02
「…以上。どうかな?諸君。」
フンッと、満足気に鼻を鳴らしてみる。
言い終えた後、各々何か考えている様子の4人を眺めながら私は勝ち誇った気分でいた。
―へっ、腹ぁくくった私は強いぜ!!
文句でも何でも来いや!むしろ、キャンセル待ちだ!!(まだ諦めていない)
するとしばらくして。
「…うーん、ナツちゃんの言うことも分かるよ。俺ら、あんだけ君の前で好き勝手したからね。」
斎藤がうなりながら呟いた。
「メールアドレスを変えるくらいなら、訳ないんですけど…今すぐ女友達を作れってのは、難しそうですね。」
続いて乾も難しそうな顔をする。
…へぇ、真剣に悩んでくれちゃってる。
案外マジメだね。それとも女子に対して、か?
「…別にリタイアでも「やだ。」
言いだしかけた提案は、即座に却下された。
…声、ハモらせなくてもいいじゃん。言ってみただけだって。
「…俺は、」
―そのうちに、今度は国崎が口を開く。
「俺は、別にそれでいい。ただ、最後のは分からないけどな。」
「何が?」
「…干渉するなっつっても、俺には那津の触れていいギリギリのラインが分からない。
まだお互いのことをよく知らないわけだから、ちょっとしたことで心の琴線に触れる可能性だってある。だから、無理。3つ目は保留にしとけ。」
と、思いがけず真面目な顔で熱く語ってくるからビックリした。
「へぇ、いろいろ考えてるんだね、国崎も。」
「お前と同じくらいには、な。」
互いの顔を見合わせる、私と国崎。その表情からは何もうかがえない。
そして彼の黒い瞳には、私はどのように映っているのか。
「うん、分かった。女のコの件はなんとかするよ。
でもナツちゃんと仲良くしてくれるかどうかは、知らないからね。2番目のも特に問題は無し。
…ただ最後のだけは、聖悟の言う通り徐々に慣れてくしかないんだけど、いい?」
斎藤も考えがまとまったのか、そう言ってきた。その言葉に私は少なからず驚く。
…マジか。
私は友人になるのに面倒臭い条件を出すような、とんでもない女だぞ?
それなのに、そんな易々と全部クリアするとは。
……なんか、申し訳ないとか、思っちゃうじゃないか。
「分かった。でも、女友達は集めといてよ。なるべく面倒臭くない子。」
「ナツさん以上に面倒臭い人なんて、そうそういませんよ。」
うぐ。い、意外と毒を吐くじゃないか、乾。
「ホントだよなー。全く、トモダチになるのにこんな手順踏んだの初めてよ?俺。」
…そら、そうだろ。私は『面倒臭い女』らしいからな。
「ま、いーんじゃない?これから、楽しそうじゃん?」
「……お手柔らかに。」
ただし、私の平和は、乱すなよ……
―その後も、ワイワイ騒ぎ、下らない言い合いを続けた。
こうして話してみると、彼らも国崎と同様に、案外普通の人だったということに気付く。
顔がいいというだけで、私も無条件に身構え過ぎたのかもしれない。
今日1日で考えが少し変わった。
その意味では、今回の飲み会、成功だったのかもな。
「…そろそろ、お開きにする?」
夜もだいぶ深まった頃。斎藤がそうシメる。
「えぇ~まだ飲もうよぉ。」
「お前は飲みすぎ。」
やたら語尾を伸ばし抱きついてくる水谷を国崎がドツく。
水谷は、酔うとさらにウザイ。絡み酒かよ、厄介な。
「じゃ、帰るか。」
私たちは、席を立ち始めた。
―帰りも国崎の車だ。行きと違い、他の3人も一緒に乗っている。
皆、飲み疲れたのか、無言の車内。
…私も疲れた……。寝たい。
「…今日は、ありがとうございました、ナツさん。」
うつらうつらと瞼が降りようとしていたころ、唐突に乾が話しかけてきた。
「…ん、何が?ごちそうになったの、こっちじゃん。」
「いえ。ナツさんといると楽なんですよ。俺も、みんなも。」
「……へぇ。」
「よけいな気遣い、いらないしね。」
横から口を出してきた斎藤がニッコリと笑う。
あ、さいですか。
「…そりゃ、よかったわ。」
適当に返事をしながら、私はぼんやりと窓の外を眺める。
真っ暗な闇の中に、ぽっかりと浮かんだ光。
――今日は、満月だ。
月明かりに照らされながら再び車内は沈黙した。
後ろの席から水谷のいびきが聞こえる。
その隣で斎藤が携帯をいじっている。
乾は空に浮かぶ月を見上げている。
国崎は眠そうに運転を続けている。
私は彼らを一瞥し、また窓の外に視線を戻した。
――いつ崩れるのか、分からない。
友人関係なんてそんなもんだろう?
