黄金の檻
前回までのあらすじ、パート2~
日曜日、国崎と成り行きでデートすることになった本城那津。
那津は国崎にセクハラされながらも、水族館でそれなりに楽しむが、彼の家へ向かったとき、国崎の元カノである篠原未央が現れた!!
それを口実に帰ろうとした那津は、何者かに背後から殴られ、拉致されてしまう!
――目が覚めたら廃屋の中におり、那津は、実は篠原未央が国崎関係の問題で、自分を拉致したことに気付く。
そして未央の言うコトにあまりにも腹が立った那津は、一度はキャラで自分を守ろうとしたものの、あっさり素を見せ、未央に説教をかました。
怒り狂った未央は『トモダチ』の男たちに那津を襲わせる。
ボロボロになった那津だったが、斎藤・水谷が助けに来てくれ、事なきを得た。
しかし、
その後さらに高宮麗奈が現れ、今度は彼女の家に拉致されることになった那津だった………
「…ねぇ、いい加減にしろよ、作者。今日1日でどんだけ話進めるつもり?」
※いけるトコまでです。
次ページから本編だよ→
「……………。」
なんで、こんなことになったのかしら。
「さ、那津。手当てもしたし、もう安心よね?たっぷり話してもらおうかしら。」
どこが、安心だ?
ホコリっぽい廃屋からゴージャスな黄金の檻に変わっただけじゃないかっ。
「さて、サクサク白状してもらおうじゃない。」
そして、君はなんで当然のような顔でここにいるのか?
麗奈さんとバトる予定はどうした?
目の前でほほ笑む、2人の美女。でも私には、閻魔サマにしか見えません。ハイ。
……もう、ヤダ。私、今日が命日かもよ?マジで。
―――
――
廃屋から連れ出され、車で運ばれた先は、見たこともないような大豪邸だった。門から玄関までが異様に長く、家の端から端も見えないわ、庭に噴水はあるわ………
まったく、スゲェのひと言に尽きる。
内装もタダゴトじゃない。ゴージャスなシャンデリア、贅をこらした調度品、やたらたくさんいるメイドに執事……
…マンガか。もう着いていけない世界だ。
――そして、私は着くなり麗奈さんかかりつけだという医者の往診を受け、即座に手当てされた。
体中に包帯が巻かれ、薬を塗られる。幸い骨は折れていなかったが、やはり打ち身、ねんざ、擦り傷がひどく、全治1週間…とか。…案外、かかるな。
看護婦やメイドが手当てを手伝ってくれ、なんだか気恥ずかしかったが、
まあ治療費はいらないらしいので、よしとしようか。
………ここまでは。
「……では、那津様。浴場に参りましょう。」
「……は?いえ、いいですよ。そんな…」
ひく、と引きつった笑いでメイド服の女性を見上げる。
…まさか、風呂までついて来る気か?このメイド。
「しかし、麗奈お嬢様の言い付けでございます。怪我をしている身では入浴も難しいだろうから、と……」
おいぃい!麗奈さぁあん!!だから、いらねー気回すなって!
じりじり迫るメイドさんに、後ずさりする私。
「……や、いいですっ!お風呂貸していただけるだけで十分です!だから……ってうわぁああぁ!!?」
………その後のことは、ご想像におまかせしよう。
うう、もうお嫁にいけない……ぐすん。
―――
――
お風呂から出た私を待ちうけていたのは、入浴済みらしい麗奈さんと篠原さんの姿。
湯あみ後の彼女らは女神さながらに美しい、が。
「那津。こちらにいらっしゃい。」
「ほら、早く。」
……眼差しは悪魔を凌駕するくらいだ。
私は恐怖に怯えつつ近付き、これまた豪華な丸テーブルに3人、顔を合わせて座った。
――そして、冒頭に至る。
2人は笑顔、私は冷や汗まみれ。
うう、何から話せば……何話しても怒られそうなんだけど……
「…あ、麗奈さん。ありがとう。手当てとか、お風呂とか……」
とりあえず無難にお礼から述べる。
「礼には及ばないわ。その服も、似合ってるし。」
「……ホントに?」
嘘つけ。
先程、悪夢の入浴が終わり、用意されたものに着替えたはいいが……私はちらりと自分の着ているものを見た。
――レースがふんだんにあしらってある、フリフリのネグリジェ。しかも、白。
……麗奈さんの私服だろうが…ぜっっったい、似合うワケないだろ。私に。しかも、髪も緩く巻かれているし。
…この服装も私のテンションを下げる要因のひとつなんだが。
私は、がくりと項垂れた。
そして、
「………」
「…何よ、その目。」
ジトリ、と目の前の黒髪の美女を見る。何でこの人はここにいるんだろうか。
私をボコしといて、この余裕。反撃とか復讐されるとか、考えてないのか?
