04
――まあ、とりあえずヤツは放置しておくことにした。
お茶うけの菓子を食いながら、私たちは4人で話を続ける。
「それでさ、麗奈ちゃんがいなくなった後はどうすんのー?」
水谷がポテチをパリパリと口に運びながら、聞いて来た。
「ん、ああ、それなんだけど、君たち大学内では話しかけ
「却下。」
…最後まで言ってないのに。つか、君ら息合いすぎ。
ぶう、とむくれていると、乾が何気なく私の方を向き、提案をしてきた。
「別に、俺たちでナツさんを守ってあげれば済む話じゃないですか?」
…はー?んなクサイ言葉、素面で言うなよな、乾。
なに、王子様とか、騎士さまとか?……アホらし。
「いや、遠慮します。むしろ近づくな。危険だから。」
私は全力で拒否って、プイと顔をそむけた。
「もう。大人しく守られてりゃいいじゃんか。そのポジションって、普通、女の子のアコガレじゃないの?」
私の反応に、水谷も不服そうに口を尖らす。
――私は普通じゃないらしいからな。残念ながら。
「…いいんだって。君らは女子の怖さ知らないでしょ。守られる方が苦痛なのよ、こっちとしては。」
そうきっぱりと言い終えると、男子全員に、盛大にため息をつかれた。
「………はぁ、ホント、ナツちゃんって……」
「頑固。」
「意地っ張り。」
「腹黒。」
うるせぇ。
「あー、ハイハイ。何とでも言え。…じゃあ、話はそんだけだから。私、帰るね。」
寒い笑顔を貼りつけながら適当にあしらった後、足に力を入れて立ちあがろうとすると。
「あ、ちょっと待ってよ。夕飯食べていかない?」
斎藤に腕を掴まれた。
……夕飯?もうそんな時間?
「鍋、しようと思ってんだけど。みんなで。」
「材料はもう買ってあるからさ。」
「ビールもありますよ。」
次々に出てくる好条件に、帰るつもりだった私は思わず頷いてしまった。
……今月、ピンチだったからな。食費が浮くのは助かるし。うん。
なんて、誰に対しての言い訳か知らないが自分に言い聞かせ、
私は再びストンと席に着いた。
その後、4人(国崎も復活した)と共に、寄せ鍋のようなものを食べた。
久しぶりに鍋を食べ、ビールを飲み、私も機嫌をよくしていた。男衆も美味しそうに杯をかきこみ、笑う。
「……はあ、食べたね。」
斎藤は後片付けの後、ゴロンとソファに寝転がった。他の3人も、その辺でゴロゴロしている。
「ごちそうさま。」
私も一応、皿洗いなどを手伝い、ゆったりとしていた。
そして、なんかのバラエティ番組を横目で見ながら、壁にかかっている時計をちらっと見る。
―――10時ちょっと過ぎ。そろそろ、頃合いだろう。
「……じゃ、私今度こそ帰るわ。」
そう言って立ち上がると、体がフラッとよろめいた。
…少し、飲みすぎたか。まあ、でも帰れないほどじゃない。
電車に乗ってしまえば、何とかなるだろう。
そのまま鞄を引っ掴み、私はヨロヨロと玄関の方に向かう。
「あー、もう、ナッちゃんも泊まればぁ?」
危なっかしいなあ、とリビングから水谷の声がした。
「…やめとく。まだ電車あるから大丈夫だし。」
…泊まるて。そんな選択肢は私には無いんだけど。
私はそう答えると、
「じゃーね。」
「うん。」
「またね。」
そんな会話を最後にして、扉を開いた。
――外は、もう真っ暗だった。一歩踏み出すと、冷たくひんやりとした夜風が私を吹き付け、火照った肌を冷やす。
気持ちいい。
しばらくボーっと突っ立っていると、ギイッと再度ドアが開き、出てきた人に腕を掴まれた。
私の腕をゆるく持ちながら、それでも離すそぶりはない。
無言を貫くソイツに、私は息をひとつつき、後ろを振り返らずにボソッと呟く。
「…どーしたの、国崎。」
―そう、相手は、国崎。ヤツも相当酔ってるみたいだ。酒臭い。
「……………」
――声をかけたが、国崎は無言のまま、動こうとしない。
「ねえ、聞いてる?」
「………。」
「用がないなら、離せって。」
「………。」
「…国崎?酔ってんの?」
「ちょっと、」
私は返事を返さない男にいい加減しびれを切らして、振りかえってみた。
すると、
「……。」
完全に目が据わった男と目が合った。
「……く、国崎、くん?」
ちょっと引き気味に尋ねてみる。
……何、その顔。いや、いつも通りイケメンだけどさ。…ちょっと怖いよ、君。酔うとこんな風になんの?
