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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
51/126

02




――一瞬、ヤツが何を言ったのか全く理解できなかった。なんとか頭にその言葉が入ってきても、やはり意味はさっぱり分からない。


「……罰ゲーム?」


ようやく、目を見開きながら口から出たのはそんなセリフで。


「……あ?」


国崎は怪訝そうな顔を作った。


「…や、アレでしょ。よくある告白罰ゲーム。4人で何か賭けでもした?それで私が君にオチるかどうかとか?」

「……オイ、せっかくの人の告白を罰ゲーム扱いすんな。」

「いやいや、それしかないでしょ。―ああなんだ、友達として好き。とか?」

「俺、今ソレ否定したばっかだろ。」

「…………。」


私は首を傾げた。心からの疑問だ。


「…うーん、他になんかある?君が私にそんなこと言う理由。」


思いつかないんだけど。


「…頼むから、普通に考えろフツーに。何でそんな考えが屈折してんだよ那津は。傷つくぞ、流石に。」


国崎が脱力したようにそう言うから、私もまた考えてみる。


――フツー?普通って、何さ?言葉そのままって意味?

そのまま…『スキ』?


ってことは…………


―――!


バッと顔を上げ、真剣な表情を作って国崎の方を向く。


「………国崎、君、」


まさか。


「…私のことが好き、なの?」

「だから、そう言ってんだろ。」

「…それは、恋愛的な意味で?」

「そうだけど?」

「マジで、告白してる?」

「マジで。」


………………………


ポクポクポク。チーン。



「嘘だーーーーー!!!!」



突如、トマトのように顔を赤くした私は叫びながら国崎から飛びのいた。


「え、え、え、嘘だ、絶っっ対嘘だろっ!?」

「…たっぷり考えた末にそれか?ホントだって。何で人の告白、力いっぱい否定すんだよ。」


呆れたようにフッと笑みをこぼす国崎。


…いやいやいやいや!待て、嘘だろ普通に!!

何故、君が私に本気告白っ!!?

天変地異どころか、宇宙がそっくりそのままひっくり返るくらいありえねぇって!!


「く、国崎。待て、早まるなお、落ち着け!」

「那津の方が落ち着けよ。」


落ち着けるかぁあああ!!そんでまた徐々に近づいてくるんじゃ、ねぇーー!


じりじりと後ろに下がろうとするが、いかんせん、狭い車内である。すぐにドアに背がついた。

しかし、ヤツは進行を止めず、ますます焦る私。


「いやいや、マジで嘘だろ!てか、嘘にしとけっ!あと近付いて来んな!!」

「なに、しとけって。そんなん無理に決まってんだろ。」

「―っ!君、フザけてんだろ!私をからかってんだろっ!?」

「からかってなんか、ない。」


腕を掴まれた。それと同時に視線が絡まり、また私は動けなくなる。



「お前が、本気で好きなんだ。」



また国崎の熱い視線が絡まり、私を動けなくさせる。彼の言葉のひとつひとつが心に突き刺さり、反響する。目の前の男の瞳のなかの自分が、口を開けたままブサイクな顔をしているのが見えた。


――なんだ、コイツ。本気か?本気で――


「…頭、おかしいんじゃないの。」

「……………。」


一瞬の静寂が流れ、


「……はぁ、」


国崎は呆れたように息をつき、私を暗に責めたてる。


…でも、だってそうとしか思えないじゃんか。…国崎が私のことを好き、とか。ありえない。

あ、もしかして君、どっかで頭打ったか?


