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脳内計算  作者: 西山ありさ
その後の短編+番外編
82/126

02





そして、


「…………。」


先程の私の登場から何も話さない男が、ひとり。私を凝視したまま動かない。


「…何、なんか文句あんの国崎。」


―自分のカオをジロジロ見られるのはあまり気分のいいことではない。私は眉をひそめて嫌な顔を作った。


「…………。」

「…国崎君?」

「…………。」


だが、

何を話しかけても無言の彼。


―ちょ、話せなくなったんじゃないの、コイツ。何で固まってんの。

不審に思ってズイっと近寄り、国崎を下から見上げる。と、

――なんか知らんがスゴい勢いで遠ざかった。ザザッと、それは豪快に。


?なんだ、変なの。…いつもか?表情が見えないから何とも言えないけど……

全く奇妙な動きをする男に首を傾げたが、まああんまり深く考えないでおこうと自己完結した私。

くるりと首をまわし、他の3人の方を向いた。


「…あー、ところでさぁ、どう?感想は。」


可愛さがどーのとか、暗さが何チャラとか言ってたよね?君ら。

私が見る限りじゃ、そんな変わってなさそうだが。目とかは若干デカくなったと思うけどさー。


「…え、感想って……」


言いつつ、水谷は明後日の方へ視線を向ける。

―だから、何よ。人の目線逸らすなんて、失礼な。


少しの間があいて、彼はまた口を開き、


「…別にフツーに、かわ……」


ダァアン!!!


――続く言葉を言おうとしたらしいが、次の瞬間、何者かからの襲撃により、吹っ飛ばされた。

べしゃっと、無様に地面に倒れる。


ちらっと襲撃者の方を見ると、長い足を引く国崎の姿。

てことは、…また水谷を蹴ったみたいだ。

大丈夫かな。顔面イッたよ?あれ。

心の中で同情していると、国崎は吹っ飛ばした水谷の方へつかつかと歩みより、ぐいっとその胸倉を掴みあげた。


「っ、何すんだよ聖悟っ!」

「るせぇ。それ以上言ったら、コロす。」

「―――っ、」


私はそんな2人をぼーっと眺めていた。

…あれ、何話してんだろ。会話は聞こえないけど、水谷の方、顔面蒼白じゃんか。

彼らを指差しながら、斎藤と乾の方を振り向く。


「何、話してるんだろうね?」

「さぁ?でも多分、ナツちゃんには分かんないと思うよ。」

「んー、じゃ、いっか。」

「もう少しツッコんであげましょうよ……」


息をつきながら言う乾。

えー、ツッコむって、何を?…あ、アレかな?

私は怪訝に思いながらも乾に従い、視線を戻して水谷に問いかけた。


「みずたにぃ~!さっきの続きって、何ー?何て言いかけたのー?」

「!!」


若干遠目にいるので少し声のボリュームを上げてみたのだが、水谷はさらにカオを強張らせた。口元は引きつっている。

―ん?反応おかしいな?


「わ、鬼だ、ナツちゃん。」

「そうきましたか…追い詰めましたねー。」


斎藤と乾は口ぐちに憐れみの言葉を送っている。

え、私のせいなの?…何が?


「えー……と、」


私が疑問符を飛ばしていると、水谷は口を開いたが、何故か不自然にどもる。国崎はそれを冷めた目で見ていた。

水谷は数秒間何やら考え、ぶつぶつ呟いていたが、やがてそんな国崎の視線に耐えきれなくなった風に、



「か、可愛いってよりはカッコイイよなっ!!」



叫んだ。


「……はあぁ?」


全員で、『何言ってんだこいつ』的な眼差しを送る。私も、ぽかんと口をあける。

―しかし、水谷はもはやいっぱいいっぱいの様子で。


「…だ、だって目とか切れ長だし、逆に男の子っぽい!な?宏樹、圭!」


すがるような目で斎藤・乾を見て、同意を促した。


「(何言ってんの、信二。)…まあ、着てる服も男性向けだしね。」

「(言い訳ならもっとマシなやつにしてくださいよ。)カッコイイ…と言えなくもありません。」


2人はいきなり振られて明らかに嫌そうな顔をしつつも、哀れな水谷を思ってか切れ悪く同意する。

しーん、となんとも気まずい間があいた。


その様子を眺め、


(…ちょっと脅しすぎたか。)


