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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
33/126

デートに危険はつきもの




「……………っっ!!?」


…おはようございます。本城那津でございます。


目が覚めたら、何故か見知らぬ部屋で寝ておりまして。隣には、……なんと国崎もいるわけですよ、至近距離で。目を開けたら、ヤツのドアップ。


何事なの、コレ。


―まだ、脳内のセーブデータが正常にロードされてない状態だったので、私はベッドの中で、声にならない声で叫んでしまった。

……人間て、本当に驚いたときは声、出ないんだよ?知ってた?


「……えーと、なんで、こんなことになってんの?」


たっぷり3拍ほど間を空け、私は疑問を口に出した。

…ロードには、まだ時間がかかるらしい。頭はだんだんはっきりしてきたが、まだ、半記憶喪失状態だ。


…オーケイ。じゃ、冷静に考えてみよう。まずは、昨日の記憶から辿ろうか。


…えっとー

斎藤ん家行ってー、麗奈さんの話してー、鍋を5人で食べた。

うん、ここまでは、よし。問題ない。


そんで……帰ろうとしたら、国崎も出てきて、無理矢理部屋まで連れてかれて……ベッドに倒されて?

で、国崎の野郎が私を抱いたまま、寝た、と。

…………。……なんだ。要するに……


100%、この男のせいだ。


私は息を目いっぱい吸い込んだ。


「……おっきろぉおお!!!このクソボケがぁあっ!!」



―――

――



「……あー、なんかまだ耳鳴りがすんだけど。」

「自業自得だから。私のせいじゃないから。」


隣で耳を押さえる男を見ずに私は憮然と言い放つ。

…恨めしそうに睨むんじゃねぇ。私を恨むのは、お角違いだ。


シャコシャコと、鏡の前で国崎と並んで歯を磨く。私は、ヤツのストックしていた歯ブラシをもらって。

…後で返さないとな。薬局行って買っておこう。


歯を磨きながら、私は室内を見回した。―…にしても、綺麗な洗面所だ。

余計なものが置かれてないからか、やたら広く感じる。

キチンと掃除もしてあるようで、もしかすると、私の家よりキレイかも………


…いや、考えるの、止めよ。女としてのプライドが傷つく。



「……そういや、那津。どこ行きたい?」


口をゆすぐ私に、未だに目が眠そうな国崎が尋ねた。


「どこって……、何の話?」

「もう忘れたのかよ、…デートだよ、デート。」


……。

……あ!そんな恐ろしい約束、してたっけか。ゴメン、リアルに忘れてたわ。


「あ、やっぱそれ、無しってことには…「朝一番だけど、キスしてあげよっか。」


―げ!


