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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
37/126

夕暮れの来客




「―ったく、いつアイツに出くわすか分からないのに、何でわざわざ水族館に戻るんだよ…」

「いいじゃん。修羅場起こったって、私には関係ない話なんだし。

それに、料金分は楽しまなきゃ損でしょ?」


あと3年はここ来なくてもいいように、堪能しなきゃ。


「……なんか、違くね?その価値観。」


――と、いうワケで。私と国崎は再び館内に戻った。

そして、


「…次、蟹見よう、カニ。普段めったに食べれないし。」

「いや、だからどっか視点おかしいって、ソレ。」


私は朝のときと同じように彼を引っ張って、次から次へとコーナーを回った。国崎も何も言わずついてきてくれるので、それに大いに甘える。


――クラゲ、サメ、熱帯魚、カメ、ヒトデ……

様々な海の仲間たちを見ていると、心が和んだ。日ごろのささくれだった気持ちも癒されるような………


「……すでに腹が真っ黒なお前はどうやっても改善されねぇだろ。」

「そのセリフ、そっくりそのまま返すわ、…エスパー君。」


ジロリ、と引きつった笑みとともに国崎を見返す。

…人がせっかくいい気持ちになってるのに、まぁた心を読みやがって。だから私にもコツを教えてよね、コツを。



―――

――



―それから、約2時間ちょっと経過。


「……大体、回ったな。そろそろ終わりにするか?」


国崎が、若干疲れた様子で呟く。


「…お、おーけー。じゃ、帰ろうか。」


…私の方も、すでに足が限界だ。長い時間歩き回っていたからか、激しく疲労している。

でも、これで、3年どころか5年は水族館来なくていいわ、私。


私たちはゆっくりと、水色のカーペットの上を出口に向かって歩きだした。歩きながら背筋を伸ばし、大きく伸びをする。


「…んー、満喫したなあ、水族館。」

「そりゃ、よかった。最後に土産でも見ていくか?」

「えー、面倒くさ。誰に?」

「アホ、今日の記念だって。」


国崎に小突かれながらも、せっかくなので最後に少々小さめのお土産コーナーへと、足を運んだ。


中では物色している人がまばらにいた。私もまじまじと1つ1つの商品を見ていく。

海の生物のマスコット、ぬいぐるみ、水族館のロゴ入りクッキー……

そんな類のものが棚の中に所狭しと並んでいるのを見渡す。


「スゴイねー、本物はあんなにグロいのに、こんなに可愛く商品化されてるよ。」

「それ、言うなよ。夢ブチ壊しじゃねぇか。」


…だって、そう思わない?魚がフツーこんな綺麗な青色してるワケ、無いからね?マンタとかもっとでかくてゴツいし、ツッコミいれたらキリないって。


―そのようなことを考えていると、何か見つけたらしい国崎に手招きされた。


「那津、那津。ちょっと、こっち来て。」

「む、何かあった?」


彼に近づくと。


――シャラ


「へ?」


何か、首に冷たい感触がした。……何、コレ?

不思議に思い、首元を見てみると、


「………ネックレス?」


――が、首にかかっていた。

トップは青いトルコ石のついた、シルバーのペンギン。中々品のいいデザインだ。


「あー、やっぱ青が似合うな、お前。」


あっけにとられている私とそのネックレスを見て、国崎は納得したように頷き、


「これください。」


買った。

……って、えっっ!!?


「ちょ、待てーいっ!!」


財布から金を出そうとするヤツの腕を慌てて掴み、制す。

―ちょ、君、なにしてんのさ!?


「……何だよ。」

「それ、コッチのセリフ!何、即決してんの?そして、このペンギンは誰用っ!?」


………まさか、私の、とか言うなよ。


「お前しかいないだろ。付けてるんだし。それは、那津の。」


…言ったよ、この男。

まったく意味の分からない私は、眉を曲げた。


「…は?何で?私、別にいらないんだけど。」


そもそも。オミヤゲって、普通ここに来ていない人に渡すもんだろ?

なのに、何故私に?…謎だ。何がしたいの?君は。


「あー、うるせぇ。俺が買ってやるって言ってんだよ。…スイマセン。このまま付けていくんで、袋いらないです。」


…っあーーっ!

