アビリティの暴走
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王都フィルガードにある術師会館は紋様術師達の総本山であると同時に、アビリティを新たに持った者達の受付・登録から冒険者パーティーハウスの紹介までを王国から依頼されている。新しくアビリティを授かったペネンリックスはここで1ヶ月の間、アビリティについての使い方やその能力を制御し、安定的に使用するための紋様を身体に描いてもらったりしていた。初日からテロに巻き込まれるという大きなトラブルに見舞われ、失明を経験するなど、散々ではあったが目を直してくれたルージュという赤い目をした女性に恋をしたことで結構上機嫌だったりした。あれからリシェル女史(老師と呼ぶと怒られる)にルージュさんのことを何回も何回も何回も聞いたが詳しいことは教えてくれなかった。
ペネンリックスはこの1ヶ月ほぼ全てを”衝撃波”のアビリティ持ちのマリアさんとペアを組んで訓練を受けていた。一緒に生死を分ける絶体絶命の状態をくぐり抜けた経験のせいか息が合ったコンビに仕上がっていた。彼女の正式な名前は、マリアベル・レアルマといって貴族のご令嬢らしい。らしくないといったら衝撃波をお見舞いされた。
訓練も終わりに近づいている…今日は2体2の模擬戦である。
相手は身体強化のアビリティ持ちの男子と炎のアビリティ持ちの女子のコンビだ。
審判から開始の掛け声がかかると、身体強化のアビリティ持ちが突っ込んできた。ペネンリックスに連続で剣撃を叩き込んでくる。盾でそれを受けきって一撃を返すとかわされて距離を取られた。動きが止まっているペネンリックス達に向かって、女の子が頭の上に幾つも創り出していた火の玉を雨のように降らせてきた。
「ハッ!ハッ!」
マリアさんが衝撃波で打ち落とす。自分も盾や剣で処理するがかわしきれないものは避けずにあえて受ける、盾役だ。マリアさんより”耐久力”のアビリティ持ちの自分が受けた方が被害が少ないのだから(紋様を描いてもらってからその耐久性能はスーパーカブ並みになっていた)。受けにまわっているその隙に身体強化した男子に回り込まれてマリアさんが攻撃される。マリアさんは迷うこと無くペネンリックスの股の間にヘッドスライディングをして潜り抜けると前転して炎のアビリティ持ちの女の子に接近しながら衝撃波を繰り出した!代わりにペネンリックスが背中に斬撃を受けたが耐える。自分もくるりと180度回転して剣を叩きつけるがかわされた。
「2体1よ!」
そう言ってマリアさんが戻ってきた。相手の女の子は多分リタイアなのだろう…微かに泣き声が聞こえた…その子があまりアビリティの訓練に積極的でないのをペネンリックスは気付いていた。その後は無理な攻撃をせずに時間をかけて戦闘を続けていると相手の動きが鈍ってきた。スピードやパワーが落ちたのでは無く疲れで一つ一つの動きにキレがなくなって来ているのだ。そこに隙を見つけてペネンリックスは剣を振るう…唯一の技、”無心の一撃”だ。相手は受けきれず肩に当たった。痛みに剣を落としてしゃがみ込むのをみて審判から勝負ありの声がかかった。
「マリアさんナイス!」
「ぺんぺん君もナイス盾!」
「そっちかい!」
そんなことを話していると、急に火の手が上がった!
「もう嫌ああああ〜!」
女の子を中心に炎が螺旋の渦を巻いて立ち昇る。物凄い熱波が廻りの者を襲い、皆慌ててさがる。
「マズイぞ、あれでは自分まで焼いてしまう。」
審判役の紋様術師がカードを取り出した。
「水よ!」
カードの紋様陣が輝き水が噴き出すが炎に届く前に蒸発してしまう。
「そんな…私のせい…」
マリアさんが呟くのをきいて、ペネンリックスは飛び出した。
「ぺんぺん君!」
紋様術師の人がとっさに水をペネンリックスにかけてくれた。炎に飛び込むと…当然ムチャクチャ熱かった。女の子に駆け寄り自分の身体と盾で包み込む。
…しばらく、そこで女の子と会話をした…やがて、炎は徐々に小さくなって消えてしまう。
「ぺんぺん君!」
マリアさんが真っ先に駆けつけてくれた。
「カードよ癒せ、軽治癒!、だれか救護班に連絡!」
紋様術師が的確な指示をする、この紋様術師の人はこう言う事態に慣れているようだ。
「大丈夫?」
マリアさんが心配そうな顔で聞いてきた。
自分の姿は、結構焦げ焦げで悲惨な状態に見える…。
「自分は罪作りな男だからね、女の子に焼かれるのは慣れているのさ…くっ。」
強がってみたがくらっと来た。
「脱水症状だ、横になれ、水分を補給するんだ。」
紋様術師の指示が聞こえた。脱水のせいで意識が朦朧としていると口に何かがあてがわれて水が入って来た、なんとか飲み下す。
目を開けると炎のアビリティ持ちの女子が自分に口づけしているのが見えた…口うつし?
「…君。」
「…助けてくれてありがとう、死なないで。」
大丈夫だと言いながら、また意識がぼうっとしてきた。
ペネンリックスは心の中で不可抗力だからとルージュさんに謝りながら意識を手放した…。