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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
29/126

02




「俺、バイクで来たから。」


水谷はそう言い、


「圭と俺は圭の車で行くね。」


斎藤もそう言ったので、


「ホラ、早く乗れ。」


必然的に私は国崎の車に乗ることに。


……なんか、昨日のこともあって、ちょっと気まずい。私は無言で、黒い車の助手席に座った。


「…隠すなって、言ったのに。」


車内、開口1番でそう言われ、ツインテールの髪を持ち上られる。


「…これくらい、勘弁しろ。あの3人に茶化されるのも、嫌だし。」


私はさっきの乾とのやりとりを思い出し、不機嫌にそう返した。

そして、ピシャリとヤツの手を振り払う。

国崎は、フッと笑みをこぼした。


「あっそ。ま、珍しいモンが見れたからよしとするか。」


…上から目線ヤメロ。

私はジロリとキーを入れる男を睨み返した。


「……へぇ、君、ツインテール萌えとか?意外に隠れオタクだね。」

「違ぇ。」


くすくすと笑いながら、国崎は左手で私の頭をくしゃっと撫でつけた。

―そのまま隣の男は昨日とは別人のように、機嫌よさそうに運転を続ける。私はその横顔を見て、ホッと胸をなでおろした。


―よかった。とりあえず、普通に戻ってる。やっぱり昨日のこいつはどっかおかしかったんだな。一安心だ。


人知れず、顔をゆるませた私。


…って……おっと、ダメだ。

私はハッと我に返った。なごんでる場合じゃない。


麗奈さんがあんなに傷ついてるってのに、私がのんきにコイツと会話してるとか。

ここは、ひと言物申しとかないとな。


「…オイ、女の敵。」


思い立った私は、ビシッと人指し指を国崎に突き付けた。


「…?急に、何。」


国崎は眉をひそめたが、私は構わず続ける。


「…麗奈さん、超泣いてたよ。あんな美人泣かすなんて、最低だよ、君。デート1回くらい、してやったらよかったのに。」

「……何かと思えば、その話か。仕方ないだろ。俺、あの人に興味ないし。」

「でもチャンスくらいは与えてやれって!」


一発で切り捨てたら可哀想だろ!

私が熱弁をふるうと、国崎は冷めた目でこちらを見た。


「お前な……俺がいちいち女の相手をしてたら、軽く2ヶ月は予定が埋まるぞ。」

「え、嘘。自分でそんなこと言っちゃうんだ、国崎は。」

「事実だ。それと、この話はもう終わり。」


そう言ったきり、国崎は何も言わずに運転に専念してしまう。


――うーん。モテる男は辛い、ってか?

こんな、何もしなくても女子が寄ってくるようなヤツ、どうやったらオトせるんだろう??





最早見慣れたマンションの駐車場に車を停め、降りて歩く。すると、国崎は何の脈絡もなく質問してきた。


「……じゃあさ、逆に那津だったらどうすんだよ。好きでもない男に言い寄られた時は。」


私は振り返って隣を歩く男を見る。


「…さっきの話は、もう終わりじゃなかったの?」

「や、ちょっと気になったから。」


…なんとも自分勝手な。流石、国崎。

しかし、先を促すような鋭い視線を感じたので、私は答えてやった。


「……うーん、そういう奇特な男もいるにはいたけどね、

デートしてやったよ、1日。」

「はあ!?」


いきなり、国崎は柄にもなく大声をあげる。…声、響いてるけど。


「うるさ。何だよ。」

「…っいや、マジで?」

「マジで。」


なんだよ。流石にデートの1回や2回はしたことあるっての。

どうしてそんなに驚いてんのさ。


ヤツはしばらく何やら考えていたようだったが、やがて視線だけ私に向けて尋ねた。


「…何で?」


何でって。


「誘われたから。」


…に、決まってるじゃん。何言ってんの。


「………。」

「…それに、1日付き合ってやって本性バラせば、大抵の男は逃げてくから。そっちの方が手っとり早いんだよ。国崎もあるでしょ。紳士キャラに騙されてた子に、『想像と違った!』って言われた経験。」

「……ああ、あるな。確かに。」


いくつか覚えがあるのか、国崎は頷いた。


「ま、そんな恋愛的なイミで私に近づくヤツなんてそうはいないけどね。君と違って、人気者じゃありませんから。」


私は腕を組んで自嘲気味に笑った。


……やっぱこう考えると、イケメンよりは普通の顔の人の方が楽な人生を送れるのかな、うん。ちょっと国崎が可哀想に思えた。


「…ま、要するにだな、私が言いたいのは、一遍麗奈さんともデートしてから…

「じゃ、頼んだらしてくれるワケ?」


は?


