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序章02 出会い

十二校舎、最低エンド組。

前回は十一校舎がそう呼べれてあったのだが、今は十二校舎がエンドと言われている。

なぜ、こう呼ばれているのかと聞かれれば至極まっとうでエンドに属する生徒は基本、卒業を待たずに自主退学、あるいは殉職してしまうことが多いからだ。

素行がわるかったり、適正能力が低かったりと才能を感じさせない訓練生はここに飛ばされることになる。



クロードは十二校舎の教室で授業妨害とも言える煩い蝉の声にも負けず、大きな声で教科書を読み上げていた。

「不滅者、それはゴーストに対抗出来る人間のことを言う」


第十二校舎には冷房がついていないため蒸し暑く、風通しを良くするために解放した窓から入ってくる蝉の雑音が、余計に夏の暑さを感じさせる。


「ねぇねぇ、クロちゃん暑いよ〜。溶けちゃうよぉ〜」

ツインテールの少女は、机に突っ伏して手足をバタつかせてクロードに抗議した。


「こ、こらミレイ! クロ先生に何てこと言うの」

その隣に座る藍色の長い髪をした少女は、教官に対して失礼な学友を咎める。


「えぇー、だって暑いんだもん。私の脳みそは茹で上がって勉強出来ないよぉ〜」

「だとしても、ク、クロちゃんって呼び方は……」

「クロちゃんはクロちゃんだよ」


「……速く授業を進めないか、非効率過ぎる」

二人で言い争っているのを教室にいる最後の生徒は、興味がないとばかりに抑揚のない声で授業を進めるようにクロードを促す。


「あぁ、そうだな。えぇ〜と……カレン、次を読んでくれ」

カレンは金色のショートカットをなびかせながらゆっくりと立ち教科書を読み始めた。


クロードはカレンに教科書を読んで貰っている間に教室を見渡す。

教室の中にいるのはたったの三人、在校数八人に対して過半数を満たすこともできていない。


十二校舎は言わば特異な人間の集まりといって過言ではない。

そのため、十二校舎に選ばれた時点で不登校になり、そのまま養成機関を辞める人間はザラにいる。


そんな中、真面目に登校しているこの三人はそれだけ不滅士に成りたい志があるのだろう。

クロードは三人をじっくり見る。


不満を漏らしていた赤髪ツインテールの少女ミレイ・カーディナル。

他の二人と比べると幼く歳も13歳だ。

十二校舎行きは自由奔放で授業を真面目に聞かないためと書かれていた。


その隣に座る藍色の長い髪の少女アリス・ブリューナー。

清楚系な少女で書類を見る限りは適性、知識、体力ともに問題は一切存在しない。

十二校舎行きの理由は転職拒否と書かれている。


転職、所謂作戦時の役割に適していないために行われることだ。転職はチームバランスの為に行われるたりするが、最大の理由は向いていない、適性ではないと判断されるとするものだ。それを拒否することは極めて珍しいタイプとも言えるがクロードには少し共感出来た。

クロード自身も訓練生の時に転職を言い渡されたが、頑なまでに拒否して最低ランク校舎――当時、十一校舎とよばれていた――に行かされたのだ。


そして、最後の一人。

今も仏頂面で教科書を読んでいるカレン・ゴールディー。

カレンはミレイと正反対でクールで物静かな感じでショートの金髪で体型といい、パッと見は美少年と言ったところだろうとクロードは思ったが、カレン本人からしたら美少女ではなく、美少年と思われたのは甚だ不本意だろう。

