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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
53/126

04



――膝を抱えたまま目を閉じる。

だが、しばらくそうしたまま鬱鬱とした気分に落ち込んでいたら、ふと疑問が浮かび上がってきた。


――でも。

…もしも、あの時。あの人が私の内に現れなかったら、どうしていたのだろう?

あのまま国崎の腕に抱かれて、私は何を言っただろう?


心の中に、またさっきの出来事がよみがえる。国崎の顔を思い出す。


………………


……


――ドク、ン。


突然。心臓が大きく脈を打ち始めた。


「………あ、れ…?」


ドキドキドキドキドクドクドクドク。


心臓がさっきより、…いや、かつてない程活発に脈を打つ。

そしてその間、脳内スクリーンにはあいつばかりが映し出される。


笑ってる顔、ニヤリと嫌なことをたくらんでいる顔、マジギレしたときの顔、デートしたときの優しい顔、…最後、一瞬だけ見えた、切なげに歪んだ顔―――


さらには、走馬灯のようにいままでの出来事がフラッシュバックした。


――え、何コレ。脳内バグ?

私、死ぬの?室内で?いきなり?死ぬとしたら何死にあたる?

……近いとこで、心臓病?こんなに心臓がうるさく鳴ることなんて、今までなかったから。



――や、待て。違う。


顔に手をあて、思考の渦に身を投じる。頬は、自分でも驚く程熱を持っていた。


コレは知ってるぞ。昔、なんかの漫画で見たことある気がする。

まさか、もしかして、


私はうるさい胸をぎゅっと握り、

自分でも信じられないくらい、すんなりとそのコトバを口にする。


これは、この、感情は――――――



「………惚れ、た?」



………。


「……い、いや、待て。違う、おおおち、落ち着くんだ。」


その一秒後、

私はブンブンと首を振り、即座に自分の言葉を打ち消した。


――こ、これはアレだ。また国崎の毒牙にかかっただけだ。

前もあったじゃないか。国崎マジックにヤラレて混乱したことが。アイツに近づきすぎるとどんな女も思考がこんな風になるんだっ。

今回もそんな感じに違いない!


しばらく。そう、しばらく待ってたらこの動悸もおさまるはず………


……………………。


―しかし。

待てども待てども、一向に顔の朱色は引かず、脈も速くなっていくばかり。鼓動が胸全体で響き、息切れもしてきた。


…本気で病気ではないかと思う。思わず、病院の開始時刻を確認してしまった。


「……っ、何なんだよ…」


私はフローリングの上に寝そべると大きなため息を漏らした。


今夜の私はおかしい。疲れからなのか何なのか知らんが、異常すぎる。

……なにがって?

ずっと、ずっとあいつが――国崎聖悟が、頭から離れないんだよ。どうやっても。


ダルい体を起こして鏡を覗くと、耳まで真っ赤な自分が見返してきた。

―何あれ。赤過ぎでしょ。酔っ払ってんじゃないかと見紛う程だ。


―――もう、意味分からん。こんな女、私じゃない。絶対、どうかしてる。


…告白、原因はアノ告白だ。

男から告白なんて、初めてされたから動揺してるだけだ!それだけだよ、それだけ。別に深い意味は無い!


