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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
40/126

暗闇

※注意※

この章は多少の残酷な表現・暴力表現を含みます。

閲覧にはご注意ください。




目を開けたのに、視界は暗いままだった。見通しは悪く、数メートル先も見えない。

ぽっかりとあいた闇が自分を飲みこんでいるみたいで、背筋がうすら寒くなった。


――……ここは、どこだ?


瞬きを繰り返し、私は考える。

多分、知らない場所だ。…よく見えないけど。頭がやたら痛むし、あまり記憶がはっきりしない…。


頭を抱え、数分くらいボーっとしていると自分が冷たい床の上に倒れていたことに気付く。

自然物を感じさせないコンクリート。

ってことは……どっかの廃ビルとかかな、ここ。やたらホコリっぽいし。


―そして、


「………あぁ、拉致されたのか、私。」


ぼそっと、どっか他人事みたいに呟き、事実確認。

自分でも驚きだが、意外に冷静だ。まだ頭がぼんやりしているからだろうか。


…幸いにも、よくあるドラマみたいに手足は縛られていないようだ。荷物は流石にないけど、とりあえず自由には動ける。

私はふらりと立ちあがり、歩き回ることにした。


首を回し、部屋全体を見る。…あまり広くない、灰色の一室だ。

用途の分からない木箱や段ボールなどが置かれているから、廃ビルと言うよりは倉庫の類だろうか?何にしろ、近所では見たこと無い。


…………

…アレ、もしかして私、ヤバい?


途端に冷や汗が体を伝う。暗闇の中で私は青ざめた。


……え、ど、ど、どーしようっ!もしや殺されるっ!?


危機感を覚え、(今更)慌てふためきだした私はとりあえず周囲を見渡し、何か武器的なものを探してみるという妙な行動に打って出た。

が、…結果、何もなかったわけで。がっくりと肩を落としてため息をつく。


…ま、私みたいな非戦闘人種が何か武器持ったところで何も変わらないけどさ……

は、分かってるって、んなこと。

自嘲気味に笑い、またあぐらをかいてその場に座った。


こうなれば仕方ない。とりあえず誘拐犯の到着を待つしかないだろう、と腹を括る。


……しっかし、面倒なことになったなぁ。

どーしてわざわざ私みたいな貧乏学生狙うかな、誘拐犯サンも。金を請求されても、払えないよ?多分。

今の預金通帳の残高を思い出し、私は再度ため息をついた。



―――

――



……今、何時だ?どれくらい経った?

暗闇の中だから、時間が全く分からないが結構な時間、この部屋にいる気がする。


―つか、誘拐しといて犯人は何してんだ?

……え、まさかの放置?

どんだけ興味ないのさ、私に。だったら帰してくれよと言いたい。


――バタンッ!!!!


そうやって姿の見えない犯人に悪態をついていると、いきなり白い光が暗室に差し込んだ。

真っ白な光がドアの形に切り取られ、室内を照らしだす。


――あ、あれドアだったのか。

歩き回ったのに気付かなかったとか……やっぱ私、生存能力低いな~

そんな下らないことを考えながら、あまりの眩しさに目を細める。

強い光ではなかったが、闇に慣れ過ぎた私の目には、毒だったようだ。


しばらく瞬きを繰り返し、やっと目が開けてきたところに、いきなり目の前に人が接近し、両腕をグイッと引っ張られた。

座っていた私はそのまま起こされ、部屋の外に連れ出される。


無言のまま手を引かれるが、相手が誰だか分からないので、とりあえず空気を読んで従う。

――逆光で顔は分からないけど……手の細さからいって、女?



――――

―――

――



――――ガンッ!!!


「っ、ぐ!!」


カビ臭い廊下のような通路を抜け、新たな部屋に入るや否や、手を引いていた人物に突き飛ばされた。


…腰を強打。痛い……後で青アザになってるかも。腰をさすりながら体勢を整えようとすると、


「目は、覚めた?」


ここにきて、初めての声。場所的に、目の前の人物から発せられたようだ。

―予想通り、やっぱり女だ。

しかしどこかで聞き覚えがある声だと思い、ゆっくりと顔を正面に向けた。


そこには。


「……え、」


白いワンピース、長い黒髪の美少女が妖しげな笑みを口元に浮かべて私を見下ろす姿があった。

私は思わず口をぽかん、と開ける。


――国崎の、元カノさん……じゃ、ないか。


驚いた。私、この人と全く面識ないのに。


「……えー、と……」


間抜けな声を出しながら、言葉を探す。


…何を話せばいいか、全く分からん。だってほぼ初対面なのに、コレ。

私が困っていると、彼女の方から話しかけて来た。


「……ああ、自己紹介がまだだったわね。私は 篠原 未央(シノハラ ミオ)。

K女子大学の2年生よ。よろしく。」


…や、そんな笑顔で言われましても。

聞いてないし、よろしくしたかないんですけど。てか、この状況でそのセリフ?


「あ、はぁ。そうですか。私は本城那津です……」


そんで、何で自己紹介してるかな、自分。反射って怖ぇな。


するとシノハラさんとやらはにっこり笑って、


「知ってるわ。最近、聖悟にやたら付きまっとってる、害虫女。」


――毒を、吐いた。

…いや、毒っつーか、単なる悪口だな。『害虫』とか、久々に聞いたよ?私。


何となく話の分かってきた私は、息をついて、落ち着いた口調で返した。


「……あの、付きまとった覚えはまっっったく、無いんですけど。」

「とぼけても無駄よ。聖悟の傍で、いつもうろちょろして。目ざわりなのよ、アナタ。」


…だが、まあ予想通り、全然聞いてくれないシノハラさん。

こういうタイプは何言っても無駄、と。


…だからさー、そりゃ、国崎が勝手に来てるだけだってのに。

……何でこういうツケは全部私に回ってくんのかなー。

文句があるなら、本人に直接言えばいいんじゃない?きっと、笑顔で一刀両断してくれるからさ。

マジで頼むから、こっちに来るな。


「…………。」


そこまで愚痴を呟いた後、私は無言で彼女を見上げ、脳をフル回転させる。

…脳内ではバカなことを考えていたが、ここで返答をミスると、ヤバい。下手すりゃ、火に油だ。


さて、どうしようか……



――変な沈黙が流れる。


もちろん、私が思考中だからだ。無音のこの空間は、とっても気まずい。

何も話さない私にいらついたらしい女は、ふいに私の髪の毛を掴みあげた。


「何とか、言えば!?」


怒鳴りながら、結構な力で引っ張られる。

シノハラさんの顔は怒りに歪み、美人なのに、もの凄く怖い。

まるで般若のようだ……


…痛い。冗談じゃ無くかなり痛いよこれ。頭皮がギリギリ言ってるし。

相手サンはかなり短気と見た。ここで『何とか』とか言ったら、ボッコボコにされそうだな。マジで。





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