「…俺は正気だ。何でそう信じねぇんだよ。お前、人の気持ちを読むのが得意なんだろ?」

「……そんな、君じゃあるまいし。全然分かんないって。」

「大体、分かんない方がおかしい。逆に何でそうビックリするんだよ?別に隠してきたわけでもねぇのに。」

「や、最初っっからそんな可能性、排除してたから。ホントに予想外というかなんというか!」


わーわーと、自分でもワケ分からんセリフをぶつぶつ言ってたら。


「…那津。」


近くで自分の名をささやかれて、ぴく!と体が反応する。


て、低音ボイスとか卑怯だろ、この場面で!自分の名前なのに、まるで自分の名前じゃないみたいだ。

耳がゲシュタルト崩壊おこした。


「なぁ、那津。まだ信じられない?」

「……っ!あ、当たり前だろ!そんなイキナリ言われてもっ…」


だから接近するんじゃないって!さっきから心臓がうるさすぎる。


「イキナリじゃないし。……俺が誰にでもこんなことするとでも思ってんの?」

「こ、こんなことって……?」

「こんなコト。」



そして、また重なる唇。


「~~!」

「な?」


数秒後に唇を離すと、国崎は満足そうに笑いながら目を合わせてくる。


……『な』じゃないよ、『な』じゃ。もうヤバい。恥死量超えてる。

…コイツ、絶対顔だけで人殺せると思うんだが。私よりか、断然色気がある。


私は真っ赤な顔を左右に振って、なんとかこの男の魔力から脱し、冷静さを保とうとする。

そして口をとがらせ、反撃に乗り出した。


「……君、絶対おかしい。何で、私なんだ。」

「――は?」

「君ぐらいの男なら、もっとレベルの高い女をいくらでも落とせるだろ。なのに、何血迷ったこと言ってるワケ?」


女なんかよりどりみどり~なんだろ?

何で敢えて私みたいな女を選ぶかな、国崎君は。


「…血迷うって……」

「大方、普通の女子は飽きたから一風変わったヤツと付き合ってみたい、とか思ったんだろ。だったら私は止めとけ。即行で別れたくなるから。」


―そうだ。罰ゲームではないにしろ、『私と付き合いたい』なんて言う理由は、結局はそういうことだろ?だったら、止めておいた方がいい。

自分の性格は分かってるし、何の取り柄も無いし。

…激しく即返品をオススメするけど?こんな欠陥女。


「……んなの、付き合ってみなきゃ分かんねぇだろ。」

「わ・か・る!だから私は………「那津。」


冷たい国崎の手が頬に触れ、本日、2度めのフリーズ。

狭い車内でさらに彼は身を乗り出して密着してきた。


「何も、分かってねぇのな。」

「……あぁ?」


わ、脳内パニくりすぎて思わずチンピラみたいな声が……っ

…笑ってんじゃねぇぞ国崎、こっちにとっちゃ、由々しき事態なんだからっ!


「……くく、お前みたいな奴、他にいるかよ。俺は他の誰でもなく、那津がいい。」


そして何度目かのヤツの温もりと、



「マジで好き、だから。俺と付き合ってよ。」



懇願するような甘い声に、私の心臓が大きく鼓動した。


―――ドクドクドクドク


…ちょ、待てまて。テンポ速いって。ナニコレ。なんでまたこんなに活発に動くんだ私の心臓ぉ!!

早鐘のように鳴る心臓は……もうドキドキというか、バクバクって感じ?すごい苦しい。


止まれ、いや止まったら困るもう少し落ち着けと、バグだらけの脳内に意味不明な指令を送りながら、私はたまらず目を閉じた。



…………


……国崎が、私を好き?

アリエナイ。はぁー?だろ。誰がどう聞いても。

なんだ巨大エイプリルフールか今日は。ドッキリカメラでも出てくるの?そっちの方がまだ納得なんだけど。もしくは夢オチ?


本当に、嘘としか思えない。

――まさか、私を好きな人間が現れるなんて。


自分の中に僅かにある、オトメゴコロらしき物がきゅっと反応して、また顔が紅くなる。


……何だ、キモイぞ私。こんなの、私じゃないでしょ。

今鏡見たら、絶対自分を殺したくなるわ。



――とは思うものの、


今まで感じたことのない不思議な感情に戸惑い、国崎の方はどんな顔をしているのか気になった私。

羞恥心を抑えそっと薄目を開けて彼の顔を確認しようとした、


瞬間。



バッといろんな映像が胸の中に過ぎ去った。―というより、瞼の裏に映し出された。

私は目を見開く。


篠原さんの勝ち誇ったような顔と、麗奈さんの泣き出しそうな笑顔。

そして―――




「……アンタには、分からないわね。一生。」




―昔々の、記憶の隅に閉じ込めていたはずの、あの女のカオ。


「――――!!」


私は瞬時に国崎から飛びのいた。






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