私がまじまじと国崎の顔を観察してると、彼は目をすっと細めた。
そしてひとこと。
「……眠い。」
―え。
国崎は唐突に口を聞いてそう言ったかと思うと、何か言う暇も与えず私の手を引っ張った。
酔ってるとは思えないほどの力、勢いに圧倒され、私はされるがままだ。
――状況理解、不可。誰か説明してくれると助かる。
―やがて、ヤツは20歩ほど先にある自分の家の鍵を回し、
「――!え、ちょ、待…」
いつぞやのように私を中に押し込んだ。
……えっ、はっ?なにっ!?
鍵開けんの早すぎだろ…って、そうじゃなくって!
「――っ!?なにすんのさっ!」
パニックの中、私はバッと国崎に食ってかかった
が、
「別に、帰らなくていいだろ。泊まってけよ。」
ヤツは恐ろしいことを無表情で言い放った。
――なんだと?つか、君の家にか?……無理だろ!
「―!や、ヤダッ!帰る!」
国崎を抜け、外に出ようと試みるも、大の男を突破出来るハズもなく、
「うるさい。いいから、大人しく寝とけ。」
男は簡単に私を奥に連れ込み、ベッドの方へ放り投げた。
白いシーツの上に髪がばらっと広がり、スプリングがはずみ、私は布団の中にゆっくりと沈む。
……え、これ、やばくね?
やばい展開じゃないか?てか、何でこんなことになってんの?
ふと過った、この後の最悪の事態を予想して、サッと顔が青ざめる。
…………。
――いやいや、私相手にソレはないだろ。コイツも酔ってるだけだし。
……あれ、酔ってるから、ヤバいんだっけ?
なんて私があれこれ考えている間に、国崎もベッドの中に入って来た。
「…!」
そして長い腕を私の体に巻き付け、正面からギュッと抱き締められる。ヤツの腕の中に私はすっぽりとおさまってしまった。
…って、ちょ、待て。何 し て ん の 君?
「っ国崎ぃ!おい、フザけんなっ!電車なくなるだろうが!!」
罵倒しながら、がむしゃらに暴れてみる。
だが全く効果をなさない。さらに国崎の息が私の首筋にかかってゾクゾクと悪寒が走った。
――酔っぱらいってこんなに面倒なモンなの!?
エロさ3割増しじゃね?
「は・な・れ・ろぉおお!!」
しかし、国崎は迷惑そうな顔をして私の叫びを一蹴する。
「…寝ろっつってんじゃん。暴れるなよ。」
……暴れるわー!!何、この意味不明な状況を受け入れろとっ?
私、そんな包容力のある人間じゃ、ねーし!!
どけ、アホ、マジで死ね、このセクハラ男ぉ!
私は騒ぎ、罵り、手足をバタつかせたが、国崎の腕は弱まるどころか、いっそう強く抱き締めてくるばかり。
オマケに体までくっつけてきやがるから、私の頭は沸騰寸前だ。
…こっのやろう……無駄に出すフェロモン、しまえ!
なんか恥ずい。めっちゃ恥ずいんですけど、これ。
こんなことする、意図も意味も理由も分からないってば。
―とうとう、疲労困憊した私は、
「……はあ…国崎、頼むから、離してくれ……。」
切実に、ヤツにそう頼んだ。
……何でこんなんに体力使わなきゃならないんだ。超ノド渇いた。
「………。」
――しかし、返事も返答も、なにも返ってこない。
胸板に顔が押しつけられていて、彼の表情を読むのも不可能だ。
「…おーい。」
「………。」
「国崎くーん?」
「………。」
へんじがない。 ただのしかばねのようだ。
……って、まさか?
「……寝、た?」
嘘だろ、オイ。
私は力を入れて、国崎の胸板から顔を上げ、恐る恐る、ほど近い所にある彼の顔を覗く。と、
国崎聖悟は目を完全に閉じていた。
長い睫毛、スッとのびた鼻、そして薄く開いた唇がセクシー。なんちて。
……要するに、国崎サマは完璧に夢の世界に入られた、と。そういうことですか?
…………。
「っぐ!くそ、離せ!…この状態で、寝るなぁああ!!」
オー、ジーザス。