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脳内計算  作者: 西山ありさ
その後の短編+番外編
84/126

つきあいました。①

*natsu side*


※ここから本編の続きとなります。

本編閲覧後にお読みくださいませ。




「本城さん。」

「ちょっと」

「いいかしら?」


「(………すげぇ)」


高低組み合わさった、お譲様方の見事なハモリに驚嘆の限りです。

いっそハ●ネプ出てこい。君ら。



――



みなさん、御機嫌よう。本城那津です。

国崎 聖悟という恋人ができてから一週間。やはりというか、予想通りというか。男の方が有名すぎるので、カップル成立の噂が回るのはあっと言う間で。

―――で、現在。

私は、陰険なお顔の女子の方々に囲まれております。

…まあ、これもある種予想通りだけどね。うふふ。


「…ちょっと、聞いてるの!?」


んー、どうしよう。

ここで聖悟と待ち合わせだったんだけど、この女子壁で見つかるかどうか。


「返事しろよ、このブスが!」


ああ、でも逆に目印かな。分かりやすいって点で。問題はヤツの方か。この中に入ってこれるのかっていう。意外とへタレだしなぁ聖悟ってば。


「っ!聞・け・よ!!」


一番前にいる女子に、ガッと胸倉を掴まれる。

同時にスポン、とイヤホンが私の耳から滑り落ちた。


「……あ。ごめん聞いてなかった。」

「っこいつ、MP3で音楽聞いてやがった!?」

「なんて強者なのっ!?」


途端、ドヨッとざわめくメス共。

…ん、いや。単なる雑音シャットアウト手段だったんですけどね。

私は仕方なく彼女らの方へと目線を向けた。


「…それで、何の用なんですかぁ?」


この問答も何回繰り返したことだろう。呆れつつも律儀に聞く私ってすごいと思うよ?


「何、じゃねーだろ!お前…」

「はい?」

「とぼけないで!あんた本当に……」


―はいはい、知ってますって。君らの言いたいことも、それに対する私の返答も。

…何回、同じこと繰り返してると思ってるの。



「聖悟君と、付き合ってるの!!?」



ハイ、キタ。決め台詞。女子特有の、キンキン甲高い声が非常に喧しい。

これで、…えーっと、通算で8回目かな。

…まったく。下らん噂回すんなら、それとセットで真偽も添えてくれたらいいのに。

私はため息交じりにコーヒーをひとくち飲み、ぼそりと答えてあげた。



「ええ、付き合ってますよ。」

「!!!!????」



途端、信じられないように顔を引きつらせる彼女ら。

…符号、多。どんだけ驚いてるの。


「う、嘘よ!あんたの妄想じゃないの!?」

「どんな!どんな手を使ったの!?」

「黒魔術ね!本城さんならできる気がする!!」

「本当のこと言ってよ。ね、怒らないから。」


私を囲む女子大生らは一瞬のフリーズの後、口ぐちに問いかけてくる。

…あーもー、相変わらず酷い言われようだ。今日のは特にバラエティに富んでるな、うん。

噂が出回ってて、ソレを肯定して、何が不思議なんだかなぁ。

まぁ、人って、受け入れたくない事実には目を逸らしたがるらしいしなあ。そういうことか。


「いやー、嘘とか言われても、事実ですけど。」

「違うっどうせアンタが無理やり言い寄ったんでしょ!」


バンッとテーブルを叩き熱弁を奮う、…えっと、先頭のショートカットの女。

…いや、篠原さんみたいなこと言うな、この女。

どうでもいいけどカップ倒れた。ひじ濡れた。クリーニング代求む。



「…そんな信じられないんだったらさー、」


不機嫌顔で零れたコーヒーをふく私。そして、それを射抜くように見ている数多の目。

―あーもう、めんどいなぁ。



「聖悟に、直接聞いてみれば?」



……まあこう聞くと、


「っ!?な、そんなこと、出来るわけないでしょ!?」

「わ、私が聖悟君と話すなんて…。」

「ム、無理無理!!」


ブンブンと高速で首を左右に振る女子ら。

―こう、返ってくるんだよな。

確実かつ決定的な方法なのに、それを選ばないのよね、この人たち。

アイドル的な存在だから、単にヤツに近付けないのか、その決定打を受けるのが怖いのか。

……恐らく後者かなー。


「―とにかくっ!」


紙コップをくしゃりと握りつぶし、ぼんやりとそれを観察していると、いきなりビシッと指を突き付けられた。

マスカラを塗りたくっている重そうなマツゲ……の下の瞳が、キッと私を睨む。


「あ、あんたが聖悟君と一緒にいるのはおかしいでしょ!」

「そ、そうそう!ちゃんと顔と相談してから来てよ!」

「ムカつくのよ!ていうか、正直邪魔!!」

「…………。」


…あ、今気になる発言あったな。顔と相談、て。…整形か?

