02
―その後ギャルたちが何曲か歌うも、微妙な雰囲気のままだった。
可愛い子ぶってアイドル曲なんか歌ってたって無駄、無駄。
「……っねえ!歌もいいけど、何か頼もうよ!」
見かねた女子のうちの一人がそう提案した。
「おっ、そうだねぇ。なに、飲む?」
「俺、ビール!」
「おい、お前車だろうが。烏龍茶にしとけって。」
「俺、飲みたいときは飲まなきゃ死んじゃうの!」
「馬鹿かお前。」
イケメンもノッてきた。どっと笑いが起こる。
私はそれをうすら笑いを貼りつけたまま眺めた。
…ふーん。話題転換したか。
とりあえずトークで女子特有のアピールをするつもりだろう。
男子を持ち上げて調子にのらし、自分の好意を何気なく伝えるパターン。
「あははっシンジくんおもしろーい!」
―ほらね。ちなみにおもしろいのはお前の顔だ、ギャル子。
さっき歌った曲がガン無視されて、結構堪えてるのが丸分かりだぞ。
「マジで?ミーコちゃんも可愛くておもしろいよ。俺、結構タイプかも。」
うん。これも合コン常套句。
やはりこの男ども、手慣れているな。
「ええ~っそんなことないですよぉっ。もうっ!」
ハイ、ぶりっ子ウザーイ。『もうっ』とか、いつの時代?ウケるんですけど~?
ハッと、脳内で思い切り笑い飛ばしてやる。
しかし少し面倒な展開だな。雰囲気が合コンに戻りかけだ。
他の2人もそろそろ狙いをしぼっているのか、ガンガン攻めているみたいだし。
……ふむ。どうするかな。
「那津は何飲む?」
―と、そこに私に呼びかける男が1人。
は?いきなり呼び捨て?なに、誰。
そう思って見ると例の3番目の男子だった。
…なんか何かと引っかかるなぁ、こいつ。
まあでも聞かれたなら返しますよ。今の私にベストな返答は……
「あ、オレンジジュースで。」
…これだろ。
――すると、
「は??」
男性陣は声を揃えて私に疑問符を投げかけた。
ナーイス、リアクション。
「え、何で?飲まないの?酒、超強そうじゃん?」
と、彼らの一人が私を覗きこんで聞いてくる。
何の決めつけだ。しかも結構気安く話しかけるようになってきたな。
次いで別の人も声をかけてくる。
「もしかして、車で来たとか?俺が送るから大丈夫ですよ?」
わー、紳士だこの人。でもここは譲れないんですよね。
「…いや、だって未成年だし。」
…ねぇ?
きょとん、とした表情をつくって言ってやる。
すると、
「ええ!??」
一瞬空気が固まったかと思えば、今度はさらに大量の疑問符を送られた。
しかしそれを聞いて、女子たちがこれ見よがしと棘を刺してくる。
「えーナツ、ノリ悪ーい。こういうのは飲む所でしょぉ?」
ニヤニヤ笑う彼女らは『ふっ、失敗したな!』と言外に語っている。
バカめ。これも作戦の内なのさ。
「ダメなの!」
タイミングを計り、私は突発的に立ち上がる。
「お酒は満ハタチになってから、というじいちゃんの教えなんだ!私が破るわけにはいかない!!」
――再び、室内は笑い声に包まれた。
うん、中々のウケだ。
「っ何だよ!何者なんだよ、お前のじいちゃん!」
「力説しすぎだろ。漫画のキャラみたい。」
「え、じゃあいつ20歳になるのー?」
「お。聞くからには誕生日プレゼントを用意してくれるわけで?」
「あ、やっぱいいわ。」
また爆笑の渦が巻き起こった。
…今日のメンツはノリがよくて助かる。おかげでなんとか巻き返せた。やっぱこういう明るい空気じゃねぇとなー。
ちらっと後ろを向くと、女どもは一応笑顔をつくっているものの目はこっちを睨んでやがる。
その顔やばいよ?ボロを出しちゃまずいんじゃないの?
