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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
17/126

02




「…以上。どうかな?諸君。」


フンッと、満足気に鼻を鳴らしてみる。

言い終えた後、各々何か考えている様子の4人を眺めながら私は勝ち誇った気分でいた。


―へっ、腹ぁくくった私は強いぜ!!

文句でも何でも来いや!むしろ、キャンセル待ちだ!!(まだ諦めていない)


するとしばらくして。


「…うーん、ナツちゃんの言うことも分かるよ。俺ら、あんだけ君の前で好き勝手したからね。」


斎藤がうなりながら呟いた。


「メールアドレスを変えるくらいなら、訳ないんですけど…今すぐ女友達を作れってのは、難しそうですね。」


続いて乾も難しそうな顔をする。


…へぇ、真剣に悩んでくれちゃってる。

案外マジメだね。それとも女子に対して、か?


「…別にリタイアでも「やだ。」


言いだしかけた提案は、即座に却下された。

…声、ハモらせなくてもいいじゃん。言ってみただけだって。



「…俺は、」


―そのうちに、今度は国崎が口を開く。


「俺は、別にそれでいい。ただ、最後のは分からないけどな。」

「何が?」

「…干渉するなっつっても、俺には那津の触れていいギリギリのラインが分からない。

まだお互いのことをよく知らないわけだから、ちょっとしたことで心の琴線に触れる可能性だってある。だから、無理。3つ目は保留にしとけ。」


と、思いがけず真面目な顔で熱く語ってくるからビックリした。


「へぇ、いろいろ考えてるんだね、国崎も。」

「お前と同じくらいには、な。」


互いの顔を見合わせる、私と国崎。その表情からは何もうかがえない。

そして彼の黒い瞳には、私はどのように映っているのか。


「うん、分かった。女のコの件はなんとかするよ。

でもナツちゃんと仲良くしてくれるかどうかは、知らないからね。2番目のも特に問題は無し。

…ただ最後のだけは、聖悟の言う通り徐々に慣れてくしかないんだけど、いい?」


斎藤も考えがまとまったのか、そう言ってきた。その言葉に私は少なからず驚く。


…マジか。

私は友人になるのに面倒臭い条件を出すような、とんでもない女だぞ?

それなのに、そんな易々と全部クリアするとは。


……なんか、申し訳ないとか、思っちゃうじゃないか。


「分かった。でも、女友達は集めといてよ。なるべく面倒臭くない子。」

「ナツさん以上に面倒臭い人なんて、そうそういませんよ。」


うぐ。い、意外と毒を吐くじゃないか、乾。


「ホントだよなー。全く、トモダチになるのにこんな手順踏んだの初めてよ?俺。」


…そら、そうだろ。私は『面倒臭い女』らしいからな。


「ま、いーんじゃない?これから、楽しそうじゃん?」

「……お手柔らかに。」


ただし、私の平和は、乱すなよ……



―その後も、ワイワイ騒ぎ、下らない言い合いを続けた。


こうして話してみると、彼らも国崎と同様に、案外普通の人だったということに気付く。

顔がいいというだけで、私も無条件に身構え過ぎたのかもしれない。

今日1日で考えが少し変わった。

その意味では、今回の飲み会、成功だったのかもな。





「…そろそろ、お開きにする?」


夜もだいぶ深まった頃。斎藤がそうシメる。


「えぇ~まだ飲もうよぉ。」

「お前は飲みすぎ。」


やたら語尾を伸ばし抱きついてくる水谷を国崎がドツく。

水谷は、酔うとさらにウザイ。絡み酒かよ、厄介な。


「じゃ、帰るか。」


私たちは、席を立ち始めた。

―帰りも国崎の車だ。行きと違い、他の3人も一緒に乗っている。

皆、飲み疲れたのか、無言の車内。


…私も疲れた……。寝たい。


「…今日は、ありがとうございました、ナツさん。」


うつらうつらと瞼が降りようとしていたころ、唐突に乾が話しかけてきた。


「…ん、何が?ごちそうになったの、こっちじゃん。」

「いえ。ナツさんといると楽なんですよ。俺も、みんなも。」

「……へぇ。」

「よけいな気遣い、いらないしね。」


横から口を出してきた斎藤がニッコリと笑う。

あ、さいですか。


「…そりゃ、よかったわ。」


適当に返事をしながら、私はぼんやりと窓の外を眺める。

真っ暗な闇の中に、ぽっかりと浮かんだ光。

――今日は、満月だ。

月明かりに照らされながら再び車内は沈黙した。


後ろの席から水谷のいびきが聞こえる。

その隣で斎藤が携帯をいじっている。

乾は空に浮かぶ月を見上げている。

国崎は眠そうに運転を続けている。


私は彼らを一瞥し、また窓の外に視線を戻した。



――いつ崩れるのか、分からない。

友人関係なんてそんなもんだろう?