「…すいません。」

「別に、俺はいいけど?歯ぁ磨いたばっかだし。それとも、こないだのキスマーク、上書きしてあげようか?」

「すいません。もう言いません。許して下さい。」


勢いよくまくしたてる私に、国崎は『そうか、残念だな』と白々しく呟いた。


…うはー、朝から平謝りとか、疲れる。…コンニャロ、どこまでSなんだよ。うちの兄といい勝負だ。

げんなりと肩を落とす私。ああ、なんか急に老けた気がする。


「で、どこ行く?」

「…………。」


まだ言ってんのか。

私は仏頂面で歯ブラシを置いて、国崎の方を振り向く。


「…はぁ、どこでもいいってば。つか、どっか遊びに行くんなら他の3人も誘えばいいんじゃないの?」

「……んなの、デートじゃねぇだろ。俺は2人がいいの。」


私がそう聞くと、国崎はちょっとふて腐れたような顔を作った。

…うーん、デートにこだわるなあ、この人。私としては、複数人いた方がいいんだけどな。


―しかし、まあデートと言ったのは私だし。

仕方ないか、とまた肩を落とす。


「…分かった。場所は国崎が決めてくれていいよ。」


…まあ、いいや。1回くらいは、付き合ってやってもいいか。


……なんか、君ら4人と絡むようになってから、私、諦念を覚えたような気がするよ。

それがいいのやら、悪いのやら。



―――

――



それから身支度を済ませた私は、玄関先に立った。


「じゃ、帰るから。おじゃましました。」

「…送ってくって、言ってんのに。」

「いらん。たまには電車で帰らせろ。ガソリン代とか請求されても敵わないし。」

「そんなケチくせーこと、しないっての。」


国崎は笑いながら、私を入口まで見送る。…別に付いて来なくてもいいのに。

靴を履き、鞄をかついで扉から外に出ようとすると、


「あ、ちょっと待て。」


思いだしたかのように、国崎に呼びとめられた。


「……何。」

「日曜、朝9時に、R広場な。」


日時と場所?へえ、もう決めたのか。気の早いこった。


「……9時?早くない?私、寝坊するかも。」


遊び心でニヤニヤしながら、いちゃもんをつけてみると、


「じゃ、家まで迎えに行こうか?」


国崎もニヤニヤしながら返してきた。


「……ヤメロ。私が悪かった。」


うぐぐ、撃沈。

…やっぱり国崎には、口では敵わないな。ちくしょう。


なんか悔しくなった私は、最後に出来る限りの笑みを作り、


「じゃあ、楽しみにしてる。」


デートっつーことで彼女特有のセリフを吐いて、

そのままドアを開け、外に飛び出した。…ま、俗に言う、言い逃げだ。


……。

………やっぱ、ちょっとキモかったかな?気分悪くしたんなら、後で謝っとこう。自分の笑顔なんて、絶対ヤバい映像だよなあ………

ごめん、国崎。劇物見せたかもしれない。

私はエレベーターに乗りながら、今しがたの行動を軽く後悔した。


「~!…わざとだって、分かってんのに……っ」


――顔を手で覆い、苛立つ男に、実は違う意味で効果があったなんて、知らずに。



――――

―――

――



そして。ついに来ちゃいました、日曜日。


……いやー、出来れば、一生来てほしくなかったんだけど。

時ってのは残酷だな。飛ぶように過ぎ去って行きましたよ。


――時刻は9時ちょっと前。私は近所にある、R広場に向かってゆっくり歩いていた。

天気は、快晴。親子連れや、カップルが楽しそうに遊んでいるのが見える。


…そういや、国崎はどこで遊ぶつもりなのかな?ここか?

確かに金はかからなくていいが……私は、そんなアウトドア派じゃないってば。

ぼんやりと考えながらさらに歩き、中央の噴水のところまでたどり着く、と。


「うわー。やっぱ群れてんなあ……」


目印のごとく、女子の群が集中している箇所が。

おそらく……いや、多分間違いなく、国崎はあの中心にいることだろう。

ったく、どこ行っても人騒がせなヤツだ。


……あそこまで行くの、メンドいな。帰っていいかな?

私は舌打ちを打って、心の中でそんなことを思う。


だが、集団に突っ込んでいく勇気などあるはずも無く。

――とりあえず傍観を決め込んだ私は、集団から若干離れたベンチに座り、成り行きを見守った。

ふむ。減るどころか、だんだん増えていってるな、人数。スゲーな~。


……あ、そうだ。


女子の群に目を落としているとふと名案が浮かぶ。


―あん中の1人、もしくは数人が強引に国崎を誘ってどっか行ってくれればいいんじゃないか?

そうすれば今回のデート帳消し?


やったね。今日は1日暇になるじゃん。

国崎には、「君、いなかったよ。」とでも言っておけばカンペキ―――……


「……那津、何やってんだよ。」


ニヤリと笑いながらガッツポーズしていると、背後から黒い影がかぶさった。

ふっと目線を上げると、何か色々頑張ったらしい国崎の、息せき切った姿。


「ちっ、もう出てきやがったか。」


振り切るの早すぎだ、君。


「何だ、その悔しそうな顔。居るなら助けろよ。」

「ヤダ。そんな勇気は持ち合わせてないから。」


とてもデートで待ち合わせをしていた男女には思えないくらい、険悪な空気を醸し出す私と国崎。

睨みあいながらギスギスした会話を繰り広げていると、


「ねえ、おにいさん。」


さっきまでヤツに群れていた女子軍が、背後に。

………うげ、嫌な予感。


「ちょっとー、オニーさん!そんな女放っといて、ウチらと遊ぼうって!!」

「いい店知ってるの。奢ってあげるから、いらっしゃいよ。」

「うわー。カッコイイなあ、君。芸能事務所の者だけど、よかったら――」

「誰ー?このブス。あなたの知り合い?」


ワイワイ、ギャーギャーと騒ぐ女子たち。もう誰が何を言っているのか、聖徳太子すらお手上げ状態だ。


……わー予想通り過ぎて笑えねー、この状況。しかも女子高生から、推定30代のマダムまで、オールジャンルじゃん。ヤベェな、流石国崎。スペック半端ねぇ。


「……逃げるぞ。」

「了解。」


迫りくる乙女と言う名の兵器たちを前に、流石に私たちの意見は合致した。


くるりと彼女らに背を向けるや否や、一目散に公園の出口を目指して突っ走った。





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