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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
6/126

02



男は案外話してみると普通の人だった。

話題が豊富で話しやすく、ポンポン会話が成立していく……

ハッ!…って、ダメじゃん!


バッと周囲に注意を払ってみると、もの凄くこちらを睨んでいる女子の方々がいた。


うう、視線がさらに痛くなってきた…!しかもさっきより数、増えてるうぅー!!

目で人が殺せるってホントかもしれない。なんかまたうすら寒くなってきたし…!


訪れる戦慄。身の危険をぞうぞくと感じる。

…うん、もうさっさと行こう。早いとこ脱出しよう。スイマセンもう消えますからね、私は。


「っあー、とにかく。もう用無いんなら私帰るから。あの3人にもよろしく言っといて。じゃあね。」


言いながら私は鞄を持ち、そそくさと席をった。


「まあ、待てよ。」


――否、立とうとしたが阻まれた。目の前の男らしく角ばった手に。

要はヤツが私の腕を掴んだのだ。

唐突なことに、そして意外と強い拘束力に私はびっくりした。


「ぅえっ!?離せぇ!」


っ、あー!なんか変な声出ちゃったじゃん、アホー!!

何だよ、まだなんかあるの!?


恥ずかしさから若干顔が赤くなっている私。

キッと手を掴んでいる男を睨むと、彼は頬杖をつきながら余裕そうな笑みを見せた。



「ふっ、何その顔。急いでないならまだ話そうぜ。」


…は?

私はポカン…とした顔を作る。


なにのんびり言ってんのコイツ。

だーかーら。そんなことしたら、心臓ショック起こすっつーの。

こんな中で君とトークを楽しめる程、図太くは無いんだよ、私は。


私は舌打ちしたくなるのをぐっとこらえ、冷めた目線を送った。


「あー急いでるから無理。じゃあ、サヨナラ。」


そう言って足を踏み出そうとするが、腕を掴む手に力を込めているのか、全然動けない。


「…離してくれない?」

「断る。」


うわ、ムカつく。


「あのさ、本気で言ってるんだって。私。」

「俺も本気だけど。ホラ、座れって。」


言葉の割に真剣な顔でこちらを見る彼。

私は困り顔を作り、うんざりと肩を落とした。


オイオイ……完全に拒否してんだから行かせてくれよ。

それにそんなに話したいんなら、その辺にいる女子を誘ってやれ。

これ以上私を巻き込むない!





その後も不毛な言い争いを続け、ついにヤツが折れた。


「……分かった。解放してやるよ。」


それを聞き私はふう、とため息をついた。

やっと分かってくれたか。

若干上から目線なのがムカツクが、気にしないでおこう。


「あ、そう。じゃ…「じゃあ、俺の名前呼んでよ。」


…?


「は?」

「だから、俺の名前。」


………何て?

いや、聞こえたよ。聞こえたけどさ……名前?君の?何で?

突然突き付けられた条件に、『?』を浮かべる私。


「……何で?」


あ、ヤベ、そのまま口にだしちった。


「……呼んでほしいから。」


彼は少し拗ねたような口調でぼそっと呟く。


呼んでほしいから、ねぇ。

……うーん。イケメンの思考は理解できないな。

そしてどうしてそんなに私をじっと見るのか。ちらちらと流し目でこっち覗いてくるの、止めようか。後ろで女の子がまたひとりご臨終なさったよ?


私は腕を組み肩を軽く回す。

まぁ、名前を呼ぶくらいお安い御用だし……とっとと呼んで…


……………


・・・・・・アレ。


コイツの名前、何 だ っ け?


…………………。


……ダメだ、ぜんっぜん、思い出せない。

思えばさっきまでも、『コイツ』とか『ヤツ』とかしか、呼んでないじゃん………


…………………。


だんだんと青くなっていく顔色。滴りおちる冷や汗。 


……っ、

ゴメンなさーーーいっ!聞いてませんでしたーーー!!

そういえば小学生の時、通知表に『もっと先生の言うことを聞きましょう。』って書かれてたっけ…

あれから10年近く経つのに、未だに直ってません!!先生ーーーー!!


先程の慌てぶりを上回るくらい、内心うろたえる。

……や、やばいよな、コレ。

お、怒られるよな、絶対。

私の名前はバッチリ覚えてもらってるのに、私の方はさっぱり…なんて。


あーーっもう!こんなことなら自己紹介、キチンと聞いときゃよかったよ……


動揺を知られないように必死で顔を作っているものの、そろそろ返事をしなくては時間的に怪しい。

さっきからずっとアイツ(名前不詳)に顔を見られてるし……。逃げ場もない。


っええい、ここは恥をしのぐしかないわっ!覚悟決めろ!本城那津!


