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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
55/126

02




――



「――意地っ張りだし、そのくせ本音隠すのが上手いんだか、下手なんだか……」

「あー分かる分かる。最初からそんな感じだよ、ナツちゃん。」

「しかも、人の気持ち、全く考えねぇし。」

「それも、同感。」


―その後も延々と続く国崎とマスターの話し合い……

ってか、私の愚痴。


私は眉をヒクつかせながら、その拷問に耐えていた。


…おい、真剣なハナシはどうしたんだ?後半、私の悪口しか言ってないじゃん。

黙れや、クソ男どもが。そろそろブチ切れんぞ、コラァ。


かなり頭にキテいた私は、脳内で国崎を半殺しにするが、


「――…だからさ、ホントに分かんない。アイツの心はどうすれば手に入るのか。」


――それ故に、彼の唐突な告白に対処出来なかった。

セリフに気持ちが着いていけずに、いきなり心臓が跳ね上がる。思わず顔を上げた。


っな、なにをまたコイツは…!


「アイツの行動に振りまわされて、一喜一憂、気分が落ち込んだり浮いたり。…マジで、らしくねぇしダサいよな、俺。」


……え?これ、本当に国崎?

淡々と言葉を吐き出す彼に、私は驚いた。


弱々しい、掠れたような声は、平生の彼からは想像もつかない。

顔はもちろん見えないわけだが、多分疲れた感じだ。声の調子からして。


「おーおー、初々しいねぇ。」


…そして、それをわざわざちゃかすマスターは、かなりのツワモノだ。

国崎も口を尖らせた。


「…るっさいな。仕方ねぇだろ、こんなん初めてなんだから。」

「そこが、カワイイんだって。…んで、どーにも我慢できなくなった国崎クンはナツちゃんに告白したんだ?」

「…言い方ムカつくな。……あぁ、そうだよ。告って、見事玉砕。

簡単にオチる女じゃねぇって分かってたんだけど…流石に、面と向かって『嫌い』は効いた……」


ハァと大きなため息を吐き、がくりと国崎が項垂れた気配がした。


………………


…国崎、これが君の本音か?

何でこんな弱ってんのさ、たかが私に振られたくらいで。


気にするなよ。もう忘れろよ私のことなんて。君は最強俺様イケメン君だろう?

こんな姿、全然君らしくないじゃないの。


…胸が、痛い。ズクズクと膿んでいくみたいだ。


麗奈さんの時に感じた痛みは、彼女の同情或いは罪悪感だった。

――なら、これはどんな種類の痛みなんだろう?



「……でも、」


国崎はまだ続ける。

…もう、話すなって。分かったから。てか心臓が痛いから。ホントに。



「…どうしても、那津が欲しいんだ。断られたって諦められねぇ。」

「っ~~!!」



ボッ!!と音をたてて顔が朱に染まる。


爆弾投下。

顔面温度は最高温度41℃まで達しました。


どうすんの、これ。めちゃくちゃ顔が熱い。火傷しそう。つーか、する。

…なんっつー恥ずかしいことを、コイツはさらっと言えるんだ!!

自重!少しは自重しろっ色気の!!


理不尽な怒りを国崎に向けて、心の中で罵倒する。

その間も、心臓がありえない程速いペースをキープしつつ、鳴っていた。

…まだ正体不明の胸の痛みも、消えてないのに。


「へぇ~諦められない、ね。」


さらにその直後に、マスターのニヤけた顔が容易に想像できるようなセリフ。彼はくっくっと喉を鳴らして笑った。


…もう君ら、皆死ね。特にマスター、地獄に堕ちろ。何この羞恥プレイ。私を殺すつもり?

