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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
35/126

03




―――

――



………ふぅ。なんとか、少しはマシになった…か?

数分後、ブラシを片手に髪を通常に戻した私は、洗面台の鏡を覗きこみついでに自分の顔を見た。


「……うわ、酷い顔。」


自分の顔にウケるって、どうなんだろ?思わず2度見しちゃったじゃないか。


ボサボサ(+α)の髪は相変わらずだが、目つきの悪い人相……に、若干目が黒ずんでないか?

さらに黒縁眼鏡がカゲを落とすせいで余計に暗くみえる。


……度重なる徹夜のせいだよなコレ。今度から回数減らさないとな、……週2くらいに。


……。私は無言で鏡の中の自分をまじまじと見る。そして思わず自嘲の笑みを浮かべてしまった。


…やー、しかし。この顔であの4人と一緒にいて、よく生きてこれたな、私。

こりゃー女子も怒るわけだ。私だって多分怒ると思うし。誰が見たって、こんな不細工、お断りだろう。


自分の中でそう自己完結した私は、しかし首を傾げる。


「……そんで国崎は、私なんかと遊んで、何が楽しいんだ?」


…最終的には、やっぱりそこに行き着いた。あとで本人に聞いてみるとするか。答えてくれる保証はないけど。



――



あまり待たせるのも悪いと思ったので、そこで思考を止め、女子トイレから出た。

そしてレジャー施設の隣だからか、やたら広い店内を見渡す。―さっと目を通すも、国崎の長身は中々見つからなかった。


――あいつは、どこ行った?


あんだけ目立つはずなのになんで見つからないんだ、と私は眉をひそめ、さらに奥へと足を進める。


―――すると、突然。


「っ那津!来いっ!!」

「…うぎゃっ!?」


どこからか、探していた国崎本人が現れ、私の手をとるなり風のごとく駆けだした。もう片方の手には、ハンバーガーの袋を持っているようだ。

…あ、ちなみにさっきパチモンの恐竜みたいな奇声あげたの、私ね。


変な鳴き声(?)まで上げてしまって顔を赤くする私。だが国崎は構わず店から私を引っ張りだした。

私をハンバーガーショップから連れ出したヤツは、店の裏口みたいなところに隠れ、辺りの様子をうかがう。

……珍しく、あせったような表情だ。そして……若干顔に浮かんでいるのは、…恐怖、か?


マジで切羽詰まっている様子だったが、何が起こっているのかワケの分からない私は、国崎に尋ねた。


「ちょ、国崎!どういうことだよ、いきなり店飛び出してっ!」

「うるせえ!静かにしないと見つかるだろ!」


――は、見つかる?何に。だから状況を説明しろよ。どんな展開?これ。


「…いや、意味分かんないって!見つかるって誰――」

「―っ、黙れっ!」


そして、一瞬。

揺れる茶髪が視界に入ったかと思うと、すぐさまお互いの唇が重なった。

私は、大きく目を見開く。


整った顔がすぐ近くに………ってか、距離、ゼロ。

柔らかい唇の感触に、どんどん体が熱くなる。


叫びようにも吐息ごと唇で包まれ、音を形作れず、離れようにも、いつの間にか壁に体を押しつけられていて、動けなかった。


―またも、国崎の独擅場だ。


目を閉じるヤツの顔が見れなくて、私のまぶたも自然と降りた。


――2回目。

そろそろ訴えた方がいいかな?


