合コンと言う名の戦場
待ち合わせ場所のカラオケ屋はそこそこデカいカラオケのチェーン店らしい。
分かりやすい場所に立地しており、難なく見つけることができた。
チカチカと目障りなネオン、バカでかい看板には『宴会大歓迎!』の文字が見える。
はい今から合コンですけどね。おたくで。
「あー本城さぁん!!来た来たーっこっちー!」
すると3匹のギャルがやたらテンションの高い声で私を呼ぶのを聞いた。
予想通り、3人とも気合いの入りまくった服装にメイク。露出もかなり高めだ。
しかもさっきからしきりに鏡で顔をチェックしている。目つきもギラギラしていてすげー怖い。
―これが女子の本気、ね。私には一生無縁だなあ。てか無理だけどね☆
私はぼんやりとソレを観察して、ふああとあくびをもらした。
なんでも今日来る男子軍は相当の男前らしい。ギャルの内の1人の、妹の彼氏の友達の友達経由で知り合ったとか。
…どうでもいいけど遠いな。
「…だからぁー!本城さんも、もう少しオシャレしてくればよかったのにぃー!」
ほっとけ。
「そんなんじゃ、浮いちゃうよぉ?」
それが狙いだろうが。
「せっかくイケメンと知り合えるのに、それじゃあ損だよぉ。もうそんな機会ないかもじゃーん!」
失礼だな。しかもストレートに。
ちなみに私は今ジーンズを履き、ロングTシャツの上にジャケットを羽織った格好。
まるっきり普段着だ。確かに気合いとかは微塵も感じられないだろう。
――君らと違って男を落としにきたワケじゃないんでね。
私はギャルたちの下品な笑い声を聞き流し来るべきときに向け最後のイメトレに専念する。
…ふう。なんか緊張してきた。
そんなこんなで店内に入る。カラオケに入るのも久しぶりだ。
キョロキョロと辺りを見回し、凝った内装に目を奪われながらも3人について行った。
「本城さん、こっちこっち。」
ハイハイ。
「向こうはもう部屋に入ってるって!待たせちゃ悪いから早く行こぉ!!」
そーでーすねー。
「そうだ!!本城さんのこと、ナツって呼ぶね!友達なのに名字じゃ変だし。」
友達って…今日初めて話したくせにか?君の友達の定義って、一体何なのさ。
あーもうどうでもいいから、勝手にしてくれ。
てか帰りたい。行く前だけど、激しく帰りたい。
脳内ではゴチャゴチャと考えていたが、私は愛想笑いで全部スルーした。
今日で顔面筋肉痛になるんじゃないかなー。
「あ、ここだ!部屋。」
奥へ奥へ入っていくこと幾分。
たどり着いた大部屋で一行は止まり、ドアを開けた。
その途端、
「おっ、合コンの子たち?」
「待ってたよー!」
「ん、入って入って。」
「何か飲みます?俺、注文しますよ。」
中にいた男性陣がわっとしゃべりだした。
へぇ、皆案外ノリがよさそうだ。
「お邪魔しまーす!」
「キャー!話には聞いてたけど、皆超かっこいいー!」
「よろしくお願いしまーす!」
ギャルたちのテンションも最高潮。
語尾も上がっていて、後ろにハートマークがついてる感じだ。
いつもより数割増しに高い声もキモ…ゴホン、まあ頑張ってる感じでいいんじゃないかな。
私も首を回し先に来ていた男性たちを観察してみる。
ふむ。確かに4人ともどこからどうみてもイケてるメンズ。それぞれタイプは違うものの皆整った顔立ちをしている。
全員大学生らしいがちょっとチャラチャラしているな、という印象を持った。…これは、相当遊んでるだろうな。
てか人種が違いすぎて怖いわ。彼らのオーラだけで存在ごとかき消されるんじゃないかな、私。
いや、別に消えてもいいけどね。許してくれさえすれば私はすぐにでもログアウトしますけど?
まあ、イマサラ無理だろうけどねー……
まだ騒ぎ続けるギャルどもを尻目に、私はそんな風に現実逃避をしていた。
「じゃあ、みんなが席についたところで…」
「自己紹介しようか。」
台詞とともにわーっと盛り上がる室内。
…まあ、私も適当に合わせて盛り上がっておいた。一応。
空気読める仕様ですからね、今日は。
――さて、いよいよ本番だ。
彼女らとともに私も身を乗り出した…ら、正面から視線を感じた。
不審に思いちらっとそちらを見ると、3番目に座っているイケメン君と目が合う。
……あれ?なんか、私、超凝視されてる…?
