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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
28/126

なにがなんだか。



「那津ぅ~っ!!」


私がいつものように大学の門をまたぐと、いきなり正面から抱きつかれた。

…っと、危ない。倒れるところだった。


体のバランスが崩れ、たたらを踏んだが、何とかふんばり、転ぶことは無かった。そして、飛びついてきた本人、高宮麗奈を引きはがしにかかる。


「…分かった。話は聞くから、離れろ。あと、目立つからこんな所で泣かないで。」


…そう、彼女は眼を真っ赤に腫らして号泣していた。

―悪いがこんなぐしゃぐしゃな顔じゃ、美人もカタなし、だぞ。校門前で泣かれても、私が困る。

すでに好奇の視線が集まる中、私は彼女を連れ出した。





私は麗奈さんをなだめつつ、人気のない所まで移動した。


「……グス…」

「………。」


麗奈さんはまだ泣きじゃくっている。

目の腫れ方からして、昨晩からずっと泣いていたのだろう。


…なんか、可哀想だ。


――しばらくして、落ち着いてきたのか、麗奈さんは私に話し始めた。


「…那津……私、振られちゃった……。」


本当に、本当に小さな声で、ポツリと言った。

…まるで、そのことが現実であったと、自分自身で確認しているように。


「昨日……那津があの3人を連れ立って行ってくれて、国崎君と2人きりになれたから、デートの約束しようと頑張ってみたの……っでも…、ダメだった…っ!」


さらに透明な筋が彼女の頬を伝う。握っている拳も、かすかに震えている。


「…もう近付くなって…。私がウザいって……拒否、されちゃった…。」

「………そう、か……」


私はただ、相槌をうった。こんな時、何もかける言葉が見当たらない。

我ながら、薄情な女だな。


――声をかけ辛かったが、私は少々の沈黙の末に口を開いた。


「…ゴメン。私の助言のせい……か?」


罪悪感が少し、募る。結果的に、私の言った言葉のせいだったら、私が、悪いのだから。

しかし、麗奈さんは首を横に振った。


「……いいえ、彼が私のことを好きでなかっただけよ。…仕方ないって分かってるけど……っすごく、つらいっ…!」


またも泣きじゃくる女を前に、私は少し哀愁を感じる。

そして、思う。


――ああ、この人は、本当に国崎のことが好きなんだな。……多分、今でも。

彼を想って、こんなに泣けるんだから。


……やっぱ、主人公交代した方がよくない?この人なら、素でお姫様できるって。

私は遠い目をしながらそんな馬鹿なことを考える。そして、再度麗奈さんに視線を戻した。


――でも、このままじゃいけない。こんなんで落ちぶれてるのは、麗奈さんらしくない。


「……で、どうするの。」

「…どう、するって…?」


私が目線を合わせると、麗奈さんはきょとんとした表情を見せた。


「決まってんじゃん。君は選択しないといけないんだよ。国崎を諦めて、別の恋を捜すか、諦めずにヤツを想い続けるか。」

「…え……」

「メソメソ泣いてたって、何も変わんないでしょ。今しないといけないのは、これからについて考えること。」


私は麗奈さんの目をまっすぐ見て、言った。


―失敗したって成功したって、いつだって人は、次に進めていかなければならない。


my持論だ。私はいつもこの考え方である。

…ネガティブなんだか、ポジティブなんだかよく分からないが。


「…え、でも…私は……「昨日、ひと晩泣いたんだろ?

だったら、そろそろ切り替えないと。いつまでも立ち止まってちゃ、チャンスは掴めないから。」


うろたえる彼女を遮り、強い口調で諭す。


―ふむ。

私もおせっかいになったものだ。普段はこんな色恋沙汰、一瞬で切り捨ててやるのにな。一緒にいると情が湧くってヤツか。それとも、なんだかんだで私は彼女を応援したいのかな。


