02
しばらくお互いに何も話さなかったが、頃合いを見て私は口を開いた。
「…あの、ついでにお聞きしたいんですが」
「何?」
「国崎の、どこがいいんですか?」
失礼かとも思ったが、一応聞いてみる。
人気の理由が分かれば対策も練れるかもしれないと思ったからだ。
「……何、貴女…」
「へ?」
――と、
いきなりガシッと両肩を掴まれ――
「国崎君の良さが分からないのっ!?あんなに完璧な男性はいないっていうのに!」
そのままガクガクと揺さぶられる。
…うわ、また熱くなったよこの人。
国崎関係の話だと冷静さを欠くのか?それとも私、何か変なスイッチでも押したか?
「私、国崎君のことなら、小1時間は話せるわ!!」
「いや、長引くのもアレなんでかいつまんでで結構です。あと声のボリュームも少し落として。」
小1時間も話されたら困る。
「…コホン、ちょっと熱くなりすぎたわね、失礼。
いいわ、彼のすばらしさを語ってあげましょう。
180センチを軽く超える長身、スラッと長い脚、男らしくでもしなやかな手、痩せ形なのに程良くついた筋肉、サラサラの茶髪、何より整った美しい顔!!…まさに私の描く王子様そのものだった……。」
高宮さんは、うっとりとした瞳を虚空に投げかける。
…誰が君の妄想話を話せと言った。
外見が特上クラスなのは、もうとっくに知ってるって。
「………。」
私は白けた気分で先を待つ。彼女の話はまたさらに熱さを増した。
「…そして、あの紳士的な態度!!
私が彼に初めて会ったのは、彼が入学してまだ間もないころだったわ…私、その日は高いヒールを履いていたものだからつい足をひねって倒れこんでしまったのよ。
でもそんな時国崎君が来て、『大丈夫ですか?』って声をかけながら起こしてくれたの。私、すごくときめいちゃって、もう心臓がドキドキして仕方なかった……。
今思えば、あの時一目惚れしちゃったのね…
そしてその後彼は医務室まで連れて行ってくれて、
『今度から、ヒールの高い靴は避けた方がいいかもしれませんね。危なっかしいから。ではお大事に。』と言い残して颯爽と去って行ったの!」
言い切ると彼女は満足そうにバラ色のため息をこぼした。(どんなだ)
……ハイ、ノーカット版でお届けしました。
恋する乙女の回想録。
感想。
高宮さんも国崎もベタすぎ。以上。
つか、美女もそんな簡単にオチるもんなんだな。やっぱルックスって、武器?
う~ん、しかし参った。全く有力な情報が得られなかったぞ。
国崎が本当に普段はベタ紳士やってることと、
この人が妄想暴走乙女だってことくらいか。分かったの。
私はため息を吐いた。
…最近多いなあ、ため息。私、実際不幸だしな。
「はあ、だいたい分かりました。で、告白はしたんですか?」
「…っな!あ、貴女っ…そんな…っできないわよ…!」
私がそう聞くと、突如顔がユデダコのように真っ赤になった高宮さん。
…え、マジで?1年以上も経つのに?
「…どうしてですか?」
「だってっ、彼、ファンが多いでしょ?なんか怖くて近づけないし…。何より、彼に拒絶されるのが怖いの…。」
高宮さんはさっきの勢いとは打って変わって、消え入りそうな声で言った。
しゅんと小さくなって俯く彼女は、本当に真剣に悩んでいるみたいだった。
この人、ホント純粋なんだな。
まるで漫画のヒロインのようだ。…私と違って。
……………。
――だが、コレは使えるな。
あいつら相変わらず女子の友達を作ってこないし、彼女は十分過ぎるくらい美人だ。
――よし。
「…なら、まずはお友達から始めてみては?」
「え?」
決めた。この人をオトモダチ第1号にしよう。
目を丸くする彼女に構わず、私は手を組みながらゆっくりと話した。
「私が貴女のことを私の友達として彼らに紹介しましょう。そうしたら近づけますよ、少しは。」
「…え?」
ぱちぱちと瞬きをし、驚いたような顔をする高宮さん。
美人はどんな顔でも美人なんだなあ。
「……っ!そんな、上手い話すぎるじゃないっ!」
ぼんやりと彼女の反応を待っていると、美女は急に鋭い眼差しを向けて来た。
…いきなり承諾はしないが、めっちゃ動揺してんな。
もうちょいか。
「別にこっちも親切心だけでこんなこと言ってるワケじゃありませんよ。私も女子に目をつけられて困ってたんで、貴女のような美人が必要だったんです。」
「…それって、私を盾に使うってこと?」
「ま、簡単に言ってしまえば。でも高宮さんだって、国崎と仲良くなりたいんでしょう?ギブ&テイクですよ。」
「………。」
すっかり冷めたコーヒーの最後の1口を飲んで、再度彼女の反応を見る。
しばらくはうろたえていた高宮さんだったが、すぐに落ち着きを取り戻した。私に対し疑うような視線を向けて来る。
「……そういえば、貴女、どうやって彼らと友人に?」
「尤もな質問ですが、それは私が聞きたいです。」
「え、貴女から言い寄ったんじゃないのっ!?」
―と、本気で驚いたような表情を返された。
…普通の反応だろうが、なんかムカつくな。やっぱ世間的にはそう見られてんのか。
舌打ちを堪えながら私は笑顔を作った。
「…違いますよ。」
「え?なら、どうやって?」
「成り行きは話が済んでからでどうです?」
「………。」
こう言えばどうかな。
そう大した話じゃないが、気になるだろうしな。食いつく?
私はじぃっと高宮さんを見る。
彼女は何も言わずにまた考え込んでいるようだった。
――しばらくの、沈黙が流れる。
彼女の頭の中では今、計算機がフル稼働中だろう。
考えてもらう時間も必要だから、私も黙る。
その間特にやることの無い私は、ぼんやりと窓の外の道行く人々を観察していた。
「…あの、」
高宮さんはしばらく唸っていたがやがてパッと顔をあげると、私に向かってハッキリと言った。
「…分かったわ。お友達になりましょう?本城さん。」
その返事に、私はニヤリと笑う。
…ミッション、コンプリート。貴女ならそう言うと思ったよ。
「ありがとうございます。私のことは『ナツ』で結構。私も貴女を麗奈さんと呼びますから。」
「ええ那津。貴女、優しいのね。」
高宮さんは感動めいた口調でそう言う、が、
「そうでもないよ。私、性格悪いし。彼らに紹介した後は知らないからね。」
突然口調を変えた私に、驚いた様子を見せた。
――友人となったからには、とりあえず地で接しないとな。後々面倒だから。
「これからは一応、素でいくから。よろしく、麗奈さん。」
手を差し出すと、麗奈さんもクスッと笑って私の手をとった。
「よろしく、那津。」
かくして、高宮麗奈さんがパーティに加わることとなった。
ジョブは、『イケメンたちの女友達かつ私の友達』。
…この人も、なんかひとクセありそうだがな。
まあ、いいや。
明日、アイツらに紹介することにしよう。