こんな穏やかな時間なんていつか必ず壊れる。忘れる日も、やって来る。
…そうだな、それまでは、このお遊戯に付き合ってやってもいい。
でも、
―私は最後まで、君らを信用したりはしないだろう。
そんなことを、思いながら。
「じゃ、また明日ー。」
「寂しくなったら俺らの棟、来てよー。」
「おやすみなさい、ナツさん。」
数分後、手を振りながら車から降り出す男たち。
―3人は同じマンションに住んでいるらしい。仲良く家路についた。
そして、再び自動車を発進させる国崎。どうやら送ってくれるらしいので、素直に甘えておくが……
少し気になった私は隣の男に聞いてみた。
「国崎は、家どこなの?」
「俺も、あいつらと同じトコだけど。」
「え?ちょっと、それを早く言ってよ!地下鉄でもバスでも使って帰ったのに!!」
弾けたように顔を上げる私。
…国崎は酒も飲まず運転続きなのだ。さすがに心苦しい。
「別にいいっての。最後まで送る。」
「…そういや、女の子に優しい設定だっけ、君。」
「設定って何だよ。最初から優しいだろ俺は。」
どこがだ。
いや、感謝はするが、最初らへんの鬼畜っぷりを帳消しになんかさせないからな。
「―那津、」
しばらく車に揺られていると、国崎に呼ばれた。
「…ん、なに。」
「ありがとな。」
…なんか、感謝された。
「…何が?」
ちょっと驚いた。コイツからお礼を言われるなんて。
…ったく、乾といい、何なんだってんだ。
「ああいう条件だしてきたってことは、認めてくれたんだろ?俺らのこと。」
「…別に。諦めた……ってか、ほぼ強制だったじゃん、主に君の。」
「ククッ、ま、そうだけどな。こんな普通に女子と楽しく飲むの初めてだから。」
…初めて?
「…どういう意味さ。」
「お前は他の女とは違うってことだよ。褒めてんだから、ありがたく思っとけ。」
なんか、納得いかんが……まあ、悪い意味じゃないらしいんでよしとしとこう。
「でもあんまり仲良くなるなよ、あいつらと。」
「……は?なんで?」
しかし、続いた彼の言葉はまさしく不可解だった。
…なんか、矛盾しまくってないか?こんだけ『トモダチ』を押しておいて、あの人たちと仲良くなるな、て。
「なんでも。…俺が困るから。」
「???」
意味不明の回答に、さらに目を白黒させる。
君、が?
さらに分かんないな。なんのこっちゃ。
「まあ、面倒臭いから私から近付くことは、無いと思うけど。…もちろん、君にも。」
「………。」
そう言って国崎の方を向くと、私を目視するヤツとまた目が合った。車は、ちょうど赤信号で止まっている。
しばらくそのまま互いの顔を見ていると、国崎がその表情を崩さずに話しかけてきた。
「……那津ってさ、猫みたいだよな。」
「…?」
突然、何の話だ。
「…ネコミミとかは、死ぬほど似合わないと存じますが。」
「誰がコスプレの話をしてんだよ、性格の話だっつの。自由奔放で、掴みどころがない。そんで他人には中々懐かない。」
「当たってるような、当たってないような…」
へぇ、そんな風に見られてたのか、私。
「……難しいな。」
ポツリと国崎が呟いた言葉は、私には届かなかった。
車が再び動き出したからだ。吹き込んだ風で彼の言葉はかき消えた。
「…何か言った?」
「別に、こっちの話。」
ふっと笑う彼。私は首をかしげたが、そのまま気にせずに正面を向いた。
――程なくして、車は私のアパートに着いた。
もう2度目だからか慣れたものだ。国崎はちょうど正面でブレーキを踏んだ。
「…わざわざ、どうも。それじゃ。」
―そう言って車を降りようとしたところ、突然運転手に腕を掴まれる。
私は少し眉をひそめたが、もういきなりコイツに腕を掴まれるなど慣れたもの。
静かにヤツに問いかけた。
「…何さ、忘れ物?」
「ん。」
振り向いた時、国崎が身を乗り出して、
一瞬。
額に柔らかい口唇の感触。
「じゃあな、おやすみ。」
国崎は妖艶にニヤリと笑い、手を振った。
数秒後、我に返った私はバッと車から降りる。
「――!ちょ、なにしてんの君!!」
「別に?ただのでこ「あーー!言わないでよろし!!」
っく!今度は額か!セクハラも大概にしろや!引っかかる私もアレだけど!
てか、コレは慣れてねぇからっ!慣れる予定も、ないから!
「宣戦布告だよ。覚悟しとけよ?」
何についてデスカーー!!?
彼の謎の宣告に唖然とする私。
国崎はニヤニヤ笑ったまま車を発進させ、この場を後にした。
「あ…いつっ!絶対楽しんでやがる…!」
私は額を押さえて、車が走って行った方向を睨み見る。
だが、どんなに目をこらしても、彼の乗った車はもう跡形もなく消え失せていた。