……や、しないけどね。面倒だし。
でも、空気悪い上に気まずいな。ったく……
素知らぬ顔で紅茶をすする篠原さんを見て、またため息が出た。
「……さて、そろそろハッキリさせましょう?」
篠原さんに気を取られていると、麗奈さんが本題、とばかりに冷静な声で話しかけてきた。
その声色に甘さは一切含まれておらず。とびきり濃いコーヒーミルク抜き砂糖抜きのような、厳しい感情がひしひしと伝わってくる。
ビクリと私は体を震わせた。こ、これがこの人の真の姿……?
「は、はっきりとは…なんですか?」
「いい?那津。ホントのことだけを、答えてね。」
む、無視…!ヤバい、本気だこの人…!
視線が冷たすぎる……っ
「ち、ちなみに嘘ついたら?」
「…そう、ね。大学退学、とか?不可能なハナシではないし…」
………!!!顔が恐怖でビシリと固まる。
戦慄だ!たかが嘘つくだけで何その報復ーーー!?
鬼畜すぎるぞ!この女ぁ!
……いや、しかしこの人ならやりかねん。
なんてったって、国崎のためならどこまででも暴走していくような女だ。ためらいなく、やるだろう。それくらい。
……………。
――考えに考えた挙句、仕方なく、私は覚悟を決めた。
「………わか、った。」
すっと表情を消し、彼女らを見据える。
この時点で、私の選択肢は一つしか残っていない。
――すなわち、
真実を話して、死ぬこと。
……死ぬこと前提ってあたりが私だなー。ま、ほぼ確実な未来だし?
とりあえず大学退学だけは、絶対ヤダからね。
「…ふふ、那津は頭がいいものね。そう言ってくれると思ったわ。」
「お褒めにあずかり、光栄です。」
「こんなときも余裕なのが、貴女らしいわね。」
別に余裕なわけじゃないけどね。ただの強がりですよ、お嬢様。
私はふう、と息をついた。一瞬体の力を抜き、また表情を引き締める。
…っはーー、話す内容が内容だし、やっぱり緊張する。
―しかし、もう腹をくくったことだ。
2人の視線が集中する中、私はすうっと息を吸い込み、話しだした。
「……私は。確かに奴、国崎聖悟と、キスという名の皮膚接触をいたしました。」
…宣誓かよ。
…いやしかし、白状させられる凶悪犯の気持ちってこんななのかなー……仕方ないことなのに、言ってから後悔するような。
「…!やっぱ本当なのねっ!」
「皮膚接触って……」
各々リアクションをとりつつ責めるような目つきで見てくる2人。
私は気迫に飲まれ、後ずさった。
や、やっぱり予想通りのリアクションを取ってくれますね、君ら!
「…や、でも事故だからね!なんかその……あれ、恋愛的なヤツじゃなくてっ」
「どこをどーなってキスなんて事故が起こるのよっ!」
「もっと詳細に事態を説明して!!さあっ!」
……うぅ~怖いよ君たち……何その目…今から誰か殺しにでも行くのか?……あ、私?
――結局、私は涙目で、ことの顛末を全て語ることになったのだった。
―――
――
「…い、以上です、ケド……」
「…………」
「…………」
話し終え、怖々、彼女たちの様子をうかがうと2人とも仏頂面で何か考え込んでいた。
……な、何か反応してもらわないと、こちらも動きようがないんですけど。
やっぱり、怒ってる?