誰に言い聞かしてんだか、私は自分でうんうんと納得した。



「PLLLL……PLLLL……」

「―――!!」



すると突然。携帯の電子音が鳴りだす。

…私のだ、モチロン。いつも聞き慣れてるはずなのに、思わずビクッと体を震わせてしまった。


――マジで寿命縮んだ。空気読んでよね、この小型電子機器が。


やり場のない怒りを携帯に向け、その辺に放り出していた鞄を乱暴にひっつかんだ。

そして未だに存在を主張し続ける携帯電話を取り出し―――

動きを止めた。


『着信 国崎聖悟』


携帯電話の液晶に、確かにそう表示されているのを見たから。


「…………。」


まだ携帯は鳴り続ける。しかし私は取れない。取ることが出来ない。


――だって、何を話すんだよ?あんだけ叫びまくって、罵って。

気まずいにも程がある。

…いや、会話を無理矢理切って帰って来たワケだから、ヤツが電話してくるのも納得はできるが。


…何より驚いたのは、私の心臓が再び活発に鳴り始めたこと。

『国崎』と名前を見ただけで。


――これ、出たら今度こそ心臓壊れるかも――


そういう、わけの分からない恐怖もあって、なかなか電話が取れない。


「PLLL……PLLL……PLLL……」


コールが続く。

……諦めないな、奴も。早朝にムリヤリ取らせたこともあったしな。

忍耐力があるんだか、何なんだか。とりあえず、何が何でも私を電話に出させたいらしい。


………電源、切ろうかな…………


鳴りやまぬ電子音は無視し、電源ボタンにそろそろと手をかける…………と、


「………………あれ」


突然、プツっと電話は切れた。コールが途中で途切れたので、おそらく向こうから電話を切ったんだろう。携帯画面も通常に戻る。


……………なんだ、諦めたのか。


ホッと安心するとともに、何故か、あっけにとられたような、不服な気分になった。

…なんて、意味わかんねぇな私。電話取らなかったくせにね。フッと自嘲気味に笑みをこぼしてみる。


―ま、なにはともあれ、用無しになった携帯を机に置こうと手を伸ばし―――


「~♪」

「っわ、あああぁ!?」


そのまま、放り投げた。


――な、何、今度はナニ!?この携帯、呪われてんの!?


さっき以上にビックリした私はバクバク鳴る心臓を押さえ、放物線を描いてガシャンと床に落ちた、哀れな携帯電話をみた。 


この音は、メールだが…………


不審に思い、チラと液晶部分を覗くと、また『国崎聖悟』の文字。

思わず、ため息がでた。


「……今度は、メールかよ…」


まあ、本人が電話を受け取らないんだ。自然な流れではあるけど……


私は立ちあがり、若干キズのついたブルーの携帯を取り上げる。

そして数分悩んだ後、ランプの光る携帯を開いて、彼のメールを読むことにした。


―メール読むくらいなら、いいか。返信しなきゃいい話だし。…別に特に支障は無い。うん。

自分への言い訳もそこそこに、若干緊張しながら受信ボックスを開く。


「――――!」


開いた瞬間、絶句してしまった。

――恐る恐る開けた国崎からのメールは、たったの4文字しか書かれていなかった。



『会いたい』



ただ、それだけ。


ただ、それだけだったのに。


詳細の全く書いてない、ただの文字の羅列に私はまた心を揺らした。



「…うわぁ………」


携帯を持ったまま、仰向けにゆっくり倒れる。白い天井がやけにぼんやりとかすんで見えた。


自分のカオは確認してないが、どうせ、朱に染まってるんだろう。フローリングのひんやりとした冷たさが、火照った肌にしみる。


「………マジ、か……」


―もう、流石に認めざるを経ない。

名前、電話、メール。それだけでこんなに乱される。


そんな怪奇現象の理由は、ひとつしかない。




――私は、国崎が好きだ。




ここにきて、ようやく私は自分の感情というものを理解した。




――しかし、


「……は、アホらし。」


私はすぐに冷めた表情を作った。


―理解したからといって、何が変わる?確かに、私は国崎がスキらしい。

でも、あいつに気持ちを伝えたところで、面倒なコトになるだけじゃないか。


迫り来る過激派女子とか、陰口、根も葉もないウワサ。そういうのも死ぬ程嫌だが、


―なにより、この感情が、面倒くさい。


国崎限定ではないけど、誰かを好きになるとか、愛すとか、理解できない。

『好き』とか『愛してる』なんて幻想、抱きたくない。

これじゃ、あの女と何も変わらないし、私はそんなの、絶対嫌だから。


だから。


―――こんな感情、消してしまえ。


私は芽生えた気持ちをひねり潰すように、国崎のメールを削除した。






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