04
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――
…ドカッ!バシッ!バキィッ!!
灰色の空間に反響する、何とも痛そうな音。
…もちろん、その中心は私だ。
見知らぬ男たちは、容赦なく私を殴ったり、蹴ったりしている。
――どのくらい、殴られたんだろう?
頭、肩、お腹、足……
なんか、もう身体全体が痛い。
私が怒らせたからとはいえ、他人によくここまでできるなー。
意識も朦朧としてきたし、連れてこられた時より断然、気分が悪い。
「……か、はっ!」
ぼーっと天井を眺めていると、今度は正面の男のローキックが鳩尾に決まった。
…わ、最悪、口切った。痛い。
「ハハハハッ!どうした?もう動けねぇか?」
「クスクス……無様な姿ね!国崎君に手なんか出すからこんなことになるのよっ!」
「なあ、次俺が殴っていい?最近ストレス溜まっててさー」
それとともに、ふりそそぐ耳障りな男女の笑い声。
…ホント、気持ち悪いな。身体的にもそうだが、ここにいる人間の、何とも醜いこと。
ひどすぎ。てか、本当に人間なのか?この人たち。
「…ご気分はいかがかしら?本城さん?」
あまりの痛さに、うずくまったままでいると、シノハラさんの甲高い声が耳に届いた。
「……気分?良さそうに…見える…?」
こんなときでも、減らず口を叩いてしまう私は、多分バカなんだろう。でも。―この女には屈したくない。
そんな下らないプライドだけが私を支えていた。…さっきとは、えらい心境の変化だ。
「……ふふ、確かに見えないわね。それで、どうかしら?自分のやったこと、きちんと反省した?」
「私が…何を、したって?」
目を閉じたまま細い声で呟くと、女はカッと目を開き、いきなり私の胸あたりを蹴った。
「っぐ!」
一瞬、息が詰まる。
しかし、彼女はそんなことは気にも留めず、激しい感情をそのまま表に出すように、私にぶちまけてきた。
「っだから!聖悟に言い寄ったこと、私を侮辱したこと、その他諸々、すべてよ!!分からないのっ!?」
髪を振り乱し、血走った目で私を睨む彼女に、もはや、美人だった面影は残っていない。
…バケモノ、みたいだ。
これが『嫉妬』ならまだカワイイもんだが、この女は自尊心とプライドだけなんだよな……行動理由が。
――クズが。
「…っ、はは。」
思わず乾いた笑いが漏れる。
「…何よ。何が、おかしいの?」
だってさ。
「…可哀想っ、だから…君という、…人間が……」
「……!?」
シノハラさんは一瞬目を見開くと、また私の胸倉をぐっとつかんだ。
「な、なんですって……?もう一度言ってみなさいっ!」
「…っ!ゲホッ、ゴホッ……!」
…無茶、いうな。思いっきり人の体、蹴っといて。
「私が、可哀想……?何をバカなことを!!」
「……っそこに気付かないのが、可哀想だってんだよ!!」
私は最後の抵抗とばかりに、苦しさを押さえながらも思い切り声を張り上げる。
――倍返しされようが、これだけは、この女に言っておきたい。
「…そもそも、私を消したところで、易々と国崎が振り向くと思ってんの?国崎が君を相手にしないのは、単に君の性格が原因だろうが!」
ただならぬ気迫に気圧され、シノハラさんは目を丸くしたが、プライドの高い性格からか、すぐ口を開いた。
「…あ、アナタが聖悟に近付いたからよっ!私が悪いんじゃない!!」
「は、まだそんな頭悪いこと、言うの?自分のせいだって気付かないとか、本気の阿呆だな?気の毒に。」
鼻で笑ってやると、彼女の顔はみるみるうちに赤く染まる。
―怒りに。
「…っ!本城…那津……まだ痛い目に遭いたいの…?」
そして血走った目で私を脅してくる。
しかし私は息を大きく吸い、
「……本当の国崎のこともよく知らないくせに、欲しいだの自分にお似合いだの、好き勝手ぬかしやがって……!人の心がそう簡単に手に入ると思うなっ!!」
シノハラさんに一番言ってやりたかったことを叫んだ。
――静寂が、辺りを支配する。
呆然とした様子のシノハラさんも、さっきまで笑っていた男女も、
時が止まったかのように全員動きを止め、言葉を吐いた私を見ていた。
そして、その私は、
――ん、我ながらクサいこと言ったな。しかも、かなりの暴言つき。
…こりゃ、ホントにもう生きて帰れないかもねー。
なんて考えながら、この後の容易に想像できる未来を思い、自嘲気味に笑って、彼らが動きだすのを静かに待っていた。
―――いや、実際は、はたして想像通りにはならなかった。
そのあと第一声を発したのは、ここにいる誰でもなかったからだ。
ミシッ、ミシミシ……バコオオオォン!!!!
突如起こる、ものすごい轟音。
そして地響き、砂煙の後、聞こえた声。
「いいこというねー、ナッちゃん。惚れ直しちゃった♪」
「どーも、こんばんわー。ちょっとお邪魔するよ。」
耳に届いた聞き覚えのある声の持ち主、
水谷信二と、斎藤宏樹が
蹴り破られてボロボロになった扉の前で立っていた。