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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
67/126

02




「―――ちっがう!!」


突如、バッと跳ね上がるように彼の腕から逃れる。国崎はうお、とか言葉を発して、思わず手を離した。

上手く脱出に成功した私は、ヤツから出来るだけ離れるように壁際に走り、ビタンッと背をくっつける。


「そんなわけ、無い、だろうがっ!阿呆!」


とりあえず、開口一番、否定だ。

息を切らしてわめき、そんなことを言ったって、全く説得力は無いが。

それを国崎も分かっているのか、今度は呆れたように肩をすくめる。ジトリとした視線を送ってきた。


「…何が、違うんだよ。…そんな顔して。」


…そんな顔って、どんな顔だよ。

言いながら彼は立ち上がり、ゆらりとまた近付いて来ようとするので、私は「ひっ」と悲鳴をあげそうになった。


「…いい加減言えよ。俺が好きなんだろ?」

「…るっさい!んなワケあるか阿呆!」


ちょ、来るなって!今度は目が怖いんだけど、君!


「…そろそろ怒るよ?俺も。」

「っ知るか!意味分かんないこと言ってんじゃない、馬鹿!」

「…………。」


――とにかく、色々と限界だ。もはや、私は反射で答えているようなモノだった。

計算も何も、あったものじゃない。まるっきりの素を国崎にさらしていることに、気付く余裕すら無かったのだ。……ただ、子供のようにギャーギャーとわめくことしか出来なかった。


「…那津、じゃ、質問変えようか?」


しばらく不毛な言い合いをしていると、国崎が新たな提案をしてきた。


「……っ、何。」


私も、ピタリと動きを止めて彼の方を見る。

コレから逃れられるなら、この際、何でもいい。………何だ。


――いや、何でもよくは無かった。むしろ、サイアクだ。

国崎の、ゆっくりとした口調で話された言葉によって、私はさらに自分を追い詰める。



「…何で、そんなに認めようとしないんだ?」



ドキ、と心臓がいっかい鳴った。


「…認める、って、」

「俺の気持ちも、……お前の気持ちも。」


音もなく国崎は私の目の前まで来る。彼のキレイな瞳が私をとらえた。


「マスターの店で聞いただろ?俺が那津をどんだけ好きか。…あんな情けない男が、俺だよ。」

「―――、」


私は覚えずスッと息をのむ。声を出せない。金縛りにあったみたいに、目も、逸らせないんだ。


ドキ、ドキと鳴る心臓は、マスターの店にいたときとまったく同じで。


――やめろ、それ以上、言うな。


「―那津が好きで、どうしようもない。どうにかなりそうなんだ。……だから、お前のためならなんだってしたいと思う。」


ヤツは強くそう言いトン、と私の横に腕がおかれた。いつになく熱っぽい視線を送ってくる。



「…何か苦しんでるんだろ?教えろよ。何が、今お前を苦しめてる――?」



あまりにも、優しく、真っ直ぐに発された国崎の言葉。

ただ、当の私は奈落の底に落とされた気分であった。


また、頭痛。

フラッシュバック。

嫌な記憶。

私のキャパオーバー。


やめろ、やめろ。もう、やめてよ――


――プツッと、私の中の何かが切れた。



「…黙れ。」

「え?」



ボソリと呟いた言葉は低く。国崎が眉をひそめる。

―闇が、私の心を染める。


「黙れっ黙れ黙れ黙れ黙れ!!もう、しゃべるなっ!」


力任せに腕を振り上げ、国崎を突き飛ばす。

逆らうことなく後方に倒れたヤツを見下すと、彼は驚いた顔をしていた。


「―な、」「しゃべるなって言ってるだろ!何も聞きたくないっ!!」


彼の言葉をも遮りハァッと息を吐きだす。もう感情やら何やらが溢れて止まらない。止まら、ない。

――セッカク、トジコメテイタノニ。



「……キライ。キライだって言ってるだろ!!私は君なんかどうでもいい!なのに、何でそんなこと言うんだ!君も私なんか放っておけばいいだろ!!」



――感情の、決壊。

そう呼ぶにふさわしいほどの乱れっぷりだった。

これだけ喚き散らすのは何年ぶりか。―いや、確か篠原さんにもこんな風に説教したっけか。


――全く忌々しい。いつだってあの女を思い出したときにキレてしまう。

乱れて、しまう。

やっぱり、私は過去に囚われたまま動いていないんだ。1歩も。


すうっと国崎を見据える。私はうっすらと笑みを浮かべた。


「…君が、もし万が一にも君が私のことを好きだと言うなら、……そんなもの捨ててしまえ。」


私が発した恐ろしく無感情なセリフに、男はビクッと肩を震わせた。



「私は君の好意なんて求めていない。…もうこれ以上、私の心に近付くな。」



消えろ。入ってくるな。

君は。そこまでして知ろうと言うのか、私を。


―バカらしい。

誰にも見せるものか。―こんな、醜い女の、醜態なんか。


「…………。」


――しばらく、私たちは膠着状態にあった。お互い、何も言わない。


―私は。もう、何も言いたくないし、何も聞きたくなかった。

強い視線で国崎を見下ろすばかり。


ただ、想うことは、

――出てけ。振りかえること無く、去れ。

それだけだった。


長い、沈黙。私もそろそろ疲れて来た。精神的にも、肉体的にも。

だが、ふっと私が瞳を逸らした瞬間、


「――!」


ぐんっと体が前に倒れる。…いや、腕を引かれて倒された、が正しいか。とにかく。私はまたもやヤツの腕の中に収まった。


驚きにカッと顔を赤くしながら男を見上げるが、私はその強い瞳に一瞬、言葉をなくす。

どことなく怒気が混ざっているような気がして、怖くなった。


「、くにさっ」

「……うるさい。」


視線が私を貫き、動けなくさせる。痺れるような感覚。



「黙るのは、お前の方だ。」



そう、不機嫌そうな低音が私に伝わったと思ったら、



「――っ、ん!!」



唇が重ねられた。





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