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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
60/126

02





―上辺だけで見るな。俺はお前らが思ってるような男じゃない。

俺の作った性格すら見抜けなくて、何を知った気でいるんだ?


昔から女に不自由したことがない俺は、そんなスレた気持ちを抱いていたから。


そして、


―だったら、俺も騙してやろう。俺の心は誰にも見えなくていい。

誰も俺を見ないなら、俺も適当に遊んでやるよ。


…そう、思ってた。

だけど、那津は。


「……ふっ、」

「?せ、聖悟?」

「……っ、はははっ!」


――本城那津は、違ったんだ。俺を、『国崎聖悟』を見る。

俺も、アイツの前だといつの間にか素に戻る。ってか、素に戻らざるを得ないというか。

平気で、地じゃないと気持ち悪いとか作った性格は合わないとか言う女だし。


……まあ、そうだな。

どうしたって、どう言い訳をつけたって俺はあいつの傍が一番居心地いい。

それは、間違いのない事実だった。


「………未央。」

「…え?」


苦笑しながら、未央の体を離す。未央は俺の変化に目を白黒させ、見つめて来た。


――さっきの怒りはどこへやら。今の那津の話ですっかり消え去ってしまった。

……というか、こいつを相手にするよりも、


はやく那津に会いたい、と思った。


「…あのさ。」


未だ呆けている未央の顔を見下し、口を開く。


「…俺、今まで恋愛舐めてた。別に、女なんて顔が良けりゃ誰でもいいと思ってたんだ。……お前みたいに、な。」

「~~!」


俺の言葉に、真っ赤になりあからさまに目線を逸らす未央。…俺が、お前の思惑に気付いてないとでも思ってたのか。なわけ、ねぇだろ。バーカ。


ちらりと、視線を道路に戻し先を覗く。

何台かの車が行き来しているのが見えた。喧騒の中、口を再度開く。


「…でもな、今は違う。俺は、」


今の、聞いて分かった。分かったんだよ。

俺はな。



「…那津じゃなきゃ、ダメみたいだ。」



誰よりも、何に変えても、…那津が好きなんだって。


思考と同時に那津の顔が浮かび、俺はフッと笑った。

途端にボッと赤く染まる未央の顔を一瞥し、俺は背を向ける。


「…やっぱ、いいや。那津が許したんなら、お前がしたことをもう咎めたりしない。…そんな暇もないしな。」

「なっ!!」


突然、突き放されたように言われた未央は、顔を赤くしたまま反論しようとしたが、


「―だが、二度目があると思うなよ。」


直後聞こえて来た、低く容赦のない声に顔面が蒼白になり、二の句を告げなくなった。



「これ以後、那津に何かしたら、……消すからな。」

「!!!」



それはそれは、人間とは思えぬほど、冷たい黒い声で。

彼女は初めて、以前付き合っていた男を『コワイ』と思った。


「…じゃあ、そういうことで。」


そう言って、俺は色を失くしたまま立ち尽くす未央を置いて、その場を後にした。一度も振り向かずに。


…まあ、これだけビビらせておけば変なことはできないと思うし。

それに、最早、彼女に用はない。頭は那津を探し出すことしか考えていなかった。



―――

――



未央と別れて数分後、俺は、今度は那津の自宅に向かおうとしていた。

見失ってからだいぶ時間が経っているし、那津もそろそろ下宿に戻っているだろうと踏んだからだ。


……うわ、なんか本格的にストーカーだな、俺……

いや今回だけだ、と自分に言い訳をしながら歩を進めていると、


「……ん?」


前方、見覚えのある車に目がとまる。

それはゆっくりと俺の傍に停車し、ウィンドウを下げた。


「……聖悟………」


グレーの自動車に乗り、俺を呼んだ男。それは、予想した通り――


「圭太朗………」


――だった。



――



快調に道路を走る自動車。しかし、中の人間の空気は、その調子とは程遠かった。


「……なんだよ、圭。」

「…………。」


…圭は、『話がある』と言って俺を乗せ、そのまま車を発進させた。しかし、その後は一切口を開かない。

