02
―その後も、私は引きつった笑顔を貼り付けながら彼らと雑談を交わす。
その間、分かったことが1つ。
どうやら他の3人には、キャラ云々の話しは知られてないらしい。
彼らが合コンのときのまま変わらないテンションで話しかけて来るのが、その証拠。
…まぁそうじゃなきゃ、私にまた会いたいなんて酔狂なことは言わないだろうが。
そんなわけなので、私も無理してテンションを上げて話すハメになった。
しかし、まいった。このまま話してんの疲れてきた。
だだ下がったテンションをムリヤリ普段以上に上げるのって、かなり高レベルの苦行だ。
もともと私を守るために作ったキャラがここまで後を引くとは、思わなかったなぁ。
後腐れなく終わろうと思ったが、無理みたい。
…もう、いっか。国崎にもバレたことだしどうでもよくなった。
ここはもう、カミングアウトして怒って帰ってもらおう。
多分大学内の空気は悪くなるだろうが、コイツらと慣れ合うよかよっぽどマシ。
…そうだろ?本城那津。
そう思い立つと私はすうっと息を吸いこみ、意を決して口を開いた。
「…あのさ、合コンのときの私は、私じゃないから。」
いきなり真剣な目でそう言った私に、びっくりしたような顔をする3人。
「…んー?じゃ、君じゃなきゃ誰だったのー?」
私の雰囲気が変わったことに気付いたのか、少し真面目な顔をして茶髪が尋ねた。
私はふっと一瞬笑うと、お得意のやぶ睨みで全員をジロリと見ながら一気に――
「…私が作ったキャラだよ。明るいムードメーカー、合コン仕様。
素の私は地味で暗い、毒舌女だから。なんの面白いことも無いから。
分かったらとっとと消えろ。迷惑なんだよ、君ら。」
――毒を吐いた。
瞬間、しん…とした静寂が訪れる。脳内の私は高笑いをしながら男たちを見下していた。
よし、言った。流石にここまで言われたらお調子者のコイツらといえども、怒るに違いない。
『うわ、超ムカツク。』
『そんな人だったんですね。幻滅しました。』
――そんなセリフを期待していたのだが。
「ぶっっははははははっっ!!!」
―あ、れ?
突如響いた大きな笑い声に、私だけでなく周囲のギャラリーも目を丸くする。
……何故に爆笑?え、私、今そんなに面白いこと言った?
「えーアレ、作ってたの!?全然、気付かなかったし!」
「しかも、フツーそれ暴露するー?」
「地味で毒舌って…素の方がよっぽど面白いですよ。」
3人は思い思いの感想を言って、さらに笑い声を上げる。
う、ウケてるよ……コイツらのツボがよく分からないんだけど。
…あれ、もしかして何か失敗、した?私。
「おい、聖悟!お前の言う通り、かなり面白いな、ナッちゃん!」
こと、茶髪の彼のウケようは尋常でなく。隣の国崎の背中をバシバシと叩いて言った。
―って、ええ!?失敗確定!
なんだか分からないけど、マズい方向に行ってる!好感触とか、望んでないから!!こっちは!
そして国崎。さっきから黙ってるが、この人たちに何を吹き込んだんだ?テメェ。
話しかけられた男は、パフェを食べながらニヤリと笑った。
「だろ?でも、盗るなよ。」
は?取る?撮る?トルって何??爽やかな顔で笑ってんじゃねぇ。
最早怒りの矛先が迷子になった私はギンッとヤツを睨みつけていると、ついに黒髪から決定打が打たれた。
「…ね、友達になろうよ、ナツちゃん。俺ら、君のこと気に入ったよ。」
瞬間、体中に電流がバリバリと走った。
こ れ は …
うわぁっっ!?最悪の結末じゃんかっ!?何故か私、彼らのお気に入りカテゴリに分類された!?
何で!何が起こって!?
ダメだ、私にとってコイツらは完全に理解不能です!もう、手に負えないよ!!
―――ゾクリ……――――――
そして背後に突き刺さる、たくさんの、視線、死線、四川。
あぁそういや、推定20名の女子に囲まれてたんだっけ…?じゃあ黒髪の言った、トモダチ宣言もバッチリお耳に届いたわけで…。
……………。
は、はは……。は……
もう……
……………プツン。
私の中で何かが切れた音が、確かに聞こえた。
ドンッ!
「キャッッ!?」
私は突如、適当にその辺にいた女子を引っ掴んで男たちの前に押しやった。いきなり前に出された、全く知らない女はびっくりしている。
そらそーだわな。でもゴメン。身代わりヨロシクね。
「友人は作らない主義なんで。作りたいんならこの子とトモダチになってあげてください。じゃ、サヨナラ。」
――私はそう言い捨てて足のターボエンジンをフルに回し、全速力でその場を逃げ去った。
4人のあっけにとられた顔とか、国崎が何か叫んでいたこととか、直後、女子たちがワッと押し掛けだしたこととか
…もう、どうでもいいわ。
とにかく、走った、走った。こんな強制逃亡は無様以外の何物でも無い。
――でも、限界だった。
っあーーーーーっもうっ!
トモダチ、だと!?何ハゲたことぬかしてんだよ!?なるわけねーだろうが!!
私はな、我が身が1番可愛いんだよ!
君らみたいな主役級俳優と、スタッフの下っ端にもなれないような私が知り合いなんて、
客観的にもおかしすぎんだろ!
しかも君ら全員、かなりの人気だよ?女子の嫉妬をナメんなっ!
無視したつもりだったが、私にはボソボソ呪いの言葉が聞こえたんだっての。
『何、あのブス。何で国崎くんたちと仲良さ気なワケ?』
『身の程をわきまえろよ、ちゃんと鏡見えてる?』
『どんな手を使ったのかしら。あの貧相な体で。』
――こ、怖えぇぇ!!マジで怖ぇ!!大学生にもなってあんな低レベルな妬み!!
でもヤツらは、本気だ。本気で、私を殺る…!
女って、これだからイヤなんだよね……。ハァ…
――もういいさ。これからは、あのカフェに近寄らないでおこう。
学食はやめて…面倒だが弁当を作って近くの公園で食べるか、どっかの喫茶店に入ろう。
あーもう。おとといより昨日、昨日より今日と、事態が悪化していってない?
今が人生で最大に面倒臭いわ。
どうしてこうも、上手くいってくれないんだろう。…私は静かに暮らしたいだけなのに。
それも、これも、何もかも、全部。アイツ…国崎のせいだ。アイツさえいなけりゃよかったんだ。
私は振り返ることなく、街道をひたすら突っ走った。
―どのくらい走っただろう。私はピタッと足を止めた。
……キツイ。
やっぱり運動不足の体に全力疾走は無理があったか。ものすごく息が切れている。
――気がつけば大学からかなり離れた、とある公園に来ていた。
私は休憩がてら近くの自動販売機で缶コーヒーを買って、ベンチに座る。
ゆったりと腰をかけて天を仰ぐと、すでに日が傾きかけているのが見えた。
私以外誰もいない空間を確認。そしてポツリと呟いた。
「……国崎…死んでくれ…。」
「なんで」
………!!
独りだと思っていた空間から、突然の返答。私は飛び起きて声の主を振り返った。
目の前には、彼。
――国崎聖悟の、馬鹿みたいに整った顔があった。
……っな、なんで、ここに?
瞬間移動でもしてきたのか、この野郎!?