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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
18/126

香るコーヒー屋




―それからというもの。


「ナッちゃん、やっほー!暇だから遊びにきちゃった♪」


だの、


「ナツさん。今日の昼、一緒に食べませんか?」


だの。


わざわざ講義室にまで現れる男たち。

棟が違うんだから、いちいち来るな、アホどもがっ!君らが来るたびに女子たちがざわつくんだよ!

おかげでもう、毎日瀕死状態ですよ……ああ……


「…何、死んでんの。那津。」

「今日はお前か国崎…」


机に突っ伏していると、国崎に話しかけられた。途端女子たちの黄色い悲鳴が上がる。

ホラね。相変わらずだな……。





居酒屋で飲んだ日の翌朝。

やはり予想した通り、私は登校するなり女子に囲まれた。


『ねぇ、あの4人と知り合いなの!?紹介してよ、本城さん!!』

『もしかして親戚とか?私のこと、紹介しといて!!』

『まさか、あの中の誰かの彼女じゃないよねぇ?知らなかったなー、本城さんがあの人たちと仲いいなんてー。』


…エトセトラ。全く知らない、学部すら違う女子にも話しかけられた。

通りすがりの人にさえ興味深そうに目を向けられる始末。

下心丸見えだなー。女って、やっぱコワイ。


私は台本通り「彼らは友達です。」と丁寧に受け答え、4人のメールアドレスを彼女らにバラまいた。

――餌効果は抜群だったらしい。歓喜した女どもは私には目もくれず、携帯を取り出してメールを打ち始めたのだから。

おかげで難なく逃げおおせた。



――その夜。4人の新・メールアドレスが私の元に到達した。

そういやあいつら、昼から夜にかけて来たメールの数も報告してきたっけ…


斎藤  68通

水谷  72通

乾  63通

国崎 …101通


これで国崎の人気が1番高いことが判明した。

3ケタのったのか、ほんの半日で。いや、他の3人も十分すごいけど。


…どこがいいんだか、あんな変態俺様の。

携帯をパタンと閉じ、ちっと舌打ちを打つ。


あの夜以来、国崎は私の中で有害危険人物一位に認定された。

なるべく近寄らないようにしよう。お酒もタバコも、抜け出せなくなったらヤバいんだからね!!

ダメ、ゼッタイ!!




さて、メールアドレスによってひとまずは危機回避できた。彼らも、アドレスを変えた。

ここまでは計画通りだ。

しかし何故だか第二策が執行されず、あれから1週間が経つというのに一向に彼らから新たな女友達は紹介されない。

…おかげでこのありさまだ。毎日毎時間、メス共がうっとうしくてしゃーない。


おい、責任者でてこい!



「…どういうことだ、国崎…。」


所は変わって理学部近くのカフェ…のカゲ。私は神経を尖らせながら国崎に恨めしげに尋ねる。

一応外からは見えにくいと思うが、見つかるのは時間の問題だろう。

彼女らはハイエナのごとく、瞬時に群がるワザを持っているからな。


「…だから、俺は知らないって。アイツらにまかせっきり。」

「だーーっもう!早くしねぇと私が危ないだろうが!!早いとこ作れって!友達が無理なら、彼女の2、3人くらい!!」

「二股も三股もする趣味、無いんだけど。」


そういう意味じゃねぇーっ!

全く気にしていない様子の国崎に苛立つ。コイツ、この私が生死をかけている時に…っ!


「っ、…そう!君さえ何とかなってくれりゃあいいのっ!国崎って、4人の中でも1番人気でしょ?」

「1番人気って…人を人気商品みたいに」

「シャーラップ。私だって必死なの!ここ数日マジで生きた心地しなかったし!!」

「そりゃ、ご愁傷さま。」


黙れ。何でそんな不服そうなんだ、君は。

ギリギリと歯を食いしばってイライラを隠しもしない私。


――すると、そこに人が近付いて来る気配がした。


コンマ2秒で気付いた私は、バッと振り向く。

―!マズイ、バレたか!

