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序章01 出会い

「あぁ~、孤独だ」

一人、病院から出てきた男は屈伸をするなりそう叫んだ。

辺りを見ると、自分と同じように今日退院の女性が家族だろう人たちと出てくるのが分かる。


男、クロード・ファングス23歳はもう一度辺りを見渡すが自分の退院を喜んでくれる人間はいないのだと思い悲しくなっていた。

特殊任務で失敗し、入院をするはめになった。

まぁ。これは自分のミスが原因だから何も言わないし、命には別状はない。けれど、だからと言って誰も見舞いに来てくれないのは酷すぎないだろうか?


いや、頭に意識を集中して記憶の中を探ると一人だけ該当する人物がいないこともない。

クロードの上司に当たる女性だ。

たった二三小言を言って書類を一枚置いていっただけで帰ったので、最早見舞いに入らない、とクロードは考える。


クロードはポケットに突っ込んであったクシャクシャになった紙を綺麗に伸ばすと内容を確認する。

そこにはこう書かれていた。



英雄クロード・ファング殿、貴殿は今回の任務に置いてミスをした。

そのミスでおった、貴殿の代償はかなり大きいものと判断する。

よって、リハビリもかねて君には一時的にファーストの座を返還していただのちに、候補生士官の任務に着いて貰いたい。

詳しい任務説明に着いては退院後とする。



所謂左遷の話だ。

この書類が余計にクロードを嫌な気分にさせる。

書類を入れてあったポケットに無理やり押し込むと、クロードは覇気のない声でこう言った、面倒だ。




---------------------------------------------


戦歴250年、人類が未知の生物ゴーストに負けてから250年という月日が流れている。

人間の武力といえる銃、刀と言った武器の一切を受け付けないゴーストその異質な力で時に、町を焼き、時に多くの岩を降らせ、数えきれない命を奪い猛威を振るった。

時代は流れ、人類は一部の種族との開拓を成功させて、ゴーストに対抗する術を教授してもらった。それが戦歴50年のことになる。

人類は手にした力でゴーストとの長い長いいくさを始めることになった。

その力を使うものを皆は不滅士ジャッジメントと言う。





不滅士官学校、東の大国エルステインにある一番大きく立派な施設だ。

誰もが此処に入りたいと思い。此処に頑張って貰いたいという気持ちで少ない物資をつぎ込んで作られた施設。


他の建物と比べるとその期待がはっきりとわかる。

最先端とばかりに自動ドアや空調施設までしっかりして、年間の霊子使用量はエルステイン城を遥かに上回っている。


その不滅士育成機関の前でクロードは昨日上司に言われたことを思い出していた。



クロードが不滅士本部最上階にある一室の扉を開けると涼しい空気が肌を撫でる。

すぐに中に入り扉を閉めた。


夏だと言うのに完全に窓を閉めているこの部屋は異様に涼しいものだった。

それもそのはずで、冷房が入っているのにクロードはすぐに気が付く。

天井に備え付けられ機械、霊子空調操作機器エアコントロラー。通称エアコンと呼ばれる機械の冷房機能であるのは一目瞭然であった。

余談ともいえるが、こういった霊子機器は一般の家庭では置かれていない。

ましてや、個人で使う部屋に付いているなどかなりの贅沢だと言え、この部屋の主は金持ちだということがうかがい知れる。


椅子に座り窓の外を見ていた上司はゆっくりと回転式の椅子を回すと、クロードの顔を見る。そして、暖かい湯気と上品な香りをさせる紅茶を優雅に一口呑むとこう言ってきた。

「あら、やっと来てくれたの?」

何とも酷い言いぶりだと不機嫌さを隠そうとせずにクロードは言う。

「あんたは怪我人を労わる気持ちは無いのか!」


上質な革張りの椅子に座る上司。

不滅士副司令官リリー・エルステイン、名前から分かるように王族だ。

だが、権力でこの滅失者副司令官になったのではない。

彼女は適性能力もさることながら実力も一流だ。

一部では不滅士の広告塔と揶揄している。

確かに、十人いれば十人が振り返るほどの美女だ。スラリとした体型凹凸がハッキリするほどとは言い難いが、それでも出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んでいる。そして、流れるような綺麗な黒髪が何とも言えない気品を感じさせ、彼女が呑む紅茶の甘い薫りが鼻腔をくすぐる。


