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脳内計算  作者: 西山ありさ
その後の短編+番外編
86/126

つきあいました。③

*natsu side*






「へ?」


ハナシの冒頭は、そんな私の間抜けた声から。ステージは昼、理学部棟横のカフェテラスにて、だ。

今しがた聞いたコトが理解できなくて、私はぱちぱちと瞬きを繰り返した。

…ついでに、手からストローもすり抜けて床に落ちた。

ちっ、最悪。聖悟に新しいの取りに行ってもらおう。


……いや、でもそんなことより。…今、彼女(・・)は何て言った?


「つ、つき、あっ、た……?」

「うん。そーだよ。」

「って、誰と、誰が……?」

「私と、信二君が、よ。」


…?……!?

な、


「なんだってぇーっ!!?」


近所迷惑なほど大きく響いた私の声は、同席していた聖悟の手によって即座に封じ込められたのだった。



――



ビックリした。今世紀最大の衝撃。ってぐらいにビックリした。

まさか、まさか……

最強お嬢様の麗奈さんと、馬鹿チャラ男の水谷が……

付 き 合 っ た !!?


衝撃の事実に愕然とする私。ただただ、ボーゼンとして動けなかった。


「……嘘、でしょう……?」

「…ナッちゃん、何その地球の終わりみたいな顔。しかも今、俺にすげー失礼なこと考えたよね?」


ちっ、うるせぇボケが。別に君に聞いてないから。

ギロリと目の前の水谷を睨みつけると彼は、おー怖い、とか言って手を左右に振った。


すっと深呼吸をひとつ。少し落ち着いた私は、改めて前に座る二人、麗奈さんと水谷を見る。

麗奈さんはいつものように優雅にお茶を飲みながらニコニコしてるし、水谷もいつものごとくジャラジャラとアクセサリーばっかり付けてて、ウザい。

…この二人が恋人同士、だと…?


私は並んでいる二人を見、『コイビトドウシ』という言葉をつなげてみた。そして、あまりに不釣り合いすぎて鼻で笑ってしまった。


――ハッ、ないだろ。

まったく何をバカな事を。つーか何故。どういう経緯で。

……大体、麗奈さん、失恋したばっかりだってのに。


じっとりとした目線を送っていると、水谷の呆れ声が聞こえてきた。


「…あのさ。別に、告って付き合いだしたってだけだよ?何も不思議なことはないだろ?」


不思議なことは、ないだと……?

バンッ!

テーブルに叩きつけた左手の衝撃で、バスケットに入ったパンとナプキン、その他が宙に舞う。私は先程ふざけたことをほざいた男に、びしっと人差し指を突き付けてやった。


「絶っ対、ちがう!どうせ君、傷心の麗奈さんに適当に優しい言葉でもかけて無理矢理落としたんだろ!!」

「うっわ、酷い言われよう。ナッちゃんの中で俺ってどんだけ悪者なの。」

「へー、そうなのか?信二。」

「オイ、聖悟まで乗るなって!」


猛犬のごとく水谷に向けてうなる私と、それを横目で眺めながらニヤニヤしている聖悟を見て、水谷はため息をついた。


「…麗奈。なんとか言ってくれよ、この人たちに。」


―そして、最終的に麗奈さんに泣きついたのだった。


「ふふ、そうね。」


すると、彼女は苦笑して、荒ぶる私の左手を握った。


「まあまあ、那津、落ち着いて。」

「麗奈さん……」


麗奈さんは私を見て、にっこりとほほ笑む。


やっぱ、この人超綺麗。超美人。……麗奈さん、マジ天使。

それが、何で水谷なんかに……!


握られた手に力をこめ、私は麗奈さんをじっと見つめた。


「…いいの!?水谷が勝手なこと言ってるのに、認めても!」


今なら間に合うよ!否定して!


「ちょ、事実なのに単なる噂程度までランク下げるなって!」

「うっさい、バーロー!俺は麗奈さんと話してるんだ!」


ひっこんでろ!てか君は話に入ってくるな!


