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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
65/126

04




「―――はぁああ!?」


瞬間、私は大量の息と共に感情を吐きだす。それは紛れもなく、驚愕。


「―あ?そんな驚くことか?」


彼は頭に?を浮かべているような声で疑問を投げかける。


驚くわーーー!

何故君を中に入れられないと思って!?顔なんか、見せられるはずないんだって!

私は扉のむこうに、慌てて否定の言葉を聞かせた。


「…無理、やだ。」

「何で。別に、顔くらい見せられるだろ。なんかドア越しって、俺、ヤダな。」


君の好みは知らねえって。


「とにかく、駄目。…もー、帰れよ…国崎。」

「それは俺が駄目。」


…いと、うざし。またも堂々巡りじゃないか。

しかも君、妥協という言葉を知らないのか?こっちがどれだけ穏便に、穏便に済まそうとしているか!


「…知ってるって。だからここでいいって言ってるだろ。」


…しかもまた、心を読むし。コイツは。


「…だったらとっとと話して。ワガママ言ってないでさ。」

「那津の、顔が見たい。那津の顔を見て話したい。…それの何処がワガママなんだ?」

「―――っ、」


…ほら、こういうセリフも、さらっと言っちゃうんだよ国崎は。


カッと顔を赤くした私は、それきり黙った。

これ以上こんなことやってたら、私にダメージが与えられるばかりだ。またも熱くなる自分の身体に、翻弄されてしまう。私は額に手をあて、壁にもたれかかり考えることにした。


―――どうすればいい。


…いや、落ち着け本城那津。ここの選択は、重要だ。

私はとりあえず深呼吸し、また脳の計算機を動かした。


――ヤツの要求は、私とカオを合わせて話をすることだ。

私はちらりと自分の家のドアを見る。頑丈そうな、短い鎖が視界に入った。


…チェーンロックをしとけば、カオは少ししか見えないし、私の方も国崎を見ずに済む。その間だけなんとか仮面を作りつつ会話すれば、上手くいくんじゃないか?

そして、そうすれば、このツラい状況を乗り越えられる。…むしろ、これほど楽勝な道は他にないだろう。


…………


しばらく、ヤツも私も何も言葉を発しなかった。


私が脳内会談を繰り広げている間彼が何を思っているのかはわからないが、とにかく夜にふさわしい静寂が、狭い部屋の内側と外側を支配した。


…そして、たっぷり無言で悩んだ後、私は覚悟を決める。


「…わかった。開けてあげる。」


若干上から発言なのは気にしない。私はドアに近づき、そっとドアノブに手をかけた。

―もちろん、チェーンロックがかかっているのをしっかり確認して、鍵を開け、静かにドアを開く。


ギイ……


ボロい扉が耳障りな音を上げながらゆっくりと外の風景を見せる。同時に、鼓動がどんどん速くなった。


――程なくして国崎の体が見えた。伏せ目がちにしているので腕と、胴体が半分ほど。

思ったより近い距離にいた彼に驚いたが、自身の心臓が活発に動き始めるより早く、


ガチャン、


と音を立てて鎖が進行を阻む。私はほっと、一息をついた。


―しかし、国崎を見るのも久しぶりだ。逃げ回っていたときは、極力見ないようにしてたから。

顔を見るとやっぱりすごく緊張するが、幸い、私からは彼は少ししか見えない。国崎のほうからも私は見にくいだろう。


…これなら、いけそうだ。少し余裕の出てきた私はふっと笑みを浮かべると、国崎のほうを見上げた。


「……で、話って――――」



刹那。


私が言い終えるのも待たず、国崎は、動く。



―――ガチャンッ!!!!ガ、ギギギッギギ、



「っ、え、」


唖然。あまりのことに反応ができない。

ドアとチェーンのわずかな隙間から肌色が見えたと思ったら、チェーンがミシミシと音をたてている。


今にも、壊れそう。――って、まさか……!?


「っちょ、国崎!!何して―――」


私の言葉は、



ギギギギギ……ガキイイインッ!!!!



という、あたりに響き渡る金属音にかき消された。


いともたやすくロックは壊れ、金具がはじけ飛び、ナットとネジが空気中に投げ出される。そして数センチほどしか開いていなかったドアが、全開に。月明かりが部屋に漏れた。


――ほんの数十秒の、早業だった。

真近で起こったその光景を見、目を見開いたまま私は固まった。口も無様に半開きになっている。


…いや、何コレ。チェーンロックが、壊れた、だと?

嘘。チェーン自力で壊すとか、嘘だろ!?可能?可能なのか!?人間が!!


混乱の中でふと、私は水谷の言葉を思い出した。



『まあ、聖悟には敵わないけどな。』

『聖悟相手だったら、骨折じゃあ済まないから。』



…それは、腕力が凄まじい、ということかーーーーっ!!!?


呆然としていると、目の前の人外が中に踏み込んで来る気配を感じる。


あ、と思ったときにはもう遅く、彼の手が体の左右に伸び、



「っ!!」



次の瞬間には、勢いよく抱きしめられていた。






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