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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
57/126

焦る不器用と笑う腹黒




――静かに、車は走り出す。見慣れた景色の1部と、溶け込んでいく。

私は窓に寄りかかって頬杖をつきながら、徐に運転手に話しかけた。


「――なんで、君がここにいるわけ?……乾。」


ちらっと視線をそちらに向けると、乾 圭太朗は優雅に微笑んでみせる。


「単なる偶然ですよ?」

「…嘘つけ。家、逆方向だろうが。」

「はは、いやだなあ。ホントですって。買い物がてら、ドライブしてたんですよ。そしたらナツさんを見かけたので。」


……絶対、嘘だ。ナニその胡散臭い笑み。怪しすぎる。


…やっぱ、車が停まった時点でダッシュで逃げればよかったかも…。いや、乾のヤツ、送るっつって無言のプレッシャー与えてきたからな…あの状況じゃ無理だ。相手、車だし。


「―!」


そこで、私はハッと気付いた。相手が引くくらいのスピードで振り向く。


「っ、まさか国崎が君を?」


ヤツの差し金か…っ?

ヤベェ、だとしたら逃げ場、ねぇえええ!!もう乗っちゃったしぃいい!何このハニートラップ!手ぇ込みすぎだろ!


私が顔面蒼白のまま固まっていると、


「…聖悟が、どうかしたんですか?」


乾のほうはきょとん、とした顔で首を傾げた。


「………え?」


お先真っ暗な予想をしていた私は思わず問いかけてしまう。しかし乾の方も『え?』みたいな顔をして私を覗く。気まずい空気が車内に広がった。


――何、もしかしてホントに知らない?国崎と私のこと。…国崎の性格上、絶対協力者使うと思ってたんだけど。

まあ、最近ドタバタしてたから、まだ言ってないのかな?


「――ナツさん?どうしたんですか?聖悟が、何なんですか?」


気がついたら、私の前でヒラヒラと手を振る彼の姿が見えた。


「……あ、いや、何でも無い。勘違いだったみたい。」


――まあ、知らないなら知らないでいい。問題ない。この顔は多分嘘じゃないだろう。

こいつが来たのは本当に偶然で、純粋に好意で家に送ってくれるというなら、それはそれで楽だし。私はホッと一安心して、視線を前に戻す。

前の車が停止し、ちょうど赤信号になる所だった。

信号待ちの間、私がボーっと暮れゆく街並みを眺めていると、ふいに乾から声をかけられる。


「………ナツさん、聞いてもいいですか。」

「―ん?何。」


私も何気なく聞き返す。乾はハンドルを切りながら、普通の調子で私に尋ねた。




「聖悟から、告白されましたか?」




…心臓、口から出ると思った。



「………えっ、だ………はぁっ!!?」


一瞬……いや、多分三瞬くらい意識なかったと思う。失っていたソレが戻ってきたと同時に、私は勢いよく飛び起き、


――ゴンッ!!


「…………あだっ!!」


…強かに、頭を天井にぶつけた。勢いをつけた分だけ痛みが大きい。頭がグワーンと鳴り、視界が歪んだ。…やべぇ、超痛ぇ。頭割れる。


「……えっと、大丈夫ですか?」


乾は頭頂部を強打し、悶絶する私に話しかける。…驚きと呆れが6:4ってとこか。反応としては間違ってないが、なんかムカつく。


「っ問題ない!!」


焦る私は、半ば反射で答える。もはやヤケだ。ヤケクソだ。


「え、スゴい音、しましたけど?」


対する乾は苦笑しながらも冷静にツッコミを入れてくる。


「脳細胞が少し死滅したくらいだ!損傷は無い!」

「…いや、それ結構な重症ですよ?」

「うるさいっ!どうせもう脳みそなんか使わないんだからいいの!」

「………大学生を侮辱してるんですか?」


……ああっもう!君、いちいち細かく返さなくていいからっ!動揺しすぎて自分でも何言ってるか分かんねぇから!!

――ていうか、乾。何故君はそれを知ってるんだ?


乾はクスクスと笑いながら前を向き、再び車を発進させた。


「…まぁ、大丈夫ならいいんですけど。分かりやすい反応ありがとうございます。ふふ、そうですか、やっぱり……」


やっぱりって、何だ。何ニヤニヤしてんのボケが。


「……何、何が言いたいの。」

「いえ、聖悟も頑張ったなぁと思いまして。」


そして、彼はニコリと綺麗に笑顔を作る。


「………。」


私は眉根を寄せ、彼の方を向いた。乾の言葉が不可解だった。

…何だろう。こいつの、まるで母親が見守るような温かい眼差し。


まるで―――

―アイツが私のことをずっと好きだった、みたいな。んで、やっと告白できてよかったな、みたいな。


「ええ、そうですけど?」

「―――!?」


さらりと、いきなり返ってきた返事に思わず絶句。…え、私口に出してなかったのにっ!?


「ナツさん、顔に書いてありますよ、顔に。」

「……あ、そうですか。」

「はい。」


乾は軽い口調でそう言い放ち、私を黙らせる。


くっ、表情から思考を読まれるなんて、未熟!つか、乾が鋭すぎるんじゃない?