「…まだ、好きなんだろ、国崎のこと。」


私がボソリと呟くと、彼女はビクッと体を震わせ、赤面した。図星のようだ。


「私は国崎なんて忘れることをオススメするが、君は忘れることなんて出来なさそうだな。…ま、決めるのは麗奈さん自身だから、自分で決めな。」


「………。」


麗奈さんは、目を見開いて、私を見る。戸惑いの表情だ。

…情報量が多すぎて、処理出来ないか。ま、じっくり考えてくれ。


私は立ち上がり、その場を後にしようとした、が、言い忘れたことがあったのに気付き、彼女を振り返った。


「……あ、備考までに言っとくと、国崎には好きな人がいるらしい。」


私がそう付け足すと、


「!!な、なんで言ってくれなかったのっ!?誰よ!」


麗奈さんが猛進してきて、掴みかかられた。

コラ、揺らすな。


「…知らないって。私も昨日聞いたばっかだし。」


胸倉を掴んできた手を、そっと取り外す。

……この女、国崎のこととなると、ホント見境ねぇな。


「…コレを聞いてもまだ諦めらんないなら、頑張れ。一応、一途に想い続けて成功した例もあるっちゃあるらしいし。」


……漫画とか映画なら、だけどな。


コホン、と咳払いをひとつして、そうシメた。

そろそろ始業時間だ。行かないと。


「――那津っ!」


歩き出そうとしたら後ろから叫ばれたので、振り返ると、


「ありがとうっ!私、じっくり考えてみるわ!」


と、麗奈さんが私に向かって笑顔を見せた。


うん。元気が出たようでなにより。

その切り替えの速さが、麗奈さんのいいところなんだろう。


私は手をヒラヒラと振り、法学部棟に入った。





「…あれ、ナツさん。今日ツインテールなんですね。」


授業後、廊下を歩いていると、乾に出くわした。

…偶然、じゃねぇな。こいつとは学部が違うし。また待ち伏せしてやがったか。


「…ああ、うん。ま、たまにはね。」


はあ、と息をつき、私は歩きながら答える。

……まさか、キスマーク隠しとは言えまい。


「でも、似合いますよ。その髪型も。」

「そ。ありがと。」


私はバレないように、わざとそっけなくそう返す。

―そこで乾は一瞬沈黙したが、やがて意を決したように口を開いた。


「あの…ナツさん、聖悟に何かされましたか?」

「!」


私は意表を突かれて、思わず足を止めてしまった。

…わ、ヤバい。こんなん、動揺しているのがバレバレじゃないか。


案の定、乾はそれを見逃さず私の顔をじっと覗きこんできた。


「……されたんですね。ナツさん、顔赤いですよ。」


え。また赤いっ!?ちょっと私の顔面どうなってんだよ、全く。


「…ああ、ま、された……かな。」


頬で顔を隠しながら、私はゴニョゴニョと言い淀んだ。…ここまできたら、認めざるを得ないし。


「聖悟があそこまで怒るのは稀ですよ。信二もあの後、宣言通りボコボコにされてましたから。」


うわ、ここにも被害者が。…ご愁傷サマ。


「理不尽だよねー。国崎も。私にだって、怒ってんなら直接殴ってくれた方がまだマシだったのに。」

「男は女性を殴れませんよ。…それで、何されたんですか。」

「ん。…でも、国崎にどうせ聞いてんでしょ?」

「いや、聖悟も何も言いません。」


そうなんだ。


「……じゃ、私も秘密。」


その後も、乾に付きまとわれ、「えー。」だの

「教えてくださいよ。」だの言われたが、すべて受け流した。


……言えるか、ボケ。んなことしたら、顔から火がでるわ。





「ナッちゃんっ!こっち、こっち!」

「信二ー。もっと声のボリューム下げなよ。」

「…那津。何で圭と一緒なわけ?」


予想通りというか、なんというか。ちょうど出口付近に友人×3が待ち構えていましたよ、ハイ。


……君らも暇だな。バイトとか、サークルとかないんかい。

――ま、今日はちょいと用があるからいいけどね。


「……あー、君たち。話があるんだけど、ちょっと移動しようか。」


いつも通り目立っている彼らにそう言う。やはり彼らのファンは、今日もぐるりと3人を囲んでいた。

しかも、今回は麗奈さんというディフェンダーもいないからさらに、だな。

……やはり、彼女。亡くすには惜しい人材だなぁ。


「いいよー。じゃ、俺と信二のウチ行こ!」


私の発言に、ぱっと顔を上げた斎藤がそう提案した。


「へぇ。2人一緒に住んでるんだ。」

「うん。圭と聖悟は1人だけど、ルームシェアした方が家賃安く済むし。」


…成る程ねぇ。


特に断る理由もない私は頷き、そのまま女子たちを蹴散らしながら、駐車場に走った。





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