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脳内計算  作者: 西山ありさ
その後の短編+番外編
85/126

つきあいました。②

*seigo side*






「………おい、聖悟。お前新しく彼女作ったって、本当か?」

「ん、ああ、そうだけど。」


ガタガタッ、バンッ!!


「っ!?なんだとー!」


途端、頭を抱え出す男たち。


「…マジかよー!お前のこと紹介してくれって言われたのに!」

「聖悟がいねぇと、もう合コンができなくなるじゃねぇか!どうしてくれんだ!」


ギャーギャーと勝手に喚く男たちは、正直ウザい。しかも、醜い。

…いや、知らねぇし。お前らの都合なんて。



――



もはやおなじみの、大学近くのファミレス。

その中のテーブル席で、俺は同学部の知り合いたちと昼飯を食っていた。

その数、5人。…男がつるむには多すぎるだろ。うざってぇ。

いや、そんだけあの噂が気になるってことか。……ほっとけよ。


「なァ!俺どうすりゃいいんだよ!今度、彼女にお前を連れてきてやるって約束したんだよ!」


まだ言ってんのか、それ。だから知らねぇって。


「うるせぇ。騒ぐなら店から出てけ。」

「ひどい!」


と言って、泣きマネをする男。何故か信二を彷彿とさせる。

……殴っていいか?


