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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
34/126

02




―――

――



「――はっ、ここまでっ来れば、いいんじゃない?」

「そうだな。だいぶ走ったし。」


公園を抜け、さらに5、6分ほど走った私たち。今はバス停横のベンチに2人、座りこんでいる。


「……お前、息切らしすぎ。」

「は、…うるせっ。」


そう、コイツは私と同じ距離を走っていたにも関わらず、息ひとつ乱していない。対する私は、無様に深呼吸を繰り返す。……体力無いんだって。


――しばらく座っていると、ようやく息も整ってきた。家から持ってきた水を口に含みながら、隣の男をチラリと見る。


――うん。相変わらず、キレーな顔してやがる。

麗奈さんも絶賛のシャープな顔立ち、ダメージジーンズも履きこなす長い足、案外ついてる筋肉。


第一印象、花マルだもんなー。こりゃ、モテるわけよな。

そう思って、遠い目をしていると、国崎が私に視線を合わせてきた。


「……どーした?さっきから人の顔をジロジロ見て。」

「…んー、いや、君はモテるなーと思って。」


世の中は不公平だな。この男はDNAから何か違うんじゃないか?


「……別に、んな大したことはねぇよ。」

「はー、あれで大したことないとか言うんだ。スゴイねー。」

「ケンカ売ってんのか。」


苦笑する国崎は、ゆるく私の頭にげんこつを落とした。ひゃ、ゴメン。怒んないでー。


「………でもさ、君の彼女になる子は、大変だよねー。」


私が何気なく言ったひとことに、しばらく笑いながらじゃれていた国崎が、ピタリと動きを止める。

……しかし、彼の少しの変化に、私は気付かない。


「…何で。」

「や、だってさー。よっぽどの美人じゃなきゃ、釣り合わないでしょ、実際。」


例えば麗奈さんとか。一緒に並んでて、ビジュアルが堪えられるくらいの美女じゃなきゃねえ。


「女子って、自分が勝てると思った相手は徹底的に蹴落としにかかるからさ。彼女になる女の子、精神的にも強くないとねー。」


他人事みたいに、カラカラと笑う。


―あーでも、そう考えたら中々恋人できないよね、国崎。もしくは続かない、とか。

私は並み以下の一般ピーポーで助かったよ、うん。


「……そう、か…」


はあ、とため息をつかれた。


「そんな落ち込むなよ。君ならすぐにキレイな恋人が見つかるって。」

「…いや、そうじゃねぇよ。」


そう言って、もう一回ため息を吐く国崎。

…?なんだあ?


「……あ、それで結局どこ行くことにしたの?」


少し疑問に思ったものの、こんな話ばっかりしてても重いので、私はさっと話題を転換した。


「あぁ、水族館。この近くにあるから。」


国崎の方ももう気にしていないのか、何気なく返ってきた返答。

――まさかのaquarium。ぶっちゃけ、意外だな。


「……へぇ、何年ぶりかな、そんなの。何で行くの?」

「このバス。20分くらいで着くから。」


彼がそう言うと同時に、バスが停留所に停まった。

……タイミング、いいな。最近のバスは空気も読む仕様なのか。(違)