十二校舎行きは堅物過ぎて、協調性にかけると書かれてある。

何ともまぁ、こちらも堅物過ぎて、十二校舎行きとは理由としては些か問題だろう。この書類を書いた人間は大丈夫なのか心配だ。


筆跡からしてリリーであるとクロードは当たりをつけてはいるが。


「……クロ教官、読み終わりました」

クロードが三人を書類と見比べていると教科書を読んでいたカレンから声がかかった。

「あぁ、座ってくれていい」


「ク、クロ先生……質問いいですか?」

アリスがおずおずと手を挙げる。

「あぁ、何だ?」

「私達進級できますか?」


クロードはもっともな質問だと頷く。

「現状的にはやばいな。最低Fランクになる必要があるからな」


クロードの言葉に明らかに落胆の表情を見せる三人。

「でもまぁ、何とかするわ」

「……何とかとは?」

もともと抑揚のない声だったがさらになくなった声でカレンが聞く。

「防衛戦を頑張るしかないだろ。とは言ってもランクアップ条件が累計10回の参加だからどうにかなる」


「本当ですか? よかったです」

手を叩き、満面の笑みで喜ぶアリス。

「ほんとそれだよ~クロちゃん」

ミレイも表情が明るくなるがクロードの次の一言で笑顔に深い影を落とす。

「言っとくが、期末テストで落ちた場合は責任取らないからな。とくにミレイ」

「そ、そんなぁ~」

ミレイの言い方が可笑しかったのか、アリス、カレンはクスクスっと笑い始める。


クロードはとりあえず進級頑張って貰わないとな、と心の中で言うのであった。

ところで、何故訓練生はみなクロードのことをクロと呼ぶのか? それは少し時間を遡る必要がある。



クロードは教室の前で静かに深呼吸をした。

クロードは緊張をしていた。何と言ったって、初対面で今後自分の教え子になる存在だ。

一回、二回と深呼吸をして、呼吸を荒く乱す心臓を落ち着ける。


そして、軋むドアに手をかけてゆっくりとスライドさせた。

クロードの目に飛び込んで来たのは三人の訓練生が椅子に座っている様子だ。


まぁ、この時期にもなると当たり前かとクロードは思う。

十二校舎だから当たり前と言うこともあるが、不滅者育成機関は、九月が入学式なのだが今はもう六月に入ったところだ。夏もこれからだと言うのにこの暑さも異常だが、8月の終わりにある終業式を考えれば、休み期間などを省くと残り授業数は後50回のこんな時期に引き継ぐと言うのも可笑しなというより異常な話だ。


ガタン

一人の少女が急に立ち上がりクロードを指差して口をパクパクとさせる。

「ど、どうしたの、アリちー?」

アリスはミレイの言葉が聞こえていないのか、ただ指をさして口をパクパクとさせていた。

クロードは少女を気にも止めず。教壇に立ってからアリスに座るように促す。

「とりあえず、右から自己紹介してくれるか? あぁ、座ったままでいい」


クロードの言葉に立とうとしたカレンは中腰まで上がった腰を下ろした。

「……カレン・ゴールディー、16歳。役割はガンナーです」

カレンは抑揚のない声で端的に述べると少し隣を見る。そして、一つ咳払いをした。

「彼女は、アリス・ブリューナー。16歳、役割はバランサー」


カレンが言い終えると一番端っこのミレイが手を挙げたのでクロードは「はい」と言って先を促した。

「はいはーい、私はミレイ・カーディナルで13歳の天才で〜す。そんでもって、アタッカーでタイプはツインブレイドだよ」


何ともまぁ、子どもだなぁ〜とクロードは思う。こんな、歳の子に務まるのかと不安に思うこともあるが本人が決めたことに口出しをするのも野暮と言うとのだと自重する。


「そうか、今日から君達を担当することになったク「クロード・ファング」」

クロードの話は途中で遮られた。

先ほどまで鯉のように口をパクパクさせていたアリスはクロードを真っ直ぐに見据えてゆっくりと言った。

「ク、クロード・ファング23歳、序列ファースト、隊での役割はバランサー、武器タイプ銃剣」


クロードはよく知ってなぁ、と感心したが残る二人は言葉を理解すると捲し立てるようにアリスに質問する。

「アリス、何を言っているのか分かっているのか? 餓狼とも呼ばれるファーストだぞ」

「そ、そうだよ、アリちー。餓狼って言えば、ゴーストを見つけたら千切っては投げ、千切っては投げするっていう人だよ。私のイメージでは目がこーんな尖ってて、牙が生えてるんだよ」

