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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
19/126

02




大学を出て徒歩7分(私計算)。

大きな道路から少し外れた所に、私のお気に入りのコーヒー屋がある。

…コーヒー屋といっても喫茶店のような所で、中でマスターがコーヒーを入れてくれるのだ。


――カランカラン。


いまどき珍しい古風なドアベルがついたドアを押し、店内に入る。


「いらっしゃい。」


柔和な笑みを浮かべ私たちを迎えてくれたのが、この店のマスターだ。

御歳、35歳。独身。丸メガネとヒゲがトレードマーク。


「こんにちは、マスター。」


私はとりあえず挨拶をして、カウンターに座った。

国崎はその隣の席に腰掛ける。なんだか物珍しそうに店内を見回していた。


「那津ちゃん、久しぶりだね。こっちのカッコイイおにーちゃんは彼氏?」


…定番トークしてきやがった。


「違います。友達、しかもなったばかり。」

「仲よさげに手、つないでるのに?」


は、しまった。繋ぎっぱなしだったか。

瞬時に私はパッと国崎の手を離した。なんか汗かいてたし。最悪。


「…まぁ、これは成り行きで。」

「いいねぇ、青春。オジサンはもう枯れ果てたからなぁ。」


聞いちゃいねぇな、このオヤジ。


「…国崎。マスターはこんなんだけど、コーヒー入れるのは上手いから。」

「こんなんって何よ、こんなんってえー!」


口うるさいオヤジだよ、もう。


「はいはい、うるさいから黙っててー。私、ブルーマウンテンね。それと――」

「マスターさん、俺コーヒー苦手なんですけど。飲みやすいのあります?」


ちらりと隣を覗きながら言うと、いきなり国崎に遮られた。おお、敬語だ。


「僕のことはマスターって呼んでよー。そっか、コーヒー苦手なの、君。じゃとっておきの、ブレンドしちゃおうかな?」

「うわ、マスター、実は男好き!?だから35にもなって結婚できないんだって。」

「やかましい。年齢のことは言うんじゃないの。」


マスターは舌を出してそう言い残し、店の奥へ消えた。





―しばらくお互い無言でいたが、ふと視線を感じ横を向く。

…と、国崎がなんとも言えない表情で私を見つめていた。


「…何、国崎。」


目を細めて聞いてみる。


「ん?ああ、なんか那津がくつろいでるの見て、意外な感じがしたから。」


と、なんだかぼんやりとした様子でそう返ってきた。…くつろいでる、ね。

私はふっと笑った。


「……確かにそうかも。私、コーヒーの香り好きだからね。なんか癒される。」


そう言って前を向き、少し黙った。


――マスターの店は感じがいい。

忙しい街の中で、ここだけ時が止まっているかのような錯覚を覚える。

国崎もそう思っているのか、いつもより若干顔の表情が柔らかいような気がする。


「…はーい、おまたせ。」


程なくしてマスターが戻ってきた。手には湯気の立つコーヒーカップが2脚。


「さ、飲んでみて。」


私はいつも通り、香りを堪能してからカップを口に運び、一口飲んだ。

…うん、今日も美味しい。このオヤジからなんでこんな美味しいコーヒーが出るのか、不思議。


「…えっと、国崎君だっけ。最初は何も入れないで飲んでみてよ。」


マスターに促された国崎も、恐る恐る手渡された一杯を一口飲んだ。

すると、



「…おいしい……。」



ヤツの顔は、パッと花が咲いたようにほころんだ。これには私もぎょっとする。

うわ。バックに花が飛んでるよ、花が。

…客観的に見ても、超可愛い。

こりゃファンには鼻血ものだな。なんだ、その汚れなき少年のような表情は。


「やったっ!それ、僕の自信作なんだよ!よかったー気に入ってくれて。」


マスターもなんかやたら嬉しそうだ。…若干引くほど。


「俺、こんな美味しいコーヒー、初めて飲みました。」

「おうおう、嬉しいこと言ってくれるね。もう1杯どうよ。」

「じゃあ、いただきます。」


国崎のカップに新しくコーヒーが注ぎ足される。マスターも同じのを自分のカップに入れていた。

マスターと国崎はすっかり意気投合したようだ。親しげに話す2人を横目で見ながら、この店を紹介して良かったと思った。


……あ、そうだ。


「ね、マスター!私もそれ、飲んでみたい!」


忘れるトコだった。国崎も大絶賛するそれをコーヒー愛好家の私だって、ぜひとも飲んでみたい。

そう思って申し出てみたのだが。


「残念ながらもう無い!また次回、だな。」


…あっさり断られた。しかも笑いながら。


「えーっ嘘!もっと入れといてよ!」


ニャロ、国崎には2杯も入れたくせにい!

男女差別か!?顔差別かっ!?ズルイッ!!


