を下げている。
カレンはと言うと二人とは違いスカートではなく、ズボンを穿いて肩から中型のライフルと腰に二丁の銃を差していた。
クロードは見た限り、忘れ物がないのを確認すると吸い込んだ煙を外に吐き出した。
「ふぅ~、俺たちが参加出来るのは18時から20時だ」
「久々の防衛戦だぁ~」
「私、ちょっと心配です」
「アリス、余り気負わない方がいいぞ」
アリスは少し顔を青くしている。
そんな、光景にクロードは少し疑問を感じた。
「お前達は、最後に何時防衛戦に参加したんだ?」
「私は、前の校舎にいたときです」
アリスの言葉に他の二人が頷く。
クロードは少し目を開いて驚いたが、納得する。
(こいつら、新入生と対して変わらないぞ。かなり、めんどうだな)
クロード自身も授業を始めてから知ったのだが、アリス達は授業を受けていない。
ほとんどでは無く、全く受けていないのだ。
不滅士育成機関の教官と言う職はかなり自由が許されている。けれど、言うまでもなく訓練生がいい成績を出せば、それは教官職に着いている者にもいいメリットが存在する。
だから、出来る限り自らの時間を割いてでも訓練生を鍛えるのだが……。
最下位校舎の訓練生に至っては見込みがない為に送られて来たのだ。
だから、授業をせず自習で済ませる教官は偶にいる。
「わかった。なら、先に言っておく。手出しは基本しない。バックパック役に務めるから」
「「「了解です」」」
クロードはチラッと腕時計を確認した。
「只今、17時55分をもって課外授業を開始する。ミレイ、俺たちがいる地点に着いて説明してみてくれ」
「えっ、ミレイ達がいるのは城塞の外でレッドライン内です?」
少し、戸惑ったミレイだが何とか答えを導くが合っているか不安なのだろう、最終的には疑問形での返答になってしまった。
「自信を持って、でも説明が短い。では、アリス」
「はい、エルステイン王国を囲うように存在する城塞から約50メートルラインがデッドラインと言い、其処からさらに50メートルラインをレッドラインと呼ばれます。私達がいるのはレッドラインギリギリの位置です」
クロードはアリスの説明に納得し一度頷く。
「では、カレン。防衛戦について説明してろ」
「はい、防衛戦とは何処の国でも行われている人類の生存圏を死守又は拡大を目的としたものです。主な規定は除霊士と協同でのミッションになり、我々不滅士は除霊士の護衛とゴースト殲滅による生存圏拡大が主な任務です」
カレンの答えは実に簡潔で要点を取られていてクロード的に合格点だ。
カレンが返答し終えると突然サイレンが鳴った。
王国全体に響き渡るほどの大きな警告音。
三回警告音がなり終わると女性の声が響き渡る。
『エルステイン良民の皆さま、こんばんわ。本日は終歴250年7月15日です。間も無く、防衛戦が始まりますので、良民は城塞より100メートル圏内に入らないでください。不滅士各員戦闘態勢に移行してください。時間迄後5秒、4、3、2、1、0、ミッションスタート』
アナウンスが鳴った時の人々の行動は様々だ。
城塞警護の任に就いていた警備兵は仕事終了を告げるアナウンスに帰り仕度を始める。
アナウンスと同時に起床し、学校に行く子供の為に作る夕食の献立を考える婦人。
店の看板をひっくり返し、開店準備を始める者。逆に閉店する者。
アナウンスが鳴り始めた時から除霊士は呪文を唱え、終わる頃になると結界を完成させた。
クロード達不滅士は皆一様に武器を構えて、結界から一歩前に出る。
先程迄、静かな森林地帯は何かが蠢く魔の森と化していた。
人間のものとは思えない金切り声。何かが土から出てくる音。翼を羽ばたかせる音。
そんな中、不滅士Fランクの少年は班員と離れて周囲を覗っていた。
少年は暗闇に包まれた森に一瞬光が見えた気がした。
気のせいかとも思ったがじっくりと見ると赤い光の光源がある。
少年は剣を構えると、油断せずに凝視していた。
赤い光は、ふっとその場から消える。
少年は安堵し、臨戦態勢を解く。
しかし、
「ぎゃぎゃぎゃ」
「うわ、く、来るな」
安堵した少年を嘲笑うかのように光源は少年の後ろに一瞬にして現れ奇声を発する。
光の球を核として半透明な布のような生き物、これがゴーストである。
少年の背後に現れたゴーストは個体名称『火の玉』とも呼ばれる一つ星の下級ゴーストで腕と足がなく、口による攻撃がメインだ。
冷静さを欠いた少年は無我夢中で剣を振り回すが、どれもゴーストには効いてない。少年が振るう剣は全てゴーストをすり抜ける。
ゴーストが振り上げた腕を少年は回避しようとするが、少年の左足を掠めた。
少年は少し脱力感を覚える。一旦、結界内に戻る必要があると思い撤退しようとするが上手く足が動かない。
少年は自分の右足を確認した。
「うっ」
少年の右足は地面から突き出た白骨の腕に掴まれていた。
そして、少年は急激に加速する脱力感に動くことが出来なくなり始めた。
火の玉が少年を食べるかのように大口を開ける。
少年は死を覚悟して、目を閉じた。
しかし、幾ら待っても死は訪れない。
少年は頭に痛みがはしって目を開ける。
「痛って」
「馬鹿、何で一人で行くのよ。バランサーのことも考えてよ」
「おいおい、幾ら俺でも射程範囲内にいないと援護は出来ないぞ」
「馬鹿者が! 単独行動は取るなと何度言えば分かる! 後、諦めるな! 死ぬなら結界ないで死ね」
少年を殴った教官は一瞬にして二体のゴーストを倒すと光の球を回収する。
少年は同じ小隊のメンバーに担がれて戦闘領域を離脱した。
「ビビったか?」
その光景を遠くから見ていたクロードはアリス達にする。
「確かに怖いです。でも、これが私達の任務です」
「同感だな」
「ミレイもそう思う」
「そうか、なら行くぞ」
クロードは煙草を靴裏で消して捨てると戦闘領域に入った。
アリス達はクロードの後を追うように戦闘領域に入るのだった。