てか、結局そういう話になるんだよねぇ。

私はまた、ため息をついた。


「…そんなん、知らないって。嫌だったら勝手に向こうから離れるんじゃない?」


そう言い終えると、女の子たちがまた目を吊り上げるのが見えたが、

それより早く、背後から大きな影が私にかぶさってきた。





「それもそうだな。…まぁ、離れるつもりなんか、ないけど。」



あれ、と思ったときにはもう後ろから男の両腕が絡まっていた。ぎゅっと背後から抱きすくめられて、椅子に体を縫いつけられる。


―やっと来たか。


「…聖悟。」

「ごめん、待ったか?」


首を回して後ろを向くと、予想通り、噂の種の国崎 聖悟本人が笑顔で私を覗きこんでいた。


「っ!!?」

「…え……っ!!?」


女子共は声にもならないくらい驚いている様子。

口をぽかーんと開けた驚愕の表情は…なんていうか、見るにも堪えない。


……顔と相談するのは君らの方じゃないかなあ。

そう頭の片隅でちらりと考えたがしかし、それは私の気にするところに非ず。

私は首を元に戻し、正面を向いたまま聖悟に話しかけた。


「…聖悟、遅い。」

「ん、悪い。教授に呼び出されてさ。それより何?この人だかり。」

「ぜーんぶ君のファンだよー。」

「…またか?というか、まだ居たのか?」

「どうも、私と君が付き合ってるのが信じられないらしい。」

「へぇ。」


そこで、聖悟は初めて周囲の女子に目を向けた。目が合った女子はユデダコのように顔を真っ赤に染め、慌てて目線を逸らす。


「あのさぁ、」


だが、聖悟も私同様に女子らのことは気に留めてないようで。気の抜けたような声を出し、おもむろに私を指さして、言った。



「こいつ、俺の彼女で間違ってないけど。」



その瞬間。


ガーーン。

―そんな効果音が聞こえてくるような雰囲気になった。

さっきまで顔を赤くしていた女子は皆、真っ白になって崩れ落ちる。


『嘘、嘘よこんなの……』

『これは白昼夢に違いないわ。ああ、夢なら覚めて……』


瞳に色を失くした女たちの亡霊のような声が所々聞こえてきた。


――って、そんなにショックか?

つか、怖い。さっきより数倍怖いよこの人たち。人間って、末期になるとこんなんなるんだ。…後ろの方、すでに失神してるし。


「…聖悟ぉ。」


声をひそめて、後ろの男を呼ぶ。


「んー?」


だが、大量に廃人を作った張本人をちらっと見ると、全く気にしてない様子。それどころか私の髪に顔を埋めたりしてる。

…相変わらず、自由な男だ。


「……なんか私、君と付き合うの、歓迎されてないらしいんだよ。」

「へぇ。そうなのか。それで?」


いや、『そうなのか』じゃなくてさ。

見りゃわかるでしょ。言っとくけど、君のせいだからな。


少し責めるような気持ちで回されている聖悟の手を掴む。


「だからさ、この人たち、こんだけしつこくつけ回してくるんだと思うんだよね。」


そう。この一週間、なんか色々と大変だったんだよ、私も。

大学だから靴箱にゴミ、とかは無いけどさぁ。何処からか飛んでくるギラギラ痛い視線は、何とかしてもらいたいものだ。

…こうやってハッキリ聖悟の口から言っても、なかなか効果が無いからなぁ。


「ふーん。……じゃあ、」


少しかがんだらしい聖悟に、コッチ向け、と言われて素直に聖悟の方を向く。

彼の顔面が視界いっぱいに広がった。

…なんか知らんが、近い。



「―で?なに………っむ?」


するとまたたく間に、聖悟の唇が私のに重なった。


「―――!!?」


ちゅっと、リップ音を立てて離れる聖悟の唇。私は呆然とヤツの顔を見つめたまま、固まるばかりだった。

―え、なに、これ。何が起こった……っ!?


「……こんなんで、どうよ。」


聖悟はニヤリと笑みを作り、ぺろっと舌で自分の唇をなめた。同時に、私はやっと何をされたかを理解し、頬を真っ赤に染め上げる。

――こいつは、いま、公衆の面前で……!?


「っせ……「っきゃあーーっ!!」


―しかし抗議しようと口に出しかけた私の声は、その『公衆』に無残にもかき消された。…そう、私と同じくヤツの暴挙に呆けていた女子の大群に。

聖悟は奇声を発したまま固まった女子を面白そうに一瞥し、またも彼女らに追い打ちをかけた。


「ん、こういうことだから。俺たち、超ラブラブなの。」

「…っ!?」


言うと同時に、私の体が宙に浮く。さっきまで座っていた椅子が下方に見えた。

――見る間に、男は私を抱えあげたのだ。


「っ、降ろせ!!」


……もちろん私もたまったもんじゃない。中途半端な浮遊感が気持ち悪いし。小さい子を抱っこするような無様な格好が、嫌だ。

―てか何してんの、君っ!


「あー、那津はコッチのが良かったっけ。」


足をじたばたとさせていると、両脇に添えられていた手はすぐさま、背中とひざ裏に回った。体が固定され、バランスが安定する。

ハイ、これでお姫様だっこの完成……て、違う!!そうじゃない!!