混乱しているにも関わらず、そんなどうでもいいことを考えながら、私はそのまま口を塞がれたままでいた。



するとしばらくして。近くで、足音が聞こえた。バタバタと忙しそうに走っている足音が。

―その音はだんだん遠ざかり、ついに聞こえなくなった。



………。


――今のが、国崎が追われてたっぽい人か?いなくなったようだけど。


………あ、じゃあそろそろ私、解放されるんじゃ……


なんて、ほっと一息(つけないけど)ついて安堵していたら、


「……!むっ?んんっ!?」


いきなり、なにか柔らかいモノが私の口を割って侵入してきた。


――舌、だ。国崎の。


そう気付いた時には、すでに私の舌は彼のに絡め取られていて、いっそうキスを深くされた。舌が自由に動き回り、私の口内を犯していく。


「……ふっ…、…あ…」


時々漏れる自分のものとは思えない声が、クソ恥ずい。さらに、体温上昇だ。

完全にオーバーヒートした頭はもはや使い物にならず、何も考えられなくなった。


「―っ、」


――国崎、国崎。頼むから、解放してくれよ。

熱い。

どこもかしこも熱すぎて、多分、体のどっかが溶ける。


すがるものが欲しくなったのか知らないが、自分でも気付かぬうちに国崎の服をぎゅっと掴んでいた。



――



何分経っただろう。もう1時間はこうしている気がする。…実際には数分だろうが。

ゆっくりと国崎の唇が離れ、ようやく私は自由になった。


2人とも、息が荒い。肺呼吸を忘れてしまったかのように、なかなか上手く息を吸えない。

しかも、彼が離れた瞬間、支えを失った私は、ずずっと地面にへたりこんでしまった。


「……はぁ、…はっ……」


私は大きく胸を上下させて、何とか肺に酸素を送り込む。


…いかん。言いたいことが山ほどあるのにしゃべれない。

――キスすると、体まで不自由になるのか?厄介な。


「……行った、な。」


それに対し、早くも息を上手く整えたらしい国崎は、何事もなかったように後方を見つめ、呟いた。


―何故にコイツは、こんな平然としているんだ……!?


「……っ、くに……さき…」

「ゆっくり深呼吸してから、言え。辛いだろ。」


誰のせいだ、誰のーっ!

私は不服そうな表情を作って見せたが、大人しくヤツの言う通り空気を体に取り込むことに専念した。


――酸素って、大事だよね、うん。最近、特にそう思うよ。

…主に、このカス男のおかげで。


――しばらくして、ようやく息を整えた私は、膝を立てて立ち上がった。


「……ふう、国崎。聞きたいことが、2、3あるんだが……」

「何。」


『何』じゃねぇよ。わざとらしいわ。


「何で……その、キス…した?」


言いながら、顔が勝手に赤く染まっていくのが分かる。自分で感じるくらいだから、傍からみたらもっとヒドイだろう。


――くっ、なんでヤラレタ側の私がこんなに恥ずかしいんだっ!

いや、国崎に羞恥心がないだけか?…君はもっと『恥』というものを学ぶべきだ、ゼッタイ。


「……何でって。那津が静かにしないから。」

「いやっ!だったら手で口塞ぐとか、他に手段あっただろ!」

「手、塞がってたし?」


言いながら、国崎は両手を上げた。

右は彼の鞄、左は茶色のペーパーバッグ、店のロゴ入り。


「~~!」

「俺もあせってたから、咄嗟に顔近付けちゃったんだよな。」


しょうがないな、とわざとらしく顔を傾ける国崎。

―だから、君の過失はゼロだって?んなワケ、ないだろ。咄嗟に体より口が先に出るとか、貴様の身体はどういう構造だ?


私はギリッと歯ぎしりしながら、ヤツを見上げた。


「………。」

「………。」


だが、相手には弁解も謝罪も無いらしい。無言のまま私を見てきた。

…こんなんじゃ、話が進まないな。あくまで自分は悪くないとか言うつもりかい。ガキが。

私は嘆息した。


「…………もう、いい。1000000歩譲って、それは事故だったとしよう。」

「…事故、じゃねぇけど。」

「いいの!そういうことにしとけっ!そこで、2つ目の質問だが……舌まで入れる必要が、どこにあった?」


私は聞いたぞ。

君さ、謎の足音が聞こえなくなってから、わざとヤリやがったよな??

アレ、確実不要だったよな?どうなんだ、オイ!?答えろ国崎!


ギロっと彼を責めるように睨む私。


―するとヤツは、

奇想天外な回答をよこしなさった。


「……んー、せっかくだから?」


何の記念んんーーっ!!?そして疑問形ー?


流石にこれには怒った私。国崎に掴みかかり、激しくしゃべった。


「おい!またお得意のなんとなく、か!?」


冗談じゃない。実はチャラ男か?君っ!?


「いや、なんか止まらなくてさ。」


黙れカス。表現が生々しいわ。


「君の欲求不満に、人を付き合わすんじゃないっ!」


続けて、ギャーギャーと節制だのマナーだのを言いまくる。が、

数分ほど叫んだ後、国崎はヤレヤレって感じで肩をすくめ、

―ガラリと雰囲気を変えて、私を鋭い目で睨んできた。


私も、ただならぬヤツのオーラに身をすくませる。


――何だよ。


その激しい眼差しに、騒ぐのをやめ反射的に後ずさった。





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