02
「え?」
「…貴女のおかげで国崎君の傍に接近することができたし、お話もするようになったんだけど…何て言うか、彼の視界に入ってないの。」
「………。」
「なにが、いけないのかな。服?髪型?スタイル?性格?顔は…さすがに変えれないけど、他の所だったら直すのに。」
そう言った彼女はすごく辛そうな表情で、悩んでいるように見えた。今にも泣きそうだ。
私は無表情で彼女を見つめる。
恋は盲目、か。
昔の人もよく言ったもんだな。案外本当のことかもしれない。
私には理解できないが、な。
――国崎のために悪いとこ、つーか、好みで無いところを直すなんて――
そんなの。
「…バカじゃないの。」
「へ?」
「国崎程度の男に、麗奈さんが合わせる必要なんて無い。大体相手に気に入られようとするとか、多分アイツは嫌いだと思うよ。…いい?麗奈さん、貴女は綺麗だよ。国崎の好みはともかくとして、世間一般に見て、美人。だからもっと自信を持ちなよ。そのまま自然体の自分でアイツを落とすくらいの根性がないと。」
正面を向いたまま一気に喋りまくる。
人の気持ちなんて分からないけど、とりあえず私が正しいと思ったことを。
そもそも国崎ってエスパーだから、どんなに取り繕ってもバレるのがオチだろうし。
それに…なんだか、ここまで純粋に思われている国崎が憎らしく思えた。
超美女がこんなに悩んでるんだよ、君のことで。
それで恐ろしいことに、私に相談してきてんだよ、君のせいで。
「那津……」
パチッと、瞳を潤ませる麗奈さんと目が合った。そのまま私をじっと見てくる。
―む。やはり恋愛シロウトの助言なんて蛇足だったか?
「あ…別にただ言ってみただけだから…「その通りだわ!!」
…断りを入れようかと思ったら、遮られた。すごい勢いで。
「そうよね!偽りの自分を好いてもらっても、空しいだけよねっ!なんで気付かなかったのかしら!ありがと那津。元気でてきたわ!!私、国崎君に猛アタックかけて、絶対落としてみせる!!」
…うわあ。イキナリ元気になりよった、この人。
スイッチ切り替え早ぇ~。
「…そう、頑張れ。」
私は若干引き気味に、一気に血色が戻り拳を突き出している麗奈さんに向かって呟いた。
――単純ってトクだな。ある種、うらやましい。
「ね、那津。」
「…今度は、何スか。」
「私、どうして那津があの4人に気に入られたか、ずっと不思議だったの。もっと可愛い子もいるのにって。」
…突然、何だ。嫌みか。
「…でも、今ちょっと分かったわ。貴女はこだわらないのよ。ルックスにも、性格にも。だから話してて疲れないの。」
「…それ、気にすればよかった?」
初耳だ、そんなの。
「いいえ。そこが貴女の長所よ。誇っていいわ。私も、那津のこと好きになったもの。」
「…あの、百合とかに興味は無「そういう意味じゃない!!」
車内は笑い声に包まれた。麗奈さんは爆笑、私は苦笑。
知らなかったが、私はイケメンとか美女とかに好かれる性格らしい?
