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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
25/126

02



いきなりの出来事に目をパチパチと瞬かせる。目の前を見ると、水谷が気絶していた。


…えっと、原因は………


「…缶コーヒー?」


しかもヘコんでいた。スチール缶なのに。


缶はコロコロと足元に転がってきた。

…どうやらコレが、思いっきり水谷の後頭部にぶち当たったみたいだ。

若干、彼の頭が赤くなっている。

…それにしても、すごいコントロールだな。水谷には悪いが、感心するわ。


私は投げた相手を見ようと、視線を後方へスライドさせ――――

――すぐ戻した。


………ヤバイ。直視できない。

何アレ、人間?ターミ●ーターじゃないのか?私、まだ殺されたくないんだけどっ!

…いや待て、見間違いかもしれない。つか、そうであってほしい!


冷や汗をかきながら身動きひとつできない私に構わず、そいつは接近した。

そして、私の肩を掴んで強引に顔を向けさせた。…自分の方へと。


そこで私が見たのは。


―――鬼のような形相の、国崎聖悟様。



…やはりさっき、ちらと拝見したお方は本物だったらしい。

今まで見たことがないくらい怒ってらっしゃる。瞳が炎で燃えあがってるような気さえ、します。


………。


――正直、命の危険を感じた。



私は、責めるように私を睨み続ける男に恐怖する。


「…あ。…えと……国崎…」


うわ、怖すぎてなんかかすれたような声しか出ない。どんだけ怯えてんの、私。


「――…宏樹、圭。話は後で聞くから。あと信二が起きたら言っといて、殺してやるって。」


国崎様は、私から一瞬視線をはずすと、2人に向かって恐ろしく低い声を出した。

…まるで地獄の底から響くような。


背筋が、ぞくっとした。


―っ!

なんか水谷が死刑宣告されているが、もう、どうでもよし!!今すぐこの犯罪者みたいなオーラを出す男から、逃れたいっ!!


…しかし、天への願いも空しく、


「…那津。」


っい、いやぁ!お呼びがかかったぁ!!


―もう、私は俯くしかできない。体もガクブルだ。

そこらのヤクザ者よりはるかに恐怖感を与えてくれる国崎は、一体、何者なんだろう。

つか私、何かしたかっ!?


「……来い。」


腕を引かれて、立たされる。

…何だか分からんが、ここは従うほかあるまい。私は手を引っ張られながら、歩いた。

…引かれながら、斎藤と乾が後ろで

「頑張れ」とか「生きて帰って来い」とか言ってるのが聞こえる。


わ、私、ホントに生還できるのかな……?

明日の日の目は見れるのだろうかっ!?




国崎に連れられ、彼の車に押し込まれた。


――誘拐犯、リターンズ。

…いや、今度のは、シャレになんないな。ホントに誘拐かもしれない。


無言で車を発進させ、結構なスピードで国道を飛ばす国崎。

当然のごとく顔を見ることはできなかったが、かなり怒っている雰囲気だ。

私は助手席に縮こまって座り、ずっと自分の手を見つめていた。


―ちょっとやそっとのことでは驚かない私だが、今回はマジで危機感を覚える。

この私が、かよわい女子のように震えてることしかできないとか、前代未聞だぞ。


…こいつ、なんでこんなに怒ってるんだろう?






どれだけ経ったのか分からないがとりあえず、車が、止まった。

どこかに着いたらしいが、私は硬直したまま前すら見ることができず動けない。


「降りろ。」


私は横からの彼の声に体をビクッとさせ、震える手で助手席のドアを開けた。


な、なに、ここ。どこだ…?


恐る恐る外に出ると、暗い地下駐車場だった。…見た感じ、マンションの駐車場。

…と、いうことは……


「俺の家、行くぞ。」


ですよねーーっ!やっぱ君の家かいっ!

…ヤベェ。監禁されたら……とか。想像したら、体が勝手に震えてきた。


「早く、来い。」


しかし選択肢は無い。またも手を引かれ、歩かされる。


…国崎さん、アナタ、さっきから単語しか言ってませんね。それがまた、私の心臓を速めるんですけど。


――エレベーターに乗り、ついに国崎の家の前にたどり着いた。5階の、奥から2番目の部屋。黒い扉が私たちを出迎える。


―…魔王の城だ……

…ここに来るにはまだレベル足りないんじゃない?出直してきたいなー。


そんなことを考えてると、国崎は無言で鍵を開け、


「っ!?」


私を中に押し込んだ。


…かなりの力だ。玄関ですっ転び、私は鼻をしたたか打ちつけてしまった。

…っぐう。DVか!?めっちゃ鼻痛い。


「っちょ、国崎!何すんの!!」


怒りからか、ようやく声のボリュームが上がってきた。私は男を振り返り、どなりつける。


「……何、すんのって?」


国崎は後ろ手にガチャリと鍵をかけてから、こちらに近づいてきた。

ゆらりとした動作が、また不気味だ。


…こ、声のトーンがまだ低いよぉっ……!泣くよ?いくら私でも、泣くからね?コレ。


「それは、俺のセリフなんだけど。」


急速に距離を縮める国崎に、私は身の危険を感じ、足を滑らせながらもリビングへ走った。

国崎の部屋は存外に広く感じられたが、今の私に余計な装飾を気にしている暇はない。


あちこちと逃げ惑ったが、男と女の体格差からか、すぐに追い詰められ、そして。


「う、わ!?」


ついに、ソファに押し倒されてしまった。



私の体重で、ソファが若干沈む。その上に国崎が覆いかぶさった。

目の前に、彼が迫る。


「……っ!!」


―…ボ、ボコられる!?

私はぎゅっと目を閉じ、体を強張らせて衝撃に耐える姿勢を取った。


…………。


しかし、何も起こらない。部屋の中がいきなり静かになったような気がした。


「…?」


私は恐る恐る目を開けてみた。国崎の顔が完全に視界に入る。

だが。


「…え?」


思わず、目を丸くする。

彼は、…何故か、すごく苦しそうな顔をしていた。

真っ暗な瞳には、怒りはもちろんだが、悲しみ、憎しみなどその他のものも映しているように見える。


「…君……、どうしたの?」


無意識に尋ねてしまう。国崎は明らかに様子がおかしかった。

押し倒されたままなので、互いの距離は異様に近く、吐息が顔にかかるほどだ。

しかし私は、この状況より彼の表情の方が気になった。


「……那津。」


長らく黙っていた国崎が、口を開き、私の名をささやく。

そして、吐きだすように言った。



「お前、やっぱムカつく。」



「……え、……むぐっ」



言うが早いか、大きな影が襲いかかり、私は口を塞がれた。

……国崎の、唇で。


「―――っ、!」


感じたことのない感触に、大いに戸惑う。


…何だこれ。何してんの、コイツ。

…い、息ができな……


酸素の供給不足か、だんだん頭がぼんやりしてくる。


「~んんっ、む!」


私はヤツを押しのけようと胸板を力いっぱい押すが、ビクともしない。それどころか、いっそう激しく私の唇を奪い、貪る。


――もう、わけが分からない。苦しい。


酸素不足だけじゃない、この変な感覚に、私は完全に力が抜けてしまった。





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