「聖悟っ!人の話……「じゃ、そう噂広めていてくれる?あとこいつには手ぇださないようにね。」


ニッコリと嘘臭く笑い、周囲を見回す聖悟。

…うわ、やっぱり私完全スルーされてる。自分に都合のいいことしか聞かないつもりだ。付き合ってからも、その辺全然変わんねぇええ!!


「じゃあ、俺ら帰るから。」


そして、私と私の荷物を抱えた聖悟は、颯爽とその場をフェードアウトしたのだった。



―――

――



「コノヤロッ、いい加減、離せえぇええ!!」

「何で?歩かなくていいから楽だろ?」


ちがっ……そういう意味じゃねぇ!分かってて言ってるだろ君っ!


「人の視線が!視線が痛いんだってば!」

「んなもん、無視しとけ。」

「やだ無理!つか、君はなんでそう平然としてるんだ!」


ギャーギャーと、ごく近い距離にある、聖悟の耳元で叫ぶ私。しかし、がっしりと固定されている身体はまったく動かなかった。

…そう、私は未だお姫様だっこの体勢のまま、どこかに連れられている状況。しかも、彼が解放してくれるそぶりは皆無だ。


――なんだ、このある場面を彷彿(ホウフツ)とさせるような状況はっ!!今は追われてるわけでも何でもないのに!

というか、さっきといい今といい……何でこいつはこんな恥ずかしいことを人前でできるんだぁあああ!!


興奮と羞恥で顔を赤く染める私を彼はチラリと一瞥し、ぼそっと呟く。


「……分かったから、静かにしろ。」

「分かったんなら降ろしてよっ!」

「はいはい、もうちょっとだから我慢しとけって。」


ゴソゴソ……ガチャッ。


「どうぞ、お姫サマ。」


ポスン。


「……へ?」


ぽかん、と口を開ける私。

『もうちょっと』は思ったよりも早かった。気がつけば、私は駐車場に停めていた彼の車の助手席に降ろされていた。


「じゃ、出発っと。」


ガチャ、バタン。

カチ、ブロロロロ………


ゆっくりと動きだす車。流れていく景色。


「……え、……は!?」


――やっと我に返ったのは、男が運転席に乗り込み、キーを回し、車を発進して駐車場を出たときだった。

私は混乱する頭を置いておいて、鼻歌交じりに運転している聖悟に掴みかかった。


「ちょ、何コレ!?聖悟!」

「はぁ?…俺の車だけど。お前、何回乗ったと思ってんだよ。」


だ・か・ら!ちっがーーう!!


「んなこと知ってるわ!何乗せてんだよ!何処行くつもりだ!?」

「ああ。俺ん家。」


……さらっと答えて下すったこの男にドロップキックをお見舞いしてやりたい。

O-RE-N-CHI だと?

あの、恐怖の魔城に?(多少の誇張表現があります。)

無 理 だ よ!


「……却下ぁ!!」


嫌だ!今度こそ生きて帰れないってぇ!!


「貴方に拒否権はありません、那津さん。あと、車内で騒ぐな。」


しれっと言うな!ボケナス!ああもう、誰かこいつに私の言葉届けて!頼むから!


「っっ!聖悟っ!まさか君……このために今日呼ん……「ったりめぇだろ。」


そこで聖悟はくるっと私の方を向き、耳元に口を近づけた。


「あと、遠慮せずに泊まってけよ?」

「~~!!」


途端、ニヤリと歪んだ唇から、私は真っ赤になって飛びのく。

しかし、やたら上機嫌な男はハンドルを握っていた手を伸ばし逃がさない、とばかりに私の顔を押さえつけた。


びっくりした私とヤツの目が、あった。

―私を否応なしに動けなくさせる強い眼差し。今回も例外ではなく、私はカチンと固まってしまった。


「那津………」


甘い声を含ませながら、聖悟の顔が近付く。びくっと体を震わせてしまう私。思わず目を閉じると、額に柔らかな感触が降ってきた。

そして、短いソレが離されると、三日月の形に歪んだ彼の唇から言葉が紡ぎだされる。



「…愛してる。」

「……っ」



耳元に残る甘い吐息が私をおかしくする。

赤い、暑い、熱い。もう、完全にノックアウト、だ。

ふしゅーっと、全身の力が抜けた私は軟体動物のように、くたりと男の肩にもたれかかった。それを聖悟は片腕だけで支え、運転を続行する。


「可愛いなぁ、那津は。」

「…も、そんな、ことばっか言うから……っ!」


心臓が、持たねぇ。ドキドキバクバク、今日も活発な私の左胸は『慣れる』ということなんて知らず。

―どんどん、堕ちる。


「じゃ、行くか。」

「………」


―もはや、何も言える状況じゃない私。

半ば諦めの気持ちで嘆息し、素直に腕の温もりに身をまかせ、外をながめた。


車は、恋人たちを乗せ、快調に走った。





END



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