――私は最後の手段とばかりに、じいっと国崎の持っているカップを見つめる。


「…欲しい、か?」


国崎が笑ってそう聞くと、


「うんっ!」


私は素直に即答した。

やったっ!国崎イイヤツ!(単純)


国崎からコーヒーカップを受け取ると、綺麗な茶色を一口すする。

途端、口が緩んで笑顔になった。


「あ、ほんとだ。スッキリしてて美味しいっ!」


オヤジめ、こんないい豆を隠してやがったか。不公平だぞ。

ありがと、とカップを返すと国崎は苦笑して残りを一気に飲み干した。カップを置き、そして呟く。


「…なんか、ここにいる那津って、子供っぽい。」


………。


「…え、マジで?」


自覚ないんだけど。

君の目にはそのように見えたのか?子供っぽい私って、なんかキモくない?


「うん、マジで。」

「…子供っぽいっていや、君もだろ。」

「え、俺も?」

「さっき、ファンにバラまいたら軽く10万は稼げそうな、あどけない笑顔を漏らしてましたけど。」

「うわ、怖いな。気をつけとこう。」


国崎は身震いして、自分に言い聞かすように呟く。

するとカウンターから両腕が伸びてきて、私と国崎の頭をがしっと掴んで豪快に撫でた。


「ハッハッハッ!いいのよ、若者たち!!ここにいる時は存分に子供に戻りなさいっ!お父さんがコーヒー入れてあげるから。」

「えー…こんな父さん、ヤダな。」


髪をかき交ぜる手を振り払って、冷たくそう言ってみる。

…ったく、何でこんなテンション高いのこのヒゲオヤジ。髪が乱れたじゃあないか。


「傷つく言葉を言うなっ、娘よ!反抗期か?」

「…じゃ、俺はこいつの兄?」

「勝手に設定作るなよ。それなら、私のが姉でしょ。」

「お前はどうみても妹だ。」


――なんか、あーだこうだ言いながら、馬鹿らしい設定を作られた(勝手に)


最終的に決まった役(?)は

マスターが妻に逃げられた30男で、国崎が離婚の際引き取った息子、私が再婚相手の連れ子。

……どこの昼ドラだよ。

確実に何度か修羅場を迎えるだろ。私、血繋がってないし。

しかも再婚相手が非常に気になるトコロだな、コレ。


ま、でもある種リアルな偽装家族ごっこも、なかなか楽しめた。国崎も、マスターも楽しそうだったし。よく笑ってたし。

――私も、なんだか楽しい気分になった。





――気がつくと時間はだいぶ経っていて。もう夕日が傾きかけていた。


「マスター、そろそろ行くわ。」


私は席を立った。ついで国崎も立ち上がる。


「ん、またいつでも来てね。」


――カランカラン


マスターの笑顔の見送りを背に、私たちは外に出る。

夕日であかね色に照らされた街。

行きは混み合っていた通りもだいぶ人通りは少なくなっていた。そんな街中を私は国崎と肩を並べて歩く。


「…いい店だったでしょ。」


歩きながら、隣で歩く男に尋ねた。


「……ああ、そうだな。」


…なんだ、そのぼんやりとした返事は。いつもの国崎らしくない。


「どうしたの?」


私は違和感を感じ、足を止めて国崎の顔を見た。夕日で照らされていて表情はよく読めないが、多分笑ってはいない。ヤツも足を止めた。


「…那津は、何で俺をあの店に連れて行った?」


しばらく間があき、ようやく口を開き言葉を発した国崎。言うと同時にその真摯な瞳に見つめられる。

――また、だ。この目。

この真剣な眼差しに射抜かれる。私は思わず目線を下に向けて顔を逸らした。


え、なにこの空気。何でコイツ、こんなマジなの?

私は焦って弁解の言葉を口にする。


「だ、だって、君がコーヒー嫌いとか言うから!コーヒー程美味しい飲み物は無いってのにっ!!」


焦りつつも口を尖らせて、そう答えた。

え、合ってるよね私。これ以外の理由なんて無いんだけど。何を求めてんの?君は。


「でも、お前のお気に入りだったんだろ?いいのか?」


国崎は真面(マジ)のまま、小さく聞いてきた。


…ああ、なんだ。

コイツ、私のテリトリーの心配をしてるワケか。

私が決めた領域を侵犯してはいないか、と確認しているのか。


……私の言ったこと、覚えてたんだ。


「…別に、いいよ。国崎も気に入ってくれたら私も嬉しいから。」


――うむ。

紳士な配慮はありがたいが、別に気にしてもらわなくてもいい。

マスターの店が広まるのはちょっと嫌だが、国崎は言いふらすタイプでもないし。


――君はトモダチだから。今は、ね。


しかし気遣ってくれたのはうれしく思い、私は歯を見せてニカッと笑った。


「ふーん。」


そっか、と国崎も嬉しそうに笑った。

…やっぱり紹介して、良かったな。マスターの店をよほど気に入ってくれたらしい。


夕暮れの中、再び並んで歩き出す。


「…また、ちょくちょく行ってあげたら?マスターも、息子のように思ってくれてるワケだし。」

「行く時は、那津と一緒に行くよ。」

「そ?」

「俺は、お前の兄貴だし。」

「…まだその設定、続くの?」

「しばらく、これでいこうかな?」


…やめなさい。私の本物の兄が泣くかもしれん

私たちは、そのまま人のいない道を歩き続けた。






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