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第九話

 宿屋を後にし、黒パンを2つと、掲示板のまとめ総合情報版に書いてあった井戸に向かい、道具屋で購入した水筒に水を入れてキリュウとアイヒは草原に来ていた。

 既に太陽は天高く昇り、撲殺したホワイトバニーの数は昨日にも勝る数に及んでいる。

 丁度レベルが3に上昇した頃、1度黒パンだけの侘しい食事休憩をとることとなった。


「やっぱ硬いな、コレ」

「どれだけ現実での食事が恵まれていたのか、今ならよく分かります……」


 白パンと違い黒パンは噂どおりに硬かった。宿屋に居た時はスープに漬けて食べれたが、ここでは唾液に頼るか、水しかない。

 歯の弱い者なら下手すれば折れてしまいかねない。それ程に硬く、千切るのは容易ではなかった。

 

「現代じゃ、こんな黒パンそうそうありはしないぞ」

「……顎が鍛えられそうです」


 珍しい経験ですね、なんてアイヒは口にするがその顔は疲れが見える。

 現代人は柔らかいものばかりを主食としてきた為、このように硬いものは少量ならまだしも、パン1つ分となると中々の苦労となる。

 しかもこの黒パン、所謂ライ麦パンなどの“現代的黒パン”とは違い、使う小麦粉は精製度が低く、それだって誤魔化す為にもライ麦を筆頭に穀物などが混ぜられている。

 結果焼き上がりはふっくらとせず、恐ろしい硬さを現実とするパンだ。味わいこそ濃いものの、数日もすれば間違いなく飽きるだろう。

 唯一の救いはそれなりに腹にたまることだろうか?


「ふぅ……毎日これだと絶対顎動かせなくなるな」

「量は減りますけど、並んでいた干し肉を買うか、スープを付け足すしかないですね」


 今だアイヒは黒パンと格闘中であり、懸命に小さな口を駆使して着実に攻略していっている。

 その隣でキリュウはステータスを開き、今回振られた6ポイントと言う数字に首を傾げていた。

 前回は5ポイントであった筈である、と。可能性は幾つかあるが、アイヒが食べ終わったらでいいだろうと判断。

 そのま前と同じく、STRに3VITに2振り、今回は追加でDEXに1追加する。

 ヘルプを見ればしっかり基礎ステータスは載っており、STRは純粋な筋力となり、VITは生命力に加え純粋な体力。

 DEXは相手の防御を抜けて損傷を与えるクリティカルHIT率、そして反射神経系を増加させてくれる。


 宿屋で確認したが、キリュウはこの世界でも“裏技”の使用が可能であるのを知っている。

 その為AGIやDEXは殆ど切り捨ててもさほど困らない。キリュウの力はある意味本当に裏技であり、この世界では如実にその脅威度が跳ね上がる。

 レベルUP時に増えるランダム固定能力上昇と、割り振って増えた能力値に満足しつつ、なんとなしにスキル覧を表示させれば2つの名前が登録されていた。

 “ヘヴィアタック”“ダブルアタック”の2つ。効果を見れば名前の通りであり、前者は武器を選ばない強力な1撃で、後者は短剣のみ発動可能なアクティブスキルだ。

 その効果は使用時、25パーセントの確率で2次損傷を与えると言うもの。効果時間は30秒、リキャストが1分であった。


「ご馳走様でした。顎がなんだか痺れたみたいな感じがします……」


 どうやら食べ終わったらしく、違和感を感じるのか顎をしきりに動かしている。


「なぁアイヒ。さっきレベルあがった時にもらったポイントって幾つだ?」

「どうしたんですかいきなり。ちょっとまって下さい。えっと……昨日と同じで5ポイントです兄様」

「そっか。あくまで予想だけど、レベル上昇でもらえるポイントって多分ランダムじゃないか? 俺は6ポイント入ってた。5が最低なのかは分からないが、高レベルになると差が最悪出そうだな」

「ああ、それとスキル覧も確認してみてくれ」


 予想が正しいならアイヒにはスキルはまだないか、あるいは1つの筈だとキリュウは口にする。

 レベル上昇でもらえるのはSP――ステータスポイント――のみ、ならスキルは、魔法はどうやって覚えるのか?

 キリュウはこのゲームが、レベルと熟練度のハイブリッドシステムなんじゃないかと睨んでいた。

 

「あれ、スキル覚えてますね。ヘヴィアタックと言うのが1つですけど」

「レベルで覚えた訳じゃないと思うぞ。これも予想だが、見えないステータスとして熟練度がある筈だ。ヘヴィアタックは戦闘に関するなんらかの熟練度だろうな。因みに俺はもう1つ短剣用スキルを覚えてた」

「じゃあ、レベリングだけではスキルは習得できないってことでしょうか?」

「抜け道はあるかもしれないが、現状はそうなるんじゃないか?」


 どのようなスキルが存在するかはキリュウにも不明だが、あるとないのとでは恐らく差は大きいだろう。

 特に武器に関する熟練度はかなり不味い。更にそれが攻撃力ボーナス、あるいは純粋に扱う上手さに影響するなら相当に不味い。

 それじゃあレベルが高くても格下に容易に負けてしまう。つまり、PKからすればやたらと経験値がもらえ、アイテムも落とす“鴨”に他ならない。


「あんま想像したくないな、こりゃ」


 そこまで考え、それが現状アイヒにも適応されると理解したところで表情が歪む。

 

「大丈夫ですよ、兄様。ホワイトバニーだってまだちょっとあれですけど、倒せるようになったんですから」

「ああ、だな――――だと……いいんだがな」

「何か言いましたか?」

「いやなんでもない。よし、そろそろホワイトバニーも卒業だろう、新しいエネミーを探すとしますか」

「はいっ! 頑張りましょう、兄様。とくに美味しいご飯のためにも!!」


 よほど黒パンは堪えたらしいと苦笑しつつ歩き出す。

 だが胸に渦巻く不安は消えることがない。今はいい、エネミーは小動物ばかりだ。

 しかし、それがもし人相手であれば? 亜人や山賊の類がエネミーであれば?

 果たしてアイヒはその時今のように適応できるのか、あるいはしてもいいのか……


 ――キリュウの胸騒ぎは澱んだヘドロとなって心の底に沈殿していった。







後書き


ちょっと短いですが、きりがよいのでここまで。

掲示板には微妙にネタとか仕込んでたのですが、反応は特になくちょっと寂しかったものですw

分かる人が居なかったのかどうなのか。とりあえず、ぉ、と思っていただけてればなぁと。

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