「何を?」

「だから、デート。」


…さらに、は?なんですけど。


「…誰が、誰と?」

「俺が、那津と。」


瞬間、しんっと辺りが静まり返った。



―そのまま数秒が経過。

私は一瞬の思考の末、国崎に向かって、言った。


「無理。」


きっぱりと。

その返事に、国崎はガクッと肩を落とした。


「…おい、デートくらいなら誰でもいいんじゃねぇのかよ。」

「別にいいけど、君はダメ。2度と言うなよ、そんな恐ろしいこと。」

「恐ろしいって……。」


…本当のことだろ。

想像してみろ、私が君とでーと、なんて。意味不明過ぎて話のネタにもなりゃしねぇ。


「そんな暇があるなら、他の女のコたちと遊びなさい。私を優先してたら、彼女なんかできないよ?」


「はあ……。」


国崎は呆れたようにため息をつき、キッと私を正面から睨みつけた。


「あのなぁ、那津。俺は、女ととっかえひっかえ遊ぶ趣味はないし、そんなサービス精神があるワケでもないの。」


「うん、それは分かってる。大変だよねー、顔がいいと。」


あ、ゴメン。口調がまるで他人事だ。


「…俺はお前と遊びたい。いいだろ?1日くらい。」


は?いやだから無理ですってば。何故にそんな食いつく?


「だーかーらー、嫌だって。行くんなら他の…

「っだー!そのループはやめろ!

俺は那津と行きたいって言ってんだよ!遠慮なく誘われとけ!」


わーまた俺様ですか。つか、なんでそんな必死になってんだよ。

どうでもいいいけど、最近、レアな国崎をよく見るな。


後ろを歩く国崎の前で立ち止まって、私は軽く目をつむり、また腕を組んだ。


「…ったく。私みたいな奴誘って何が楽しいんだよ。こんな、超インドア派に爽やかお出かけは合わないだろ。」

「いや、爽やかって…、なんだその勝手なイメージ。どうしてそんなに卑屈なんだよ。」


negativeは私の代名詞だって言ってんだろ。

ボケが。


「ハハ、君は自信に満ちあふれてるからねぇ、私とは違うわー。ごめんね、陰気で。」


私は軽ーく受け流し、知らぬ間に着いた斎藤たちの部屋(らしい)のインターホンに手をかけた、が。


「待った、流すな。返事聞くまで入れさせねぇ。」


国崎の大きな手に遮られた。

…っち、騙されなかったか。つか、いい加減うぜぇ。

私はうっとおしい国崎の手を振り払った。


「あーもう、だから返事はNO!さっきも言ったじゃん。」

「~~。何でそんなに嫌がるんだよ……。」


彼は苛立ったようにガシガシと頭を掻く。


「そりゃ目立ったりとか、女子の目の敵にされたりとか、逆ナンとか。」

「そんなん、今更だろ。」

「プライベートとなると別だろ、被害が。」

「………。」


そう、ふんぞり返りながら放った台詞を聞くと、国崎はうつむいた。


「…もういいでしょ?じゃ、入ろう?」


何も言わなくなった彼を不思議に思いながら、私はまたドアノブに手をかける。

―だが、諦めないのがこの男だった。


「…じゃあ、実力行使だ。」

「え?」


―トン。

国崎がそう言うなり、私の体は反転し、後ろの壁に押しつけられる。


「っちょ、何――」


パッと顔を上げると、ヤツのバカみたいに綺麗な顔……、のアップ。

顔同士が極端に、近い。


「…今週の日曜、付き合え。」


そして、国崎は低く甘い声で私にささやいた。

…近い。近いって。離れろ。


「……嫌だ。」


恐怖はひしひしと感じる。

だが、私は勇気を持って目は逸らさず、ぼそりと拒絶の言葉を吐いた。

すると、国崎は


「じゃ、今からキスされるのと、どっちがヤダ?」


…とんでもねぇことをぬかしやがった。笑顔で。


瞬間、強張る私の頬と表情。


―!だ、だからそういう2択やめようよ!私には刺激が強すぎるって!!


「ど、どっちも嫌「どっちが、嫌だ?」


ひっ!この男、口は笑ってんのに、目だけ笑ってないぃ!危険!


「………っわ、分かった!じゃあ、1日遊ぼう!」


長らく見つめあった末、私は結局、そう言ってしまった。

……否、言わされた、かな。このアホに。


「忘れんなよ。」


悪魔(国崎)はニヤリと満足そうに笑うと、ようやく私から体を離す。

私はぐったりと力なく頷き、やっと家のインターホンを押した。


―こ、この男の相手、疲れる……やたらセクハラすんの、やめてくれないかな……

…いや、別にしてもいいけどね。私以外には。





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