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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
62/126

君の存在





――心を無にするには、どうすればいいだろう。

無機質で無味無臭だったあの生活に戻るには、どうすればいい?

本城那津は、何をどうすれば復活するんだ。


旅行?修行?気晴らしにどっか遠くへ行けばいいのかな……あ、駄目だ金ねぇや。

それかいっそ引きこもってやろうか。なに、大学だったら1、2ヵ月休んでも、どうってことないさ。

外界と接点を完全に絶ったら何かしら感情にも変化が現れるだろうし………


ま、やりようによってはいろいろあるよ、うん。そう悩むことでもないさ。

はははは………

はは…………

……


「………はぁ。」


本気で、困りましたね。それが、今の私の心情であります。



―――

――



彼ら(・・)を見たあと終始無言を貫いた乾に、しっかり家まで送ってもらったはいいものの。

帰宅したがっていた私自身は、どーにも重りが胸に乗っかったような、いやーな気分のまま。

体調不良とか言って、今日のバイトまで休んじまったし。……何やってんだか、全く。

目を閉じ、座イスに座ったまま、膝を抱えた。


瞼の裏に浮かぶのは、つい先ほどの光景だ。抱き合う国崎、と篠原さん。

まるで物語みたいな、美しい場面だった。登場人物もまた、美男美女ときているし、さながら王子様とお姫様のよう。


………うん。よかったな、ヨリが戻って。お似合いだよ、本当に。どうぞお幸せに。

…とか。いつもは何の感情なしに言える言葉も、心を鋭く打つ。

……何で、他人事にできないんだか。


「……は、……はははははっ」


何か無性におかしくなって、笑い出してみる。しかし、自嘲する声も力なく、ついにはかき消えてしまった。


ため息。自嘲。皮肉めいた笑み。

どれも効果ない。この胸のいたみは、どうにもイイワケできない。むしろ吐き気まで催すほど、悪化した。


――あぁ、痛いなぁ、胸。傷ついてるなぁ、私。

……馬鹿じゃないの、この、馬鹿。自分から離れたくせに、それを望んだくせに、


――何で、忘れられないの。


「っぅあ、あ、あぁ……」


やるせなさに、奇声を発してしまった……と思えば、本気で気持ち悪くなってきて、慌てて洗面所に駆け寄る。ゲホゲホッと、咳がでて、中の胃液を吐きだした。

……あれ、…胃液、だけ?

吐き出されたものが液体だけだったことを疑問に思うも、すぐに思い当たった。


あぁ、そっか。…また食べるの忘れたからか。

そういや、最後に食べ物食べたのいつだっけかな。思い出せない。


ハハッ、とまた笑けてくる。

グイッと口をぬぐって鏡を覗きこんだ自分のカオは、それはそれは醜かった。

――この調子じゃ私、死ぬんじゃないの。フツーに。


ま、それでもいっか。

……どうせ私は独りなんだから。―独りでしか、生きられないんだから。


私はいささかブルーな気分のままふう、と息をつく。

ああ、まだ胃が痛い。いっそのこと今日はもう寝てしまおうか、なんて考えていた。


――すると、突然。

…ホントに、突然だ。少しは空気を読めってなもんだが、誰に文句言えばいいのか分からない。

まぁ、とにかく、


PLLL………PLLL………


電話が、鳴った。無機質なコール音が部屋の中を反響する。


「………っ!!?」


もちろん、私がビックリ仰天(古)したのは言うまでもない。……危うくまたリバースするかと思ったし。ひどいムカつきを覚えながら、しぶしぶ腕を伸ばす。


――何だ、誰だよこんな時間に、このタイミングで。

いい加減にしろよ、この携帯。普段全く鳴らないくせに。

私は苛立ちを露わにしながら、乱暴に携帯を取り出し相手を確認した。が、


「……は、…ぇええ?」


今度は携帯電話のディスプレイにビックリする。

完全に2度見だ。――当然だろ。


『着信 篠原未央』


なんて、ありえない名前が書いてあるもんだから。



――



数分後。未だ、携帯電話は鳴り続けていた。


これは何かの罠に違いないと確信したワタクシは、ソイツをそのまま放置したが……

…国崎とは違うわけだし多分諦めてくれるはず、と、甘く考えていた私がバカだったのか、切れる様子は、ない。ずっと掛け直しているみたいだ。


…なかなかしぶとい、てか、ホンット、しつこい。

覚えずチッと舌打ちを打った。


……なんつーか、変人だよなこの人も。普通は日を改めるとかどーにかすんだろ。いい加減諦めろよ、アホが。

…ったく、変わり者多くない?私の周り。あ、今更?