―――

――



今日は、日曜日。休日。―故にバス内は大変混雑していた。

座れる座席はもちろん無く、私も国崎も立ったままだ。


……これで20分、か。キツイな……


吊革にしがみつき、バスの入り口付近で振動に耐える。

…くぅ。こういう時、もっと手足が長けりゃなあ……隣で悠々と立っていられるヤツが、憎らしいぜ。


国崎を恨めしげに下から見上げていると、ふとヤツと目が合った。そして、くすっと笑われる。


「…立ってるの、きつい?」

「いや、別に…。バスとか久々に乗ったから。」


図星なクセに、なんだか悔しくなった私は、フイと目線をそらした。


すると。


「――!?」


ぎゅっと、国崎の腕が、後ろから私の腰にまわされた。背中をヤツの胸に預けているような格好になる。


「……ちょっ、何してんの。」

「ん、別に。こうした方が楽だろ。」


国崎はそう言って、自然に私の頭に顎をのせてくる。

……や、確かに楽だよ。もたれられるから、楽ではあるけど。…そういう問題じゃ、ねぇし。


「…違う。あのねぇ、前も言った気がするけど、こういうのって軽々しくするもんじゃ…

「那津、いいにおいする。なにコレ?」


………。相変わらず人の話をきかねぇな。国崎は。

ちょっとは聞いてくれてもいいだろ。空しいんだけど……心が。


「………におい?あー、あれかな。香水。」


ダメだこりゃ、と脱力しながらも質問に答える。


「香水?そんなんつけるんだ、お前。」

「失礼な。…ま、私のじゃないけど。」

「…もらいモン?誰から?」

「麗奈さん、……君が振った。」


そこで、国崎は若干渋い顔をした。


「……ふーん。つか、そんなこといつまでも引っ張るんじゃねぇよ。」


引っ張るよ。


「まだ諦めてないっぽいからな、彼女。今度はちゃんと相手してあげなよ?」

「………はあ。」


また、ため息かよ。今日3回目じゃん。…何悩んでんだろ?こいつ。


「……?ま、いいや。とにかく、腕どけて。」

「あと、15分くらいだろ。このままで、いい。」


…それ、君が決めることじゃ、無いだろ。


―だが結局、国崎が私を離すことは無く、水族館に着くまでこの体勢は変わらなかった。



―――

――



「おーーっ。魚おいしそーっ。」

「オイ、水族館でそれは禁句だろ。」


暑苦しいバスから降り、広々とした大きな空間=水族館に足を踏み入れた私たち。


様々な大きさの透明な水槽、薄い水色に統一された館内、うごめく海の生物。

すべてが、日常とは違う、カンペキな別世界へと客を誘う。


――ホント、なんか久しぶりだ。中学…いや、小学生以来か。水族館なんか来るの。

でも、子供のころとは違った視点で見れて面白い。

私は年甲斐もなくハシャギまわり、次々と展示物や動物を見て回った。


「……楽しいか?」


ペンギンに目を奪われている時に、隣にいた国崎に話しかけられた。

私はくるっと彼の方を向くと、にこりと笑って頷く。


「うん、楽しい。ここに引っ越してきて1年少し経つけど、こんなトコがあるなんて知らなかったよ。」


「都心から少しはずれてるからな。俺も、来たの2回目。」


へぇ。


「1回目は、彼女とのデートだったり?」

「………さあ?」


……図星だな。その絶妙に空いた間が、すべてを物語っている。

…ま、別にどーでもいいけど、知ったからには深く聞いとこうかな?


「…じゃ、ちょっと複雑な心境じゃない?『ここに来ると、アイツを思い出す』とか、ならないワケ?」

「――だから別に女と来たとか言って、「違うの?」

「…………。」


私が意地悪く問い詰めると、彼は、ちょっと気まずそうな顔を作った。


―くく。またいつもとは違う国崎だ。おもしろい。


にまにまと笑う私にたじろぐ国崎。

彼は何やら言い訳を考えているようだったが、やがて諦めたように頭をがしがしと掻いた。


「~そうだけど。でも、そいつとはすぐ終わったからな。むしろ、思い出したくもない。」

「へえ。」


―お。ついに認めたな。正直なのはいいと思うよ、うん。

――しかし、こいつにそこまで言わせるとは、何者だ?その女。余程すごい人格の持ち主なんだろうな?


「で、どんな女の子だったの?」


その人、目指そうかな私。目を輝かせて、わくわくして聞く。

しかし、


「……お前には関係ナイだろ。次、行こうぜ。」


国崎は本当に触れてほしくないらしく、それから何度話を振っても答えてくれなかった。


………このケチ男ー。



―――

――



イルカショーを見たところでちょうどお昼時になったので、水族館に隣接するハンバーガーショップに行くことにした。


快晴の中、国崎と2人、歩く。


「っはーー。なんかめっちゃ水しぶきかかった……。」


ずぶぬれなんですけど。…あのイルカ、やりおる。


私の髪からポタポタと滴がおちて、乾いた地面にしみを作った。


「いいじゃん。動物に好かれてるってことで。」


水もしたたるいい女の私を見下し、ヤツの方は楽しそうに笑っている。……隣に座っていたハズの国崎は、全くの無事だったりする。―何だろ、この差。


「……でも、こんなんじゃ店、入れないよ。」


でっかいタオルでも常備しときゃよかったなー。いくら天気がいいとはいえ、すぐには乾かないだろうし。


ふむ、と困り顔を作る私に対し、国崎さんはニヤリと嫌~な笑顔を見せた。

あ、これやべぇ。―と思ったときにはすでに遅し。


「じゃ、俺が拭いてやるよ♪」


ばふっっ


素早く私の後ろに回ると、自分のミニタオルを私の頭にかぶせてきやがった。そしてわしゃわしゃと濡れた髪をかき混ぜられる。


……いや、『♪』ってなに!?君のキャラじゃねぇだろっ!


「っぶは、やめろって!自分でやるからぁーー!」


やーめーれー!ただでさえボサボサの頭がもっと酷いことにぃ!


「遠慮すんな。」


1ミリもしてない!


私は頑張って逃げたが肩をがっちりと掴まれてしまったので、結局、彼にされるがままになってしまった。

………っち。もっと身長高けりゃよかったのに。…あと、手足。学生時代、成長が手ぇ抜いたな。


「……ほら、乾いたぞ。完璧。」

「…どこが。」


―国崎が手を離したとき、やはり髪の毛がもっさもさになっていた。なんつーか、寝ぐせが3くらいレベルアップしたような感じ?…んー、うまく言えないな。


―とにかく、かつてないボリュームに驚きだぜ。どうしてくれんだ、テメェ。

仏頂面で睨むと、不謹慎にも、ヤツは大笑いして下さった。


「ぷっ…ははははっ!!面白ぇなその髪型!斬新でいいんじゃね?」


黙れボケ。指さして笑うな。斬新すぎて、もはや誰も着いて来れないよ?コレ。


「……うぜぇ。国崎、私トイレ行って直してくるから、適当に注文して席とっとけ。」


私は苛立ったまま店内に入ると、すぐにトイレに向かった。

……流石の私も、コレは恥ずかしい。とっととクシでとかしてこよう。






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