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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
61/126

03




「…っ、……マジで?」


俺はもう、余裕なんて全くなくて。結構ヤバい心理状況だったりするのに、


「ええ。あれは完全に意識されてますよ。逃げ回ってたのもそのせいです。」


圭がケロリと言いきるから、

途端、むくむくと何だかよく分からない感情が、湧き起こってきた。


……うわ、やばい。嬉しいかもしれない。

…そうだったら、いい。


都合のいい想像かもしれないかもしれないけど、圭から言われると本当にそうであるような気がして。

――純粋に、嬉しかった。

俺は恐らく赤くなってるだろう顔を両手で押さえた。


「…ふーん、やっぱり本気みたいですね。そんな顔初めて見ました。」

「……最初っから、そう言ってんだろ。もう俺、マジ無理だから。」

「それはそれは。」


うるせぇ。…面白そうに笑いやがって。こんな感情、知らなかったんだよ。俺は。

―こんなに、一人の女のことを考えるだけで、こんなに胸がいっぱいになることなんて。


我ながら臭いな、とふて腐れたように顔を逸らすと隣から苦笑が返ってきた。


「…まぁ、頑張ってください。ナツさんはかなり特殊タイプですけど。」

「…はぁ、そうなんだよな。何が弱点だと思う?」

「虫タイプで攻めてみたらどうですか?」

「いや、ポケ●ンじゃねぇから。」


……たしかにエスパーには虫が有効だけどな。


「ふ、冗談ですよ。」


眼鏡をかけた男はクスリと笑った。しかし、ふと目線をはずし口だけで言葉を発した。

――タイプの問題だけなら良かったんですけど、ね。


「ん?なんか、言ったか?」

「いいえ。別に。…ただ、……彼女、どうにも……」


俺は、ピクリと眉を動かした。次に見たのは言いにくそうに言葉を濁す男の姿で。

先ほどとは打って変わって真剣な雰囲気だ。


「…なにか、あったのか?」

「那津さんの様子が…おかしかったんです。俺から見て、あれはとても普通とは思えませんでした。」

「…どんな風に?」

「……そう、ですね。」


―どうも、言いにくそうだ。こいつがこんなにハッキリしない態度をとるのは珍しい。

…どんな状況だったというのか。


「…よく分かりませんが、何の感情も『無かった』んです。貴方と件の篠原さんとやらを見………」


そこで、ぴたりと、圭の口、その他の動作が止まった。

……は?なんだ?


「なん――「ああ、すいません。俺としたことが、忘れてました。」


さっとソファから腰を上げ、圭は俺の前に立った、と思えば、

腕を振り上げて――


ゴンッ!!


「いってええ!!」


思いっきり、拳を頭にたたきつけて来た。


「っ何すんだ!」


バッと顔を上げると、俺をジロリと見下す…………あれ、なにこいつ。魔王?

怒ってるくせに笑顔ってのが、圭らしくはあるが、恐怖は倍増だ。

…黒い。圧倒的に、黒い。


「それはこっちのセリフです。何してんですか、貴方は。」

「はぁ!?」


何してる、だ!?意味が分から……



「…とぼけるようなら教えますけど、俺とナツさんは見たんですよ?

―聖悟と女性が抱き合っているところを。」



!!!!


俺は一瞬にして口をつぐんだ。何をまさか、と思ったが、心当たりは、…あった。

鮮明にその情景を思い出すとともに、青ざめる俺。


「っ、おま、よりによってあんな……」


いや、時間にしてアレは数分だったはずだ。なのに、なんてタイミングの悪い…っ!


「…俺らを責めないで下さいよ、偶然なんですから。それより悪いのはそちらでしょう。」

「…いや、あれはあいつが勝手に……っ」

「でも、事実は事実ですよ。見たことは取り消せませんし。」


さらりと言いながら見下したような視線を向ける圭。

ずいぶん他人事だな、オイ!いや、実際そうだけど!


うんうんと唸っている俺に圭はふう、と息をつくと、顔を合わせてきた。


「…まあ、何かの間違いだってのはすぐ分かりましたけど。」

「っじゃあ、那津にそう言ってくれりゃよかったじゃねぇか!!」


「何を言えって言うんですか。『聖悟を信じて。彼はそんなことする人じゃないです』?

俺は、そこまで聖悟のこと知ってるわけでもなければ、信用もしてないんですけど。」


ぐさぐさ。


…い、痛い。圭の言葉の棘と冷ややかな視線がつき刺さる。

あれ、俺、こいつの友達だったよな?何この圧迫感。


そうして少し気分がオチかけていると、

圭はコホンと咳払いをし、とにかく、と言葉を始めた。


「…弁解する相手は俺じゃないでしょう。」

「…ん、ああ、うん。そうだな。また言うことが増えた。」


―むしろ言いたいこと、聞きたいことがあり過ぎて、果たしてまとめ切れるのか、疑問だ。

…でも、とにかく。会って話さないと始まらない。静かに腰を上げた俺に、圭は微笑みを返した。


「ま、頑張ってください。あちらも案外気にしていないかもしれないですし、ね。」


……や、それはそれで、傷つくが。


「…ありがとな、圭。」


彼の最後のセリフに苦笑を洩らしながら俺は部屋を後にした。



――



エレベータに乗って階を上がり、俺は自宅の扉を開ける。見なれた部屋の中心を陣取ると、深く息をついた。


「はぁ――」


なんかもう、結局標的は見つからなかったり、それどころか余計な誤解を生んでたりと散々だ。


―しかし、未央や圭によって収穫はあった。

目撃情報もあったし、不透明だった彼女の思いも少し見えて来た。


…やはり、会って話す必要がある、とも。


「…まぁ、悩んでても仕方ないか。」


基本は行動派な俺。考えるのは後回しにしてやる。

決意も新たに、とりあえず目を覚まそうと洗面所に行った。


蛇口を回し、勢いよく顔を水に浸す。バシャッと音をたて、水が跳ねた。髪にまで滴る冷たい雫が心地よい。いい具合に俺の頭を冷やしてくれた。


…アイツのバイト、いつまでだろう。何時くらいだろうか、帰ってくるのは。

まあ、那津の家に押し掛けてやるのは決定している。(え)


もう、いい。

どんな話が来ようが、ここまで来たら今日、一気に全部問い質してやる。



「絶対、逃がさねぇ………」



顔を上げると、ギラギラとした瞳の男が鏡に映った。





END


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