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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
20/126

美女、来襲




「―ちょっと、本城さん。話があるんだけどいいかしら?」


時刻は朝もまだ早い時間。1限の講義前である。

…目の前にいる美女と呼ぶのにふさわしい、ブランドで固めた女に話しかけられたのは。

私は昨日徹夜で仕上げたレポートをファイルケースに入れ、提出しようと教授の部屋を訪れるところだった。


「…あ?」


ジロリと見返したところ、謎の美女は若干後ずさった。

…あ、スイマセン。徹夜明けなんで、目つき悪くて。


「…話があるの。時間はあるかしら?」


コホンと咳払いをし改めて私に話しかけてきた。

なかなかいい人のようだ、見かけによらず。マナーの悪い女なら無理矢理引きずっていくだろうに。


……というか、もう用件分かってますけど。あなたが来た時点で。


「…レポート提出して、3限の講義が終わった後ならいいですけど。待てます?」

「いいわ。じゃあ大学前の喫茶店で待っててくれるかしら。」


いい人ってだけじゃなく気も長いらしい。別の言い方をすると、暇人。

じゃあ、後で。と手を振って彼女は階段を上っていった。

その後ろ姿を見送り、私もため息を1つついて教授の研究室に入る。


…ついに、来たか。女子からの呼びだし。

ったく、高校生じゃ、あるまいし、男くらい実力でゲットしろよなー。





講義もすべて終わり、私は例の喫茶店に行くために帰り仕度をした。

鞄をかつぎ講義室を出る。中庭を通り出口にさしかかる。

そして最後の角を曲がり――


「やっほー!ナッちゃん!」

「今終わり?一緒に遊ばない?」


――きる前に、見なれた顔がひょこっと飛び出してきた。


…う。出た。

眩しいくらい満面の笑みで近づいてくる男たち。

今日は水谷・斎藤ペアだ。


…何故にヤツらは毎日日替わりで現れるのか。なんか示し合わせているんだろうか。『今日は俺たち』みたいな。

とりあえず、迷惑以外の何物でもないな。


「…悪いけど、今日は無理。先約があるんで。」


手を前で振りとりあえず断る。


「えー、嘘だろー?」

「もしかして、金欠?金なら貸すよ?別に。」


…オイ、先約ってのは、嘘確定かい。

違うから。ホントだから。むしろ、君らのせいだから。


「ああ、もう。今日メールするから、とりあえず帰れ。」

「マジっ!?約束だからね!」

「ナツちゃんのメール、レアだからなあ。」


うっさいレアで悪かったな。面倒臭いんだよ、打つの。


…4人とつるむようになってからも

相変わらず、メールはめったにしない私だった。


その後今夜しっかりとメールするよう釘を刺された私は、2人に見送られ大学を後にした。


…なんだか私、あの4人に懐かれすぎてる気がする。こっちはマスコットじゃないってのにな。


――今度、私のプライバシーを侵害すんな、とか言ってみようか。


それはそれで厄介なことになりそうだ、と思いながら待ち合わせの喫茶店へと足を進めた。






数分後、目的地にたどり着いた。

…いや、たどり着いた……のか?

本当にここであってる?でも、大学前の喫茶店ってここしかないし。


…何というか、入るのをためらう店なんだが。


――彼女が指定してきた店は、

なんとも乙女チックな(?)感じの、超ファンシーなカフェだった。


レースのカーテン、フリフリエプロンの店員、そこら中にあるぬいぐるみや人形。もちろん客は全員女性。


……何、この空間。私、完全に浮いてるよな?

つーか何でわざわざこんなトコ選んだかな、あの女。


私はいささかげんなりとして、パッチワークの引いてある椅子に座った。相手はまだ来ていないらしい。


「ご注文は、お決まりでしょうか?」


席に着くなり近寄って来た店員に、コーヒー、とだけ告げて私は机に突っ伏した。

…頼むから早く来てくれ。居心地が悪すぎるぞ、コレ。


地味メガネ女×フリフリレース×ふわふわぬいぐるみ


……罰ゲームか?