こんな穏やかな時間なんていつか必ず壊れる。忘れる日も、やって来る。

…そうだな、それまでは、このお遊戯に付き合ってやってもいい。


でも、


―私は最後まで、君らを信用したりはしないだろう。


そんなことを、思いながら。





「じゃ、また明日ー。」

「寂しくなったら俺らの棟、来てよー。」

「おやすみなさい、ナツさん。」


数分後、手を振りながら車から降り出す男たち。

―3人は同じマンションに住んでいるらしい。仲良く家路についた。


そして、再び自動車を発進させる国崎。どうやら送ってくれるらしいので、素直に甘えておくが……

少し気になった私は隣の男に聞いてみた。


「国崎は、家どこなの?」

「俺も、あいつらと同じトコだけど。」

「え?ちょっと、それを早く言ってよ!地下鉄でもバスでも使って帰ったのに!!」


弾けたように顔を上げる私。

…国崎は酒も飲まず運転続きなのだ。さすがに心苦しい。


「別にいいっての。最後まで送る。」

「…そういや、女の子に優しい設定だっけ、君。」

「設定って何だよ。最初から優しいだろ俺は。」


どこがだ。

いや、感謝はするが、最初らへんの鬼畜っぷりを帳消しになんかさせないからな。





「―那津、」


しばらく車に揺られていると、国崎に呼ばれた。


「…ん、なに。」

「ありがとな。」


…なんか、感謝された。


「…何が?」


ちょっと驚いた。コイツからお礼を言われるなんて。

…ったく、乾といい、何なんだってんだ。


「ああいう条件だしてきたってことは、認めてくれたんだろ?俺らのこと。」

「…別に。諦めた……ってか、ほぼ強制だったじゃん、主に君の。」

「ククッ、ま、そうだけどな。こんな普通に女子と楽しく飲むの初めてだから。」


…初めて?


「…どういう意味さ。」

「お前は他の女とは違うってことだよ。褒めてんだから、ありがたく思っとけ。」


なんか、納得いかんが……まあ、悪い意味じゃないらしいんでよしとしとこう。


「でもあんまり仲良くなるなよ、あいつらと。」

「……は?なんで?」


しかし、続いた彼の言葉はまさしく不可解だった。

…なんか、矛盾しまくってないか?こんだけ『トモダチ』を押しておいて、あの人たちと仲良くなるな、て。


「なんでも。…俺が困るから。」

「???」


意味不明の回答に、さらに目を白黒させる。

君、が?

さらに分かんないな。なんのこっちゃ。


「まあ、面倒臭いから私から近付くことは、無いと思うけど。…もちろん、君にも。」

「………。」


そう言って国崎の方を向くと、私を目視するヤツとまた目が合った。車は、ちょうど赤信号で止まっている。

しばらくそのまま互いの顔を見ていると、国崎がその表情を崩さずに話しかけてきた。


「……那津ってさ、猫みたいだよな。」

「…?」


突然、何の話だ。


「…ネコミミとかは、死ぬほど似合わないと存じますが。」

「誰がコスプレの話をしてんだよ、性格の話だっつの。自由奔放で、掴みどころがない。そんで他人には中々懐かない。」

「当たってるような、当たってないような…」


へぇ、そんな風に見られてたのか、私。


「……難しいな。」


ポツリと国崎が呟いた言葉は、私には届かなかった。

車が再び動き出したからだ。吹き込んだ風で彼の言葉はかき消えた。


「…何か言った?」

「別に、こっちの話。」


ふっと笑う彼。私は首をかしげたが、そのまま気にせずに正面を向いた。



――程なくして、車は私のアパートに着いた。

もう2度目だからか慣れたものだ。国崎はちょうど正面でブレーキを踏んだ。


「…わざわざ、どうも。それじゃ。」


―そう言って車を降りようとしたところ、突然運転手に腕を掴まれる。

私は少し眉をひそめたが、もういきなりコイツに腕を掴まれるなど慣れたもの。

静かにヤツに問いかけた。


「…何さ、忘れ物?」

「ん。」


振り向いた時、国崎が身を乗り出して、


一瞬。

額に柔らかい口唇の感触。


「じゃあな、おやすみ。」


国崎は妖艶にニヤリと笑い、手を振った。

数秒後、我に返った私はバッと車から降りる。


「――!ちょ、なにしてんの君!!」

「別に?ただのでこ「あーー!言わないでよろし!!」


っく!今度は額か!セクハラも大概にしろや!引っかかる私もアレだけど!

てか、コレは慣れてねぇからっ!慣れる予定も、ないから!



「宣戦布告だよ。覚悟しとけよ?」



何についてデスカーー!!?


彼の謎の宣告に唖然とする私。

国崎はニヤニヤ笑ったまま車を発進させ、この場を後にした。



「あ…いつっ!絶対楽しんでやがる…!」



私は額を押さえて、車が走って行った方向を睨み見る。

だが、どんなに目をこらしても、彼の乗った車はもう跡形もなく消え失せていた。





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