「……でも、意外だったなあ。もう彼女を作るなんて。『今は別に女はいらない。』とか言ってたくせにさ。」


拳を握っていると、正面右側の男からなじるように声をかけられ動きを止める。

…ったく、どいつもこいつも……


「…別に、いいだろ。彼女作るくらい。」


はあ、とため息をつきながら興味津々に俺を見るヤツらを睨みあげる。

…騒ぎ過ぎなんだよ。女も男も、なんでこんなに気にしてんだ。

俺が誰と付き合ったって、関係ないだろ。


「いやいや、よくないって!」


すると、全員がガバッと、こっちに身を乗り出してきた。

…あまりの食いつきっぷり、そして息の合いようにドン引く。俺はウーロン茶を飲みながら眉をしかめた。


「ああ?何が?」

「だ、だって噂じゃ、お前が付き合ってんのって……」


そいつは恐る恐るといった風に、でもハッキリと言った。



「あの、本城那津だろ!?」



―ピク。

自分の彼女の名前を叫ばれて、グラスを握っていた手に力が入る。

だが興奮しているらしいコイツらは全く気付かない。


「どーいうことだよ!」

「なんで、よりによって本城さん?もっといい子いるだろ!?」

「聖悟も色んな子と付き合いすぎて、なんか頭がおかしくなってきてんじゃない?」


……なんか、酷い言われようだ。那津が。

いや、認識が酷過ぎるだろ。

…ある程度予想はしていたが、実際言われるとすげぇムカつく。


「……そうか?」

「そうだって!どう見ても聖悟には釣り合わないだろ、あの子。痩せっぽっちだし顔も平均的だし。」

「そう、中の下がせいぜいってとこだね。どこにでもいそうな感じだしー。」

「まあ、友達だったら楽しいかもだけど……彼女にはちょっと、アレじゃないか?」

「…………。」


そんな風に散々、好き勝手話す5人を冷めた目で見る。

ムカつきがピークに達しそうだったので、俺は落ち着いて気を静めた。


―何も知らねぇくせに誹謗中傷なんてガキか、こいつら。那津のいいところは、そんなんじゃないってのに……

『女を顔と体だけで判断する男』ってコイツらみたいなことを言うんだろうな。


…つーか、いい加減に黙れ、てめぇら。

イラつきすぎて、この中の一人くらい軽く殺ッてしまいそうなんだが。


「……そういや、俺。去年本城さんと授業一緒だったんだけど、」


と、隣に座っていた男がふいに口を開いた。


「へえ?そうなんだ。どんな感じだった?」

「いや、話してないしあんま記憶ない。彼女、ほぼ寝てたし。」

「マジかよ~男子みてぇだな。」

「でも単位は取れてたらしいよ。ある種、スゲェと思う。」


へえー、と一同は感嘆した。…若干笑いながら。

耳を傾けていた俺も、呆れやら感心やらで嘆息する。


……それはまあ、普通にスゴいな。つーか、やっぱり授業寝てんのかよ、那津。

夜中にバイトなんかするから、そんなことになるんだよ。やっぱ止めさせねぇとな…夜のバイトは危険だって、何回も言ってるのに。


「…とにかく、」

「?」


那津に会ったら追求してやろう、と思っていたら、奥にいた男子が俺に向かってびしっと指を突き付けて来た。



「納得のいく理由を提示しろっ!」

「…何の?」

「だーかーらー!何で本城さんと付き合ってるか!ハッキリ言って理解不能なワケよ、俺ら。」

「別に、理解されようなんて、思ってな……「いや!絶対、何かあるだろ!話せ!」


言いかけた言葉すら遮られ、先を促された。

……男5人に、鼻息も荒く詰め寄られるって本気でむさいな。

女子に囲まれてた那津もこんな感じだったのか。確かに面倒くさいな、コレ。マジで図々しすぎるだろ。


目の前の友人たちを本気で一発ずつ殴ってやろうか、などと考えながら、ストローを噛む。


………。

……まあでも、そろそろいいだろう。


俺は俺らの後ろの席に座っている人間に、ちらりと目を向けた。そして、口元に笑みを浮かべながら自然に声をかける。



「……だってよ、那津。」

「え!!?」



途端、表情が凍りつく男たち。呼んだ人物は素直に後ろを振り向いた。




「……いや、私に全部投げないでよ。どうしろっていうの。」



―噂のカノジョ、本城那津が。


「…別に、投げてるつもりはないけど?」


俺は肩の後ろに腕を回し、那津の頭を撫でた。那津は重い、とか言いながら俺の方をじろっと見てくる。

あー可愛い、可愛い。


「嘘つけ。じゃあなんでこのタイミングで呼ぶのさ?どうせ面倒臭くなったんでしょうが。」


ばれたか。


「や、でも、百聞は一見に如かずって言うだろ?その通りに実行したまでだ。」

「じゃあ私、何も言わなくて良くない?」

「何か、は言っとけよ。文句とか。」

「…そういや、ボロクソに言われてたね、私のこと。でも結構事実じゃない?通常反応だよ。」

「嘘、嘘。今のお前見て、んなこと言えるわけねーだろ。……なぁ?」

「っひ!?」


那津といつもの掛け合いをしている合間にイキナリ振ってやると、男は青ざめた。

…しかし、



「…ああどうも、こんにちは。聖悟の彼女やってます、あの(・・)本城那津です。」



那津に顔を合わせられた瞬間、それが赤信号のごとく赤く染まった。

…は、面白い。男でこんな真っ赤になるって、珍しいな。

予想通りの反応に俺は、ニヤリと満足に笑う。


「……あ、あの、」


突然何も言えなくなった男を放置し、別の奴が那津に控え目に尋ねた。


「…何ですか?」

「本城さん……ですよね?」

「?ええ、そうですけど……。」


何の確認だろう、と那津は訝しげに首をひねる。

男たちはまたざわついた。そして、言う。



「…いつものメガネは、どうしたんですか?」



――そう、今の那津はいつもの黒縁メガネをかけていない。裸眼だ。

…まあ、俺が指示したんだけどな。


彼女はキョトンと目を丸くした後、ああ、と合点がいったように


「あ、コンタクトしてるんですよ。どうですか?」


と言って笑った。


「――っ」


その瞬間、俺の周りの男たちは一斉に口を閉ざし俯いた。

とうとう誰も那津に目も合わせられなくなったのを見て、俺は再び口を開く。


「――で。誰が俺と釣り合ってない、って?」


口に笑みを浮かべ、低い声でそう言ってやるとヤツらは縮みあがった。

―愉快すぎる。

俺は内心で優越感たっぷりに男どもを見下した。


「え?私が、でしょ?」

「那津は黙ってろ。」


ヤツらの表情と俺の言っている意味が分からないらしい那津は、不可解そうに首を傾げている。


ホント相変わらず、鈍いな。

―てか、お前はもう少し自覚してくれねぇかな?そうすりゃ、俺も苦労せずに済むから。


そんなことを考えながらわたわたと男どもが慌てふためいているのを見物していると、

しばらくの間のあと。


「っすいませんでしたぁあああ!!」

「お似合いッス、マジで二人、ベストカップルッス!!」

「失礼しましたぁああ!!」


赤くなったり青くなったり白くなったり。忙しく様々な顔色に変化した男たちは、突如大声を上げて逃げ去った。


―後に取り残されたのは、俺と那津のみ。

……お、よく見ると伝票も持って行ってくれてる。

ラッキー。今日の昼、タダになったな。


ふっとほくそ笑み、無人となった隣の席に何気なく那津を座らせた。那津は素直に俺の横に座ると、見上げるようにして目線を合わせてくる。


「……あの人たち、どうしたのかな?」


先程の光景にボーゼンとしている様子の那津。俺は口だけで笑った。


「ん、気にすんな。」


どうせお前には分かんねぇだろうから。


「そうかな…」


うー、とうなりながらまだ納得がいっていない風な那津。その長い髪の毛をいじりながら、改めて彼女の全身に視線を送る。


「てか、今日マジで可愛いな、那津。どうした?」

「んー?」


那津の今日の服装。

ボーダーシャツに革のジャケット。白いミニスカート、夏らしいサンダル。


…見た感じ、超・女のコだ。いや、カワイイけど!こんなの初めて見る格好だから、ちょっとビックリする。素直に感動していると、那津は少し苦笑気味に話した。


「あー、麗奈さんに頼んだらこうなった。つか、知らない間に買われた。」

「へぇ。」

「なんか、他にもたくさんもらっちゃったから大体こんな感じになると思う。……変?」

「……いいや?」


むしろ、ナイスだ。

この那津を毎日見れるとか………うん、幸せかも。俺。


「…ちょっと聖悟、変な顔。」


那津に呼ばれて、無意識に緩んだ頬を慌てて直した。彼女はバカにしたようにふっと笑う。


そんな仕草さえ可愛らしいと思ってしまうあたり、ああ、マジでこいつに惚れてるんだな、俺。

と思う。

彼女につられて俺も笑った。


「…それにしても今日、誰も私が本城那津だって気付かなかったよ?さっきの人たちも驚いてたし。やっぱり、コンタクトって、変装道具じゃない?」

「……今だけ肯定しといてやるよ。」


そう呟いて、俺は那津の額に軽くキスを落とした。




END




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