目的地も言わず、ただ黙々と運転に集中している様子だ。


―もともとこいつは口数が多い方じゃないが……これは何か、異常だと思った。


「おい、圭。」

「………。」

「…用がないなら、降ろせ。俺はすることがある。」

「……。」


何も言わない圭に、多少イラつく。

―まったく、こんなことしてる場合じゃないってのに。


「おい、圭――」


焦る気持ちのまま声を荒げた時。男は初めて俺の方を向いた。冷徹な、それでいて怒ってるような眼差しに少し怯む。圭は、静かに口を開いた。


「…ナツさんを、探してるんでしょう。」


俺は目を、見開く。


「!!なっ、」


―んで知ってるんだ、と続く疑問はさらりと答えられた。


「ついさっき、ナツさんに会いましたから。」

「――!!」


驚いたのと運転手の肩を思い切り引っ掴んだのは、同時だった。過ぎるほどに興奮してしまう。


「っいつ!何処で会った!?」

「落ち着きなさい。」

「いいから教えろ!那津は何処行った!?今家なのか?」

「…だから、五月蠅いですって。」


切羽詰まった俺の声に、圭は迷惑そうに目を細める。

でも、それどころではない。俺はとにかく追っている女の情報を欲しがった。


「てかなんでお前、那津と会……「黙らないと交通事故起こしますよ。」

「…………。」


――結果、いつもの彼とは想像もつかないほどドスの利いた声で黙らされた。



―――

――



「…どうぞ。」



カチャ、と高そうなティーカップが目の前に置かれる。香ってくるのは圭の好きな銘柄の紅茶のにおい。

彼自身も俺の隣に座り、カップを傾けた。


「――で、こんなところまで連れてきて、何だよ。」


―現在、俺は乾圭太朗宅にいる。

車が到着したのは、俺らのマンションの地下駐車場だった。そして無言で彼の部屋まで連れてこられたのだ。


俺は軽く息をつき、隣の男に目を向けた。否、睨んだ。

しかし圭は全く動じず、ゆっくりとした動作でカップを置いた。


「……まったく、せっかちですね。少しは落ち着いてもらおうと思って、連れて来たんですが。」

「生憎、そんな気分じゃなくてね。とっとと話せよ。」

「…はぁ。分かりました。」


これ見よがしにため息をつきながら、圭は順を追って説明し出した。



――



「―ってことは、那津は今、家にいるんだな!?」

「はずれです。話聞いてました?彼女、今夜はバイトですって。」


だから今行っても無駄ですよ、と圭は言った。


「…ちっ、深夜バイトかよ。ところで那津って、バイトなにしてんだ?」

「さぁ?答えてくれませんでしたけど。」


……本当に、何してんだ?答えられないようなバイトなのか?


「いえ。単に、俺らにバイト先にまで顔をだされたくないんでしょう。」

「…鋭いな。」


まあ、俺もそんな気がする。てか、考えてることがよく分かったな。


「今日の聖悟、分かりやすいですよ。ナツさんと同じくらい。」


その言葉に、少しカチンときて眉をつり上げる。


「…んだと?那津と同レベルかよ……」

「2人とも、ある話題になるととっても分かりやすいですよ。」


ニッコリと笑って言う圭。

それを聞いて、ドクンと、一瞬鼓動が大きく鳴った。


「……なあ、圭。」


少し不安な気分のまま、聞いてみる。眼鏡の奥の、男にしては大きめな瞳が俺を覗いた。


「…俺、脈あると思うか?」


……まったく、こんなこと聞くなんて女々しい男に成り下がったものだ、俺も。

しかし、圭は基本正論しか口にしないのでアテにはなる。ドキドキしながら返事を待った。


すると彼は、嫌みなほど綺麗な笑みを浮かべて。



「…ホント馬鹿ですね、聖悟も。」



ハッと、鼻で笑われた。


って、……………は?


「な……「聖悟らしくもない。何をグズグズしてるんですか。」


笑みを崩さないまま、わざとらしく俺のセリフを遮って、




「言わなくても分かりきってることでしょう。ナツさんは、聖悟のことが好きです。」




眼鏡の男は何気なく言った。


…ホント、何気なく。途中で優雅にまた紅茶とか飲んで。






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