術師会館での災難の終わりと恋の始まり
いつも感謝・感謝です。
「はあ…。」
ペネンリックスは今日23回目のため息をついた。そんなことを記憶できるくらいにやる事がない…ベットの上では。今は術師会館のどこかの部屋にいるらしい。
あれから2日たっている。意識を取り戻りて話を聞いたことによると、ペネンリックスが使っていた魔剣の暴走でホブゴブリンは死んだそうだ。ペネンリックスも大きな怪我をして治療してもらったようである。意識を取り戻した頃には怪我はほぼ回復していたので実感はない…ただ、目が見えなくなっていた…。
ペネンリックスが使っていた魔剣の暴発後、すぐに結界が解除されてモンスターの掃討作戦が行われた様でマリアも無事だった。ただし、モンスターを召喚した女は姿がどこにも無く行方不明。マリアの証言から明確な殺意があったことが確認されテロリストであると判断された。アビリティ持ちが厚遇され、甘いチェックで会館内に入れるというセキュリティの甘さをつかれたかたちだ。
…足音が聞こえていた。コンコンとノックされる音が聞こえたのでどうぞと答えると誰かがはいってきた。足音からして2人くらいはいそうだった。
「リシェルです。おかげんはいかが?」年配の女性の声が聞こえた…この人は紋様術師の中ではかなり高い役職に着いている人らしい。
「気分は最悪ですよ…。」
冷たくいう…また例の取引を持ちかけて来るのだろう。今後の生活の保証と引き換えに、モンスターが多数いた結界内に置き去りにされたことを黙っているようにと言われているのだ…キタナイオトナ…。
「…それでなんだけど、もしかしたらその目、治せるかもしれないの…。」
その発言に反応してペネンリックスは上半身を起こした。
「治せないって言ってたじゃないか!」
そう、治癒のアビリティ持ちでも無い限り治せないと。治癒のアビリティ持ちは王国が全て召し抱えるのでいないと…王国からは貸出しを許可されなかったと聞いた。
「やって見ないとわからないんだけどね…」
別の聞いたことの無い女性の声がした。
「目が見えるようになったら…例の件飲んでくれるわよね?」
「リシェ!やる前からそんかこと言って。うまくいかなかったらそれこそあなたの言うこと聞いてくれなくなるわよ。愚かよ。」
「あなたが失敗することを考えることの方が愚かですわ。」
「…全く!あなたは昔からそうなんだから!」
ベッドがきしむ、先ほどの女性が登ってきたようだ。
「横になって、目を閉じて、いたいと思うから我慢してね。時間を巻き戻すから…。」
そう言われて横になると、女性だが抱きついてきた。柔らかい感触といい香りにドキリとする。
しばらくすると、身体が変な感じがしてきて意識が飛びそうになった。しかし、身体のあちこちから血が噴き出すのを感じ、痛みによって意識がはっきりする。
「がっ、あっ、あああああああ!」
懸命に歯を食いしばる!しばらくするといきなり痛むが消えると同時にまぶたの裏に光を感じた…。
恐る恐る目を開けると、女性の顔が目の前に見えた…。
「どうかしら?」
女性の問いに素直に答えた。
「…綺麗です。」
まあっ、という驚いた顔をされた。ペネンリックスはこんなに美しい女性が存在するとは思っていなかった。会話から年齢は結構上だと思っていたが、20歳くらいに見える、白い肌、白い髪、そして真っ赤な瞳をしていた。
「目は見えるか…を聞いたんですよ。」
リシェル女史が腹を抱えて笑いながら指摘する。
女性はベッドからおりながら抗議の声をリシェル女史にかけた。
「リシェのいじわる!そんなに笑ったら笑ジワが出来るわよ、行き遅れ!」
「それはお互い様でしょう…あなたのあんな顔始めてみましたよ。ル…、ルージュ。」
ルージュか、彼女らしくていい名前だ。
「いい?リシェにう〜んとわがまま言いなさい!死ぬような目にあったんでしょ。」
そういうと、一度だけ目線をペネンリックスに投げかけて部屋を出ていった。顔が赤かったような気がする。
その後、リシェル女史がこれからについて色々言っていたようだが、ペネンリックスの心は上の空だった。それからしばらく、一人の女性の顔を思い出していた…。