70%オーバーの確率で、この男を捜しに来た女子の誰かだろう。


「…っ!国崎、話はまた後でっ!」


じゃっ!と手を挙げ、駆け出そうとすると


「ダメ、行くな。」


国崎に後ろからぎゅう、と抱き締められた。

国崎の顎が私の頭に乗る。ふわりと彼の息がかかり、背筋がうすら寒くなった。


…ちょ、待て、このタイミングで!?嫌がらせ!?

ひぃ!死亡フラグ立ったぁあ!


「くく、国崎君!?離してくれないか!?」


いかん、声が震える。この恐怖感ヤバイぞ。


「ヤダ。離したら逃げるだろ、那津。」


もちろん、そうだがっ!今は行かせてくれぇ!!


…うう、なんか目が潤んできた。視界がぼやける。

それでも私の後ろで手を回す国崎を見上げて必死さをアピールすると、ヤツは目を見開いて驚いた表情を作った。

おや、初めて見る顔じゃないか。


……あれ、何で?


「お前、そういう顔もできるんだ…。」


ぽつりと呟く国崎。

どういう顔だろう。そんな酷い顔面だったんだろうか?いや、ヒドイのは元からだが。

とにかく、何故か知らんが国崎は力が抜けたように私を離し、顔を逸らした。


っしゃあ!なんか知らんがラッキィイイ!


チャンスを生かし、脱兎のごとく走りだそうと私は足を1歩踏み……



「聖悟君、見つけたぁ。」


……踏み出したまま、固まった。お、遅かったか!?


やたら高いぶりっ子声が頭上から降ってくる。

……頭上?な…何!?上から…だと?

テラスの影は死角になるが、なんと理学棟の上階からは丸見えだったのだ!!


う、うかつ…っ!



そして、さらに。


「聖悟君っ!今日、暇?」

「一緒に遊ばない?」


近付いてきた足音=女子5名 もあらわれた!!

…どうしよう、敵が多すぎるよ。

国崎もぼうっとしたまま、素知らぬ顔してるし。


「ちょっと、本城さん。何してるの?」


そうこうしている内に、頭上の女子の内1人から低い声で話しかけられる。

…知らぬ間に私の名前は広まってしまったらしい。

以前は、大学内の98%の人は知らなかったハズなのに、今では見知らぬ女子からも敵意を向けられる程の知名度に。

…アハ、もうなんか死にたいな。いや、むしろ君が死んでくれないかな国崎。


「はは、えっと…今そこで会っただけ。じゃあね国崎君。私、帰るから。」


―だから君はここでコイツらの相手を頼む。

国崎は裏の意味も読み取ったのだろう、眉をしかめた。


…うん、ゴメン。

でも、元はと言えば君が彼女を作らないせいだから。


私は眼だけでそのように伝えると、女子たちの矛先が私に向かないうちにこの場からフェードアウトを試みた。


――が、


「ちっ」


国崎が忌々しそうに舌打ちを打って、


「!!」


持ち上げられるような感覚と共にグラリと視界が揺れた。

―彼が一瞬で私を担ぎあげたのだ。


…2回目ーー!

この短期間で、2度も宙に浮く体験て!


「ちょ、君っ、何す「俺、こいつと遊ぶ約束してるからさ。今日は無理。」

「…えっ!?」


驚愕の声を上げる女子たち。

…こっちも、『えっ!?』なんですけどぉおお!!



「…じゃ、そういうことなんで。」


国崎は長い脚で地面を蹴って、走り出した。

…私を左肩に乗せたまま。


「――オイ!国崎っ!国崎聖悟!!君は何を言っちゃってんの!?」

「何って、聞いただろ?」

「約束なんざ、した覚えもされた覚えも無いんだけど!?」

「そうか、俺も記憶に無い。」


なら、大ホラついてんじゃねぇよ!!しかもこっちに不利な嘘をー!


