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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
36/126

04




「……欲求不満、か。そうかもな。」


そう呟きながら、国崎はじりじりと私との距離を詰めて来る。

国崎と、バックに青空が視界に入った。


どっかで見たことあるような、責めるような眼差しを向けて近づいてくる彼に、私はいささか恐怖感を覚える。


――あ、やばい。なんか変なスイッチ入ったわ、こいつ。


「……な、なんだ!近づくなって!!」


私が1歩下がったら、ヤツはさらに1歩、前に出る。袋のねずみよろしく、どんどんと後退していく私。


「断る。」


何故、そこ断言するかなっ!


「――!き、君の下半身事情なんか知るかっ!そんなんで、人で遊ぶのもいい加減にしろよ!!」


…うあ、焦ってるからか、なんかもの凄いこと言ってしまった。これもう女のセリフじゃ、ないよね。

反省します。あとで、家で。


国崎は、流石にこれには驚いた様子を見せたが、クスクスと苦笑しながら、さらに数㎝、距離を縮めた。


「……女が下半身言うなよ。引かれるぞ?」

「っ、いいし!大いに引けっ!そんで戻ってくんな!!」


私はしっしっとヤツの顔の前で手を払った。


――まずい。まずいって。危険な状況だよ、これ。なんてったって、国崎、すげぇ悪い笑みを浮かべているし。

そろりとさらに後退したが、ついに壁に背中がついてしまった。途端、顔が凍りつく。


「………ね、那津。」


甘く囁かれるのと同時に、とうとう顔の左右に国崎の手が置かれた。


「っ、な、なにかっ!?」


顔同士の距離は、数㎝だ。こんだけ近かったら、相手のマツゲの本数数えれそう。


「…那津、」


だから、何。近づく彼の顔に、意味無く身体が火照ってきた。


……だって、仕方なくね?ああいうコトになった直後だから、おこがましくも意識してしまうのは当然なわけで……

それ差し引いても、こんな美しいお顔を間近で見て、気後れするのは自然だろうし……


……あーーっ!何言ってんの私!もうワケわかんないっ!!

とりあえず、色々と限界だってばーー!


頭の中でギャーギャーと騒ぐ私。だが男は全くそれにかまわず。

国崎はちょっと息を吐いてから口を開いた。



「……俺は――」



ぐううううぅうぅ………



……その時、盛大に腹の虫が、鳴いた。


――私の、お腹から。


「…………。」

「…………。」


…当然のごとく、空気が止まったよ。今までの艶やかな空間が、一瞬でブチ壊しに。


「……くっ…くくっ……」


国崎は3秒ほどあっけにとられていたが、眼鏡の奥で目をそらす私を見るなり、ノドの奥で笑いだした。

私もなんだか恥ずかしくなって、顔を俯かせる。


……笑うんなら、遠慮なく笑えばいいだろ。しょーがないじゃん!自然現象なんだからーっ!


「っ、ははっ……何だよその腹。タイミングが漫画みてぇ。」

「うるさい。お腹減ったんだよ。もうお昼過ぎなんだし。」


すると国崎は、ボソボソと呟きながらふてくされている私の頭の上にポンと手をのせ、


「じゃあ、飯にするか。俺も腹減った。」


私から離れて、茶色のペーパーバッグの中から買ったものを取り出し始めた。


……………


一瞬の間のあと、私はハッと我に返った。


……あ、よかった。これ、成功ルートだ。普段の国崎に戻った。私は脱力し、さっきの出来事から上手く脱したことを悟った。


―グッジョブ、私のお腹。とってもナイスなタイミングで鳴ってくれたな。



―――

――



店の前に設置されてあるベンチに座って、もくもくと昼飯を食べ進める私たち。


…ここのハンバーガー、コショウとマスタードがきいてて中々美味い。無心になってハンバーガーにかぶりついていると、横から国崎の声がした。


「腹減ってたんだろ。たくさん食えよ。」

「…や、さすがにこんなには無理。」

「そうか?」


いやいや、ちょっと量見てよ、量を。コイツ、どんだけ買ったんだ?

ハンバーガーの他にも、ポテト、ナゲット、シェイク……軽く3、4人分くらいはあるぞ。


私が食べる手を休め、ドリンクを飲んでいると、国崎の手が延ばされる。


「そんだけでいいのか?じゃ、後は俺が頂くけど。」


その提案に、私は目を見張る。国崎はすでにハンバーガー3コ、ポテト1コをたいらげているというのにまだ食べれるのか。


…君の胃袋、どうなってんの?異空間?そんなに食うのに、よく太らないな。


「…あぁ、どうぞどうぞ。私はもう食べれないから。」


国崎は『じゃあ』と言ってまたハンバーガーの包みを破る、

…見てるだけでハラいっぱいでーす。けぷ。



――



昼御飯があらかた(主に国崎の)胃におさまったところで、私はさっきの話の続きをし出す。


「…あー、そんで君。誰に追われてたの?」


…私にあんな口封じするくらいだ。余程の人物なんだろうな?彼は私をちらっと盗み見て、ポテトをつまみながらぼそっと答えた。


「ん。…元カノ。」

「へぇ、元カノ。……って、えぇっ!?」


思いよらない人物に、私は芸人バリのリアクションをとる。


――え、元彼女って……さっきの、国崎的に思いだしたくもない女っ!?

なんてHOTな話題だよ!タイミングいいな、おい!…や、悪いのか?この場合。


「……会ったの?」

「ああ、最悪なことに、さっきの店でバッタリ。」


私の問いに、国崎は苦々しげに答えた。…はー、そりゃ、無視できないわなー。残念でした。

しかしその顛末を聞きながら、私は軽く首をひねった。


「……でも、その人、何でわざわざ水族館に?」


フツー、ちょっと遊びに行こうと思ってチョイスするような場所じゃ、ないよね?水族館て。

どうにも理解できないその女の奇行に私は首を傾げるばかりだったが、国崎は最後の袋をくしゃっとつぶし、さらりとその疑問を解消してくれた。


「あーさっき思いだしたんだけど、去年の今日だったんだよな。アイツとのデート。」


……え。


「……それ、先に思いだしとけよ!!」


…それって、向こうは未練タラタラなパターンじゃんかあ!しかも、そんな日に私とデートなんかしてんじゃねぇーっ!最低!この男最低ですよ、皆さん!


私は少し国崎から離れ、じとっとした目つきで彼を見た。


「…国崎。君、いつか刺されるよ?」


全く、女泣かせな男だ。こんな無神経男と上手くいった彼女っているのか?


「…ま、気をつけとく。」


……否定は、しないのかい。


私はある種残念なイケメンを仰ぎ見て、やっぱりこいつムカつくなあ、と再認識した。





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