…なんじゃ、そりゃ。
――ま、とにかく麗奈さんが元気になって良かったと思う。
その後。
車は巨大百貨店に停まり、私は麗奈さんと一緒に買い物をした。
――と、言っても買ったのは彼女だけだ。
自分が気に入ったものを片っぱしから豪快に買いまくる麗奈さんを見て、スゴいと思いましたマル
私にも買ってあげると言われたが丁重にお断りしておいた。買われても金を返せる自信がまるでない。
いつも私が買っている服とは、値段のケタが違うだろうから。
…これが庶民と金持ちの差ぁだよ、諸君。
店に着いて正味3時間程過ぎたところで麗奈さんは満足したらしく、車を呼んでくれた。
やっと解放される…と私はほっと息をつく。
数分後、行きと同じく黒塗りのベンツが私たちを出迎えた。運転手に促され麗奈さんと後部座席に座る。
荷物を積むのに時間がかかっているらしく、私たちはそのまま少し待った。
しかし麗奈さん、君、どんだけ買ったんだ……
「あー楽しかった!ねぇ、那津は本当に何も買わなくて良かったの?」
「あいにく、金欠なんで。」
1着買ったら生活費すら吹っ飛ぶからな。
「そ?でも、今日付き合ってくれたお礼に、ハイこれ!」
そう言って、彼女は真四角の箱を取り出した。手のひらに乗るサイズだ。
「…なに、これ。」
「開けてみてよ!」
言われるまま私は箱を開けた。
「あ…」
―中身は、薄いブルーの液体が入った香水だった。
ガラス瓶に入っていて、高そう。なんか有名なブランドのロゴも入っているような……。
…いつ、買ってたんだろう。
「…え、これ香水?もらえないよ、こんなん。」
「いいのっ!お礼なんだから受け取りなさい!」
返そうとしたらズイッと突っ返され、持たされた。
―ったく、強引な。
私はしぶしぶソレを自分の手の中に収めた。
「その香水、シトラスミントの香りだって。那津にぴったりと思ったから選んでみたの!遠慮なく使ってね!」
…と、言われてもな。香水なんて、初めてだぞ…?
まあ、もらえるならもらっておくけどさ。
いつか使うとしよう。
「…うん、ありがと。」
「どういたしまして。でも、いいのよ。こっちがお礼を言いたいくらいなんだから。」
麗奈さんは不敵に笑った。窓ガラスに自信に満ちた、美しい顔が映る。
「私、那津の言う通り頑張ってみるわ。だから貴女も応援してくれるかしら?」
ずいっと顔を近づけられ、両手を握られた。
…近い。そして、なんかコワイ。
「と、言われても…恋のキューピッドなんか出来ないけど。」
呟きながら私はちょっと後ろに下がった。
威圧が。えも言われぬ圧力がかかってますよ、麗奈お嬢様。
「いいの、見守ってくれるだけで。後は自分でなんとかするから。」
ね、お願い。と綺麗にウインクされてしまった。
…う、女の私でも結構クルな、その技。
「…分かった。国崎とはしばらく会わないことにするから。あとは女子を避けながら自分で頑張って。」
「そう!良かった!」
最終的に私が承諾するカタチで話がまとまると、麗奈さんは再び綺麗に笑った。
そして何事もなかったかのように窓の外を眺め始めた。
……。
私は横に座っている女を無言で見つめた。
行きとは違って、生気に満ちあふれている麗奈さん。
流石の国崎もこの本気モードの麗奈さんには、コロッと落ちちゃうんじゃないの?
ああ、でもそうなったら好都合か。
国崎と麗奈さんがくっつけば、私は………
――いつか来るかもしれないその想像を、
少し先延ばししたいような、寂しい気持ちになったのは気のせいだろうか。
答えは出なかった。
……まだ。
キキッ!
「さ、着いたわよ。貴女の家、ここでしょう?」
それから約数十分後。何故か私の家にピンポイントで停まった、ベンツ。
「…何で、家知ってんの?」
「私は社長令嬢だもの。情報入手なんてたやすいことよ。」
自慢げに言う麗奈さん。
…権力行使の仕方、間違ってないか?
「……まあ、送ってくれてどうもありがとう。」
「ええ。また明日。」
手を振る麗奈さん+ベンツを見送り、私は我が家に入った。
――ああ、なんかやたら疲れた……
女子相手にここまで振りまわされたのは、いつぶりだろうか…
『また明日。』
そう、明日からもこれは続く。
しかも、当分国崎に近寄らないようにしなければならないし。神経使うなあ、ホント。
――は、勘弁してくれよ。もう。
玄関にたどり着いた私は、そのまま膝から崩れ落ちてしまった。