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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
26/126

03




「…っはぁ」


―やっと、ソレから解放される、と同時に私は室内の空気を思いっきり吸い込んだ。

全力疾走した後のように、息が切れる。どれだけの時間、唇を合わせていたのだろう。


……ん?唇…を、合わ……せて……?


――!!


ボンッと、突如顔が赤く染まった。


い……今、コイツ、私に……キ、キスした、のか?

…うわ、キス、とか自分の口から出るとは思いもよらなんだ!なんかやたら恥ずかしいんですけどっ!


「那津、顔真っ赤。」


私が人生最高に羞恥を感じている時に、国崎は鼻で笑いやがる。


人にムリヤリキスしといて、笑うとか。…テメェ。歯ぁくいしばれ。


「うらぁっ!!」


掛け声と同時に、私は自由になっている唯一の部位、足でヤツの鳩尾を思い切り蹴った。


「~~ぐっ!?」


不意をついた攻撃に国崎は身動きできず、腹にクリーンヒットした。よほど痛かったのか、腹を押さえて、悶絶している。


…は。股間じゃないだけ、マシに思え阿呆が。

私はその間に素早くソファから起き上がり、ヤツと距離をとった。


「…はっ、おま……このタイミングで蹴るか?普通。」


ソファに寝転んで、苦しそうに息を吐きながら、私を見る国崎。


「じゃ、私は普通じゃないってコトだろ。」


けっと悪態をつく。

私から見たら、君も十分普通じゃないがな。


「……そうだな。頭突きはするわ、腹は蹴りあげるわ……お前みたいな女、他にいるわけねぇよ。」

「褒め言葉と受け取っておこう。」


―いつの間にか、私は恐怖から脱出していた。国崎も、もういつもの調子に戻っている。


私は腕を組んだまま、国崎を見下した。


「…そんで国崎。どうしてそんなに怒ってるわけ?」

「…分かんない?」


分からねぇから、聞いてんだろ。君の気持ちはいつも分からない。


「…さあ、分からん。多分、麗奈さんのこととは思うんだけど。」


おそらく、彼女のアピールが余程うっとおしかったんだろう。それで私に八つ当たりしてんだと、予想した。


「……それもあるけど…、なに、那津。ホントに分かんないの?」


ヤツはジロリと私を見返した。…何だ、もったいぶりやがって。


「…君がなんか苦しんでるのは分かったけど、その内容は知らん。だから、聞いてるんじゃないか。」


すると、国崎は額に手をあて、はぁーっとため息を吐いた。

…なに、その『ダメだこりゃ』みたいなしぐさは。


「……ここまで鈍感とは、なあ…。」

「んなっ、失礼な!君が意味不明すぎるだけだろ!」


これでも結構『鋭い』って、言われてきてんだけど。

腹立つな。


「……まあ、いい。なら教えてやるよ。」


国崎は、1歩私に近づいた。

けど


「あ、ストップ。動くな。話ならここで聞くから。」


私は手のひらを突き出し、制止を呼び掛けた。

…また、さっきみたいなのされたら、今度こそ私の心臓は破裂する。


じりじりと後退する私を見て、国崎は吹き出した。


「……プッ、そんな警戒すんなよ。」

「するわっ!私、キッ、キス、初めてだったんだぞ!」


―うわ。キスとか、口に出すのも恥ずい。また、顔が火照る。


「へぇ~。それは、結構。」


なぁにが結構、だ。ニヤニヤしやがって。

国崎はクスクス笑いながら、ソファに座り、私を手招きする。


「ほら那津、何もしないから、おいで。」

「うさん臭いから、ヤダ。床でいいですー。」


対する私はつーんと顔を背けて、フローリングに三角座りした。


「…信用ねーな、俺。」


男はまたニヤリと笑って、私の傍に歩み寄る。

体をじっと硬くしてみたものの、ヤツは両腕でいともたやすく私を持ち上げ…結局ソファに一緒に座ることになった。


…っち、この細マッチョ。この身体のどこにそんな筋肉があんだよ。


「…どうせ強制なら、聞くなよ。」


ぶう、と不機嫌にふくれて愚痴った。


「床は冷たいだろーが。俺の優しさだよ。」


―どこが。せめてもの抵抗に、人1人分間を空けて座ってやる。


―国崎はしばらく苦笑していたが、

やがて真面目な表情を作ると私を正面から見つめた。


「…ね、那津。俺今めっちゃ怒ってんの。」


目が、笑ってない。


「それは、分かったから。…言ってよ。」


国崎は私の方に体ごと向け、ジロリと睨んだ。


「那津にけしかけられたあの女の相手すんの、ウザかった。毎日毎日、よく懲りないよな、アイツ。すげー疲れた。」

「……それは、素直に私のせいだわ。謝る。」


…けしかけたワケじゃないんだが、結果的にはそうなるかな。

どうやらコイツは、麗奈さんがタイプじゃなかったみたいだ。…この、贅沢者が。


「…あと、那津が露骨に俺を避け出したのも。

どうせ、俺とあの女をくっつけようとか、思ってたんだろ。俺の意見も聞かずにさあ…。」

「………。」


図星。当たり過ぎててなにも言えねぇ。


…だってホントにお似合いだと思ったんだよ。麗奈さんとも約束したことだし。

でも、やっぱ、本人の意向を無視したのがいけなかったか。反省だなー。


「それに」


まだあんのか。


「俺抜きでアイツらとだけ会うとか、納得いかない。」

「……。」


……え、いや、それは私のせいじゃないだろ。…意外とナイーブな男だな。仲間ハズレが嫌、とか。


「え、最後のは関係ある?」

「大アリだし。」


へ。そうですか。


目を伏せていた私はしかし一瞬黙った彼を見上げ、おもむろに手を取った。


「…ごめん。」


国崎の手をそっと包む。


「………。」

「ごめんね、国崎。」


とりあえず誠心誠意をつくして謝る。どんな理由であれ、コイツを傷つけた私が、悪い。

それに、あんな顔されちゃ、いくらなんでも良心が痛んだ。


国崎はしばらくの間、黙って私を見ていたが、やがて肩を落とした。


「…はぁ……那津って本当に残酷だよな。」

「!」


言葉と同時に、掴んだ手をそのまま国崎に引かれ、一気に距離が縮まる。

そして、ヤツの胸に倒れこみ、ぎゅうっと抱き締められた。


――ちょっ!何もしないとか、言ったくせに!!


…とは、言えなかった。

事は私に非があるのだ。これが罰なら、甘んじて受けないと。


「…やけに、大人しいな。どうした?」


言いながら、国崎は私を抱く手に力をこめた。


「…別に……罰なら、受けようと思って。」


ぼそっと呟くと、国崎は突然バッと身体を離した。


……ものすごく驚いた顔をしている…?

どうしたというんだ。





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