ミレイは目の端を指で吊り上げながらアリスにいう。


クロードはそんなやり取りを聞いていて顔を覆いたくなった。

(な、なんだよ、餓狼って、誰が言い出したんだ……恥ずかしい)


「しょ、証明なら出来ます。ちょ、ちょっと待ってください」


アリスは少し慌てると、自らのカバンを机の上に置き四つ折りの一枚の紙を探し出した。

「これは5年前の記事です。ここに写真付きで載っています」

アリスは四つ折りの紙をカバンの上に広げる。そして、一つの記事に付いている写真を指差した。

「……確かに、似てる」

「うーん、似てると言われれば似てるねぇ〜」

二人は写真とクロードを見比べる。


「これはエリア拡大ミッションの時にクロード教官率いるチームファングズの戦果を取り上げたものです」

記事には大きくこう書かれている。



ガザル王国奪還成功!!


此度に行なわれたエリア拡大ミッション、作戦名キャッスルブレイクは旧ガザル王国付近のゴーストを殲滅するというもので、ガザル城に取り付いている六つ星ゴーストを倒すことにある。

当初、作戦は順調に行われていたが四つ星数体の妨害によりBランクCランク共に数人の犠牲が出たため、作戦の失敗が決定したとも言えた。けれど、蓋を開けて見るとキャッスルブレイク作戦は成功に終えた。

この作戦の立役者とも言えるのがチームファングズだ。

新人不滅者チームだが、その実力は平均Bランク以上のメンバーで構成されている。

チームリーダーのクロード・ファング18歳率いるファングズは堕天した推定四つ星、三つ星数体を殲滅して見せた。

その甲斐もあり、カルレラ・クウィールは六つ星ゴーストを倒して見せた。ここは流石ファーストだと言うことだろうか。

しかし、此度の作戦はファングズの活躍がなければ失敗しただろう。


ファングズ構成員

クロード・ファング(17)

クロエ・アンデルセン(17)

カイル・ディザイア(18)

リヴァイン・エルステイン(19)



「クロード・ファングのファーストへの軌跡、第一章というところでしょうか。この後、幾つものミッションを成功に導きファーストへと登りつめた」

「へぇー、すごいんだね」

「……ミレイ、本当に分かっているのか?」

カレンは呆れたように肩を落としミレイに問う。


「何が?」

「はぁ、記事には新人と書いてあるだろう。ということは、大掛かりなミッションや上からの指示でのミッションはこれが始めてだと言える」


ミレイは少し考えると頷く。

「そうだね~。でも、それが?」

「ミレイ、自分のランクは知っているのか?」

「何いってるのカレンちゃん? まだ、ランクないよ?」

「そうだ、ランクはFから始まってAまである。序列で三十以内に入るとSランクになれる」

「うんうん」

「と言うことはだ、ファングズ班のメンバーは防衛戦にて、いい成績を残して卒業したと言うことだ。私達みたいに未だノーランクとは天と地ほどの差がある」

「すごいんだね」

ミレイは手を叩きクロードを見るが、本当に理解しているかは謎だ。

カレンもそれが分かっているのか、深いため息を着いた。


「で、合っていますよね。クロ先生」

アリスはこの記事のクロードと同一人物であることを聞く。

「あぁ、俺はクロード・ファングだ。しかし、ファーストの座はこの前返還した」

「えっ! どうしてですか?」


「ミッションミスによるリハビリのためだ」


「そ、そうですか……」

「とこで、その呼び方は何だ?」


「その〜……き、記事で見たんです。チームでは黒犬の愛称で呼ばれているって……ダメですか?」

上目使いでお願いしてくるアリス。


黒犬とはまた懐かしい呼び名だなぁ、とクロードはクスリと笑った。

「べつに好きに呼べばいい」

「ありがとうございます」

アリスは笑顔で微笑む。


クロードはその笑顔に一瞬既視感を感じたが、すぐになくなったので気のせいだと考えるのをやめて、授業に入ると宣言した。




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