リリーは小首を可愛らしく傾げた。

「あら? 生活には何ら問題は無いと聞いていたのだけれど」


クロードは反論に少し詰まる。

「ぐっ、た、確かにそうだけど……」

「なら、問題ないじゃない」

「何て奴だ。で、これはどういうことだ」

クロードはこの前に渡された書類を渡す。


「どういうことって?」

「こんなの認めないぞ」

「どうして? この前は素直に受け取ったのに?」

「よくもまぁ、ぬけぬけと書類を渡してとっとと帰ったくせに」

そう、リリーは書類を渡したらクロードが読み始めると同時にとっとと帰ったのだ。


「そうだったかしら? まぁ、今更変更はできないわ。もう、書類は受理されたもの」

「な! バカか、本人の確認もせずにんなこと」

「バカとは何よ、第一私は貴方の上司。なら、貴方個人の意見なんて関係ない」

リリーは机を叩き椅子から立つとクロードを指差した。


「ふざけんな、何のためにファーストになったと思ってんだ」


ファースト、言葉の通り一番という意味である。

一年に一度行われる不滅士序列発表式典で選ばれた最も人類のために貢献していることを示す称号だ。と言ってもこれは団員ないでの話なのであるが。


クロードは三年連続でファーストの座についている。

ファーストの特権は沢山存在していてクロードはその特権を無駄にすることなく、ほぼ全ての特権を使用していた。


「はぁ、そんなにファーストの特権が欲しいの?」

リリーは少しため息をついて言った。

「当たり前だ! 何のために頑張ったと思ってんだ」

「貴方こそ何言っているの! 人類のために頑張っているんでしょ」

「まぁ、それはそうだけど……」

クロードは一本取られたと思い、言い返せなくなってしまった。


その様子を見ていたリリーは何か合点が言ったとばかりに手を叩いた。

「あぁ、なるほど」

クロードは嫌な予感しかしなかったが、何がだ? と聞く。

「ファースト特権の一つで単独での任務を行う権利があるわ。貴方はそれが欲しかったのね」

リリーは納得とばかりに何度も頷く。

「だって、貴方は生粋のボッチだもんね」


クロードは空いた口がふさがらないとばかり口をパクパクとさせた。

「だ、誰がボッチだ!」

「あら、違ったかしら? 私の他にお見舞いに来たの?」

何とか言い返したクロードだが痛いとこを突かれたとばかりに怯む。

「い、いや来てない。てか、お前のは見舞いに入らん」

「果物の詰め合わせも持って言ったじゃない。あれ、高かったのよ」

「あぁ、確かに美味しく頂きましたよ。けどな、病院で俺に何て言ったか覚えてないのか?」


クロードの言葉に一切迷いもせずにリリーは言う。

「覚えているわよ。本当ドジね、引退した方がいいんじゃないかしら? って言ったわ」


「それの何処が見舞いに来た奴が言うセリフだ!」

「う~ん……、あ! 話がそれているじゃない」

「急に話しを変えるな」

「私にも時間がないのよ。くだらない話をして時間を潰しているわけにはいかないのよ。取り敢えず、これ資料だから」

リリーは机の中から複数の資料を取り出してクロードの前に置く。


「ざけんな、直談判してやる」

クロードは拉致があかないとばかりにリリーに背を向けて部屋から出ようとした。

「もう変更は無理よ! 言ったでしょ、もう申請は通っているって。此れは元帥の決定でもあるの」


クロードはその言葉に言い返せる意見を何も持ち合わせていなかった。

元帥、エルステインの王にしてエルステイン支部不滅士最高司令官。

クロードが何を言っても叶うはずのない相手である。

仕方なくクロードはこの任務に着くしかないのだと悟った。



「はぁ」

リリーとの会話を思い出して頭が痛くなるのを感じるとクロードは眉間を抑えた。

痛みが引いたと同時にこの大きな建物に向き合うが少しうつな気分になる。

何不自由なく不滅士を育成するための機関だと言うのに自分はこの機関を使うことは少ないだろうと思うとやはりいい気分ではない。


クロードは不滅士育成機関の第一校舎を迂回すると第十二校舎に向かった。

不滅士育成機関は全部で十二校舎存在して約20年起きに新校舎が作られる。

第十二校舎は最も古い200年前に建てられた校舎で改装などを繰り返してはいるが、第一校舎――新校舎――と比べると天と地ほどの充実性に差が存在する。

クロードが教官を務めるクラスは十二校舎で在校数は八人とある意味贅沢な使い方をしていた。


クロードは歩く度に軋む廊下に懐かしさを覚えながら、指定された教室へと向かった 。





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