まーいいけどさ。君らの心配なんてしてないし。
私は私で、好き勝手やるから。
「っしゃーーっ次はアニソンだぁあーー!!」
「待ってましたー!」
「ナッちゃん、カッコイイー!」
お酒も入って皆の頭がゆるくなってきた頃。完全に私ペースの合コンが繰り広げられる。
合コンってよりも、もはや宴会のノリだ。
男性陣も何曲か歌った後は私にマイクを譲ってくれたので、私は自由に歌う・笑かす・盛り上げる。
まさに FREE☆DOM!!
ノリノリで歌い終わり、次は何にしようかと曲を選ぼうと――
「…………。」
すると突然、女性陣がガタッと無言で席から立ち上がった。
男性陣は女性陣を見上げ、私もデンモクを置いて3人を見た。
ああ来たか。そろそろだと思ったよ。
「ちょっとー、私たちお手洗いに行ってきまーす。」
「皆、歌っててねー。」
ギャル3人は私の腕を掴んで(半端なく痛い)部屋から連れ出した。カラオケ開始から約2時間半……まぁ、潮時だろう。
ガタンッ バンッ!!
トイレに入るや否や、いきなりドアに叩きつけられた。派手に頭と背中を打つ。
…痛いな。予想はしていたけども。
「あんた、何様のつもり?」
ものすっごく低い声でそう言って私を睨みつけるギャルその1。
おーコワ、これが本性ですかー。
「何様って…ただ普通に歌ってただけだけど。」
しれっとそう言ってみる。…火に油をそそぐな、このセリフ。
「そうじゃねぇよ!何目立ってんだって聞いてんだよ!」
ホラ、ね。まさに鬼のような形相のギャルその2。
…化粧落ちてんの、言った方がいいかな。黒い涙みたいになってんだけど。
「ホーント、騙されたわ。あんた、実は男好きだったんだね。あんな風にチヤホヤされて、うれしかった?えぇ?」
ギャルその3に髪を引っ張られる。
ちょ、毛根が傷つくからヤメテー。
―なんて、私の脳内で展開されていることは欠片も知らない彼女ら。
しかしそろそろ終わらせよう、と、私は怯えたような顔を作り上目使いに見ながら言った。
「ゴ…ゴメン!気に障ったなら謝るよ……。私、今日バイトあるし、もう帰る!これならいいでしょ?」
本当にすまなさそうな顔を作り、手を前でくっつける。
ちょっと声を震わせるのもポイントだ。満点だろ?どうよ。
「…フン!じゃあとっとと帰れ!」
「席ついたらすぐに店出てってよね!」
「割り勘、2000円でいいわ。今払って。」
予想通り私の演技にコロッと騙されたギャルたち。難なく成功だ。
お金も今払うらしいしますますラッキー、てなもんだ。
――さて、私の道化もここらで終了と行こうかね。
「遅いよー、ナツちゃん。次、君の曲だよ。」
戻ってきて一番に一人の男性にそう言われた。
…思えばこの人たちにもすまないことをしたな。合コンに来たはずが宴会につき合わせて。
まあ今日のことはさっぱりと忘れて、次回頑張ってくだせい。
「ゴメン!それ、演奏停止にしといていいよ!今日、今からバイトあるの、忘れててさ!」
「えー、もう帰んの?」
「うん…ごめん。後は皆で楽しんで!」
本当にすまなそうな顔(パート2)を作ると、男性陣も承諾してくれた。
「あ~じゃあ、しょうがないね…。」
「気をつけて帰りなよ。」
…イケメンズのみなさま。温かい言葉をありがとう。
「え~マジ残念~。」
「じゃあねぇ、ナツ。」
…ギャルズのみなさま。全く心のこもってないむしろ殺意のこもったセリフをありがとう。
私は静かにドアを閉め、カラオケ屋を後にした。
外に出ると辺りはもうすっかり暗くなっていて肌寒かった。
私は新鮮な空気を目いっぱい吸い込んでは、吐く。
ひと段落。
そして数歩歩いたところで後ろを振り向き、ほくそ笑んだ。
「…さて、今頃は気まずい雰囲気だろうな。もうすぐ解散かもねえ。」
背をむけて私は夜の街の中に消えた。