閑話そのいち
閑話です。主人公視点ではありません。
閑話1
―――ムク。
「……寝た、か。」
夜もだいぶ更けた頃。一寸前まで暴れていた女が静かになったころを見計らって、男は起き出す。
そして自分の胸の上で女が、完全に眠りに堕ちたことを確認する。
男は腕の中にいる彼女を大事そうに抱え、月明かりを頼りにその顔を覗き見た。
「………。」
女は安らかに眠っていた。何の心配事も無さそうな、平和な寝姿。
彼は彼女の普段とは違う幼い寝顔にふと笑みをこぼし、目を細めた。そして無言で顔を近づけ、彼女の額に口唇を落とす。
次にこめかみ、頬、鼻。
静かに味わうようにキスの雨を降らせる。
男の表情は室内が暗いせいで、全く見えない。
「……はっ、情けねぇな俺も。」
男はかすれた声で呟いて、自嘲気味に苦笑を漏らす。
最後に女の口唇にキスをし、再び夢の中にいる彼女の細い体を抱き締めた。
「…那津。お前はどうすれば手に入る?」
1人の男の、普段は口に出すことのない心の葛藤。
それは誰にも聞かれること無く、暗闇に溶けていった。
閑話2
~そのころの3人の男たちの会話~
「―しっかしなあ……アレは酷いでしょ、ナッちゃん。聖悟が可哀想に思えたもん、俺。」
「目に見えて凹んでたねー、あいつ。」
「…というか、俺にはわざと聖悟を怒らせてるようにしか思えないんですけどね。」
「でも本人自覚なしなんでしょ?…聖悟、完璧に脈ナシって、20年生きてきて、初じゃない?」
「…ま、1度くらいは痛い目あった方がいいって。あいつはいつもモテてばっかだもんな。」
「僻んでるだけでしょう、信二。」
「っ違ぇよ!俺は聖悟のためを思って、だな……」
「分かった分かった。でも余計なことはしちゃダメだよ?聖悟は自分でなんとかしないと。」
「そうですね。ナツさんは絶対手強いですからそう簡単にオチるわけありませんが…手を貸しちゃ、意味ありませんから。」
「だよね。…でもさ、ああやって必死な姿の聖悟も、萌えるよね~。」
「………おい、宏樹。もしかして、未だに狙ってんのか?」
「ん~手は出さないよ~。あわよくばコッチ来ないかな、とは思ってるけど。」
「………。」
「………。」