PLLLL……PLLLL……


何十回目かのコール音が懲りずに鳴る。私はウザッたそうに携帯を眺め、ため息をついた。

――これ、取らないと夜中まで続くかも。という、悪夢のようなことを想像したからだ。

多分……いや、確実この人ならやる。嫌がらせ的な意味で。


…………


「っち、……分かったよ」


しばらく迷い、とうとう、私は降参した。

安眠妨害はぜひとも避けたいところだから、仕方ない。震える携帯電話を手に取り、深呼吸してから電話に出た。


「……もしも…『ちょっと!何でさっさと取らないのよ、この愚図!!』


……やっぱ取らなきゃよかった、と一瞬で後悔した。


そもそも、こんな時間に電話してくるのが悪い。出てやったのに何で罵倒されないといけないのだ。てか、空気読めアホ女。

――という、愚痴が出かかったものの、何とか口の中に押し戻し。


「……何の用ですか。」


落ち着いて、用件を聞いた。

……いや、言われなくても内容なら、少しは予想がついている。

多分『国崎とヨリを戻せたのよ~』とか言う自慢、或いは嫌みだろう。もしや感想を聞きたがっているのかもしれない。

…どっちにしろ、嫌な女だ。


―しかし、


『…………。』


返ってきたのは、何と無言。…こっちも困惑してしまう。


「え、あの、…どーしたんですか?」

『………。』


やはり、無言。

え、何これ怖い。さっきの勢いが嘘かのように、静かになったし。


「あの、」

『…本城那津………』

「え?」


ああ、ようやく反応が返ってきた、と思えば。

すうっという大げさなブレスが電話口から聞こえ、



『アンタ……何様のつもりよーーーーーっ!!!!』



キーーーーンと、耳鳴りがするほど叫ばれた。

…こっちが聞きてぇよ。君が、何様だ。


「…何、どういう意味です?」


まだ耳鳴りがする右耳を、安全のため少し受話器から離して問う私。

…マジ、何だよ。少なくとも夜10時台にしていい会話では、ない。


『うるさいっ!ホント、何なのよアンタ!』

「…それ、こっちのセリフ。何があったわけ?」


ああ、もう敬語めんどい。素でいいわこんな女。


『っ、何で、聖悟は……っ』

「―!」


しかしいきなり例のヤツの名前が出て、ドクン、と思いがけず心臓が鳴る。…って、鳴るんじゃねぇ。この阿呆。


『ちょっと、聞いてるのっ!』


瞬時に浮かんだ妄想を頭から叩きだしていると、どなり声がまた響いた。

…おっと、意識トンでた。危ない危ない。私は気を引き締め直し、携帯を握りしめる。


「ああ、聞いてるさ。…国崎が、どうしたって?」


本題だ。

…正直避けたい話題だが、こいつに触れりゃ、通話がすぐ終わるだろう。

とっとと話せよ。自慢でも、嫌みでもいいからさ。

私は嘲るように口だけで笑った。が。


『……そういえば、アンタ今どこにいるのよ。』

「は?」


まさに予想外、でごわす。流石の私もその返答パターンは選択肢の中に入れてなかった。


……この女、何者さ。本気で。意味深なことを振っておいて、いきなり話を変えてくる。

それが篠原クオリティ、なのか…?…嘘だろ。


「ねぇ。…文脈って、ご存知ですか?」


まさか真性のアホかと思い、恐る恐る尋ねてみると。


『うるっさいわね!分かってるわよそんなこと!いいから早く答えて!』

「はぁ?」

『緊急事態なのっ!!』


まくしたてるような大声が私の耳を揺らしてきた。

なんだかマジで焦ってる………?





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