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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
30/126

03




「どした?遅かったじゃん。」


水谷が、ドアを開けると同時にそう言い放つ。


「…いや、何でもない。」

「那津がグズッた。」


私と国崎は同時に答え、私は反射的にヤツの背中に平手打ちを1発かましといた。


「っ!」

「じゃ、おじゃまします。」


痛がる国崎は無視。そして悠々と中に入る。


―斎藤と水谷の部屋は、国崎の部屋と構造は一緒らしい。

向きは違ったが、リビングなどの配置や部屋の広さは同じだった。


「…前も思ったけど君らの部屋、広くていいね。確かに1人で住むには広すぎるかも。」


うらやましい。家賃いくらなんだろうか、ここ。


「でしょ?聖悟たちもルームシェアすりゃいいのにさ。」


斎藤がキッチンに立ってお茶の用意をしながら答えた。


「ま、あれだよ。聖悟は女の子を連れ込み…」


水谷も椅子に寄りかかって口を挟む、がセリフは、突如横から飛んできた蹴りに中断させられた。

…相当のスピード、そしてパワーだ。痛そ。


「あ、わり。足が滑ったわ。」


国崎は無表情のまま足を上げている。悪びれる様子は、ゼロだ。


「…っぐほっ、テメェ……ッ足なんかどうやったら滑るんだよ!」

「さあ?信二がいらないこと言うからだろ?」


彼は足を下げ、そのままソファに腰を下ろした。……私も手を引っ張られたので、隣に座る。


「……で、ナツちゃん。話って、何?」


斎藤は全員分お茶を入れて、配りながら本題に入るように促す。

私はふぅ、と息をついて話始めた。



「…高宮 麗奈さんが、昨日国崎に非道いことされた。」



…言うと同時に男3人は茶を噴出した。


わあ、漫画みたーい。

3人は苦しそうにせき込みながら、国崎に詰め寄る。


「っげほっ、マジか!聖悟!?」

「は!?なに聖悟、ヤッ……「違う。誤解を招く言い方すんな、那津。

ただ振っただけだっつの。」


は、んなモン知ってるよ。わざと言ってみたんだよ。さっきの仕返しに。


「へぇ。……結構早かったですね。」


乾はティッシュで机を拭きながら冷静にそう呟いた。


「ん?乾、予想してた?」

「まあ、聖悟は全く興味なさそうでしたし。時間の問題かと思っていただけです。」


成る程ね。客観的に見てもそんな感じだったか。


「で、それが何?」

「…いや、このまま一緒にいても気まずいから、彼女とは縁を切れと国崎が言うんだよ。」

「…俺のせいじゃないだろ。」


いや、君のせいだろ、100%。

私は国崎をジロリと一瞥すると、他の3人に目を向けた。


「なんか君ら3人の反応見てても微妙だし、このまま麗奈さんと友人続けていくのは苦しいんじゃないかと思ってね。やっぱ、彼女と一緒にいるの、ヤダ?」


斎藤、乾、水谷は互いに顔を見合わせた。


「……そーだね。やっぱ俺たちとナツちゃん、5人の方が気楽でいいな。」


やっぱ気ぃ使ってたのか。


「高宮さんには申し訳ありませんが、俺もそっちの方がいいです。」


ああ、君は女嫌いだっけ?


