麗奈の憂鬱
「――というわけで、私の友達の、高宮麗奈さん。1コ先輩だよ。」
「よ、よろしくお願いします、皆さん!!」
翌日。
私はいつもの理学部カフェに4人を呼びだし、麗奈さんを紹介した。
ヤツらは私のいきなりの行動にビックリしていたようだったが、
「うわーっ美人!ね、麗奈ちゃんって、呼んでいい?」
水谷が最初に食いついてくれた。
―よし、ナイスだ水谷。君はこういう時ホントに役に立つ。
「…あの、ナツさん。」
―と、水谷が盛り上がっている横で乾に耳打ちされた。
「なに?」
私も小声で返す。
「あの人、本当に貴女のお友達ですか?」
「うん。昨日、なった。」
「…それは貴女の目的のために?」
「当たり前じゃん。でも悪い人じゃないみたいだから大丈夫だって。大体、君らがいつまで経っても女友達を作らないのが悪い。」
「それは、そうですが…。」
「反対なワケ?」
「…俺は、女性が苦手なものですから。」
「ああそう。じゃ、私もいらないじゃないの?それなら。」
「ナツさんは別です。離すつもりもありませんし。」
?
どういうこった。意味分からん。
時々コイツもよく分からん発言するよな。
頭の上でハテナマークを飛ばし、また口を開こうとするが、
「何、話してんの。」
国崎が上にのしかかってきたので中断された。
のしっと体重がかけられていて身動きが取れない。ヤツは、完全に私に体を預けて抱きついていた。
…お、重い。
「…別に何も話してませんって。」
「嘘つけ。コソコソとウザいんだよ、お前ら。」
乾は呆れたように肩をすくめたが、国崎はギロリと彼を睨みつけた。
…心狭いな、国崎。そして抱きついて来るのに何の意味が。
――すると、私は麗奈さんがこっちを見ていることに気がついた。
水谷との会話はそっちのけで、私の方をなんか睨んでる?ような……
……って、この体勢ーー!!
そういや麗奈さんって、国崎が好きなんだった!
ヤバいっ!余計な内紛まで起こしたくないよ、私!
「くっ、国崎ぃ!マジで何でもないから、離せっ!!」
瞬時に事情を察した私は、腕を振り上げて慌てて国崎を引きはがす。
―は、危なかった。
ったく、こいつはスキンシップが過剰すぎて困る。誤解を生む原因じゃんか。
そんなに私って、猫っぽいだろうか?
―疑問は残ったが、まあそれはさておき。
「…とにかく、麗奈さんは私の友達だから。君らも仲良くしてやって。」
つーか、しろ。
4人はそう宣言した私の意図が分かっているので、苦笑した。
そして、
「じゃあ、よろしく。」
「初めまして、乾といいます。」
「ねぇーっ、また皆で居酒屋行こうぜー!」
「…どうも。」
各々挨拶をした。
麗奈さんも顔を赤くしながらも彼らと笑いながら話す。嬉しそうな横顔が見え中々好感触のようだ、と安心する。
…うん、これでこの男共も私に飽きてくれるといいなあ。
自由になる日も近いか?とか思っていると、
「おい、」
背後から国崎に話しかけられた。
「なによ?」
無視する理由も特に無いので答える。
「…あの女、お前の計画とやらに乗ったのか?」
「うん、一応話したし。」
「どこにメリットがあるんだよ、あの女に。」
あるんだってば。君に近付けるという、ね。
「あの女じゃなくて、麗奈さん。ちゃんと呼んであげなよ。」
「…俺は別に、仲良くするつもりは無いし。」
「冷たいな。君、麗奈さんに1度会ってるのに。覚えてないの?」
「は、俺が?いつ?」
「本人に聞いてみれば?」
そう言うと、私は走って麗奈さんたちの所へ戻った。
――麗奈さんがいるんだから、あまり国崎に近寄ってはいけない。