私が結論出す前にアッサリ会計済ましてるしー!!

愕然とする私を尻目に国崎はさっさと財布をポケットにしまった。


「ほら、買ったから行くぞ。」


いつもと変わらず、涼しげに言う彼を、私はキッと睨みつける。


「っだから!買う意味が分かんないって!!今日、私の誕生日でも、何かの記念日でも無いし!」

「今日の記念、でいいだろ。」


…毎日が記念日~♪みたいなノリか?そんな散財してたら、すぐに破産するわー!!


「か、返すっ!」

「じゃ、ゴミ箱に直行するだけだけど?せっかく買ったのにソレはもったいないな。」

「――っ、…性格悪ぃ!!」

「何だ、今更気付いたのか?」


勝ち誇ったように綺麗な笑顔を見せるアホ男を見上げ、悔しまぎれに唇をかむ。


―そんなん、私がもらっとくしかないじゃん!!…新手のイジメか?オイ。

答えはもう分かってる、といった風にニヤニヤと笑う国崎が心底鬱陶しい。


―本当、イイ性格してるよな、君。

こんなに親の顔が見たくなったヤツは初めてだよ。


「…っち、もらうしかない、か………」


忌々しそうに首元で揺れるペンギンをつまむと、国崎は苦笑を返してきた。


「素直に受け取ればいいだろ。ホント、頑固だな。」

「うるせ、アホ。手の込んだイジメしてきやがって。」

「…せっかく買ってやったのに、イジメって何事だよ。」


――ほら、罪悪感を感じるとか、何かたくらんでるんじゃないかとか、そんな感じ。…ま、主に後者の理由だが。


しばらくああだこうだと言いあっていたが、ふと国崎は会話を切り、自分の腕時計をのぞいた。


「…そろそろ、バスが来るな。外出るか。」


そう言って、体を反転させて出口に向おうとするので、


「っ、ちょっと待って!…いや、外で待ってて!」


私は慌てて踵を返し店内に戻った。

こんなんじゃ、本当にただ貰っただけじゃん。貸し借りはナシにしとかないと、後がコワイ!!



――



数分後。


「―はい。」


水族館の外で腕を組みながら待っていた彼に、私は水色の小袋を突き出した。

国崎は一瞬驚いたようだったが、すぐに怪訝そうな顔を作り、私に疑問を投げかける。


「……なに、コレ。」

「お返しだよ。貰いっぱなしだと気分悪いし。」

「…そりゃ、どうも。」


国崎はフッと笑みをこぼしてソレを受け取った。

そして無造作に袋を開ける。


中身は――


「ストラップ……」

「無難でしょ?」


実用性はあると思うよ?

…もっとも、私は持ち物に装飾はつけない派だが。


私は得意げに彼とそのストラップを覗きこんだが、次の瞬間、彼のひと言に見事にフリーズした。


「……で、おそろい?可愛いとこあるな、意外に。」


なんと、

ニヤリと笑う国崎の手で揺れるストラップは、私の首元についてるペンギンと同じデザインであった。


…………


し く っ た !!!


わー!なに、この痛恨のミス!!なんで私、自分で自分を追い込んでんの!

適当に引っ掴んできたから(酷)どんなのか全然見てなかった!!


…これ、ヤバくない?

一緒に付けてんのみられた日にゃあ……瞬殺? …あ、即死?

マズイ。激しくマズイぞ。


「……あの、国崎さん。」

「返品、不可。」


…ですよねー。簡潔に反対してくれやがって。


「…じゃ、私コレ、はずしていい?」

「今日くらいは付けとけよ。」

「………それなら、国崎、そのストラップは付けないで…」

「何で?せっかくもらったんだから、普通につけるけど?」


………


「……もう、いいっす……」

「そうか?」


くす、と天使のようなほほ笑みを残して、国崎は早々とストラップを付けた携帯電話をポケットに突っ込んでいた。


…っだーー!!ホント、嫌がらせの神だな、君はっ!!

ちったあこっちの都合も考えてくれよ!


非常に…ひっじょーに、楽しく笑いなさる国崎を見て、私は諦めて肩を落とした。





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