国崎と私はギャーギャーと口論を繰り広げる。だが、走りながら話すのに流石に疲れたのか、

程なくして国崎は私を下ろし、大学内の芝生に座りこんだ。

…私も大声で叫んだからか喉が痛い。お互いしばらく休んでいたが、怒りの収まりきらない私はすぐに隣を向いた。


「…また君は目立つようなことを……っ」

「どうせ俺といたら目立つにきまってるし、今更だろ。」


もう恒例にするには、早すぎるわっ!!しかもさらっと自過剰!!

ピキッと青筋を立て、私は改めてこいつを『敵』と認識した。


「黙れ。全く、国崎ってホントワケ分かんない。他の3人はもっと普通に接してくれるのに。」

「…は?なに、あいつらお前に会いに来てんの?」

「毎日のように来ますけど。おかげでこっちが大変だっての。」

「……へぇ、そう。」


そう言って、国崎はちょっと黙った。…と、思ったら、いきなり頭をがしがしとかいた。


…?なんだ?


「…なにいきなりイライラしてんの。コーヒー飲めば?」


もしくはカルシウムか?よくは知らんが。

とりあえずそう助言すると、彼はぴたっと手を止めた。

そして


「…俺、苦いの不得意だから。」


そう小さな声で言った。


………。

…っぷ。不得意って……


合わねーー!その顔で!?そういや、国崎は甘党だったけか!?

にしても、可笑しい!可笑しすぎる!!


「…笑うな。」

「ックク、アハハハ!だ、だって、コーヒーダメとか、子供みたいでっ!君、合わなっ、い……!」


…あー、ヤバイ。笑いすぎて腹筋痛いわ。

ひとしきり笑い終え国崎の方を向くと、ヤツはムスッとふてくされてそっぽを向いている。


うーわーっ。マジでいじけてるっ!

いや私なんかよりコイツの方が猫っぽいって、確実。


―なんだかその様子が可愛くて、毒気を抜かれたというか。さっきまで怒っていたことを忘れてしまった。

そして、


「くくっ、ゴメンゴメン。じゃ、美味しいコーヒーの店、教えようか?」


冗談のつもりで言ったそれに、ふて腐れていた国崎はぴくっと反応しこっちをちらりと見る。


「…連れてってくれるなら、いく。」


…お、なんか釣れた。

こりゃ女子の皆さんに耳よりな情報だな。いい店紹介すればついて来るらしいぞ、こいつ。


「オッケー。歩いて行けるから、今から行く?今日、まだ授業ある?」

「無い。今日はあとバイトだけ。」

「じゃあ、行こう。」


私と国崎は立ち上がり並んで歩き出した。校門を通り抜け、大通りに差し掛かる。

―相変わらず、すごい人だ。信号待ちの歩行者は車道にまではみ出している。

私たちもその中で信号が青に変わるのを待つ。

その間も周囲の女性(時折男性も)が隣の男を見ているのが分かった。

…ここまで来ると、もう芸能人でいいんじゃね?君。


信号が青に変わり再び時が動いたかのように、人の波は一気に前方へと押し寄せる。

私もその波に逆らうことなく、歩き出す。

――と突然、手を握られた。


「っえ?」


―握った相手はもちろん、国崎聖悟。私の隣にいる男だ。彼の大きな右手が私の左手を覆う。

首をかしげるとヤツは口パクで、『はぐれるから』と言ってきた。


…確かに人通りは多いしはぐれるかもだけど。

……。

…ま、いいか。コイツが迷子になっても面倒くさい。

それに誰にも分かりゃしないだろう。どうせ、この人ごみで私は隠れるだろうから――

と、私は特に気にせず国崎の手を握り返し、目的地に向かって歩き出した。


手を引かれて男も大人しくついて来る。足のコンパスはだいぶ違うハズだが、国崎は私に合わせてゆっくりと歩いているらしい。自然にいつもと変わらぬ速度で歩けている。


…へぇ。こういう所はいい男っぽい。やっぱり、経験がものを言うのだろうか。






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