03
*back to natsu side*
――大体、私ってヤツは。
ぐだぐだと屁理屈を正論くさく並べ立てては、自分の都合のいい方にもっていき、結局何もかも否定し、ヒトを遠ざける嫌な女なのである。
―だから、他の人も面倒になって、私と付き合うことなんか投げ出してしまう。
んで、私はひとりになる。いつもそのパターン。
……今回も、そうだと思っていたのになぁ。
――
順調に大学生活を過ごしていた私の前に、突如現れた、イケメンの4人の男子。
あ、私には縁ないわ、一生。
一目見てそう思ったんだけど、彼らはとにかく変わっていて。
……私と友達になりたい、なんて言い出す、物好きなヤツらだった。
―冗談じゃない。もうオトモダチサービスはとっくに終わったんだ、と、幾度も逃亡を試みたけど、
とある男を筆頭に、しつこく追いかけてくる彼らについに観念し。
すぐ離れると期待して、友達ごっこに付き合ってみた。
…そう、すぐに、離れると思ってたんだ。
なのに、ね。
いつの間にか、4人と一緒にいるのが当たり前になって、彼らといると居心地がいいとか、感じ始めてしまった。
ヤツらは私の心すら気付かせぬくらい自然に、私の生活を侵食していって。
いつも懲りずに持ち出してくるトラブルですら楽しくなった。
彼らと一緒なら。
―そしてあろうことか、私はその中の一人に恋をしてしまった。
『国崎聖悟』
その人の名前だ。…いま、目の前に居る男のこと。
いつも不敵な笑みを崩さない、食えない男。
最初は正直、苦手だった。…中身が全然見えないから。心の内を見せようとしないから。
―でも、確かに私と同じような雰囲気を感じた。
まるで『同類』みたいで、少し面白くなって、あっちこっちに振りまわされながらも、彼との掛け合いを楽しんでいる自分がいた。
…時折、つい、醜い素の私を出してしまう時もあって。
しまった、と後悔したんだけど、彼は咎めたりしないし、むしろそっちを認めて笑ってくれる。
彼のそばでは、私も楽に呼吸ができて、泣きたくなるくらい優しい時間が過ごせた。
全部国崎のおかげだった、と今になって思い出す。
それが、私の初めての『好き』だった。
だが、…彼を好きだと気づいて、
国崎の方もなんの手違いか私を好きだ、と言って、
急に、怖くなった。その『スキ』が。そして、思い出してしまった。
関係なんか、すぐに白紙に戻る。
変わらないものなんか存在しない。
過去から学んだそれだけのことが、私の胸を圧迫し重くのしかかった。
……ああ、ダメだ。馬鹿か私は。ホントに何も成長してない。
愛情なんて無くていいとか、何もいらないとかホザいたくせに、
ふわふわとしたアイツの優しさにただ甘えていつの間にか、こんなに彼を求めてしまった。
…愛されたいと、願ってしまった。
――もう十分だろう、お前には?
それともなんだ。まだ求めるのか?また過ちを繰り返すのか?
……また、傷つきたいのか?
と、頭の中の私が嘲笑う。
冷たい切っ先を突き付けられたように、一気に頭が冴えた。
……そう、
『人を傷つけたくない』なんて、ただの詭弁で。
私は、ホントは、自分が傷つきたくないだけなんだ。
他人に陥れられて、もう無意味な涙を流すのは嫌だ。どうせすぐ消える幻想に踊らされたくない。
―そうやって諦めることで私は救われるから。
これ以上ヤツの傍に居るとハマッて、抜け出せなくなるくらい依存してしまいそうで、
その時になって国崎に裏切られるのが怖くて。
―そして、また逃げた。
でも、そいつは逃げるな、と言って追いかけて手を掴んできた。
…逃げて何が悪い?別にいいじゃないか。
私がいないことで、誰に迷惑をかけるわけでもないんだし。
―もう、私を追いかけるのは止めてよ―
…苦しいんだ。君がいることで私はバランスを崩し、人間であることすら嫌気がさしてきそう。
キラキラと少年のように笑う君に対し、私は汚れ過ぎていて。私の持っていないものを全部持ってるくせに、私なんかを追ってくるし。
……私は、君がすきで、でもきらいだ。
だから、逃げて逃げまくって、徹底的に抵抗してやろうと覚悟を決めていた。
そして終には忘れてしまえばいい、と。
――でも、さ。
何で、今の今になって
『お前は、何も悪くない。』
『だから、とっとと俺にすがれよ。』
なんて、
「…そんな言葉、言うんだよ…っ!」
「!」
私は手を突き出し、突き放すように彼との体の間に少し隙間を空けた。
すると急に肌寒い気がしてきて無意識に温かい体温を欲しがるが、
頭の中でそれを否定し、ヤツに向き直る。涙の跡をグイッと拭った。
「……っし、信用なんか、できるわけないじゃん。馬鹿じゃないの。」
「……、」
強気な言葉で相手を威嚇してみるも、どうにも視界がぼやけて困る。
瞳と同様に、心もゆらゆら、動いてる。
―あぁ、また、私が揺らぐ。
私の抱えて来た過去なんて、犯してきた罪なんて、何でも無いことのように君は語るから、
もう、さ、…許されてもいいとか、騙されてもいいとか、思っちゃうじゃん。
…嘘みたいだね。ねぇ、国崎。君の台詞がこんなに強いと思わなかったよ。
…君のせいで私はこんなに、動揺してるよ。
「……おい、那津。」
静かな国崎の声が聞こえる。
「へ?」
そして、がっと、肩を掴まれたと思えば、
「…ったく、面倒くせぇ…これじゃ堂々巡りだ。い・い・か・ら、俺の話をきけぇっ!」
「あだっ!」
……デコピンされた。
し、真剣な場面で暴力とは、君も大概だよ、全く……
ぶちぶちと脳内で文句を垂れ、額をさすっていると苛立った声調で国崎は続けた。
「何、一人でネガティブになってんだよ。俺はお前といることで傷ついたりなんかしねぇし、離れたりする予定もない!被害妄想もいい加減にしろ、このアホが。お前の言い訳も、もう飽きた!」
「っ、」
…ちょ、ソレは……
言 い す ぎ だ ろ ?