…どうしよ、いきなり刺されたりしたら。
明日の新聞に記事でるかな?『刺殺死体発見』とか?
…………
い、いやだぁああ!こんな形で新聞載りたくないぃいいい!!
「……那津。」
「え、は、はい!」
私が最悪の事態を考えていると、横から麗奈さんが話しかけて来た。
な、なんだ!どんな言葉が出てくるんだっ!ちょ、待って、まだ心の準備が……!
「…それで……貴女は聖悟君のこと、どう思っているの?」
「……は?」
―が、思っていたのとはそれも違う返答。
え。罵倒が来ると思ったのに、まさかの質問?思わず聞き返しちゃったよ。しかも……
「どう、思ってるって?」
「ったく、鈍いわね!聖悟のこと好きかどうかってことよ!」
イライラしたような口調で篠原さんも口をはさむ。
…ああ、さいですか。すいませんね、馬鹿なもので。
私はとりあえず息をつき、テーブルに置いてあった高級コーヒーを一口飲んだ。
「……そんなこと言われても、国崎はただの友達だよ?」
何度も言ってるのに、何で誰も信じてくれないんだろう?
「嘘でしょ、絶対。」
ほら。
「いやいや、ホントだって。彼を……その、レンアイ対象として見たことないから。」
「…じゃ、好きじゃない?」
「あー好きじゃない、好きじゃない。だから、国崎のコトを狙いたいんならどうぞご勝手に。私は関係ないですから。」
…投げやりっぽくて、悪いな国崎。だが私のためだ。辛抱してくれ。
私がそうきっぱりと言い切ると、麗奈さんと篠原さんは露骨にため息をついた。
「……はぁ、国崎君も可哀想に。」
「なーんにも、伝わってないわけね。」
「へ?」
だから、何が?
…アレ、なんか斎藤たちにもそんな感じのこと前に言われたような?
何でだろう、と首をひねっていると、篠原さんはニコリと笑って私と目線を合わせた。
「…ま、いいわ。気付いてないなら好都合だし、ね。」
何に、気付いてないって?
あーもう意味分かんないんですけど。ここまで理解不能な会話が繰り広げられるとなんか腹立つな。
私が仏頂面を作って唸っていると、彼女はコホン、と咳払いをして改まった。
「―そこで、アナタに1つお願いがあるんだけど。」
「…?何。」
お願い、つか命令だろ、どうせ。注文の多い人だな。何だよ?
「聖悟には近付かないでくれる?」
「…は?」
話、聞いてなかった?私は単なる友達だって言ってんのに。
篠原さんの謎な言動に、私の頭の中は疑問符でいっぱいだ。
「……何で?」
「何でも、よ。たかが女友達でも目障りだもの。」
め、目障りって。酷い言われようだな。
「いいでしょ?本城さん、聖悟のことを何とも思ってないんだし。」
「…………」
「アナタ面倒なことが嫌いなんでしょ?」
「……うん…」
私は言いながら頭を回転させる。
――うん、そうだな。
その通りといえば、その通りだよ。
元はと言えば、ヤツと一緒にいたからこんな騒動が起きたワケだし。…そろそろ国崎の方も私に飽きるころだろうし?
もう、振り回されるのはこりごりなんだろ?那津。なら別にいいじゃないか。
―国崎とは、もう会わない方がいい。
「…そしたら、君は私にはもう関わらない?変な誤解はしない?」
「ええ、いいわよ。約束する。」
「…なら――」
私は口を開いた。
「……分かった。国崎には、もう近付かないから。」
――ズキン、
「………?」
言った瞬間、何故か胸が痛んだ。
チクっと、刺すような痛み。心の、内側から。
…何だろ。なんか病気か、もしかして?
原因不明の痛みに胸を押さえる私を一瞥し、
篠原さんは「そう、」とだけ答えてまたニコリと笑った。