私は胸をぎゅっと押さえながら、2人に気付かれないようにそっとため息をついた。


……


…やっぱ、ダメだな………これは、本当によろしくない。捨て置いたはずの感情がまた戻ってきそうだ。

全然ふっ切れてないじゃん、私――


マスターはまた下に、というか私に目線を送りながら国崎に言った。


「……そっか、ホントに本気なんだね。」

「あぁ、」


まさに当然のごとくさらりと返す国崎。

……だからそういうコト言うの止め――



「……しかもアイツ、最後、様子がおかしかった。」



―!瞬間、びくっと体が反応する。

赤くなった頬が一瞬で白く変わった気がする。


……な、に?


「……様子?」

「俺のことが嫌いだって言う前、何かに怯えるような…そんな仕草をしたんだ、那津は。」


ドクン、ドクン。心臓が鳴る。やたら大きい音で。


「…あの怯え方は異常だ。絶対何かあった。」


ドクン、ドクン。


「…そうだな、何か嫌な記憶でも思い出したりしたのかもしれない。友人関係、学校問題、あとは…」


ドク、ドク。



「家庭の事情、とか。」



ドク、ン。


その言葉を聞いた瞬間、本気で息が止まった。そして、眩暈がした。またフラッシュバックが脳内で起こる。


「――っ、」


あまりの衝撃に私は頭を抱え、声にならない声を漏らした。

嫌悪と憎悪と苦しさで胸が痛む。視界が歪み、吐きそうなくらい気持ちが悪い。


――ちっ、

荒々しくなりそうな息を整え、忌々しげに、小さく舌を打った。



――やっぱり、国崎に会うわけにはいかない。


君は鋭すぎるんだよ。エスパーも大概にしとけよ?

何で、そうやすやすと人の事情まで見抜いてしまうんだ。


…会ったら、すべて暴かれてしまう。

私の気持ちも、誰にも言いたくない過去も―――


君は、危険だ。


私は鋭い棘を刺されたように痛む胸を押さえ、改めてそう思った。



―そこまで言った国崎は、ふっと軽く笑い、


「…ま、あくまでも想像だけどな。とにかくあいつは何か隠してる。そこをまた聞きださねぇと。」


ガタ、と椅子が動く音がした。


それを聞いて、あぁ、ようやく去ってくれるのか、と安堵する。

心はかき乱れ、動悸も激しいままだが、ホッと息をついた。


――とっとと帰れ。これは、この胸の痛みは、修復に時間がかかりそうだから。


「じゃ、マスター。そういうことだから、那津が来たら連絡して――「国崎君。」


――え?


席を立ちかけていた国崎にマスターが声をかける。彼だけでなく、私も怪訝に思った。


…何、何の用なのよマスター?

きょとん、と目を丸くする私にマスターは苦笑いをして、


「……ごめん、ナツちゃん。ここは国崎君を応援したいわ、俺。」


そう、呟いた。


―――ha?

え、え、ちょっと、待て。ま さ か ……



「国崎君、実はナツちゃん今ここに居るんだ。」

「はっ!!?」



……嫌な予感、的中。

マスターが『ここ』と指差した場所は、もちろん私の居るカウンターの裏だった。


――ガッシャーーーン!!!


それとほぼ同時に響く破裂音。


私はカウンターの裏を思いっきり蹴った。テーブルの上の食器や花瓶が音を立てて下に落ちる。

――国崎側に。


「っああ!なにしてんのナツちゃん!!この皿高いのにっ…「るっさいマスター、死ねハゲっ!!」


破片が飛び散り、マスターの悲痛な叫び声が聞こえる。


急いで身を引く国崎とは目を合わせず、立ちあがった私は、マスターに悪態をつきながら裏口まで走った。

扉を勢いよく開け、裏路地を抜ける。外は風が強く、私の黒髪を揺らした。


――っだああ!あんのクソ馬鹿三十路男!!

何、バラしてんだぁあああ!!!!

国崎に、見つかってしまったじゃねぇか!しかも、最悪なタイミングで!!

マジで殺す!!後で、マスターん家に火ぃつけたらぁあああ!!





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