私は眉をひそめ顔を若干しかめる、が。
思い当たる理由が瞬時に浮かび、ああ、と手を打つ。
…やっぱ浮いてるよなー。この中じゃあ。
ギャルと地味子じゃフィールド違いだろうし。もの珍しい、みたいな感じだろうか?
私は珍獣じゃねぇぞ。
私はふいとそいつから目をそらし自己紹介を聞く。……訂正、聞いているフリをする。
なんか双方色々と言ってるが、聞くつもりはない。
だって完全アウェーだから全然耳に入って来ないんだもん。興味無いし、この場限りだしねぇ。
「…アミでーす。S大の2年生で、ただ今彼氏募集中です!」
そのうちに。余計なウィンクまで入れた完璧(らしい)紹介の後、やっと私の番が来た。
――ようやくきたぜ。俺の、ターーン!!
私はすうっと深呼吸した。
「本城 那津、19歳。S大生。
今日は彼氏探しじゃなく……純粋に歌いに!来た!!マイクを持ったら絶っ対に離しません!!今夜は日ごろの鬱憤晴らしに、歌いまくります!
というわけで、よろしく。」
…親指を突き立て言った。言い切った。
最後にペコリと頭を下げて席に着く。
さぁ、反応はいかに……!?
私は期待と不安交じりに辺りを見回した。
が、室内はシン……と静まったまま凍りついている。
――あちゃ、ハズしたか……?
反応が全く返ってこないのでそわそわと落ち着かない気分になる私。
しかし
やっぱ方向性間違ったかなと思った、その時。
「……ぶっ、はははははははっ!!」
イケメン様方が一斉に大爆笑なさった。
「…ちょっ、なにそれ!ギャップありすぎだろ!?」
「おとなし目な子かと思ったら…いいねー。歌、好き?」
「何歌うんですか?聞きたいです。」
「最初に入れなよ。ハイ、デンモク。」
などなど。リアクションは上々だった。
私は心の中でガッツポーズをする。
うっしゃあっ!よかった、つかみはOKみたいだ。
…ククッ、ギャルどもめ唖然としてやがる。
その口、みっともないから閉じたほうがいいですよー?なんて。
「じゃあ…お言葉に甘えて…行きます!サ●ン!!ものまねverで!」
「いきなりサザ●!?」
「しかも、ものまねって…。」
「みぃとぅめあ~うとぉすな~おにぃ~♪」
「うっわ、しかも超似てるし!」
「すっげぇ!!」
「マジ何者?君。」
ざわざわとまたいいリアクションを取ってくれるイケメン様方。私はまたいい気分になって声を張った。
フフ…見たか。これが私の秘伝キャラ…
『KYムードメイカー』だ!!
…ゴホン。あ、ネームセンスは気にすんな。どうせ私は名付け下手だ。
とにかくこのキャラで大暴れしてやる!!ものまねはこう見えて、結構得意だし!
予想通りの盛り上がり様に私は満足し、もう1曲入れようとする、が…
「っ次!私が歌います!!」
しばらく呆然としていた女性陣の内1人にデンモクを奪われた。ほかの2人も我に返ったように慌てて曲を選びだす。
ふーん?
歌、歌ってれば私みたいに注意が引けると思ったか?
ナマ言ってんじゃねぇ。おもしろキャラをなめんなよ?もう流れは完全に私のものさ。
「ヤッバい、超受けた!」
「本城さん、おもしろいねー。次、何歌う?」
「うーん、何にしよう。玉●浩二か…郷ひ●みか…」
「チョイス、古っ!?」
「悪いか!どうせ古い人間だよ!なつメロのどこが悪いんじゃー!!30字以内で説明しろぉっ!」
「うわっ熱いな。逆ギレすんなって。」
「ふふ…楽しい人ですね、ナツさん。」
そう、男性陣らの注目を一身に受けるのは私なのだ。私はニヤニヤと心の中で笑った。
いやー、悪いね。目立っちゃって。
でもこういうキャラだからさ。仕方ないよね?ははは。
そしてさらに悪いことに、ヤツらの歌なんざ誰も聞いていやしない。
つーか、こんなとこで恋愛バラードなんか歌う方がバカだろ。チョイスミスもいいとこだ。
ヤツらの顔も引きつっているように見える。
…さぞかしみじめだろぉな?この空気。ははははは。