「…ヤベェ、一人称まで変わった!?聖悟、そろそろナッちゃん、止めろって!」

「やー、当初に比べるとだいぶ表情豊かになったよな、那津も。」

「しみじみ言ってんじゃねーー!」


うんうんと、一人頷いている聖悟に、水谷のツッコミが飛ぶ。

そんな彼らの会話など、耳にも入らない私は、麗奈さんの返事をじっと待った。


「…そうね、貴女からしたら不思議かしらね。ついこの間まで聖悟君が好きだったのに、って。」

「!…そう。だから自暴自棄になってこんなヤツと付き合うコト、ないんだよ!」

「って、本人の前で言うか?それ。…ちょ、もう俺、凹み過ぎて立ち直れないかも……」


同じテーブルに同席しているのに、水谷の影が極端に薄くなったことを確認する。


敵のダメージは甚大。よし、もうちょっとだ。


「ねえ、麗奈さんもそう…「でもね、那津。今は違うの。」


だが、同意を求めようと言いかけたセリフは突然止められた。水谷も聖悟も、彼女の方を向く。

麗奈さんはニコリと笑い、一瞬にして目が合って。

私から目を逸らさないまま、形のいい唇が動く。



「今は、信二君が好きだから。」

「………!」


そう、静かにはっきりと言うから、私は二の句が継げなくなった。先程以上のショックが襲う。


――言いきった彼女の笑顔は、相変わらず美しかった。

そう。国崎聖悟に失恋した時と、まったく変わらずに。


まさか本当に……?でも、いや……


―それは君の、本当の笑顔なのか?



「……嘘、だよ。」

「……那津。」



否。


ありえない。そんなこと。

…だって、君はあのとき。傷ついていたじゃないか。

私のせいで。私が聖悟を取ったせいで。


―あの日泣きそうに笑っていた君のことを思うと、今でも胸が痛い。

彼は、私なんかが欲してはいけない存在だったのに。

本当は麗奈さんと並んでいた方が、よっぽどお似合いなのに。

麗奈さんはまだ聖悟のことが好きだったのに。


―でも、譲らなかった。結局、聖悟は私の彼氏になった。


散々協力するとか言っておいて、最終的には裏切った私は、サイテーの卑怯者だ。

でも君は平気なフリをして、こんなにすぐに他の男と付き合って。しかも相手は水谷だし。


―そんなの、絶対、違う。


…君は私に、遠慮したんだろう?





「…那津、別に貴女のせいとかじゃないわ。本当よ。」

「…………。」


曇った私の顔を心配してか、麗奈さんが話しかけてくるが、私は黙ったまま俯いてしまう。…何も、言えない。


だって、そんな。嘘だ。そんな優しい声でそんなこと言わないで。

私が、悪いのに――




「―てかさ。」


――と、割り込むように話し掛けてきたのは、水谷。

不服げに髪をがしがし掻いていた。


「なんで、フツーに麗奈が俺に惚れた、っていう結論に至らないわけ?」



……………は?


彼の意味不明な発言に、私は眉をひそめる。

いきなり何言ってんの、このアホ。

ってか、何この空気。私、シリアス入ってたんですけど。どんだけKYなの?死ぬの?

空気って、読まないと爆死するんだよ?(え)


私は、ギンッとヤツの方に顔を向けてやった。冷たい眼差し込みで。

あまりに強く睨んだからか、水谷はたじろいだ。


「……そんなん、ありえないからに決まってんじゃん。」

「きっぱり言うなよ……。俺的にはナッちゃんたちの方が意外で仕方ないんだけど。」

「それは自覚してるからいいの。」


ふんっと鼻で笑って、口を尖らせてみせる。


まあ、私たちのことはともかくとして。

――君と、麗奈さんが両想い?

…無いだろ。


だってさ……彼女は、聖悟が好きだったんだよ?

