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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
77/126

03




*back to natsu side*



――大体、私ってヤツは。


ぐだぐだと屁理屈を正論くさく並べ立てては、自分の都合のいい方にもっていき、結局何もかも否定し、ヒトを遠ざける嫌な女なのである。

―だから、他の人も面倒になって、私と付き合うことなんか投げ出してしまう。

んで、私はひとりになる。いつもそのパターン。


……今回も、そうだと思っていたのになぁ。



――



順調に大学生活を過ごしていた私の前に、突如現れた、イケメンの4人の男子。


あ、私には縁ないわ、一生。


一目見てそう思ったんだけど、彼らはとにかく変わっていて。

……私と友達になりたい、なんて言い出す、物好きなヤツらだった。


―冗談じゃない。もうオトモダチサービスはとっくに終わったんだ、と、幾度も逃亡を試みたけど、

とある男を筆頭に、しつこく追いかけてくる彼らについに観念し。

すぐ離れると期待して、友達ごっこに付き合ってみた。

…そう、すぐに、離れると思ってたんだ。


なのに、ね。

いつの間にか、4人と一緒にいるのが当たり前になって、彼らといると居心地がいいとか、感じ始めてしまった。

ヤツらは私の心すら気付かせぬくらい自然に、私の生活を侵食していって。

いつも懲りずに持ち出してくるトラブルですら楽しくなった。

彼らと一緒なら。



―そしてあろうことか、私はその中の一人に恋をしてしまった。


『国崎聖悟』


その人の名前だ。…いま、目の前に居る男のこと。


いつも不敵な笑みを崩さない、食えない男。

最初は正直、苦手だった。…中身が全然見えないから。心の内を見せようとしないから。


―でも、確かに私と同じような雰囲気を感じた。

まるで『同類』みたいで、少し面白くなって、あっちこっちに振りまわされながらも、彼との掛け合いを楽しんでいる自分がいた。

…時折、つい、醜い素の私を出してしまう時もあって。

しまった、と後悔したんだけど、彼は咎めたりしないし、むしろそっちを認めて笑ってくれる。

彼のそばでは、私も楽に呼吸ができて、泣きたくなるくらい優しい時間が過ごせた。


全部国崎のおかげだった、と今になって思い出す。


それが、私の初めての『好き』だった。



だが、…彼を好きだと気づいて、

国崎の方もなんの手違いか私を好きだ、と言って、


急に、怖くなった。その『スキ』が。そして、思い出してしまった。


関係なんか、すぐに白紙に戻る。

変わらないものなんか存在しない。


過去から学んだそれだけのことが、私の胸を圧迫し重くのしかかった。



……ああ、ダメだ。馬鹿か私は。ホントに何も成長してない。


愛情なんて無くていいとか、何もいらないとかホザいたくせに、

ふわふわとしたアイツの優しさにただ甘えていつの間にか、こんなに彼を求めてしまった。

…愛されたいと、願ってしまった。


――もう十分だろう、お前には?

それともなんだ。まだ求めるのか?また過ちを繰り返すのか?

……また、傷つきたいのか?


と、頭の中の私が嘲笑う。

冷たい切っ先を突き付けられたように、一気に頭が冴えた。



……そう、

『人を傷つけたくない』なんて、ただの詭弁で。


私は、ホントは、自分が傷つきたくないだけなんだ。


他人に陥れられて、もう無意味な涙を流すのは嫌だ。どうせすぐ消える幻想に踊らされたくない。

―そうやって諦めることで私は救われるから。



これ以上ヤツの傍に居るとハマッて、抜け出せなくなるくらい依存してしまいそうで、

その時になって国崎に裏切られるのが怖くて。

―そして、また逃げた。

でも、そいつは逃げるな、と言って追いかけて手を掴んできた。


…逃げて何が悪い?別にいいじゃないか。

私がいないことで、誰に迷惑をかけるわけでもないんだし。


―もう、私を追いかけるのは止めてよ―


…苦しいんだ。君がいることで私はバランスを崩し、人間であることすら嫌気がさしてきそう。

キラキラと少年のように笑う君に対し、私は汚れ過ぎていて。私の持っていないものを全部持ってるくせに、私なんかを追ってくるし。


……私は、君がすきで、でもきらいだ。


だから、逃げて逃げまくって、徹底的に抵抗してやろうと覚悟を決めていた。

そして終には忘れてしまえばいい、と。



――でも、さ。

何で、今の今になって


『お前は、何も悪くない。』

『だから、とっとと俺にすがれよ。』


なんて、



「…そんな言葉、言うんだよ…っ!」

「!」


私は手を突き出し、突き放すように彼との体の間に少し隙間を空けた。

すると急に肌寒い気がしてきて無意識に温かい体温を欲しがるが、

頭の中でそれを否定し、ヤツに向き直る。涙の跡をグイッと拭った。


「……っし、信用なんか、できるわけないじゃん。馬鹿じゃないの。」

「……、」


強気な言葉で相手を威嚇してみるも、どうにも視界がぼやけて困る。

瞳と同様に、心もゆらゆら、動いてる。


―あぁ、また、私が揺らぐ。


私の抱えて来た過去なんて、犯してきた罪なんて、何でも無いことのように君は語るから、

もう、さ、…許されてもいいとか、騙されてもいいとか、思っちゃうじゃん。


…嘘みたいだね。ねぇ、国崎。君の台詞がこんなに強いと思わなかったよ。

…君のせいで私はこんなに、動揺してるよ。



「……おい、那津。」


静かな国崎の声が聞こえる。


「へ?」


そして、がっと、肩を掴まれたと思えば、


「…ったく、面倒くせぇ…これじゃ堂々巡りだ。い・い・か・ら、俺の話をきけぇっ!」

「あだっ!」


……デコピンされた。

し、真剣な場面で暴力とは、君も大概だよ、全く……

ぶちぶちと脳内で文句を垂れ、額をさすっていると苛立った声調で国崎は続けた。



「何、一人でネガティブになってんだよ。俺はお前といることで傷ついたりなんかしねぇし、離れたりする予定もない!被害妄想もいい加減にしろ、このアホが。お前の言い訳も、もう飽きた!」

「っ、」



…ちょ、ソレは……


言 い す ぎ だ ろ ?






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