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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
70/126

05




               ―*―



あの事件をきっかけに、『人間関係を作ること』が、私の中の最重要課題になった。

具体的に言えば、友達を作ること。とにかく、本当に仲が良くなくても仲良さ気に見えれば、それでいい。

そうすりゃいじめられないし、あの女も学校には関与しない。

私の平和が守られる。


―――でも、 どうやって?

全くと言っていいほど人と付き合わない私には、人との接し方が分からない。むしろ家では透明人間だったわけだし。

それに、いくら平気だったとはいえ、私をいじめた奴らと仲良くしよう、なんて気は微塵も起こらない。


……駄目だ、これではいけない。どうやって人と仲良くなればいいんだろう。どうすれば好かれるのか。あの人が言うには、私が地味で暗い性格だからいけないらしいが――


どうしたものか、と頭を抱えたそのとき、突然クラス内がわっと盛り上がった。

びっくりして顔を上げると、クラス一のお調子者が、大きな声で何か話していた。

―おそらく彼だろう、原因は。周りの人も楽しそうだ。


およそ私とは正反対の彼は、皆の中心でイキイキとしゃべり、周囲を笑わせていた。

その光景を離れた場所で見つめていると、ふっと名案が浮かんだ。


――そうだ。私も彼のような性格(・・)なら、と。



――



――それから、私のキャラ作りは始まった。


クラス一の人気者である彼を観察し、癖、話し方、笑顔などを十分に研究した。

―別に、すべてを真似する必要は無い。

あまりにも同じような性格だったら、それはそれで怪しまれるし、彼にとってもいい気分で無いだろう。


自分の出来る範囲で笑顔を練習し、声のトーンを上げる。

ハキハキしたしゃべり方にする。

話のネタを仕入れる。

少し服装を変えてみる。


―それだけで、だいぶ違う。

とにかく、私は『私』でない性格を作り上げた。

幸いにも、私は洞察力には長けていたし、あの女の血か、演技力もあったのだ。


それでもやはり、かなり努力した。

鏡の前でニヤニヤと笑顔の練習をしたり、テレビにへばりつく私はさぞ滑稽だったろう。

しかし、それを咎める者は誰もおらず、私の方も真剣だった。


――これで、私は変われる。


そう、狂信にも似た思いがあったから。



               ―*―



ある程度性格がまとまってきたところで、実験的に試してみることにした。ちょうど夏休みが終わり、2学期が始まる頃で、タイミングもばっちり。

私はドキドキしながら、教室の扉をくぐった。



――



私が中に入ると、ざわっとクラスがどよめいた気がした。

当然だ。1学期までの私とは、違うんだから。

そして、第一声。


「―おはようっ!」


とりあえず近くの女の子に話しかけてみた。


「っえ、ナツちゃん……?」


戸惑う女の子。


――え、誰この子。夏休み前まではあんな暗かったのに――

……と、いった所か?ふ、予想通り。


「うん!ナツだけど。どしたの?そんな顔してー。」

「…い、いや、なんか雰囲気変わったね?」

「あぁ、イメチェンしたからかな?ま、でもこれが『素』だからっ!改めてよろしく!」


そう宣言し、私はニッコリと笑った。



――大きな声で明るく快活に話す少女。

それが私が最初に作ったキャラだ。…いや、なりたかった自分というべきか。

とにかく、『コレ』は、今までの自分とはまったく違うので、彼、彼女らの反応がすごく怖かった。


――だが、所詮は小学生と言ったところ。

最初は戸惑っていたものの、人懐っこい私の性格が思ったよりもすんなりと浸透し、


『なんだ、ナツちゃんって、こんな子だったのか。』

『話してみると面白いじゃん。物知りだよね。』


そんな言葉を度々耳にした。

それは『私』が受け入れられ始めた証拠。完璧にキャラクターを作れているってことだ。


――よかった。

これで私の平和が守られる。あとは、普通に生活していればいいんだ。私は心の底から安堵した。



               ―*―



そして、私の作った性格は誰にも見破られはしなかった。

皆、自然にそれを私として受け入れてくれ、友達もたくさんできた。


―仮面をかぶり、性格を演じ、円滑な人間関係を築く。

年を重ねるごとに演じることができる性格も増え、私は相手によってそれを使い分けた。

そして、何の問題も起こらない、穏やかで平和なときが流れる。



――完璧だ。私は、もう、自由なんだ。



私はそう信じていた。何の疑いもなく。






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