バツが悪そうに首をかく国崎。少し反省したのか、訂正のために口を開いた。


「…お前、そんなわけな―――」


しかし――お忘れ頂いては困る。本編の主人公、本城那津は。一般のヒロインとは大きく異なる、とんでもない変わり者なのだ。



「……マジでー!?」



国崎の言葉を遮るように、那津はキラキラと瞳を輝かせながらそう言った。

『え、』と、今度は、男4人が固まる。


「ホント!?男っぽい?これなら、男子校潜入してもバレないレベル!?」

「…は?何ですかその基準。」

「てか、テンションいきなり高いね?ナツちゃん。」


私は興奮しながらニコっと笑った。



「だって、一遍、男ってヤツになって見たかったんだよっ!」



――変わり者、過ぎるだろ。その場の誰もが、そう思った。



―――だが、本城那津の暴走はまだまだ止まらない。


「ね、水谷、その帽子貸して!」

「…は?いいけど、」


と、キャップをかぶり、


「ゴムあったよなぁ、確か。…あーあ、何で髪伸ばしてんだろ私。短髪の方がそれっぽく見えるのにぃ」

「ちょ、那津……?」

「てか、女の命じゃないの?髪って。」


と、髪をまとめ、


「どう?男の子?」


くるっと振り向いてみた。


「……………。」


一同、沈黙。てか、唖然?みたいな。

ちょっと、何か反応してくれないと痛いじゃないの、私が。


「…なんかさー、君らさっきから反応薄い。どうしたの、今日?」


訝しげに聞いてみると、とりあえず斎藤が答えてくれた。


「…いや。ナツちゃんが、どうしたの?テンションがいつになくおかしいけど。」


…失礼な。人を変人みたいに。


「だって、嬉しいじゃん」

「…男っぽい、が?」

「私、可愛いよりカッコイイの方が好きだから。で、どうよ国崎?ちゃんと見える?男の子に!」


ビシッと人差し指を突き付けると、突然振られた国崎はハッと我にかえったような顔をし、フイと目を逸らした。


「………あー、いいんじゃないか?」


…テキトーだな。果てしなく。

私は目を明後日の方向に向けながらそう言った男をジト、と睨みつける。


「見てねーだろ。どう思うかって聞いてん、……うぶっ、」

「見てる、っての!いいから顔、こっち向けんな!」


何故か焦ったような国崎の声、と共に帽子のツバをグイッと下に引っ張られ、私の視界は原色に染まった。

……イキナリだったから鼻にツバが当たったじゃんか。どうしてくれんの。


「~ちょ、何すんの!」

「お前、もうそれで歩け!

