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第七話

珍しく一人称。この作品ではちょこちょこ一人称が挿まれます。

言わば、誰か視点です。意味はあんまりなかったりしますが。





 目が覚める。おぼろげな意識がゆっくりと覚醒して行き、それに伴い昨日体験したありえざる1日が映像となって脳裏を駆け巡っていく。

 気分が悪い。それでも習慣は恐ろしいもので、私は硬いベットのせいか、幾分軋む身体を起こす。

 ふと隣を見れば、未だ目が覚めない兄様の姿が目に飛び込んできた。

 一瞬フリーズする思考。え、どう言うことでしょうか、なんで兄様がベットに?


「えっと、えっと……たしか――――」


 今の姿は簡素な布製のシャツにズボンを脱いだ下着姿。安物の布地のせいか、肌に合いませんでした。

 兄妹とは言え、流石にそんな姿を見せるのはとても恥ずかしいです。

 いえ、兄様であればむしろ構わないとでも言いますか……でも、恥ずかしいものはやはり恥ずかしいですし。

 それに、あんまり胸もないし、お尻も決して肉付きがいいとは言えません。

 ウエストこそそれなりに締まっていますが、全体的にどうも物足りないのは私が一番分かっています。


「……はぁ」


 何をしているのでしょうか、私。常ならありえない事態にどうも混乱してしまったみたいです。

 そもそも、思い出せばなんてことはありません。兄様と一緒のベットで寝ているのも、資金の節約に過ぎません。

 宿屋事態は決して高くありませんでした。昨日キングダムを見て回った感じ、1ゴールドはおよそ100円の価値であり、基本それ以下の値段のものは売られていません。

 で、この宿屋のお値段は如何程かと言えば、一泊あたり40ゴールドです。

 宿に泊まるだけならその4分1、10ゴールドで足りたのですけど、食事代を入れた途端跳ね上がったのです。

 しかもですよ。その食事が硬い黒パンに、野菜の切れ端が少しはいって、後は調味料で味を誤魔化したスープなんてどんな冗談でしょうか?


 そんなのが実質30ゴールド、つまり、3000円もした訳ですよ。

 兄様と私の分を含めて1日しめて70ゴールド、それこそ国に初期レベルで納める金額に匹敵するでしょうか。

 運営が言っていた言葉。つまり、世界観ゆえの食物の高騰、それが原因なのは一目瞭然でした。

 とことんこのゲームはプレイヤーに優しくないですね。

 クエストで稼いだお金は90ゴールド、そして、高確率でドロップしていたキューブと言われるサイコロ状の結晶体。

 どれもコモンと言う最下級のものでしたが、1つあたり5ゴールドで22個、つまり110ゴールドです。

 昨日草原で稼いだお金は合計200ゴールドなのですが、時間あたりで考えれば悪くないかもしれませんが、食費を考えれば全く足りません。


 宿代、それに勝手に引かれた国への納税だけで280ゴールド。プラスどころか、マイナスでした。

 更に言えば、今日の納税額は倍の200ゴールドでそれだけで400ゴールド。また泊まることを考えれば更に70ゴールド、何か食べ物を購入するならプラスアルファーでしょうか。

 幸いと言っていいのか分かりませんけど、この状況は等しく誰もが現在進行形で背負っていることであり、不確実性の高いPKより、堅実なエネミー狩りに殆どプレイヤーは集中しています。

 お陰で第2の混乱は起きていません。まぁ、兄様曰く、それも一時的なもので、少々遅まきになっているだけとのことですが……


「考えてもしょうがない、ですよね。それより兄様を起こさないと」


 ストレイジャーに記述された時刻は既に早朝の8時過ぎです、学校に行くわけではないので、問題はないのですけど、行動は早い方がいいでしょう。

 

「にいさま、兄様! 起きて下さい、朝ですよ」

「……んっ…ぅぅ……」


 私と同じ黒の艶やかな髪を退け、肩を揺らして声を掛けますが、中々起きる気配を見せません。

 そもそも兄様は低血圧で朝は弱いです、お陰で昔から朝起こすのを手伝わされました。

 と言うか、感触が柔らかいです。全体的に触り心地が女性に近いような?


「もー、兄様ってば! 今日は掲示板で情報を確認して、本格的にお金を稼ぐって決めたんですよね! 起きて下さいーー!!」

「……あと、10ぷん」


 あー、もう! 出ましたよ、兄様お得意の後10分! 昔の私はその掠れた声音にどうもドギマギして、見逃していましたが、今ではそうはいきません!

 今回は男声じゃ……今更ですけど、声のピッチも随分高くなってますね。私よりは低いですけど、それが逆になんだか色っぽく聞こえて……

 いやいや、私は何を考えているのでしょうか? きっと普段見ない姿だから動揺しているんです、違いありません。

 そもそもですよ? 10分て言いながら、平気で30分はそのまま起きないのが兄様クォリティなんです。

 しかもしかも! 寝ぼけているのか、近くに居ようものなら、手を掴まれてそのままベットに引きずり込まれ、抱き枕にされるんですよっ!!

 吐息が首筋に当たって、背中には温かいぬくもり、強く抱きしめてくれる腕が……て、あーっもぉッ!


「兄様ってばッ! 起きて下さいッ!!」

「うぅぅ、寒い……」


 布団を取り上げれば身を抱きかかえ、ぶるりと震える兄様。さらさらの黒髪が流れ、うなじが見えて、それが色っぽくて……

 て、違いますよ私!? 確かに容姿はどうも私そっくりですけど、それじゃあ自分にドキッとしているってことじゃないですか!

 そもそも、兄様も兄様ですよ。どうしてそんな容姿に弄ってしまったのですか、だいたい――――

 て、だからそうじゃなくて、今は兄様を起こすのが先決です。知りませんからね? 起きない兄様が悪いんです、ええ、決して私がやってみたいとか、そう言う訳じゃないんです。

 だからこれは正当な行いなんですからね、兄様!


 ――同時、私の身体は天高く舞い、そのまま降下、兄様の身体に直撃した……






あとがき


申し訳ない。予想以上にアイヒの視点が長くなったので、掲示板ネタは次回に繰り越されました^^;

アイヒは人前と兄の前では態度が違いますし、内心思っていることもギャップがあります。

気立てのよい娘として書いていきたいキャラですね。


ではでは、感想や評価、お気に入りに誤字脱字報告などなど……

心よりお待ちしております!



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