しかも紳士キャラを作っていた品行方正、眉目秀麗な時の。

乾ならまだ納得したものの、何で水谷ぃ?全く、タイプ違うじゃん。

顔はイケメンだけど、チャらいし。筋肉馬鹿だし。アホだし。馬鹿だし。


「…馬鹿、が多くね?」

「気のせい。」

「や、実際こいつ馬鹿だからな。一年の時、単位メッチャ落としたし。」

「マジで?真性だったんだ。救えねー(笑)」

「…もう、お前ら黙れっ!」


自分の馬鹿さ加減を露呈されて恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして怒鳴る水谷。


…ハッ、いい気味。ザマァみやがれ。

つか、そんなバカとは思わなかったわー。うちの理学部って、そんなにレベル高かったっけ?


そんなことを考えながら、ちらりと横目で聖悟を見る。目が合うと、ヤツは笑みを作った。


「……ちなみに、聖悟は?単位。」

「俺が落とすとでも思ってんのか?」

「あ、やっぱり?」


…ですよねー。そのドヤ顔はそうだと思いましたよ。

てことは、水谷は特別アホなんだ。うん。


…わー、カワイソー。みたいな、少々哀れんだ目線で水谷を見てやると、彼は、


「っだーー!俺の成績の話はもういいっての!麗奈と俺のことを話してんだろ!?」


噴火した。

…そんなに気にしてたのかな、成績。


………って、そうだ!こんな馬鹿げた会話、どうでもよかった!

私はハッと我に返り、飛び起きる。


「……麗奈さん!」

「何?」


鬼気迫る勢いで麗奈さんに迫ると、彼女はきょとん、とした。

…なんつー、のんきな。

はあ、と息をつき、今度こそ私は真面目な顔を作った。



「……麗奈さん、本当にコイツが好き?」



―再確認。

…もしも、麗奈さんが無理矢理付き合わされているんだったら、私も黙っていられない。

このふざけて、ニヤけた、不埒で、不潔な馬鹿男………


「…指、指さないでよ、ナッちゃん。」


黙れカス。お呼びじゃないよ、君は。余計な茶々を入れるな。


―この、水谷信二を抹消しなければ。

まあ、頼めば聖悟も手伝ってくれると思うし。なにかいい計画を……



「―好きよ?」



しかし、間髪をいれずに答えた彼女に、またもぎょっとする。


「え、ホントに…!?」

「ええ。」

「ホントのホント!?」

「ホントのホント、よ。」


ねえ、と水谷の方に顔を向ける麗奈さん。…その表情を見ても嘘をついている様子は、全くない。

照れている(キモイ)水谷と一緒に楽しそうに笑っている。それは、まるで恋人同士のよう……



…………ん?


え、ちょっと待って。

本当に、本当……?…この二人、もしかして、マジで両想い……?


「君たち…りょ、両想いなの……?」


恐る恐る聞いてみる、と。


「あたりまえじゃない。じゃないと付き合ったりしないわよ。」

「最初っからそう言ってんのにさ……。ナッちゃん信じないもんなァ。」


平然と、…否、若干笑いながら言われた。思わずポカーンとしてしまう。

…いや、本気で水谷が単にそう公言してるだけかと思ってた。一方通行かと思ってた。


違うんだ?ホントに、付き合ってたんだ……


「だから、那津。心配しないで。」

「…ん、いや心配も何も。麗奈さんがいいならそれでいいハナシだし………」


私が口を出せることでもないし。


「ホント、だったんだ……」


言葉と共にぽんっと音を立ててしぼむ私のやる気。

なんか、呆気にとられた……


私は、急に力が抜けたように椅子に沈みこんだ。それをニヤニヤみている男たちに殺意を覚え、少し居心地を悪く思って体を揺すり、そして。



「……よかった。」



ぽつりと、呟いた。


「え?」


麗奈さんも、水谷も、聖悟も。みんな顔に「?」を浮かべた。


何が?誰に向けて?


そんな感じの疑問符だろうが、別に意味は分かってくれなくていい。


ただ、嬉しかった。

麗奈さんがまた恋をしたこと、それが本気のモノだったこと。とにかく楽しそうなこと。

そして、私が、許されていたこと。


―そのどれもが嬉しかったから。


無表情だった顔が緩み、自然と笑顔が形成される。

……まあ、相手は水谷ではなくてもいいと思うけどね。





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