私は息を吸い込んだ。



「…あの、私…君の名前を知らないんだけど……。」



うーわーっ恥ずかしっ!大人として恥ずかしいわいっ、これ!せめて覚えてないって言えばよかった!?

いや、一緒か!?レベル的に!

心の中でもだえ苦しみながら、私は顔を真っ赤にして俯く。

目の前のイケメンも目を丸くしている。


―イタすぎる静寂が、辺りを包んだ。


………ゴメン。ホントにゴメン。


申し訳なくて顔を上げることができなかったが、相手の反応が気になりしばらくして目線をあげた……


その時。


ヤツは呆れた様子で、くしゃりと顔を崩して…笑っていた。


―――っ!


あまりの完璧スマイルに胸がドキッと鳴る。

…うっっわ!やばい!何コレ!?王子スマイルか!?核ミサイル並みじゃないか!この破壊力ー!

後ろでまた女子が数人倒れたよ、絶対!バタッて音がしたし!

そしてソレを私に向けるんじゃなーい!!笑顔が腐るよ!?

自分で言っといて悲しくなるけど、私にその技を使う価値は無いんだよ!?

…やっぱ、私と貴方様とじゃ、生きてる世界が違うんだって!!


私が合コンに参加したこと、ひいては生まれてきたことにまで後悔していた時、男は諭すように話しだした。


「…じゃあ覚えて。俺は国崎 聖悟(クニサキ セイゴ)。

那津と同じ2年で20歳。」


そう言ってにこっと笑う彼に私は安堵した。…どうやら怒ってはいないらしい。


…あぁ、さいですか。

よかったぁ、心の広い人だ国崎様は。私が君だったら、軽くぶっとばしてた所なのに。

とりあえず、私は彼の名前を呼んでこの場から立ち去ることにした。


「分かった、国崎君。私もう帰るね。」

「うん。じゃあまた明日、12時にここで。」


にこっと笑顔を作って言い、また彼も笑顔で返す。


………ん?待て。

なーんか変なの聞こえたなあ?幻聴かな?

マタアシタ?ジュウニジニココデ?

…もしや、また明日も会おうとか言っちゃてる?この人。


いや、無理だろ!!



「…あの、丁重に断らせて…

「拒否権なし。俺、自分の名前を忘れられたどころか、覚えられもしなかったこと軽くキズついてんだけど?」


……う。それを言われると…


「じゃ、じゃあなんか奢りま…

「今腹いっぱいだから、オゴッてくれるんなら明日にしてくれる?」


うう。最後まで言わせてすらもらえず、全部返される。

やっぱコイツ…じゃない、国崎君は私より何枚も上手らしい。

しかもわざとボリューム大きくして言ってません?ギャラリーが増えてきてるじゃないスか。

逃げ道、ゼロ。回避、無理。


…っだーーもうっ!降参だよ!こんちくしょう!



「分かったよ…また明日、ね…。」


私はがっくりと肩をおとして、力なく返事する。


…なんだこの敗北感。国崎君の勝ち誇ったような笑みがさらにムカツク。


「そ、じゃあね。」


国崎君はようやく私の手を離すと、笑顔を貼り付けながらヒラヒラと手を振った。手を解放されると私はすぐに踵をかえし、かなりの早歩きで歩き出した。



――ああぁ……目立つのキライなのに!

あの国崎のボケのせいで私まで注目が集まったじゃないか!!

なにあの視線!コワイ!空気のように生きるのが人生の目標だったってのに!

しかも、明日も会うとか本気でヤダ。

まんまと私をはめやがって…!あいつ、絶対私をからかって楽しんでるし!

あ~もう、死ね!イケメンは滅べ!


心の中で、悪態をついてついてつきまくる。

しかし『また明日』という約束が私の首を絞め全く気分は晴れない。


何でこうなったんだ!

何かバチあたるようなこと、したか?私っ。

こんなに全力で、明日なんか来なければいいと思ったのは初めてだっ!



そんな風に、散々悪態をつきながら振り返ることなくひたすらにずんずんと歩いていった。


…なので国崎が私をじっと見ていたのにも、もちろん気付かなかった。





どこをどうやって帰ってきたのか覚えてないが、気付いたら私の家の前だった。乱暴に鍵をあけて中に入り、積み上げてある布団に倒れ込む。


「ぅぐああぁーーぁあ………」


…女子にあるまじき妙な唸り声は今日だけは目をつぶってくれ。マジで混乱してるから、私。


「くう……」


目を閉じながらぐっと拳を握りしめ、ただ想った。


願わくは。

目覚めたら今日の――ついでに昨日の――出来事がすべて夢でありますように。


…………。


本気で頼みます、困ったときの神様あぁぁ!

私にはロマンスより、平穏をくれ!





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