もう少し心を落ち着けなければ………やっぱり、ちょいと修行が必要かなー。


「……って、違うでしょう。問題から目を逸らさない。」


うわ、またバレタ。別に少しくらい現実逃避の時間くれたっていいじゃんか。


ぴしゃりと思考を遮断され、私は唇を尖らせた。自然と猫背になり、シートの下に視線をもっていく。しばしの無言の末、私はボソボソと呟いた。


「………だって、そんなわけ、ないじゃないか。」


口から滑り出た言葉は、自分でも驚くほど本音だった。


「…何が、そんなわけないんですか?」

「だから……国崎が、私のこと……」


もごもごと言い淀み、俯いてしまう私。

うが、言えねぇ。恥ずかしい。しかも身の程知らず過ぎる、こんなセリフ。



「――聖悟がナツさんを好きって、ことですか?」



…サラっと言ってくれたけどね。この男は。


乾は、はあ、と大げさ気にため息をつく。理解しがたい、とばかりに。


「…何でそんなに否定するんです?誰が見たって明らかじゃないですか。彼は、貴女のことが好きです。」


続けて『ていうか、気付いてなかったのナツさん本人くらいですよ。』とボヤかれる。


「っ、だーかーらっ!違うんだって!ヤツは私のこと面白がってるの!」


―それに対し、露骨な表現を吐かれた私は、とにかく叫ぶ。誰が見ても、聞いても『照れ隠し』に間違いなかろうに。


「真剣に、告白されたのに?」


じと、と今度は目力で睨んでくるのでうぐ、と一瞬言葉に詰まる。が、

――それは、違うって、乾。


ふ、と自嘲なのか呆れなのか分からない、曖昧なため息をもらすと、私は乾 圭太朗に向かって、ハッキリと言ってやった。


「……全部、何かの間違いなんだって。私のことなんか、好きなはずがない。国崎、気でも狂ったんじゃない?」

「………」

「とにかく、私は認めない。そんで、国崎の遊びにもいちいち付き合ってられない。」


自分のセリフにどんどん心と体が冷めていく。確認するかのような、自分に言い聞かせているような、そんな言葉に。


―あーあ、うざいうざい。もう放っとけって、私のことは。どうせ全部勘違いのマヤカシばっかなんだから。

じわじわと私を侵食する黒い感情のまま、私は乾を睨みつけ、叫んだ。


「…アイツなんか、もう知らないし。乾からもなにか言ってやってよ。私なんか――っ」


だが、そこで、私の言葉は途切れる。なぜなら、隣から発生する異様な雰囲気に気圧されたから。


――あ、れ?なにこの空気。


「……い、ぬい?」


いきなり無言になった彼に私は不審に思い、運転席に顔を向けた。

すると。


「…そんなこと、言いますか、ナツさん。」


口角を上げ、不気味なくらいキレイな笑みを浮かべた乾と目が合った。瞬間、体にゾクッと悪寒が走る。


―え、なにその黒い笑顔。

恐怖に戦く私。ニコニコと笑みを絶やさない彼。…どう考えても、異質な空間だった。

車内に気まずいくらいしん…とした空気が広がり、私はしばらく引きつった顔のまま動けないでいる。


―しかし、その微妙な空気を打開する策を講じる必要はなく。……いや、なくなった、と言うべきか。

――とにかくそんなことを考えてる暇は皆無となった。



ギュルルルルルルッ!!!キィイイイイィ!!



…突如、ド派手な音を立てて、車は止まったから。

車輪は横に滑り、車体は大きく傾く。まるで映画のワンシーンみたいな、通常ではありえないアクションだ。車の中のものが重力に従って散乱してしまう程度に、激しかった。

…なので、もちろん。


「――っだぁああ!!?」


中の人間も、大きく姿勢を崩すハメとなる。私はゴッと嫌な音をたて、左の窓にしたたか頭を打ってしまった。…また。

……シートベルトしてたから良かったものの、かなり危ないってコレ!!


「っ、おい乾!ちょっと、」


非難しようと隣の男を下から睨み付けるが、


「―――っうぁあああ!!?」


今度は、反転。車はハンドルによって素直に進路を変え、ぐるりとその体を回した。

…当然、中の人間も、以下略。遠心力に逆らえるハズもなく、今度は反対側、乾の方へ体ごと倒れこんだ。……ちょ、もう勘弁しろって。

凄まじいカーテクニックにより強制的に体が揺れ動かされ、脳がグワングワンと揺れる。……気持ち悪い。


しかし、運転手はどこ吹く風で。華麗なUターンを決めた後、悠々と愛車を走らせていた。


「――ちょっ、乾!何すんのっ!そして何処行くんだよ!!」


そして、怒り心頭のワタクシ。―当然だ。彼の動向も目的も何も掴めないんだから。

激しい感情のまま、眼鏡の男に向かって食ってかかった。すると、彼は。


「…え、何処って………」


ニッコリ。




「聖悟の所ですけど?」




乾は、前を向いたまま、『それが、何か?』的口調で言ってきた。






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