私はあくまでも彼女を応援する立場だ。のっけから裏切るような行為はご法度。
だから、しばらくは避けとこ、あいつ。
そんなこんなで、麗奈さんが『オトモダチ』になってから、数日が過ぎた。
麗奈さんも、大分イケメンたちに慣れたようで楽しそうに談笑している。
――そして、私も笑いが止まらない。
何故なら。
あれだけうざったく群れていた女子軍が、半数以下に激減していたのだ。
…何でも、麗奈さんは前々から美人で有名だったらしい。
敵わないとみた、中の上クラスの女子は次々と離脱。
やはりアイドルの追っかけのようにキャーキャー言ってるヤツらが大半だったみたいだ。
おかげで私などは、以前と同じく陰の薄い存在と認識された。
あるいは、『麗奈さんと仲良くなるためにイケメンたちに利用された女』と勝手に妄想してくれたのかもしれない。
――いずれにしろ、愉快なことこの上ない。ここまで上手く転がってくれるとは。
麗奈さんには、大感謝かな。
しかし、問題はあった。
「…ねぇ那津。明日はどんな服を着たらいいかしら?」
―この恋する暴走乙女、高宮麗奈さん本人である。
日が経つにつれだんだんと慣れ慣れしくなった彼女は、今では私に引っ付いてレンアイ関係の話を振ってくるようになった。
――正直、最早あの4人の男前よりも厄介かもしれない。この人。
はあ、なんて誤算だ。しかも彼女、まだ本性を出してないっぽいしな。
ま、どうでもいいけど。
私は呆れた顔をして振りかえった。
「…だから私は知らないって言ってるじゃん。自分でなんとかしなって。」
単純にしつこく絡んでくるのがウザイんだけど。君。
「えーっ。曲りなりにも友達なんだから、いいでしょっ!」
「…ほんと、不本意だけど、一応、そういう設定だね。」
「そうよ。だから買い物付き合いなさい!!」
…何故『だから』なのか分からんが強制かい。俺様は国崎だけで十分だってのに。
「え、嫌「車呼んだから、行くわよ!!」
しかも車て。
実は麗奈さんは見た目だけでなく、本当にお金持ちだと聞いた。
確か父親が某有名会社を経営してるとか、何とか……。
ワーオ、リアルセ・レ・ブ。
庶民には縁が遠すぎてワケ分かんないや。
「…那津っ!乗って乗って!」
私が呆けていると目の前に……ベンツじゃない?コレ。が、停まった。しかも運転手付き。
…うわ、これは、違った意味で目立つ。頼むから車の中で手招きしないくれ。
私はイキナリ逃げ場を失い、逃げるようにしてピカピカのベンツの中に入った。
同時に、車が発進する。
「ああ、もう。どこ行くんだよ……。」
私は去りゆく景色を横目にげんなりとして、フカフカの座席に座った。
「んーと、私がよく行く服屋に。ねえ、那津も少しはオシャレすれば?」
「私、そういうの興味無いし。元が酷いから着飾ったって無駄。」
「…なんでそんなにネガティブなのよ……。」
麗奈さんは呆れたように苦笑した。
ネガティブなのは、私のデフォルトですが、何か?
車はいつの間にやら見知らぬ風景の中を走っていた。
しかし流石高級車と言うべきか、走っている音も街の喧騒も聞こえない。
――故に、沈黙が痛い。
さっきから麗奈さん、黙ったまんまなんだけど。居心地悪いなー。
私も同じく黙ったまま座席の上で縮こまっていた。
すると
「ねぇ、那津。」
突然隣から声がした。
「ぅは、はあいっ?」
…ぐ、いきなり話しかけるから変な返事しちゃったじゃん。
何だ、と麗奈さんの方を振り向く。
「…国崎君って、どんな子がタイプなのかな。」
だが、私の方は向かずポツリと零す麗奈さん。声色が深刻そのものだ。
私はビックリして彼女の顔を覗き込んだ。