「無茶言うな!前見えないしっ!」


何だ、私のカオが不服だってのか?君は!別にブサイクなのは、今に始まったことじゃねぇだろ。


――と、


「まあまあ、その辺にしましょうよ。」

「ここにいても邪魔だから、移動しようか。」

「はい、いこ、いこ。」


険悪な雰囲気の私たちを乾・斉藤・水谷の順で、食い止める。


「…ああ、分かった。」

「…………。」


心なしか気が緩んだような国崎。そして、ぶすっとした顔でヤツを一回睨み付け、私もしぶしぶその指示に従った。



―――

――



「…んで、これからどーすんの。」


休日、昼間。

たくさんの人々が行き交う街道を、私と4人はブラブラと歩いた。特に、あてはなく。


…ちなみに、私は帽子に一纏めの髪、と男装(?)ルックのままである。

時々何か言いたげに見てくる国崎は無視だ。ふんだ。


「んー、別に予定とかはないけど。」


歩きながらこちらを振り向く水谷。

――って、


「…は?予定ないくせに私を呼んだわけ?」

「いやいや、あったよ。ナツちゃんにコンタクトを作らせるという目的が。」

「そうそう。」


ほぉ。やっぱソレ、決定事項だったわけね。

いやでも、それにしても用事ってそれだけかよ。どんだけ暇なの、君ら。

私は呆れて嘆息し、彼らに向き直った。


「じゃ、何もないなら――」

「……あのぉ~」


帰ってもいい?と続けようとしたら、誰かに遮られた。

誰だろうと思い、振り向くとそこには。



「…お兄さんたち、お暇ですかぁ?」



女子が、数名いた。


高校生…いや、同じ年くらいだろうか。意外と若そうなイマドキの女の子たちだ。

化粧はもちろんバッチリ、ミニスカート、ショートパンツなど、各々露出高めな服を着ている。

…いや、キャミソール一枚は寒くね?まだ夏前だよ?

顔立ちは綺麗というよか可愛いの方があってる、かな。つーか自分の魅せ方を分かってる、かな。


……まあ、そんな感じの5人の女子が、私たちの後ろから突如現れた。

そして、共通点としては。


「オニーサンたち、カッコイイですね~!私たち今から遊びに行くんですけど、よかったら~」

「お名前なんて言うんですか?」

「私、そこの大学の……」


…皆さん、一様にハンターの目をしていることか。

ちょ、カワイイ系で攻めたかったら、そのギラギラした目、どうにかしなよ。上目使い台無しだから。


私は初めて逆ナンというものを目の当たりにし、ポカーンとするばかりだ。

……いや、絡まれてる国崎は何度も見たけども、そういや、まともにこっちサイドで見たこと無かったな。

…確かに、これはウザイ。あの3匹のギャル子を彷彿とさせるよ、うん。


―しかし、対する彼らは慣れたものだ。笑顔で適当に女子らをあしらっていた。

…国崎にいたっては、ナチュラルシカトだ。何を話しかけられても、スルー。

すげぇ。慣れてる。流石、国崎さん。半端ねぇッス。


「……何、見てんだよ、那津。」


その様子をまじまじと観察していると、上から目線が降ってきた。


「やー、君は慣れてるなーと思って。」

「何がだよ。」


んー。なんつーか経験値が違うなぁ、と。




「え~と、そっちの人は……男性?ですよね?」

「ん?」


そうこうしているうちに、彼女らの内の1人が私を指さしていることに気付いた。


……おっとぉ?ついにコッチ来たかー。

話すのメンドいなあ。というか、何話せばいいか分からないしなあ。とかなんとか。

瞬間的に色々と思うところはあるものの、


――しかし、ホントにオトコに見えてるんだ――

と、私は少し興味深く思った。

そして、


「ん?そうだけど……」


ソレが何か?といった感じで悪気なく、嘘八百をついてみた。

ちなみに声は低めである。

途端、隣で国崎は呆れたように私を見下ろしてきた。



(…お前、何考えてんの?)

(るっさい。こんくらいの暇つぶしは許せよ。)

(…暇つぶしって……)

(楽しいじゃん。擬似男の子体験!本気で勘違いしてくれてるみたいだし。)

(…………。)



ヤツと目線だけでざっとこのような会話をすると、女の子はパッと顔を輝かせ、さらに声をあげる。


「へぇ、かわいいっ!誰かの弟さんですかぁ?」

「…おと……っ?」


これは予想外。ぱちぱちと目を瞬かせる私。

―ちょ、君マジか、そういう認識だったの?あ、そうか背が小さいからな!しっかし誰にも似てねぇだろ。オイ。

…こりゃ、どうしたものか……

何かに期待しているようにこちらを覗いて来る女の子に苦笑を洩らす。


ん?でも、さ。――そういう設定も、また楽しそうじゃない?


そう思い立った私はニヤリと笑いとびきり悪いカオをした。

そして隣の男を指さしながら、言ってやる。



「ん、あぁ、コイツ……聖悟の弟だよ。」

「――は?」



無責任ワード、パート2。






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