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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
43/126

04



―――

――


…ドカッ!バシッ!バキィッ!!


灰色の空間に反響する、何とも痛そうな音。

…もちろん、その中心は私だ。

見知らぬ男たちは、容赦なく私を殴ったり、蹴ったりしている。


――どのくらい、殴られたんだろう?

頭、肩、お腹、足……

なんか、もう身体全体が痛い。


私が怒らせたからとはいえ、他人によくここまでできるなー。

意識も朦朧としてきたし、連れてこられた時より断然、気分が悪い。


「……か、はっ!」


ぼーっと天井を眺めていると、今度は正面の男のローキックが鳩尾に決まった。

…わ、最悪、口切った。痛い。


「ハハハハッ!どうした?もう動けねぇか?」

「クスクス……無様な姿ね!国崎君に手なんか出すからこんなことになるのよっ!」

「なあ、次俺が殴っていい?最近ストレス溜まっててさー」


それとともに、ふりそそぐ耳障りな男女の笑い声。


…ホント、気持ち悪いな。身体的にもそうだが、ここにいる人間の、何とも醜いこと。

ひどすぎ。てか、本当に人間なのか?この人たち。


「…ご気分はいかがかしら?本城さん?」


あまりの痛さに、うずくまったままでいると、シノハラさんの甲高い声が耳に届いた。


「……気分?良さそうに…見える…?」


こんなときでも、減らず口を叩いてしまう私は、多分バカなんだろう。でも。―この女には屈したくない。

そんな下らないプライドだけが私を支えていた。…さっきとは、えらい心境の変化だ。


「……ふふ、確かに見えないわね。それで、どうかしら?自分のやったこと、きちんと反省した?」

「私が…何を、したって?」


目を閉じたまま細い声で呟くと、女はカッと目を開き、いきなり私の胸あたりを蹴った。


「っぐ!」


一瞬、息が詰まる。

しかし、彼女はそんなことは気にも留めず、激しい感情をそのまま表に出すように、私にぶちまけてきた。


「っだから!聖悟に言い寄ったこと、私を侮辱したこと、その他諸々、すべてよ!!分からないのっ!?」


髪を振り乱し、血走った目で私を睨む彼女に、もはや、美人だった面影は残っていない。

…バケモノ、みたいだ。


これが『嫉妬』ならまだカワイイもんだが、この女は自尊心とプライドだけなんだよな……行動理由が。

――クズが。


「…っ、はは。」


思わず乾いた笑いが漏れる。


「…何よ。何が、おかしいの?」


だってさ。


「…可哀想っ、だから…君という、…人間が……」

「……!?」


シノハラさんは一瞬目を見開くと、また私の胸倉をぐっとつかんだ。


「な、なんですって……?もう一度言ってみなさいっ!」

「…っ!ゲホッ、ゴホッ……!」


…無茶、いうな。思いっきり人の体、蹴っといて。


「私が、可哀想……?何をバカなことを!!」

「……っそこに気付かないのが、可哀想だってんだよ!!」


私は最後の抵抗とばかりに、苦しさを押さえながらも思い切り声を張り上げる。

――倍返しされようが、これだけは、この女に言っておきたい。


「…そもそも、私を消したところで、易々と国崎が振り向くと思ってんの?国崎が君を相手にしないのは、単に君の性格が原因だろうが!」


ただならぬ気迫に気圧され、シノハラさんは目を丸くしたが、プライドの高い性格からか、すぐ口を開いた。


「…あ、アナタが聖悟に近付いたからよっ!私が悪いんじゃない!!」

「は、まだそんな頭悪いこと、言うの?自分のせいだって気付かないとか、本気の阿呆だな?気の毒に。」


鼻で笑ってやると、彼女の顔はみるみるうちに赤く染まる。

―怒りに。


「…っ!本城…那津……まだ痛い目に遭いたいの…?」


そして血走った目で私を脅してくる。

しかし私は息を大きく吸い、



「……本当の国崎のこともよく知らないくせに、欲しいだの自分にお似合いだの、好き勝手ぬかしやがって……!人の心がそう簡単に手に入ると思うなっ!!」



シノハラさんに一番言ってやりたかったことを叫んだ。



――静寂が、辺りを支配する。


呆然とした様子のシノハラさんも、さっきまで笑っていた男女も、

時が止まったかのように全員動きを止め、言葉を吐いた私を見ていた。


そして、その私は、


――ん、我ながらクサいこと言ったな。しかも、かなりの暴言つき。

…こりゃ、ホントにもう生きて帰れないかもねー。


なんて考えながら、この後の容易に想像できる未来を思い、自嘲気味に笑って、彼らが動きだすのを静かに待っていた。




―――いや、実際は、はたして想像通りにはならなかった。

そのあと第一声を発したのは、ここにいる誰でもなかったからだ。



ミシッ、ミシミシ……バコオオオォン!!!!



突如起こる、ものすごい轟音。

そして地響き、砂煙の後、聞こえた声。


「いいこというねー、ナッちゃん。惚れ直しちゃった♪」

「どーも、こんばんわー。ちょっとお邪魔するよ。」


耳に届いた聞き覚えのある声の持ち主、


水谷信二と、斎藤宏樹が


蹴り破られてボロボロになった扉の前で立っていた。





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