女が来たのはそれから10分後だった。

朝見たときと変わらず見目麗しい彼女は、ごめんなさいね、と一言謝り席に着く。

私はそのときようやく頭を上げて、紅茶とケーキを頼む女を観察した。


セミロングの髪は丁寧に巻かれていてメイクにも余念なし。綺麗というよりは、可愛らしいという感じに仕上がっている。淡い色合いのボーダーのシャツもピンクのロングスカートも彼女にぴったりと似合っていて…典型的なお嬢様タイプだ。


…罪な男よな、あいつらも。こんな美人に好かれるなんて。


彼女の頼んだ紅茶とケーキも届きひと段落したところで、目の前の美女は話し始めた。


「……じゃ、まず、自己紹介ね。私は高宮 麗奈(タカミヤ レイナ)。文学部の3回生で、20歳よ。」


へぇ、先輩なんだ。

それにしちゃ丁寧で感じ良さ気だな。


「ご丁寧にどうも。本城那津、法学部の2回生です。年は19。で、どういったご用件でしょう?」


私は白々しくそう返す。

すると少し気分を害したのか、高宮さんは綺麗に整えられた眉を多少ひそめた。


「…分かってるわよね?私が知りたいのは、S大の王子様たちと貴女がどういう関係かってことよ。」


…は、王子様だって。ひねりも無けりゃセンスもねぇ呼び方。

私にとっちゃ、ただの面倒な男どもだけどな。


「どういうって、ただの友人ですけど。」

「嘘。友人にしては親しすぎるわ。あの中の誰かの、彼女なんでししょう?」

「誰の彼女だったら、困るんですか?」


そこで高宮さんはカッと顔を赤くした。

…案外表情が豊かだな、このお嬢様。


「っ、それはどういう意味っ!?」

「…いや、誰か狙ってる人がいるんでしょう?4人の内、誰かなって思って。」

「…………。」


…あれ、そんなおかしなこと聞いたか?黙っちまったぞ。


無言の彼女の方を向いたまま待機する私。

すると何秒か後、


「……き……くん…よ。」


高宮さんは、俯いたまま、ボソボソ呟いた。

物事ははっきり言おうか?と、若干いらついたままもう一度聞いてみた。


「…すいませんが、聞こえません。誰です?」

「くっ、国崎聖悟君、よ!」


顔をガバッと上げた彼女は、顔面を真っ赤にして、『キャー』と恥じらっていた。


うわ、乙女だこの人。ああ、だからこんな喫茶店が好きなのか。

――にしてもやはり君か、国崎。さすが1番人気だな。モテるモテる。


「…はあ、そうですか。」


私はちょっと冷めた目で目の前の女を見ながら、答えた。

すると彼女は興奮気味に私に食ってかかる。


「あ、貴女がこの間、国崎君と仲よさそうに歩いてるのを見たのよっ!どういうことっ!?」


あちゃ、見られてたか、と心中で舌を出す私。

この間のアレか、それ見て誤解したんだな。

これからは誤解を招かないように複数で行動するとか、なんとかしないとなあ、とぼんやり思った。



「えっと、彼に私のお気に入りのコーヒー屋を教えてたんです。」

「な、なにそれっ!デート!?」


違ぇ。


「違います。友人として、です。貴女も仲のいい男友達くらいいるでしょ?」

「……そう、かしら。」


うーん、と疑惑の眼差しをこちらに向け考え込む高宮さん。


…ていうか、何?

やっぱりアレって、友人としては距離が近すぎるのか?別にそうでもないと思うんだけど。

あれ?私の感覚のが変なのか?


「…ま、そういうわけなんで。大丈夫ですよ、国崎と私がどうこうなるなんて100%ありませんから。私もどっちかというと嫌いよりですし。」


私はニッコリと笑って言った。


――だから、自信持ってください先輩!

ついでに私のことは空気と思っていただいても構いませんよ?


私の完全な否定に高宮さんも納得したのか、ほっと一息ついて、紅茶を飲んだ。


「…そう、分かったわ。ごめんなさい、変な勘違いして。」


まだ顔がうっすらと赤いままの彼女は、やはりとても綺麗だった。


…国崎、こんな美人見逃すなんてどういう了見だ。

バチ当たんぞ、いつか。






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