「麗奈ちゃんはどうしても女子として見ちゃうからなー。」


私も女子なんだがな。そういう結論に至るか。


――結果、

この件は可決、ですね。

はあ……彼女とは交渉人ばりの対決を繰り広げにゃならんかも……


私はソファの上でがっくりとうなだれた。


「っはー。やっぱこの作戦、よくなかったのかな。」


麗奈さんのおかげで私は助かったけどなあ…人間の気持ちって、難しいモンだな。


「―つか、その作戦自体潰れると思ってたけどね、俺は。」

「…何でさ。」


くるりと斎藤の方を向く。


「だって、可愛くて事情の分かる女の子なんて、そういないから。ナツちゃんが諦めるのがオチかな、と。」


……オイ、まさかそれで女のコ探し、放棄してたんじゃねぇだろうな。

ケロッとぬかしやがって。


「…だから、彼女は貴重なんでしょうが。国崎が非道いことするせいで、もう終わっちゃうけどね。あー、なくすの、ホントもったいないなあ。」

「……や、お前も十分酷いぞ。人扱いしてねぇわけだし。」


うるさいな。私は、最初からそんな人間だっての。しかも君に意見は求めてないよ、国崎。


ぶう、とふて腐れたままソファの背もたれに背中を倒す。

―すると、ふと、茶をすすっていた水谷が口を開いた。



「そういや、聞いてなかったんだけど、麗奈ちゃんとナッちゃんってどうやって知り合ったの?」



何気なく言われたひとこと。だが私はピシっと一瞬動きを止めてしまう。


……なんって厄介なこと聞いてくるんだ、コイツ。国崎がこの場にいる今、言えるワケ、ねーだろ。


「あ、俺も知りたいです。違う学部だし、先輩ですから……接点なさそうですけど。」

「どうやって、捕まえたの?」

「答えろよ。」


さらに追い打ちをかけるように詰め寄って来るヤツら。


…うう、しくった。こないだのファミレスで説明しときゃよかった。

……国崎のいない内に。


「……あー、えっと、その……」


……どうしよう。どう言えばいい?

まさか国崎を売った、なんて言えるわけがない。でも、今更ウソついてもツケが回ってくるだけだし。

脳みそをフル回転させる。背中は油汗でびっしょりだ。


「…なに、言えないワケ?」


私が黙って俯いていると、国崎が眉間にしわを寄せて覗きこんできた。


…このくそボケ国崎が。人の気も知らないで。お前さえいなけりゃ言っても構わん内容なんだよ。


恨めしそうに彼を見上げるが、今、コイツ抜きで話をしたら、国崎のヤツ、今度はキレて何されるか分からない。

仲間はずれは、嫌らしいからな。……子供か、この男。


「……ね、国崎。言っても怒らない?」


――結局、最終手段、『事前にお願い』

…こんなキモい手段取らされるとか、マジで屈辱だ。でもまあ、その後のこと考えるとこれが最良、か……


「………内容による。」


私のキモイお願いに対し、国崎は仏頂面を作った。

…ちっ。1番困る返答じゃん。なんだかんだで、頭いいからな、コイツ。


「…怒らないって約束してくれたら、話す。」


―なら、私はこうだ。もう一方的に怒られるのは勘弁願いたい。


一進一退。じっとお互いを睨みつける私と国崎。


――と、


「……なんとなく、話は見えるけどさ、聖悟、ナツちゃんもこう言ってるから、約束してあげなよ。」


見かねたのか、横から斎藤が割り込んだ。


おお!斎藤、ナイス助け舟。私も便乗するように、頭を激しくタテに振る。


「………ちっ、分かったよ。」


ようやく、国崎はヤレヤレって感じで承諾した。そして、私に早く話すよう促す。


…ホンットムカつくな、お前。

常に上から言うのは癖か?なんでこんな見下されないといけないんだ?

切れそうになるのを我慢して、私はとりあえず事の顛末を話すことにした。





「……で、彼女は交換条件として、私を守ってくれることになりました。おしまい。」


数分後、麗奈さんとの出会いから取引内容までを話終えた。一応、すべて真実を。

……4人の反応を見るのが怖いな。特に、国崎。


―しかし沈黙に耐えきれなくなった私は、4人に問いかけた。


「…え、えっと、どうでしょう?みなさん。」


何でもいいから、リアクションしてくれ。無言は痛い。

必死の顔で懇願すると、男たちはボソボソと口を開き始めた。


「えっと、その…」

「なんというか……」


え、なにその歯切れの悪さ。


男たちの反応を怪訝に思っていると。


「……那津…」

「ふぁあっい!?」


いきなり隣からひっくい声が発せられた。心臓がどくっと鳴り、方が跳ね上がる。

く、国崎っ?ナニその声!また怒ってんの!?


私は恐る恐る隣の男の様子をうかがった、が、


「……え?」


ヤツの方を向いた途端、思わず、間の抜けた変な声を出してしまった。


彼の表情は……なんというか、暗、かった。…がっくりとうなだれていて、よくは見えないが。

しかも、めっちゃ凹んでるっぽい?何故?


「…え、ちょ、何でそんな凹んでんの?なんか私、変なこと言った?」


予想外の反応に、私はうろたえた。…あの国崎が肩落としてるとか、普通ありえんぞ。

これは、余程ショックなことを言ってしまったんだろう、私が。

……

……んと、どの辺?ゴメン、全然分かんないんだけど。


「……あー、いややっぱ、なんでもねぇ。つか、そっとしといてくれ今は。」

「??」


国崎はそのまま気だるそうにソファに寝転がってしまった。


「……えっと、国崎、本当に大丈夫?」

「あー、ナツちゃん。今は放っといてあげて。聖悟なら大丈夫だから。」


腰を上げて彼の方に近づくと、斎藤に制止された。


……だから、一体なんだってんだ。いや放っといてほしいなら、別になにも言わないけどさ。

…なんか納得いかないな。





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