閑話そのに
閑話ふたつめ。主人公視点ではありません。
閑話3
バタン、と玄関の方から扉のしまった音がする。
聖悟君と那津が出て行った方向を見やると、途端に涙が溢れ出した。
――我慢してたんだけど、あの2人には気付かれたかしら。
…いや、どうせ気付かれていただろう。
くすりと自嘲気味に笑い、力を抜くと重力に従ってその場に崩れ落ちた。
涙がとめどなく溢れてきて、止まらない。嗚咽も漏れる。
那津には平気そうな振りを見せてたけど、やっぱり失恋は堪える。
……それも大好きな人には。
結果なんか分かっていたコト。
聖悟君に好きな人がいるのも知っていたコト。
しかし、1年も膨らみ続けた想いを捨て去るには、時間がかかりそうだ。
でも――――
「…はじめて……本当の貴方を見せてくれた……!聖悟君…っ」
呟きながらまた新たな筋を流す。胸がいっぱいになって息苦しささえ感じる。
――本当の彼は。
私がイメージしていた聖悟君と全然違くて、那津の言った通り偽りの性格を作っていたのだと知った。
でも、それでも最後に見せた笑顔は、おそらく本物の笑顔。
失恋を悲しく思う反面、最後に本当の彼が見られてすごくうれしく感じる自分がいる。
…それでね、2人一緒に並んでいるのを見て、やっぱり私じゃダメだって思ったのよ?那津。
さっき聖悟君がどんな顔をしていたか、分かる?
那津と一緒にいるときの彼と、私といるときの彼。
全く違う顔をしてるんだから。
私がどんなに頑張っても、聖悟君は絶対振りむいてはくれない。
彼には貴女だけなのよ。多分。
だから―――……
「…聖悟君を振ったりなんかしたら、許さないんだから……」
那津、貴女になら負けてもいい。この言葉に嘘はないわ。
…でも、貴女以外が彼の隣に並ぶのは嫌だから。
絶対、上手くやるのよ。
私はぐっと涙をぬぐうと、長い長い回廊を戻った。
閑話4
「……ふぅ、疲れたわね……」
高宮麗奈に言い渡された部屋に入り、ふかふかのベッドに横たわる。
遅いから泊まっていけ、と彼女のご厚意らしい。
…全く、金持ちは得よね。『人間みな平等』なんて戯言、誰がホザいたのかしら。
ぼす、とふかふかした布団を叩くと、弾力のある羽毛が手を跳ね返してきた。
……まぁ、高宮麗奈は後でゆっくり排除するとして、目下の敵はあの地味女よね。
本城那津。
あの平凡そうな女に何の魅力があるワケ?
―ホント、冗談だと思いたいわ。聖悟がまさか、あんな子を追ってるなんて。
でも、話を聞いてる限りではそうなのよね………
本城那津の話が嘘っぱちって可能性もあるけど、こんなので嘘を言う理由もないし。
ということは、マジってことよね。
「はぁ……」
思わずため息をつく。
昔は私みたいな美人やカワイイ子を付き合ってたのに、どこをどーやってこんな趣味悪くなったのよ、聖悟。
…やっぱりあの女が妙なことをしたに違いないわよね。聖悟は騙されてるわ、絶対。
斎藤宏樹も、水谷信二も味方にするなんて侮れない女。
邪魔以外の、ナニモノでもない。
私は寝転がりながら、ぐっと手を握り締める。
「ふふ……待ってて、聖悟。目を覚まさせてあげるから。」
本城那津は聖悟の気持ちなんか微塵も気付いてないみたいだし、
釘もさしておいたし、攻めるなら今よね?
――前より格段にカッコよくなった聖悟。
貴方はやっぱり私の彼氏になるべき存在よ。
必ず、私があの女から救い出してあげる。




